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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
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 「あん時は名前だと思ったんだけどなぁ…」


 俺もあの人のように魔物を楽々と倒せるくらい強くなりたい。次こそは誰でも守れるように。


 そう必死に訓練に励んだ彼は世界中を旅した。

 そして、たどり着いたのがここ、ユニバース。そして運良く対殲滅組織ユニバース見習い募集のチラシを見て来たとの事だった。


 「ちょっと湿っぽくなっちまったな。悪かった」

 「いいえ、こちらこそそんな話をさせてしまって申し訳ありません」

 「なぁに、子供が気にするこっちゃねーって」


 ナルは首を傾げる。


 「じゃあ、何で俺達の受付を──?」


 勝手に済ませてしまったのか。そこまでは言えずに言葉を濁すが、彼には伝わったようで軽快に笑った。


 「そりゃあ、試験だしな。いくら子供でもちょっとくらい力を持ってたら逃げる事が出来る。つまり生きる可能性が上がるって訳だ。緊張感があった方が訓練にもなるだろ?もしもの時の為だ。何となくでも参加しないより参加してる方がいいはずなんだ」


 なるほど。半ば無理やり俺達を参加させたのは、彼なりに俺達の事を思っての事だったらしい。


 「あれ?あの赤髪のチビ助は?」


 ふと隣を見るとラウルが姿を消していた。

 原因は分かってる。先程この集合場所へ新たに加わった人物の方へ行ったのだろう。


 「あー、別に放っといても大丈夫です」


 チラリとそちらに視線をやると、金髪を七三分けにした男が大勢の人に囲まれていた。

 男は何かを身振り手振りを使って大々的に話している。話の内容までは分からないが、どうせ碌でもないことだろう。

 ラウルはその近くでフードを被り、金髪七三分け男を観察しているのが見えた。


 …あれは何かする気か?その前に自滅しそうだけど。


 一応ナル達は潜入審査員の立場だ。一緒にいるよりも別れている方が何かと都合も良いだろう。


 ディナンさんも既に試験を受ける人達に混じって談笑している。彼は明るいし、何でも楽しく話してくれるので人受けが良い。


 周囲を見回すと、ナルが思った以上の人が集まっていた。ザッと300人くらいはいるだろうか。

 しっかりと武器を揃えてきた者から、軽装の者まで様々だ。

 ユニバースで初めての見習い募集だから、お試し感覚の人も大勢いるようだ。

 どちらかと言うとナルとラウルもお試しのような格好だ。いつもの旅のローブを着て、剣を一本持っただけ。しかも子供なので周りからは完全にお遊びだと思われている事だろう。確かに、ある意味ナル達にとってはお遊びである。


 「お、そろそろ時間か」


 オルディスさんの声でふと顔を上げると、マスターとアレスがギルドの中から出て来た。正確には、対魔物殲滅組織ユニバースの方からだろうけど。

 対魔物殲滅組織ユニバースとギルド・ユニバース支部は中で繋がっている。ギルドには一般人も普通に出入りする事が出来るが、対魔物殲滅組織ユニバースに入る為にはヒナの認証がいる為、人の出入りは関わりのある人しか入れないのだ。


 「時間になった。私は対魔物殲滅組織の総責任者兼ギルド・ユニバース支部のマスターをさせてもらっている、イーサン・パルドランだ。これより、第一回対魔物殲滅組織ユニバース見習い試験を行う。なお、この試験は戦闘員用である。間違って受付を済ませてしまった者は、今すぐに帰ると良い。別にそれについて責めるつもりもないし、研究員を志しているならまたその試験の日に来て欲しい」


 マスターが周囲を見回すが、そこから動こうとする者は誰一人いなかった。…と言うよりナルから見ると皆んな呆然と突っ立っているように見えた。


 「──いないようだな。では最初の試験会場に案内する。皆、ついて来るように」


 マスターとアレスが背を向けて、再びギルドの中へ入って行くのに、大半の人々は驚いた表情のまま突っ立っている。

 一番に動いたのはディナンさんで、その周りにいた人達もハッとしたように急いで後に続いている。

 ナルも行こうとしたが、隣で口をポカンと開けたまま固まってしまっているオルディスさんを見上げた。


 「行かないんですか?」

 「え、あ……いや、行く、が……」


 やっと正気を取り戻したのか、周りの人達に続きオルディスさんと一緒に歩き始める。


 「お前、今のお二人を見てもなんとも思わないのか…?」


 今の…ってマスターとアレスの事だろうか?

