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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
二章 嵐の前の、大切な日々
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 ユニバース。昔、その名を指すのは、山奥にある研究組織ユニバースの事だけであった。

 その研究組織は次第に大きくなり、そこで勤める者の家族が引っ越して来て小さな村となった。人が集まる場所には当然のように商人達も集まる。そうやって人が増え、やがて名もない小さな街が出来た。

 その後、イーサンをマスターとしたギルド支部のユニバースが設置され、やがては対魔物殲滅組織ユニバースと名前を変えた組織のある街は、ユニバースと呼ばれるようになった。




 ナル達が入院している病院は、ユニバース直属の病院だ。病院を出て左を向けば、すぐそこにギルド・ユニバース支部があり、その後ろに対殲滅組織ユニバース本部がある。

 そしてその近くを囲む商店街には、ユニバース本部で働く研究員達の血縁者が数多くいる。何故なら一番最初に出来た街の商店街だからだ。

 その商店街を出たところに大きめの広場があり、そこから先が住宅街、そして第二第三の商店街が広がり、今の大きさの街が出来ていた。


 ユニバース近くの商店街はナル達もよく利用するので、顔見知りが多くいる。みんな気の良い人ばかりで、2人を大層可愛がってくれているのだ。

 ゆっくり歩き、声をかけてくれる人々に挨拶を返しながら、街の活気を心ゆくまで堪能する。この街にいると、帰って来たという思いで心がなんだかいっぱいになるのだ。


 その商店街を抜け、広場までやって来るとそこにはいつもいる曲芸師やらの姿はなく、何やら大人数の人が集まっていた。見るからに屈強な男が多く、女性はチラホラとしかいない。集まった人々はいかにも冒険者風の人ばかりだ。それにみんながみんな、やる気に満ち溢れた表情をしている。


 「何だろ?」

 「今日はイベントでもやってるって言ってたか?」


 ナルは首を傾げる。


 「そんな話は聞いてないけど…。長い間入院してたからなぁ」

 「行ってみるか?」

 「行こう」


 人混みの中へ紛れ込んだ2人は、早速若い男に声をかけられた。


 「お?坊主らも試験を受けに来たのか?」

 「試験?」


 ナルが首を傾げると、モヒカンの髪型をした男は、楽しいそうにニッと白い歯を見せて笑った。


 「そうさ。ほら、受付はあそこな」


 そう言って指差したのは、簡素に建てられたテントで何やら叫んでるユニバース研究員の人だった。よくよく聞くと、ユニバースの入隊試験はこちらでーす!と言う言葉が聞こえる。


 「ま、坊主らは愉快目的の実力試し派か?まだ小せぇもんなぁ、カッカッカ。まっ、それでも良いんじゃねぇの?行こうぜ!」

 「えっ、いや、俺たちは……」

 「気にすんな!なんたってユニバース第一期の見習い入隊試験なんだからよ。遊びで受けるやつも多いって」


 モヒカンの男は有無を言わせずに、あっという間にナルたちの分まで受付を済ませてしまった。


 「ほらよ。明後日だかんな。遅刻すんなよ」


 ポンポンと2人の頭を撫でた男は、やり切ったとばかりに颯爽と去って行く。

 2人は呆然とその姿を見送った。


 「もうそんな時期なんだな」


 ラウルがポツリと呟く。


 「早いよなぁ。俺達、認めてもらえんのかな?」


 2人の後輩として入って来る人達は当然、ナル達より年上になる。訓練しているとは言え、不安はある。


 「その為に今まで特訓して来たんだろ?実力で押し潰す」

 「ラウル…怖くなったな……。これもギルティ隊長のおかげなのか…?」

 「でも今のままだとまずい。早く特訓やり直さないと…。もう病院で寝てる暇なんてない」

 「そうだよな。早く訓練しないと…」


 そして、ふと手に持ったままの受付用紙に目を落とす。


 「えー……。どうするよ、コレ」


 困ったように受付用紙に目を落とす。


 「まぁ、断り切れなかった俺も悪いんだけどさぁ。だってマスターに口止めされてるから、既にユニバースの者なんですなんて言えないじゃん」

 「別に行かなくて良いだろ」

 「ま、一応マスターに報告だけしとくか…」

 「ナル、それ、報告したら抜け出した事バレるぞ?」

 「あ……」


 取り敢えず、さっきもらった受付用紙は隠し通す事にして、ナルはラウルを見る。


 「ラウルはもう傷は完治してるんだよな?」

 「もちろん。イーサンに病室に閉じ込められてるだけだ。──ナルは…?」


 治癒魔法である程度直してもらって、更に三週間もジッと休んでいたのだ。

 ニヤリと笑う。


 「当然、完治!」






 2人はいつも特訓する山にいた。

 街中をぶらぶらするだけのつもりだったのだが、あの広場にいた人々のやる気に押されてしまったのかもしれない。自分達が不甲斐ないようでは、今まで教えてきてくれた隊長達に申し訳が立たないからと言うのは言い訳で、本当は身体を動かしたかった。

 当然、門から出る訳にはいかないので、バレないように転移魔法を使った。


 「やっぱりさぁ、場所変えるべきだよな。今度遠出して、もうちょっとランクが上のモンスターの場所探しに行こうぜ」

 「そうだな。ここはもう弱すぎる。ダンジョンを探すのもありだよな」

 「確かに。あ!そういや前のギルドの試験で変なやつにあったんだよ。ラウルは知ってるか?」


 木の上に座り、足をブラブラと揺らしながら会話をする2人の足元には、たくさんのモンスターの死骸がある。


 「──いや、知らないな」


 ナルが会った少女とその父親と思われる男の事を話すと、ラウルは首を横に振る。


 「あいつら絶対に今回の魔物よりも遥かに強いぞ。今回のでやられてたら……」


 自分で言ってゾッとしたナルは、身震いする。


 「そんなにか」


 コクリと頷くナルを見て、夕焼けに染まりかけた空を見上げたラウルは言った。


 「──もっと強くならないとな」


 それにナルも強く頷く。


 「ああ。頑張らないと……」

 「取り敢えず、今日はもう帰らないとヤバいんじゃないか?」

 「あっ!!!」





 急いで帰り、病室のドアをそっと開けると、額に青筋を立て、笑顔で仁王立ちしているマスターがいた。






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