表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
50/64

49




 森の中とは言えども、ここはまだユニバースから近い位置だ。地の利がある者で無くても容易に辿り着ける場所にユニバースはある。

 何故なら、小さいけれど、建物見えてるし。

 そうじゃなくてもナルとラウルにとってここは庭も同然。モンスターだって強くてBランク程しか現れない。とは言っても、Bランクである。他の受験者からしてみれば、なんという所に飛ばすんだと怒っているかもしれない。彼らからしてみれば、油断は決して出来ない森だ。


 「さて、と」


 オルディスさんからだいぶ遠ざかったなという所で、ナルは一際高い木に飛び乗り、そのまま天辺まで軽々と飛び移る。


 下を見下ろすと、姿までは見えないものの、どこに何人いるかくらいは魔法で分かる。1人で行動している人も多いけれど、集まって行動しているチームもある。


 「ちょっと遠いかー」


 ナルが探していたのは、先程のメイクの男。どうやら集団で動いているようだ。

 男達が向かう先には、何人かの受験者が固まって動いている。その先にはモンスター。


 「まさか…」


 そんな訳ないと否定したいが、先程口裂けメイク男が言ってた事を思い出すと……殺す気だろうか。

 いや、さすがにそれは考えすぎだろう。

 そうは思うものの、何かが引っかかる。


 取り敢えず行ってみよう。たまたまそこにいるだけなら、それはそれで良いし。

 ユニバースの見習い試験をぶち壊すつもりなら、その前に阻止すれば良いだけだ。


 まずはメイク集団の向かう先にいる受験者達の方へと、ナルはその木から飛び降りた。






* * *






 「気をつけろ。数メートル先、モンスターがいるぞ!」

 「ランクは?」

 「おそらくCランク、一体だ」

 「よし、やるぞ!」


 今ここに集まってる受験者は5名。モンスターと出会う前に辿り着いたナルは、こっそり影から様子を伺っていた。

 モンスターはまだこちらに気づいていない。その間に始末しようとしているようで、武器を構えモンスターを取り囲むように動き出している。ただ、目の前のモンスターばかりに気を取られているようで、すぐ後ろに迫っている武器を持ったメイク男達に気づいた様子の者はいない。

 ナルの予想は嫌な方に当たってしまったようだ。どう考えてもメイク男達の目的はモンスターではなく、受験者達のようでそちらを狙っているのが丸分かりである。

 モンスターと戦ってる隙にとか思ってるのだろうか。

 本当に何がしたいのか分からない。ユニバースを潰したいのなら堂々と正面から来れば良いものを。


 メイク男達はナルには及ばないものの、そこそこの魔力は持っているようではある。あの人達が襲われたら苦戦するだろう。しかも相手は人間。戸惑う内にやられてしまう可能性だってある。

 いくら同意書にサインしたからと言って、ユニバースもそう簡単に死者を出す訳にはいかない。…だからあそこにこっそりギルティさんが潜んでるんだろうし……。

 目が合い、木の上から笑ってひらひらと手を振るギルティさんにナルはため息を吐く。


 …ここ、俺要らないかもしれない。


 〈おいおい待てよ〉


 去ろうと背を向けると、ギルティさんから慌てたように通信が入った。


 〈だって俺、要らないでしょ〉


 ギルティさんだけで充分だという思いはどうやら伝わったらしい。


 〈これは試験だぞ?俺が出るのは最終手段。お前がいるんだからお前が何とかしろ〉

 〈えー…〉


 そうは言われても。出来る事なんてたかが知れてる。

 こう話している間にも、受験者の人達はモンスターと戦いを開始してしまった。

 その後ろから忍び寄るメイク集団。


 〈あいつらが他の受験者達に手を出したら、ナル、お前も手を出せ。時間まで動けなくなるくらいまでこてんぱんにしていい〉

 〈それじゃあ、他の受験者の人も誰か怪我をする事になるんじゃ…〉

 〈お前ならそれくらい、そうなる前に簡単に止められるだろ〉


 簡単に言ってくれるが、全員で同時に攻撃されたらそれを全て止めるのはしんどいし面倒でもある。だけどこれくらいの無茶振りならもう慣れた。それに信頼されているようで嬉しくもある。


 〈分かりました〉


 通信を切り、ナルは状況を見ながら考える。5名の受験者達がバラバラになってしまったら、彼らを守るのが大変になる。

 さて、どうするか。


 考える前に1人のメイク男が受験者の男の背へと向かって剣を手に飛びかかっていく。

 ナルは咄嗟に剣を抜き、頭上に掲げ大声を上げながらその場から飛び出した。


 「うわああああぁぁぁ!!!!!」


 キィンとメイク男の剣を弾く。

 ナルはビックリしたように目を見開き、剣をその手から落とし尻餅をついた。

 メイク男も予想外の乱入に驚いたようで、目を見開いてナルを見下ろしている。いや、驚いているのは、たまたまのように見せかけてナルが剣を弾いた事だろうか。


 「な…っ!?」


 攻撃を受けた受験者の男性もナルの声でこちらに気づいたようで、ナルと男を交互に見比べ状況を判断したのだろう。即座にナルを自分側へと引っ張っりこみ、庇うように前へ立ってくれている。