 ナルは首を傾げる。


 「なんともとは?」

 「あー、いや、チビは知らねぇかぁ…」


 マスターがさっき言ったように、ユニバースの総責任者であり、ギルド・ユニバースのマスターである事は知っている。それに、厳しく見えるが実はとても優しく、よくみんなの事を見てくれていて、一人一人に合った訓練だとかを考えてくれていたりする。マスターが戦場に出る事はほとんど無いが、息抜きでふらりとモンスターや魔物を倒しに出掛ける事もあるらしい。

 ナルは未だに見たことがないが、マスターの持つ魔力の量が多いのは何となく分かる。マスターが怒った時に漏れ出る魔力の量が半端じゃないのだ。


 アレスは1番隊隊長であり、緊急時には他の隊長達やその隊員達をも纏める役目もあると言っていた。


 その事じゃないのだろうか?

 そう言えば、クレアさんも前に似たような事を言っていた気がする。マスターが偉い人のような言い方をしていたはずだ。


 「いいか、教えてやる。前に立って話をしてくれていた方はな、イーサン・パルドラン様だ。長い銀髪のお方な」

 「?さっき自己紹介してくれてましたよね?」


 ナルはクエスチョンマークを浮かべる。


 「いいか、あの人はかの聖天十二翔に属される方だ」

 「え、」

 「それに、隣に立っていた黒髪のお方…。間違いない。アレックス・ホーリング様だろう。あの方も聖天十二翔に属されてるお一人だ」

 「えぇっ!!?」

 「俺達が簡単にお目に掛かれるようなお方じゃないんだ。…聖天十二翔は知ってるよな?」


 ナルは頷く。

 ナルは以前、ラティアと呼ばれていた頃、聖天十二翔に所属しているという、ある人から勉強や魔法を教えてもらっていた。彼の名前はヨハネス・グルーヴ。ラティアが先生と呼び、城の中で心を許せた数少ない人物の内の1人だ。

 彼から聞いた聖天十二翔とは、他の人よりも武術や知恵に秀でた者の集まりだと聞いていた。世界中で有名なんだとも。


 しかし、ユニバースに来て様々な知識をヴァンさんから教わり、聖天十二翔の新たな一面を知った。


 聖天十二翔。それは、ヨハネス先生の言った通り、一般人よりも遥かに才能のある凄い集団という認識になっている。何かの大災害などや、一国では解決出来ない大きな問題が起こった時に動いてくれるという皆んなの為の組織だ。

 少しでも力を持つ者達は、ここに入りたいと憧れ努力するが、もちろんそう簡単に入る事は出来ない。


 でもそれは表向きの話。


 その組織の実質、それは世界に均衡を図る組織だ。これは一部の者しか知られていないらしい。

 力を持つ者達は、国など大きな組織に利用されやすい。それを戦争や悪い事に使われると、せっかくの平和が崩れてしまう。聖天十二翔はそういう者達を保護し、自分達の管理下に置く事で、世界に人と人との戦争がないように管理しているのだそうだ。その中でも抜きん出て力を持つ者達が聖天十二翔の称号を得るのだと言う。


 一部の人しか知らない情報を、何故ヴァンさんが知っているのか問うと、「情報は命を守るからな」という何とも言えない答えが返ってきたのを思い出す。でも、今納得した。マスターやアレスから聞いていたのだろう。そしてきっと隊長達は2人の事を知っている。ナルとラウルに言ってなかったのは、多分ギルティさんが面白がって隠していたからだろう。


 「ここに入隊すれば、いつか一目だけでも見れるかもしれないと思っていたけど……、試験でまさかお目に掛かれるとは思わなかったなぁ」


 見た目は凄く強面だが、あんなにキラキラした視線を送るオルディスさん。本当にマスターとアレスの事を尊敬しているようだ。


 そんなオルディスさんを見て、ナルは内心胸を張る。

 そうなんだよ、マスターとアレスは凄いんだ、と。言う事は出来ないが。






 集団に続いてギルドの中に入り、ユニバースへの入り口でもあるヒナの隣を通り過ぎる。

 あちこちで感嘆の声が上がるのをナルは聞いていた。変わった設備などはないが、普段は一般人立ち入り禁止なので物珍しいのだろう。


 着いたのはナル達が第二訓練場と呼ばれている場所だった。中には魔法がかけられていて、普段の部屋よりも広く、しかも木々や岩山があり、まるで森にいるかのようだ。


 「すげー…」


 誰が呟いたのかは分からないが、殆どの人はその言葉に同意するように顔が輝いている。

 普段はごく普通の訓練部屋である。それを今朝、空間を変えるとこから始めたのだろう。凄くない訳がない。ナルにだってまだ空間を変える事なんて出来ないのだから。


 ただ、ナルは知らない。

 周りの人達が感嘆したのは、部屋の中に森が広がっている光景だったという事を。

 魔法で全て出来ていると見抜いたのは、ほんの数人しかいなかった事を。


 全員が揃ったのを確認したマスターはよし、と頷く。


 「第一試験は鬼ごっこをしてもらう」





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