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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
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 鬼ごっこ。その言葉に受験者達はざわめく。

 何故、試験で鬼ごっこなのか。鬼ごっこをする意味が分からない。そう言った雰囲気だ。


 「静かに。──アレックス」

 「ああ。ニーナ、ミナ、クナ、ここへ」

 「「「はっ」」」


 アレスに呼ばれ、突如姿を現したのは3人のかわいい女の子達である。マスターとアレスの間に背筋をピンッと伸ばして立つ姿は、とても凛々しく見える。

 彼女達はヒナと同じ魔導機械だ。彼女達は本部を守る事に長けた精鋭達だそうだが、ナルはまだ彼女達が戦っている姿を見た事はない。


 突然現れた彼女達に驚きを隠せない受験者達であったが、ナルからしてみれば、木の上に隠れていたのがバレバレだった為何故そんなに驚くのかと不思議だった。


 「制限時間は昼の12時まで。それまでにこの子達の誰かをタッチすれば合格だ。範囲はこの部屋の中だけ。他の受験者と協力してもいい。見た目は少女だが、手加減せずに全力でいくといい。彼女達はお前達以上に強いからな。魔法も武器もありだが、タッチするのは素手…つまり武器でタッチするのは禁止だ。簡単だろう?」


 やる気が一気に上がったのが雰囲気で分かる。とても簡単な試験だと思われているようだ。


 でも、そう簡単にはいかないんだよなぁ…。

 ナルは小さく開いたマスターの口を見た。彼は確かに3人にこう言っていた。


 「手加減してやれ。レベル3くらいが丁度良いだろう」


 受験者達には分からないように小さく頷く3人。それを確認してマスターは声を張り上げた。


 「それでは第一試験、始め!」


 その合図と共に3人は森の中へと飛び込んだ。

 受験者達もそれぞれ後を追う。


 「頑張れよ、チビ助。運が良かったらまた会おうや」


 そう言って、オルディスさんも一番近かったニーナを追って行く。

 ディナンさんはクナの方へ行ったし、ラウルはミナの方へ行った。なら自分はニーナの方の様子を見た方が良いだろう。




 気配を消し、ナルも後を追う。地面では他の受験者達をよく見るので、木の上を移動していく。

 ニーナにはすぐに追いついた。

 一番最後に動き始めたはずなのに、どうやら一番乗りらしい。


 彼女は時々後ろの様子を見ながら、受験者達がついて来れるスピードを保って走り続けている。


 暫く様子を見ていると、他の人を追い越しニーナへ迫る姿があった。なんと、オルディスさんと、女の人だ。どちらも魔法を使っている様子はない。基礎体力が他の人と違うのだろう。


 「せぇーのっ!」


 女の人はそのまま飛び上がり、木を掴んで一回転し、その遠心力でニーナの元へ飛んだ。

 ニーナが避けることもなく彼女の手がニーナに当たり、女の人は消えた。

 転移魔法で違う場所へと送られたのだろう。それを操作していたのはニーナではなかった。きっとアレスかマスターだろう。

 転移させる相手に触ってもいないのに転移させるなんて凄い、とナルが感動しているとオルディスさんが動いた。


 「トリャァァア!!!」


 戦斧を大きく振りかぶり、投げる。

 風を切り勢いよく回転した戦斧は、ニーナの目の前の地面に突き刺さる。彼女の動きを止めたオルディスさんはそのまま彼女に迫り、追い越しざまに優しくタッチした。


 「おっ俺の戦斧ーっ!」


 …消える時に聞こえた言葉は聞かなかった事にしよう。ニーナが拾っていたし。




 他の人達は走っても追いつけないと思ったのだろう、次々と魔法を繰り出してなんとかニーナを足止めしようとしだした。

 同じ場所をグルグルと回っているので、それに気づいた者達は、このまま走り続けても拉致があかないとその場に留まり罠を仕掛ける者もいる。

 


 ナルはその様子を興味深く見守った。


 魔法の落とし穴に落とされ、片足をロープによって木に吊り下げられたニーナは、咄嗟に取り出したナイフでロープを斬り着地する。その時点で2人にタッチされた。

 徐々に協力する者も現れ始めている。


 力がある者達は早々にニーナにタッチして消える。ニーナも避けたりはしているが、手加減しているので反撃はしていない。


 「ナァーニ遊んでんだヨォ〜ッ!!!」

 「ん?」


 木の上からのんびりと様子を伺っていたナルは、突然襲いかかってきた何者かに視線を遣す事もなく、くるりと枝を半回転して避ける。何者かの攻撃で木が激しく揺れる。自然とぶら下がった形になったナルは何を思うでもなく、下に降り立った。


 「急になんだ?」

 「余裕ブッこいてんじゃネーヨ?」


 ナルを追って降りて来た男は、まるで口裂け男のような派手なメイクをしている。


 最初からニーナを追っていた中にはいなかったはずだ。きっと始めはミナかクナを追っていたのだろう。


 「これは試験のはずなんだけど?」


 ナルを狙う意味なんてないはずだ。


 「ライバルを落としておくのは常套手段ダロ〜?」

 「こんな子供まで蹴落とさなくたって良いだろ」

 「フン、そんなの関係ネェナァ。俺ッチとしては1人でも採用されるのが気にくわネェんだからヨォ〜」

 「…じゃあ何で試験を受けに来たんだ?」

 「そりゃ〜あヨ、この試験、いや、組織まで完全にブッ潰す為に決まってんダロ〜!!!」


 ナルはふむ、と顎に軽く手をあて考える。


 この人、採用出来ないな。

 今邪魔して落とすか、今回は手出しせずに二次試験で落とすか…。ただ二次試験の内容が分からない。それなら、時間まで出来るだけ邪魔した方が…。そう考えた所ではたと気付く。今自分は受験者のフリをしているんだった、と。


