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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
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 名を呼ばれた3人は、一瞬で受験者達の前に出て、マスターとアレスの前に片膝を立て跪いた。


 「「「はっ!」」」

 「……は?」


 それを理解不能と言ったような声を上げたのはオルディスさんだった。


 「いや、ちょっと待て……、一体何が……」


 困惑しているのはオルディスさんだけではないようで、背後からは戸惑った声が上がる。だがそれには動じず、マスターは説明する。


 「彼らには潜入審査員として、受験者のフリをして君達を審査してもらっていた。だがそれは今回の予測不能な事態により、意味をなさないものとなってしまったが……」


 アレスはぐるりと受験者を見回す。ナルとラウルを指し、更に威圧するように言葉をかけていく。


 「この2人は未成年だ。先程言った他言無用は、特にこの2人に対してだ。だが、実力はお前達よりあるし、いずれはお前達の上司だ。幼いからといって舐めないように」

 「マスター!まだか!?俺がやって良いのか!?」

 「ギルティはその集団を連れて待機!3人は魔物の殲滅を!」


 ギルティ隊長の叫び声に、マスターは4人に向かって命令する。

 マスターの言葉にそろって返事を返した3人は、それぞれ別の方向へ走り出した。






* * *






 「すげぇ…」


 ポツリと呟くような声が漏れたのは、誰からであっただろう。

 自分かもしれないし、食い入るように戦いを見つめている周りの誰かかもしれない。


 オルディス自身、この光景が信じられなかった。


 ドカン、バゴン、とありえないほど簡単に吹っ飛んでいく魔物達。まるで玩具を相手にしているかのように、戦っている3人の表情は涼しげである。


 ナルとラウルは、ツリーハリーから少し離れた所から魔法で攻撃している。

 その規模はただの子供が放てるものではなく、威力もその辺の冒険者を軽く凌駕するだろう。

 ナルは風の魔法でツリーハリーの枝を切り落としてから本体を全て吹っ飛ばし、ラウルは火の魔法で奴らを爆散させている。その際に枝が物凄い勢いで飛び散るので、花火のようにも見える。


 使っている魔法は、見ている限り単純なもののはずだが、自分ではあの魔法を同じ規模で発動させるのは不可能だろう。

 ユニバースに入れば、自分にも出来るようになるのだろうか……?


 とにかく、こんなにも巨大な魔法を一発でも放つと、大量の魔力が減り、負荷が物凄くかかってるはずなのだが、そんなものは気にしていないようだ。魔力切れになるんじゃないかとヒヤヒヤするが、2人の表情からはその心配はしなくても良さそうだという安心感がある。それでもやはり心配だが……。


 ディナンシェと呼ばれていた青年も、ナルとラウルの2人を抜いた中では、ここにいる受験生の中でも若い方だろう。

 それなのに戦闘慣れした動きで、ツリーハリーの攻撃を軽く受け流し、枝を軽々と斬っていく。


 それも二本の短剣で、だ。


 ツリーハリーは基本、接近してはいけないとされている。何故なら人間や動物を捕まえ、その水分を吸収してしまうからだ。一滴残らず吸収されるので、捕まったら干からびて死んでしまう。

 だけど彼は剣よりも短い、二本の短剣でツリーハリーと戦っている。まるで死ぬ心配なんて微塵もしてないかのように、涼しげな表情だ。ありえない。しかも切り飛ばした枝は、ツリーハリーから少し離れたところに綺麗に積み上がっていってる。なぜだ。


 襲撃をかけて来たメイクをした男達も、怪我で地面に突っ伏しながら、さっき自分達が相手にした魔物とは違うものなのではないのかと言うような唖然とした表情で見ている。

 受験者達もポカンと見守る中、横で見守っていたユニバースの隊長の1人、ギルティと呼ばれてた人が怒声を上げた。


 「ナル!!!切るんならもっと丁寧に切れ!魔法の扱いが雑だぞ!!!ラウル!!!微妙な焼き加減にすんじゃねぇ!!!綺麗に残すか、炭にしたいのかどっちなんだ!ハッキリしろ!!!」

 「「はいっ!!!」」


 きちんと倒してるのに何故怒られるのか。

 受験者達は訳が分からず首を傾げたが、このツリーハリーという魔物。ユニバースでは倒した後、薪や炭として販売しているらしい。全てはユニバースに入ってから知った事だったが。


