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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
一章 Aランク試験と信仰村コーリネ
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 ワイワイガヤガヤとした喧騒が、どこか遠くから耳へと届く。楽しそうに笑い合い、今日の晩ご飯は何にするかとか、たわいもない話をしているのかもしれない。まるで何もない平和な一日のよう。

 こんな日々がナルは大好きだ。

 ナルが持っていなかったもの。

 笑い合い、喧嘩し、時には競い合って充実した毎日を送る。

 朝ご飯の話、昼ご飯の話、夜ご飯の話、学校の話、仕事の話、楽しかった事、嬉しかった事、嫌だった事、悲しかった事、それらを話せる相手がいる事は本当に幸せな事だと知ったのは、ユニバースに来てからだった。


 ラティアだった頃、その当たり前が無かったのは、生まれた場所のせいだろうか。それとも性別のせい?それとも性格?もっともっと頑張っていたなら、あの人達は認めてくれてたのだろうか。

 それは考えても考えても出せない答えで、ナルとなった今でも、ぐるぐると心の底に渦巻いている。

 それでも、あの2人の兄といた時は本当に楽しかったのだ。愛してもらっているのも分かってた。だけど同じ場所に住んでいても、王妃の命令で会えなくなってしまった。


 (──兄様達、元気かなぁ……)


 冷たい食事も、暴力も、何もかもがあの頃は普通で当たり前だと思っていた。でも、その頃はそれで良かったのかもしれない。その時にその事を知っていたなら、自分は、そのままで過ごせるとは思えないから。

 

 平和な日常の会話に耳を傾ける。そのままその声に身を委ね、また眠ってしまいそうだ。


 ……眠る?

 自分はさっきまで何をしていた?


 徐々に思い出す記憶。


 確かコーリネの村で魔物と戦って……魔物ッ!それにラウルはッ?!


 それを唐突に思い出し、ナルは勢いよく身を起こす。


 「イッッッ!!?」


 ドンガラガッシャーンッ!!!


 起こすと同時に胸から腹部にかけて激痛が走り、あまりの痛さに身を丸めようとしたのだが、場所が悪かったらしくナルはベッドから転がり落ちた。それと同時に近くにあった点滴と治療器具を置いた小さな机も倒してしまったようで、色々と散乱してしまうがナルはそれどころじゃなかった。


 「〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」


 痛い。痛すぎる。

 部屋の向こうからバタバタと走って来る音が聞こえる。

 普段のナルなら、向こうが来る前にサッと全部を片付け、何事もなかったかのようにベッドの上に座るのだが…、あまりの痛さに身を起こす事も出来ず、床に蹲ることしか出来ない。

 

 ガラッと開かれる扉。


 「まぁっ!大変っ!!!大丈夫ですかっ!!?」


 駆け寄って来てくれたのは…看護師さんだろうか。痛さにやられ少しだけそちらに目をやるも、涙ぐんでいてぼやけてよく見えない。

 そんなナルを見て、看護師さんがハッと息を飲んで顔が赤くなったような気がしたが、きっと気のせいだろう。

 カツンとヒールの音がして、また新たな人が入って来る。


 「私がるわ。貴女は他の所をお願い」

 「え、ですが…」

 「いいの。私がやるって言ってるでしょ」


 その有無を言わせない雰囲気に押されたのか、先に入って来た人はそれでも不服そうに「お願いします」とだけ言って出て行った。


 しっかりと扉を閉めた人はカツカツとヒールを鳴らしてこちらへと歩いて来る。


 「……あまり、無理をされてはいけませんよ。大事なお身体なんですから」


 ベッドへ戻そうとしてくれてるのだろう、そっとナルの上半身を起こしてくれるが、それも今のナルには激痛で、ハクッと思わず息を止めてしまう。

 それに気づいたのか、そのまま動かず、抱きしめるように、そっと背を撫でてくれている。


 「大丈夫ですから。ちゃんと息をして下さい」


 ほら、吸って〜、吐いて〜、の言葉に合わせて、少しずつ呼吸する。それによってふわりと香る香水の匂いが、ナルの中の何かを呼び覚まそうとする。


 (…あれ、この匂い、どこかで……?)