 ニーナに触れるのは容易い。こいつの攻撃を避ける事も簡単だろう。ただ、時間内に自分がニーナにタッチした後、すぐにこいつがタッチする可能性がある。それくらいには漏れ出る魔力の力が強い。


 とんでもない笑顔で死神のような鎌を振り回す男の攻撃を、後ろに飛んで避けたナルは決断した。


 放っとこう。


 別にそこまで強い訳でも無いだろうし、一応危険視だけしておいたら良いだろう。ユニバースを潰そうとしている男を、マスターやアレスならきっと採用にはしないだろうし。

 それにあの笑顔、ちょっと気持ち悪いし。






* * *






 時間は試験が始まってすぐの頃に戻る。

 オレンジ色の髪に同じ色の瞳を持った彼、ディナンシェ・ハルシュミッドは微笑をたたえたまま、近くにいたクナを追っていた。


 「ディナンシェ、協力良いって言ってただろ?組もうぜ」

 「う〜ん…」


 (ナル達は…多分後から来るだろうからなぁ。先にクリアして人間性でも見とくかな)


 「あっ、ズリィ。俺も混ぜてくれよ」


 それぞれディナンシェの隣を走る2人は実力はまだあるように思える。人柄も良い。


 (ただ気になる事もあるんだけどなぁ…)


 チラリと斜め後ろを見る。そこには5人くらいで固まって走ってるいかにも不気味な集団がいた。派手なメイクを施したその集団は良くも悪くも目立っている。クナを追っているように見せかけているが、何かコソコソと話していて作戦会議をしているようにも見える。ただ、実力はディナンシェの足元にも及ばないだろう。ナルとラウルでもどうにでも出来る程度だ。何かあったらあの2人が潰すだろうし。


 「俺らと組むのは嫌か?」

 「良いよ、組もう」


 ディナンシェは彼らの提案にのり、先にクリアする事にした。






* * *






 時間はどんどん過ぎ、荒い息をして地面で蹲る人が増えた。

 その横をいつもと変わらぬペースで歩く少年が1人。

 ラウルだ。


 始めはミナを追っていたラウルだったが、今、近くにミナはいない。

 黙々とただ歩いているように見えるラウルだったが、実は探しているものがあった。いや、そう言うには語弊がある。探しものはとうに見つかっているのだ。ただそれをラウル個人の理由でどうこうして良いものか悩んでいた。


 「…チッ」


 ラウルの脳裏に浮かぶのは少し前の光景。それを思い出すだけでイライラする。


 試験の前に見つけた七三分けの金髪男。イーサンをバカにするような目で見て、ここで育ててもらった俺達を馬鹿にした男。

 ここで見るのも不快だったし、もう二度と会いたくなかった。なのにこのユニバースの試験を受けると知り、斬りたい気持ちを抑え、だが、邪魔してやる気は満々だったのだが。

 全てある者達に邪魔された。


 七三分け男を追っていたラウルだったが、運動神経もそこまで良くなく、魔法だってあんまりだった奴はお世辞にも合格するとは思えなかった。

 それでも、もしもの時の為とこっそり後を付けていたラウルは何者かに襲撃される。


 化粧の濃いキモいおっさん。

 ラウルの彼らの第一印象がそれだった。


 真っ白に塗った肌に、まさにピエロのような絵を描いてる男。何かのモンスターを真似たいのか、傷っぽいものを顔にわざと貼り付けた男など、数人の男にいきなり攻撃を受けたのだ。


 何故と疑問に思うが、それどころではなかった。全員で力を合わせた風の魔法に吹き飛ばされたものの、ラウルにダメージは一切なく地面に着地する。ただ、場所と使われた魔法が悪かった。


 ラウルが飛ばされた先には七三分け金髪男、その先にミナがいた。数人の男が力を合わせた魔法に七三分け金髪男が耐えられる訳もなく、ミナの方へ吹き飛ばされる。ミナは当然それくらいの風にはビクともしない。

 七三分け金髪男が飛ばされ、何かを掴もうと手を伸ばした時、たまたま、たまたまミナの身体に触れてしまったのだ。そして消えた。合格したと言う事だろう。


 ギリ、と奥歯を噛むラウルの気配に少し怖気付いたのか、男達は怯み撤退した。


 そしてラウルと男達の鬼ごっこが始まったのだった。


 普通に勝負したならラウルが余裕で勝つ。それは分かってた。だが、これは試験。潜入審査員であるラウルはどこからどこまで手を出して良いか考えあぐねていた。その間に、既に何人かは他の場所へ移ったり、ミナにタッチして消えている。

 制限時間はもうそこまで迫っている。


 「チッ。──後で全員ぶっ倒してやる」


 仕方なくラウルは方向転換してミナの元へ飛んだ。






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