 あっという間に、全ての魔物を倒し終えてしまった3人。息も乱さずに戻って来た。ツリーハリーの枝は何故かその場からなくなっていた。訳が分からん。






* * *






 「終わりました」

 「お疲れ様」


 ディナン隊長が声をかけるとマスターが労ってくれる。


 「こ、こんなの、デタラメだ!!!」


 震える声で叫んだのは、メイクの男だ。怪我した場所を抑えながら立ち上がり、こちらを睨みつけてくる。


 「ほぅ?なら一対一でやってみるか?」


 アレスがニヤリと笑って見せると、男は萎縮したようで数歩後ずさる。


 「うぅ……」


 その瞬間、ガタガタと地面が揺れ、フッと身体が浮いたと思ったら、元のユニバースの訓練場に戻って来ていた。


 「どういう事だ?」

 「転移か?魔法陣は見当たらなかったはずだけどな」


 マスターとアレスが話しながら、周囲を調べているが、何も見つからなかったらしい。


 「駄目だ。魔力の痕跡もない」


 倒したツリーハリーも見当たらない。先に空間収納で枝を回収しておいて良かった、とナルは胸を撫で下ろした。




 この日以降、ゲートの出現は小さな規模が月に数件と非常に数が減った。まるで嵐の前の静けさのように。




 結局、その日は解散となった。合格者達は3日後から訓練を始めるらしい。メイクの男達はマスターとアレスが対処してくれるという事で、転移魔法でどこかへと連れて行った。


 そしてナルは。目の前で目をギラギラさせてるオルディスさんから、ジリジリと距離をとっている所だ。


 「あっあのっ、騙してた事は謝ります!すみませんでした!それではっ!またッ!!!」


 ガシッ。

 手を掴まれてしまった。その瞬間、隣でラウルが転移魔法を使おうとするのを見たナルは、咄嗟に手を伸ばす。

 ガシッ。


 「…………」


 とてつもなく嫌そうな目でナルを見るラウルだったが、ナルは素知らぬ顔をした。




 「二人とも、すまなかった!」


 受験者達が帰って行き、この場にいるのは後処理の為に戻ってきたマスター達と少し離れた所にいるナル達の3人だけだ。


 「俺の勝手で試験を受けさせて。危ない目にも合わせてしまった、と、思ってた……」

 「それはほんとごめんなさい」

 「いや、軽率な事をしてしまったのは俺だ。試験に興味を持ってるみたいだったし、それなら挑戦だけでも良い経験になるんじゃないかと思ったんだ」


 ガバリと深く頭を下げるオルディスさん。ただ、手は離してくれない。ラウルの方もしっかり掴まれてしまっている。


 「君達じゃなかったら、あれで命を落とす可能性もある。だから、今度からは軽率に行動しないと約束する」

 「それはありがたいです。でも俺達も、オルディスさんに隠して余計な心配をかけてしまったのは事実なので、もうお互い様って事でこの事は水に流してくれません?」

 「いや、だがそういう訳には……」

 「そう言わず!お願いします!」

 「──そこまで言うのなら……、分かった」


 ナルはホッと胸を撫で下ろした。


 「──これだけ言っとく。イーサン……マスター達は最低なんかじゃない」


 ポツリと漏らしたラウルの言葉にナルも頷く。


 「そうだな。──オルディスさん、俺達マスターやアレスには勿論、ここで働く人達皆んなに本当に良くしてもらってるんです。皆んな良い人だよ」


 その時、ナルとラウルの頭にポンッと優しく手が乗せられた。


 「ラウルも成長したな。俺らの事、庇ってくれるのか?」

 「二人とも私達の誇りだよ。優しくそして強く育ってくれてる」


 手を乗せられたまま、ナルは彼らを見上げた。


 「アレス、マスター」

 「!?」


 オルディスさんは目を見開き口をパクパクさせている。


 「悪かったね。今回、この子達が試験を受ける事になったのは私が指示したからなんだ」

 「そう……なんですか……」

 「まぁ、元はあんたが勝手にこいつらを受験者登録させたからだけどな」

 「こら、アレックス」


 ビクッと肩を竦ませるオルディスさんを見て、余計な事は言うなとばかりにアレスを睨むマスター。


 「──さっきはあんな言い方をしてすまなかった」


 頭を下げるマスターに「うわっ、ちょっ、頭上げてくださいって!!!」とオルディスさんは必死だ。

 ナルとラウルの手を掴んだまま、あわあわと手を振っているので、2人は自然とオルディスさんの方へとたたらを踏んでしまう。いい加減離してくれないかとナルが思っていると、アレスが助け舟を出してくれた。


 「悪いが手を離してやってくれないか?ちょっと前にこいつら大怪我してんだ。そろそろ休ませてやりたい」

 「えっ、あっ、すんませんっ!!!」


 手を振り回されっぱなしだったので正直助かったと、ナルは胸を撫で下ろした。

 ふとアレスを見上げると……、めっちゃくちゃ悪い顔をしてるアレスと目が合った。


 「そういや、あんた……オルディスだったか。こいつらの事気にかけてくれてありがとな。礼を言う。──こいつの親として、な」


 グリグリと頭を撫でまわされるナル。


 「それは私もだな。ラウルの事も気にかけてくれてありがとう」

 「ッ!!?」


 遠くにいたのにあの時、話聞いてたんだ……。


 「じゃーな、また訓練で」


 そのままアレスはナルを、マスターはラウルを軽々と抱き上げた。


 「うわっ!アレスッ!?自分で歩けるから!」

 「ちょっ!降ろせっ!!!」


 抗議の声は聞き入れられず、そのままユニバースの中へと向かって行く。

 最後に見たオルディスさんは、ガックリと膝をついて呆然としていた。






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