50
取り敢えずモンスターは倒した。そして、襲われていた方の人達の周りには結界も張った。
…結界にはまだ誰も気づいてなさそうだけど。
だけどこの後の作戦なんて何一つなく、次はどうしようかと考えながら、取り敢えずナルはにこやかに話しかけてみることにした。
「なぁ。メイクのおにーさん達。ちょっと聞きたいんだけど…、一次試験、受けてない人がいるよな?」
ビクリと肩を大きく震わせる目の前の男性。
モンスターにナルがやられてしまうと思ったのか、自分が斬られそうになっているのにも構わず、こちらへ走って来てくれた。優しい人のようだが、貴方に言った訳じゃないんだからそんなに怯えなくても…、とナルは心の中で独り言ちる。
咄嗟に結界を張った事で男性の怪我は防げたようだが、メイクの男達が突然現れた結界に驚き、顔を上げた事でこちらがモンスターを倒すのを見られてしまった。
たまたまだとか思ってくれないかなー。ないだろうなぁ…。表情がメイクで分かりづらいから分からないけど…。
「坊や、何故一次試験を受けてない者がここに居ると思ったんだ?ここは森の中。モンスターも出る。道もあるのに、わざわざ森の中へ入る事はないだろう。──それこそ試験でもない限り」
目の前にいるメイクの男達の後ろからまた新たな人が出て来た。こちらはメイクではなく、鼻から上を仮面で隠している。ボスだろうか。メイクの男達はその人に向かって頭下げてるし。
「だって一次試験に居なかったし」
「一次試験に受かった者がこのメイクを施してるだけなのだが」
ナルは笑って返した。
「そんな訳ないな。魔法ならともかく、一瞬でメイクが出来るとも思えないし。と言うか、そもそも全くの別人だし。──誤魔化そうとしても無駄だよ。分かるから」
話しながらも、襲われていた方の男性の隣まで歩き、ボスっぽい人を見上げる。
「あんたも一次試験には居なかった」
「ほう……。その確信は一体──」
その時だった。大きな爆発音が聞こえてきたのは。その振動で地面が大きく揺れる。
「ッ!?」
「な、なんだっ!?」
襲われた方の男達は驚き、辺りを見回しているが、メイクの男達は平然としている。
「──始まったようだな」
どうやらこれもメイクの男達の仕業のようだ。
バラバラに散ってた人達も、辺りを見回した事で、一際異様な雰囲気を持つ仮面の男を見つけたのだろう。メイクの男達を振り払い、こちらへと向かって走って来る。
そして、ナルと仮面の男との間に割って入った。
「お前らは一体何なんだっ!こんな小さな子にまで剣を向けて!!!」
こっちに来てくれたのは、どうやらただの子供だと思ってるナルを守る為だったようだ。
………いや、ありがたいんだけども。これから、格好良く決めるはずなのになぁ…、とナルは思う。
でも固まってくれたおかげで守りやすい。
「別に何者でも関係あるまい。──どうせ死ぬのだから」
「関係なくは無いんだよなぁ」
誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟きながらも、ナルは守ってくれようとしている男達の間をすり抜けていく。「あっ!」とか「おいっ!」とか言う言葉と、後ろへ隠そうと伸ばされた手をヒョイっと避けながら、ナルは前に立った。仮面の男を覗き込むように質問する。
「試験を受けに来た人全員、──殺すつもり?」
「……」
仮面の男がジッとナルを見つめてくる。視線で人を刺すくらいの眼光だ。それでもナルは少しも怯まない。
「……子供を一次試験に通す時点でユニバースはたかが知れている。──だが、貴様は他の子供と毛色が違うようだ」
「それは褒めてくれてるのか?」
「そう受け取ってもらっても構わない。だが、すぐに死ぬ事になるのだ。あまり関係のない事だろう」
仮面の男が無詠唱でゆっくりゆっくりと魔力を構築していくのをナルは黙って見ていた。
…あれはわざとだろうか。あまりにも遅い。遅すぎて魔法の半分が完成するまでに、ナルは何の魔法が発動するのか理解してしまった。
