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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
一章 Aランク試験と信仰村コーリネ
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 「どうりで両親が見つからない訳だ」


 盛大なため息を吐いたのはマスターだ。


 「だな」


 軽やかに笑うアレスをマスターは睨みつけた。


 「大体お前が悪いんだぞ?ちゃんと性別確認くらいしとけ」

 「悪かったな」


 と言いつつ笑うアレス。しかし、その声は隣でゲラゲラ笑い転げるギルティ隊長によってかき消されていた。


 「ちょっとあんた、何笑ってんのよ!」

 「だってよぉ〜、ククク」

 「ナル、怪我は大丈夫?女の子なんだってね。退院したら一緒に買い物に行こう」

 「あ、リアずるい!!!私も行くから!!!」

 「どうりで今まで誰とも温泉に行かなかった訳ねぇ〜。今度一緒に入りましょ〜」

 「あ!エルも抜け駆け!?私も!私ともだからね!」


 今、ナルが入院している病室にはマスターにアレス、ギルティ隊長に、クウラ、リア、エルが来てくれていた。

 ナルが女だったという事実が案外気楽に受け入れられている事に、ナルはホッと胸を撫で下ろす。


 「あー、面白れぇ。なぁ、ナル。これ、ラウルには言ってないんだろ?」


 涙を拭いながらギルティ隊長に問われ、ナルは頷く。アレスからは好きな時に打ち明けたら良いと言われたが、まだ決心出来ないでいたのだ。


 「だったら、このまましばらく秘密にしとこーぜ」

 「え」


 驚いた声を上げるナルに、ギルティ隊長はいいか、と声を潜める。


 「もしラウルがこの事を知ったとしよう。あいつは性根は紳士だ。女と分かって今まで通り加減なしで一緒に訓練出来ると思うか?」


 ナルは即座に首を横に振る。ラウルなら絶対出来ないだろう。


 「お前はそれで良いのか?アレックスから聞いたぜ、今まで通り男として扱って欲しいんだろ?あいつ、そんな器用な事出来る奴じゃないぜ?」


 ラウルに手加減される…。それはナルにとって許しがたい事だった。


 「それは、嫌だ…」

 「だろ?」


 コクリと頷くナル。


 「だったら今はまだ言わない方が良いと俺は思うんだが…」


 確かにそうかもしれない。可哀想だけど、今は秘密にしておこうとナルが決心する横でコソコソ話す大人達。


 「で、その本心は?」

 「面白そうだから」

 「やっぱそうだと思った!ラウル可哀想に…」






* * *






 ラウルとはその三週間後にようやく会えた。まだ病室にいるように言いつけられているナルの為に、わざわざやって来てくれたのだ。

 お互い無事を確認し、他愛もない話をする。ラウルも入院しているものの、ナルよりは動けるようになったらしい。


 「そう言えば、あのポーション飲みのおっさんもここで入院してたんだってさ」

 「そっか。無事なら良かった。もう1人牢屋にいた女の人は?」


 勢いよく外に飛び出して行ってから見ていない。ラウルも首を傾げる。


 「さぁな。イーサン達も知らないってさ」


 無事なら良いんだけど、と思いつつナルは窓の外を見る。とても良い天気だ。


 「外出たいなぁ」

 「もう歩けるんだろ?」

 「うん、一応」


 ラウルがニヤリと笑う。


 「行くか?外」


 ユニバースに来てナルもすっかりこういう悪さをするのに慣れてしまった。別に他の人に迷惑をかけてもいないはずだ。

 なのでナルもニヤリと笑う。


 「行こう」


 外とは言っても、街中をぶらぶらするだけだ。体調も良くなってきてるし、ちょっとくらい大丈夫だろう。


 ラウルとは一旦別れ、お互い私服に着替えて来た。医者や看護師さんの目を掻い潜りながら外を目指す。休憩室の前を通ろうとした時、ナル担当の先生の楽しげな声が聞こえてきてナルはピタリと足を止める。


 「ナル?」


 小さく呼びかけるラウルにナルは人差し指を立て口元に当てる。それで意味は伝わったらしく、ラウルもそこで足を止めてくれた。

 外へ行くにはここを通らないといけない。

 そっと中を覗く。そこには何人もの患者さん相手に、熱く語る先生がいた。

 ナルの担当になってもらった先生の名前はミーア・ショルダー。美しい白銀の髪の持ち主で、翡翠色の眼を持つ、美しく気高い人だ。…ただ、ナルの前では何故か甘々な変人になるちょっと変わった人だ。


 今、彼女は扉から背を向けて座っている。

 これなら行ける。

 一歩踏み出そうとしたナルは聞こえてきた内容に、思わず固まってしまった。


 「良いですか?皆さん。なので色んな人に広めて下さいね?イースグレイ王国には本当に本当にかわいいお姫様がいらっしゃると」

 「でもよぉ、先生ぇ。そんなのいるって発表されてねーんだろ?例え仮にだ。生まれていらっしゃったとしても、もうお亡くなりになってるかもしれねーじゃねーか?」

 「そうか。だから発表されてないのかも…」

 「いいえ!いらっしゃいます!!!私はどうしても許せないのです。私を追い出し、あの方を隠そうとする王様や王妃様が。お願いです。私はあの方が不自由なく、幸せな日々を送ってほしい。痛く辛い思いはさせたくない。噂が広まればあの方に対する対応も良くなるかもしれない。だから広めて下さい。──ラティア様の存在を」


 ッ!!!?

 俺の事を知っている…ッ?!


 ナルの頭の中は凄い勢いで回転する。


 どこで会った?一体誰だ?

 ミーア・ショルダーなんて人はいたか?


 城にいた母の侍女、それにメイドや護衛達。他にも庭師、料理人かもしれないし、もしかすると雑用係…?

 考えても考えても思い出せない。


 「ナル…?」


 小さく声をかけられてナルはハッとする。

 そうだ。彼女は俺の事はナルと認識している。だから大丈夫。ナルとラティアは別人だと思っているだろう。

 今は考えるのをやめよう。久しぶりに外へ行くんだから。


 「今なら大丈夫だ。行こう」


 そっと囁いてその部屋の前を気づかれずに通り過ぎ、外へ無事に出る事が出来た。






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