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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
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 「おっ、チビ助も合格か!おめぇらすげ〜な、おい」


 かけられた言葉に振り向く前に、ナルは後ろを確認して思わず舌打ちした。

 ギリギリまで邪魔して時間を稼いだつもりだったが、あの口裂け男も合格してしまったようだ。もう少し力を出せば良かったかと後悔する。

 ディナンさんとラウルはとっくに合格しているようだ。ただ、心なしかラウルが不機嫌に見える。原因は分かった。七三分け金髪男がいたからだ。


 「はい、そこまで。一次試験合格者はここにいる者だけだ。二次試験は休憩の後に始める」


 残ったのは約100人くらい。もっと残りそうだと思っていたのだが…、あの変なメイクの奴にやられたか。ナルが合格する前にも他の受験者を襲っている変なメイクの奴らを見た。

 始めは何人いたのかは知らないが、その変なメイクのやつらが5人はいる。


 お弁当が配られ、それぞれ好きな場所で昼食を食べる。好きな場所と言っても試験で転移させられた広い場所、ユニバース内の第三訓練場だ。


 ナルとラウルとオルディスさんは一緒にお弁当を食べていたが、初めはナルとラウルの合格を喜んでいたオルディスさんが困った顔で2人をチラチラ見るので首を傾げた。


 「どうしたんですか?」

 「いやぁーよ、俺が無理やり受けさせたのは分かってるんだが……」


 ボリボリと首筋を掻くオルディスさん。


 「…棄権、した方が良いんじゃねぇか…?」


 まさか、合格するとは微塵も思ってなかったと言う彼は心の底から困った風に眉を下げていた。

 そんな彼にナルは意地悪く笑って見せる。


 「まさか。せっかく一次試験を合格出来たのに?」


 心の底から心配してくれるのは容易に分かっていた。だけど、問答無用で試験を受けさせたのは彼である。ナルにとってはちょっとした意趣返しだった。


 「でもなぁ、これからどんな試験になるか……」


 本当に良い人だ。見た目はいかついけども。


 「大丈夫です。ちゃんと自分の事は自分で責任を取りますので」


 そう言って笑っても、眉を心配げに下げるオルディスさん。ちなみに、戦斧はちゃんと返してもらえたようである。




 そして、二次試験。


 「試験を始める前にこの用紙に記入して欲しい。二次試験は外に出ての試験だ。ここからは死ぬ可能性もある為、完全に自己責任となる。それを分かった上での同意書だ。無理に受ける事はない。今なら棄権も出来る」


 なるほど。外に出るのか。

 ナルとラウルは躊躇いなくサインする。

 オルディスさんもサインしたようだが、ナル達が持っている同意書を見て、顔を青白くさせた。


 「頼む、棄権してくれ。まさか外に出るとは思って無かった。今からでも遅くないから、な?」

 「俺はやるから」


 ラウルの言葉にナルも頷く。


 「俺もやる」

 「いやマジで頼む!俺が悪かったから!」


 そんなに心配しなくても良いのに、と思うが彼から見ればナルとラウルはただの子供だ。仕方ないだろう。


 「もし何かあったら俺はお前の親御さん達になんて説明すれば良いんだ!頼むから、すぐに家に帰った方が良い!!!」


 ナルとラウルは顔を見合わせる。

 帰る場所といえば、ある意味この訓練場も2人の家の中である。でもそんな事が言える訳もなく。


 「心配していませんから大丈夫ですよ」


 笑ってナルがそう言うと。

 サッと顔を青ざめさせたオルディスさん。ブツブツと何やらを呟いている。


 「まさか、家族から蔑ろに…?こんな小さな子を?いやでも実際虐待受けてる子達もいる訳だし…。そうだとしたら…。そんな…いや、俺はなんと言うことを……」


 何か勘違いしている…?