「冥土の土産に教えてやろう。対魔物殲滅組織ユニバースはなくなる」
「ふーん」
「馬鹿を言うな!」
「そんな訳ないだろう!」
「ユニバースの方々が居なくなってしまえば誰が魔物を退治してくれると思ってるんだ!」
「そうだそうだ!唯一なんだぞ!魔物を専門としているのは!」
ナルが軽く流したのに、後ろから次々に怒声を上げる受験者の男性達。その言葉に反応するように仮面の男は頷いた。
「そうだ。魔物を倒す唯一の機関はユニバース。ここ近年、その意識が一般人にも植え付けられようとしている…」
受験者達が集合した事で、メイクの男達に囲まれてしまった。
「だがそれはおかしな話ではないか。魔物を専門としているのはここだけでは無いというのに」
「それはユニバース以外にも対魔物専門の組織があると?」
ナルが問うと仮面の男は頷いた。
「そうだ。それも、ユニバースができる前からあった」
ナルは首を傾げた。
そんな話は聞いたことがない。だいたい他にも対魔物専門の機関があるのなら、一度くらい会っていてもいいはずなのに、ナルは一度も会った事はない。
「だから、俺達は他のグループと結託して対魔物殲滅組織ユニバースを潰す事にした訳だ」
「いや、潰すよりも魔物倒そうよ」
すかさずナルがツッコミを入れると、受験者達が思わずといった様子で吹き出した。
でもナルにとっては当然の言い分である。
今、どれほど忙しいか。規則性の分かってないゲートを感知し、ゲートが現れたら即座に現場へと向かう。それが例え夜中だったとしても、だ。
昔は年に数度だったゲートの出現回数が増え、今では一週間に5回は必ず開く。中には一日に何度も開くので、いくら交代しながらとはいえ、疲れはどんどん溜まっていく。
そんな中で、ユニバースの他にも魔物を退治してくれる人達がいたなら、どれほど楽だっただろう。
例えゲートを感知するのは難しかったとしても、ユニバースを知ってるなら協力すると伝えてくれても良いはずだ。情報なら惜しまずに渡すだろうし。
それが無かったのは、ただ単に手柄を自分達だけのものにしたいのが明らかだった。
今は猫の手でも借りたい状況なのに、一体何をやっているのか。
「もちろん、魔物は倒す。──お前らを、あの機関を潰した後でな!」
──あ、やっと魔法が完成した。
ナルは一時的に結界を解いた。
「なっ…?」
「これ、はっ」
「いつの間に……」
「無詠唱、だと……」
驚きながらバタバタと人が崩れ落ちていく。
旅立ったのは冥土ではなく、夢の中。
しかし、だ。
「仲間まで一緒に眠るって……」
立っているのは、ナルと仮面の男のただ2人だけだった。
「仕方ないのだ。俺の魔法が強力過ぎてな…。しかし、お前は子供のくせに俺の魔法を受けてもびくともしていないようだ。凄いと褒めてやろう」
「あんたに褒められても嬉しくないし。それにちゃんと操作出来てないだけだろ。もっと練習すれば?」
ピクリと口が引きつる仮面の男。
「それにあんな事言って、本当は魔物を倒せてないんじゃない?倒せる機関があるならユニバースの耳にも入ってるはずだし」
プルプル震えてるのがナルから見ても分かった。
あ、これ怒ったな。
ナルは即座に眠ってる受験者達に結界を張った。メイクの男達の事はそのままだ。襲って来たのはそっちなのだから助ける義理はない。
「このッッッ、言わせておけばッ!!!!!」
だが、そこからはナルが思った以上に早く終わった。
「…なんだこいつ」
よっわ。という言葉は心の中に留めておいた。
身体を近くにあった木に縛りつけ、ナルは仮面の男を観察していた。
正直、受験者達の為と思って張った結界は要らなかったと思う。
弱すぎだ。これは本当に魔物を倒す事も出来ないだろう。ナルが言った事は図星だったのかもしれない。
ナルが魔法を使うまでもなく、あっさりと決着はついた。ナルが嘘だろ、と思うくらいには。
「お前……、一体何者だ?」
ぐったりとした仮面の男が聞いてくる。
それに対し、ナルは妖しく笑ってみせた。
「んー?──ひ・み・つ」