 でも結局は思い出せないまま、ゆっくりとベッドへ戻された。


 「ここはユニバース直属の病院ですよ。もう気を張らなくて良いんです。さぁ、回復には睡眠が一番。ちゃんと寝てて下さいね」

 「あのっ、ラウルは…?」


 ナルの問いかけに女性はふっと笑みをこぼした。


 「彼もこの病院で治療を受けてます。大丈夫。貴女より酷くはありませんから」


 その言葉にようやく安心出来たナルは瞼が重くなるのを感じた。


 「おやすみなさいませ。──あぁ、やっとお会いする事が叶いましたね。私の天使様マイエンジェル


 薄れゆく意識の中、最後に聞こえた言葉は気のせいだった。……はずだ。






* * *






 「お、目が覚めたか」


 次の日。ナルが目を覚ますと、アレスがナルが寝ているベッドに腰掛けていた。

 まだ早い時間のようで、辺りは薄暗い。


 「アレス…?」


 ナルが呟くと困ったように眉を下げ、くしゃくしゃと頭を撫でる。

 そんな何気ない仕草がどこかぎこちなく思えて、ナルはなんだか居心地が悪かった。


 「今回は…あー、なんだ。──よく、頑張ったな」

 「!」

 「お前達のおかげで研究員達も無事だったし、村の者も正気を取り戻した。本当に、よくやった」


 アレスに褒められた。滅多に無い事にナルは嬉しかったが、自分がまだまだ弱かった事を思い出す。


 「でも、まだまだだよ。あれくらいなら、アレスはもっと簡単に倒すはずだろ?もっと訓練しないと…」


 身体を起こそうとしたナルをアレスは押し留める。


 「…お前、まだ続けるつもりか?そんな大怪我を負って?」

 「?当たり前だろ。俺はもっと強くならないといけないんだから」


 一体アレスは何を言い出すのだろうか。

 ナルが訝しんでいると、アレスは大きく息を吐いた。


 「………医者に聞いた。お前、女の子だったんだな」


 その言葉を聞いて。ナルは全身から血の気が引くのを感じた。

 勢いよく起き上がると同時に激痛が走る。


 「バカッ!無理すんな!」


 傷を庇うようにお腹を押さえるが、それ以上に心臓がうるさい。


 バレた。バレた。バレた。バレたバレたバレたバレたバレたバレた!!!!!

 どうしよう。どうすればいい?まだここにいられる?それとも捨てられる?


 「ナルッ!?おいっ、しっかりしろ!」


 ギュッと抱きしめられ、ナルはガタガタと震えている事に気づいた。


 「別にお前が女だからってどうこうする訳じゃない。だから安心しろ。──俺が言いたかったのは…その、だな。……嫁入り前の女の子に怪我させる職業なんてどうかと思ってしまっただけで……」


 いやでもまぁ、訓練で結構傷つけたのに今更だけどな、と呟くアレス。ナルが顔を上げると、アレスは照れたようにそっぽを向いてしまうが、身体はしっかりと抱きしめてくれたままだ。


 「お前が男だろうと女だろうと構わんよ。お前は俺の養子で、俺はお前の親だ。ユニバースにとっても性別なんぞ関係ない。実際、リア達も女だし、結局は才能があるかどうかなんだ」

 「アレス……」

 「なんだ?」

 「ありがとう」


 小さく笑ってグシャグシャと再びナルの頭を撫でるアレス。


 「俺、もっと強くなりたい。ユニバース、辞めたくない」

 「そうだな。お前にはいい職場だろ。ただ、女だからって優しくはしないぞ」

 「うん、分かってる。女じゃなくて男のままでいたいし」


 ナルの言葉を聞いてアレスは困ったように眉を下げた。


 「あー、それだけどな。他の連中にはもう伝えてあるぞ」

 「え!?」

 「まぁ、まだラウルは知らんだろうがな」




 





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