 その隙に体勢を立て直したメイク男は、再び剣を振り下ろしてきた。


 「ッ!てめぇっ、向かう相手が違うんじゃねーのかッ!!?」


 何とか剣で弾いた男性は大声を上げる。それで彼の仲間達も異変に気付いたようだ。

 背後に迫ってくるメイク集団。モンスターの攻撃を避けながらも、応戦している。


 よし、これでメイク集団は受験者達に手を出した。一撃でやられそうならナルが間に入ろうと思っていたが、その必要はなかったようだ。それでも、強さはメイク集団の方が上のようで、押されているのが目に見えて分かる。


 それにしても。


 「数、増えてるよな…」


 思わずポツリと呟く。

 一次試験の時は5人しかいなかったメイク集団だったが、今はそれよりも数が多い。見える範囲で8人はいる。

 一次試験の時に見落としていただろうか。それとも普通の人に混じっていた?…いや、違うな。見えない所にも何人か隠れているようだ。しかも一次試験にナルが見たメイク男はいないようだ。

 確実に何処かから増えている。

 試験内容は事前に公表される事はなかった。ナル達自身も知らなかったのに、どうやって場所を知ったのか。


 メイク集団は仲間に加勢し、更に彼らを追い込んでいく。


 モンスターもいるのに、参ったな。

 受験者達はモンスターまで手が回っていない。

 咄嗟の事で、森の中で遭遇したモンスターに驚いて逃げ回る子供を再現してしまったのだが、ここからは真面目に戦いに参加しなくてはいけない。その中でどうやって受験者っぽく振る舞うかだが。

 立ち上がり、パンパンッとお尻についた土を払う。

 まぁ、何とかなるか。






* * *






 刃と刃のぶつかり合う甲高い音が響く。

 一撃一撃が重く、なかなか反撃に出る事が出来ない。


 「クッ……」


 なんだ、こいつらは。

 目の前に突然現れた気色の悪いメイクを施した男達。

 始めは1人だったのに2人に増え、断然不利な状況だ。せめてもの救いは魔法を使われていない事だろうか。

 モンスターと対峙していた俺は、子供の叫び声と、彼がたまたま掲げていた剣に救われた事を知った。

 尻餅をついてしまった少年を素早く俺の後ろに引き摺り込み、メイクをした男と剣を交える。一緒に受験しに来た仲間もどうやらメイクの仲間と交戦しているようだ。横目にそれがチラリと見えた。


 メイクの男が俺の後ろを見てニィッと口角を上げる。嫌な笑い方だ。そこで思い出した。


 「ッ!」


 完全に忘れていたがモンスターと交戦中だった。少年を庇ったのは俺の後ろ。つまり、モンスターの目の前。

 今戦っていたモンスターは、比較的動きが鈍く小さいトカゲのような奴だ。ただ、毒をもっている為噛まれると一発であの世行き。


 そんな危険な奴の前に放り出して放置してしまったなんて…。不覚だった。メイクの男達に斬られるのも厭わずに後ろを振り向く。


 少年は地面から立ち上がり、尻についた土を払っている所だった。そのすぐ後ろには大きく口を開けたモンスター。走るが間に合わない。戦ってる間に前へと行き過ぎたようだ。


 「危な──ッ!!!」


 言い終える前に少年を噛みちぎろうと口を閉じたモンスター。

 少年の頭を喰いちぎったかと思ったそれは、少年がヒョイッとしゃがみ込んだことで回避された。

 何の危機感もなく落ちた剣を拾った少年。モンスターに殺されようとしている事を知らないようだ。

 逃げろと叫ぼうとしたところで、少年は軽く剣を振るった。そう、軽く、だ。まるで剣の持ち心地を確かめるかのように。

 だが、たまたまそれに当たってしまったモンスターは崩れ落ち、ピクリともしなくなった。


 「……は?」


 その声は俺だったのか、攻撃をせずに少年の方を見ているメイクをした男だったのか。


 たまたまでモンスターを倒せるか?Cランクを?しかも一撃で?


 「なぁ。メイクのおにーさん達。ちょっと聞きたいんだけど…、一次試験、受けてない人がいるよな?」


 顔を上げ、そう言って笑った姿が物凄く恐ろしく思えたのは、俺だけだったのだろうか。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