 以前の家では確かに蔑ろにされていたナルだったが、今はとても大事にされている。誤解されるのは嫌だったので慌てて言葉を続ける。


 「いえ!信頼されてるんで大丈夫ですから!」


 そう言って止められる前にラウルとマスターの元に用紙を持って行く。

 慌ててついてきたオルディスさんがバッとマスターに頭を下げた。


 「すいませんっ!どうかこの子達を棄権にして下さい!!!まだほんの子供なんですっ!!!」


 ナルとラウルが既に渡した用紙に目を落としたマスターは困ったように眉を下げる。それが演技だと気づいたのは、おそらくナルとラウルとマスターの隣にいたアレスぐらいだろう。


 「──残念ですが…、もう本人がサインしてしまったようですので…」


 受け入れられないと言外に告げたマスターにオルディスさんは悲痛な声を上げる。


 「そんなっ、まだほんの子供ですよ!?この子達の親だって心配しているはずなんだっ!!!」


 ぶふっ、と思わずと言った様子で吹き出す声がして、横を見るとアレスが顔を背けて肩を震わせていた。

 確かに笑うのも分かる。だって試験を受けるように促したのは、他でもないラウルの親となったマスターなのだから。

 ナルがアレスをジト目で見るが、必死に言い募るオルディスさんには何も聞こえてないらしい。

 マスターは完全にポーカーフェイスだ。


 「それでもこの試験を受けた以上、自己責任となる。そして2人は同意書にもサインした。残念だけど、他人の意見は聞き入れられない」

 「俺のせいなんだ!同意もしていない2人に試験を無理やり受けさせたのはこの俺だ!どんな罰でも受ける!頼むから2人を棄権に…っ!!!」


 オルディスさんはなおも言い募るが、それをマスターに拒否される。


 「無理やり受けさせられ、嫌だったのなら試験に来なければ良いだけの事。だけど2人は試験を受け、一次試験に通った。そして二次試験を受ける覚悟も固めた。その思いを無視して棄権にする事は出来ない」

 「そんな…」


 一度俯いたオルディスさんが顔を上げた時、そこにはマスターとアレスを尊敬していた眼差しは無かった。


 「…最低だな。あんたら」

 「その言葉、そっくりそのまま返そう。これに懲りたなら、無闇に危険な試験に誰も彼もを誘わない事だな」

 「……」


 無言で引き下がるオルディスさん。マスターが引き下がらなかったのは、相手がナルとラウルだったからであって、もし普通の子供が運良く一次試験を通ってしまっただけなら直ぐに棄権にさせただろう。本人の意思が強く、諦めさせられなかった場合でも、近くに必ず隊長の誰かを潜ませておくはずである。それはマスターやアレスの性格を知らない、オルディスさんには分からない事だろうけれど…。


 そして何故かナルとラウルはオルディスさんに強く手を引かれ、後ろへと戻った。


 「クソッ、俺の考えが甘かった…。あんな人達じゃないと思ってたのに…」


 どうやらオルディスさんの中でマスターとアレスの評価がガタ落ちしているらしいが、それを止める術はない。


 その間に全ての人が同意書を出し終えたようで、マスターの声が響く。


 「それでは第二試験を始める。試験内容は転移されたその場所から夜12時まで、つまり日付が変わるまでにここ、ユニバースへ戻って来る事。その間、モンスターは出るので各自気をつけてほしい」


 それでは、始め!と言う言葉とともに魔法陣が展開され、違う場所へと転移される。


 転移されたのは開けた森の中。

 辺りを見回すと、転移で酔ったのか蹲ってる人がほとんどだ。普通に立っているのはナルとラウル、それにディナンさんくらいなので、本当に他の人は転移慣れしてないのだろう。転移魔法塔は酔い止めの魔法も掛けられているので、酔う人はあまりいないそうだが。

 頭を押さえながら身体を起こしたオルディスさん。まだ頭はクラクラしているらしい。動き出す人はフラフラしながらも既に動き始めている。


 「よりにもよって森の中、か…」


 悪態を吐きながらも戦斧を支えに立ち上がる。


 「良いか、チビ助ども。お前達の事は責任持って俺が守る。だから俺から決して離れる──」


 話の途中なのを遮って、ナルはツンツンとオルディスさんの服を引っ張っり、向こうを指差す。

 その先には、ラウルの背が既に小さくなっていくところだった。


 「って、うおぉぉぉい!!?」

 「別に心配ないから大丈夫ですよ!オルディスさんこそ気をつけて下さいね!」


 そう言って、ナルも手を振りながらその場から駆け出す。


 「ちょっ、待てバカヤロー!!!モンスターだって出るんだからなぁー!!!?」


 そんな叫び声はすぐに小さくなった。





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