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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
一章 Aランク試験と信仰村コーリネ
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 その村へ到着したのは、さらさらの黒い髪を持ちどこか心配げに青い目を細めた男性、それと青い短髪にこれまた青い目のガタイが良い男性。どちらも顔立ちは整っており、街を歩いたならば街娘達が虜になる事間違いなしであろう。

 普段の任務では汗をかくことなどほとんどない2人だが、彼らは肌に汗を滲ませている。相当急いで来たんだろう。

 村の前にはおそらく全員の村人達が集まり、泣いていた。その側で何やらせわしなく動いているユニバース所属の研究員2人。どうやら彼らは無事だったようである。

 村の方を見ると、村は半壊になっていた。


 黒髪の男性は即座にあたりを見回してあるものを探す。が、見つからない。青い髪の男性がポツリと呟いた。


 「おいおい…こりゃあ……。間に合わなかったか…?」

 「縁起でもないこと言うな、ギルティ」


 2人の正体、それはユニバース1番隊隊長アレックスに2番隊隊長ギルティである。


 「だってよ、アレックス。あれから2人に連絡も取れねーし、魔物の気配もねぇ」

 「だが、見てみろ。村人達が生きてる」

 「相討ちって可能性も…」

 「黙れ」

 「あー、悪かった」


 ポリポリと頭を掻いたギルティは、冗談でも言うもんじゃねーよな、でもあいつらも結構強くなってきてるしなぁ…と呟きながら、何気なく村人達の方へと目をやる。するとユニバースの研究員達がタオルやら薬草やらを抱えてどこかへ走って行くのが目に入った。


 「おい、アレ」


 アレックスの肩を叩いて、そちらを見るよう促すと彼も気づいたようだ。

 村人達の事は全く気にせずに、彼らの後を追う。


 彼らを追ったそこで見たのは。

 信じられない光景だった。


 「ッ!?」

 「オイッ!!?」


 小さい身体が血に沈んでいる。


 「ナルッ!!!」

 「ラウルッ!!!」


 叫んでそれぞれに走り寄ったのは2人ほぼ同時だっただろう。研究員達はアレックス達の急な登場に驚いて固まっている。


 血で汚れるのも気にせずに、アレックスがそっとナルを抱き上げる。

 抱き上げた時に最初に目に入ったのは、胸からお腹の部分に突き刺さっている血に濡れた、黒い鱗のようなものだった。そこからは血が止めどなく溢れ続けている。

 ナルは血の気を失い、顔色は真っ青を通りこして真っ白になっている。見た感じでは呼吸しているかどうかも怪しい。ナルの口元に顔を寄せると僅かだが、小さな息が顔にあたり少しだけ胸を撫で下ろす。

 それでも危険な事に変わりはない。


 「タオルをくれないか?」


 アレックスがナルの側にいた研究員の1人に声をかけると、彼は震えながらタオルの他にも薬草だったり色々と渡してくれる。


 「あのっ、俺…。何も出来なくてっ!村人達を外へ運んだり、誘導して戻って来たら…っ、お二人がこんな事に…っ!!!」


 顔を上げると彼は悔しげに歯を食いしばって、ポロポロと涙を零していた。


 「俺達を助けに来たせいで、っ、こんなっ!!!」

 「お前達のせいじゃない。──絶対助けるから安心しろ」


 チラとギルティの方を見ると、彼も治療を始めているようだ。ラウルの方も相当な傷なのだろう。

 普段はあまり使わない治癒魔法。

 身体が治癒に慣れてしまうと、普通の傷でも治るのが遅くなってしまうからだ。

 だが、今回はその限りじゃない。

 自然治癒なんて言ってたら確実に死んでしまう。


 取り敢えず自分達の周りに結界を張る。余計な菌を入れない為だ。

 タオルで包み直したナルを抱え直し、ナルに突き刺さった異物を一気に引き抜く。

 血が一気に吹き出し、アレックス自身にも大量にかかるが、一切取り乱さず、瞬時に傷を塞いで治癒魔法をかける。

 空間収納から取り出した、ユニバースで作った血液を補充する為の特殊なポーションをナルに飲ませる。

 これで応急処置は終わりだ。


 あとは病院で治療を受ければ大丈夫だろう。


 結界を解いて、顔を上げるとギルティがラウルを抱えて側に来た所だった。


 「…ナルの方がヒデェな」


 ポツリと呟くギルティ。


 「ラウルは?」

 「あちこちの傷はヒデェが致命傷じゃねぇ」

 「そうか……」


 良かった、と小さく息を吐くアレックス。

 それにしても、さっきナルに刺さっていたのは何だったのか。

 抜いたものに目を向けると、刺さってた部分が2本に分かれ爪のような形になっている。その反対側は、まるで無理やり引きちぎりでもしたかのような……。ハッとして辺りを見回すと、魔物の死骸と地に伏したもう1人の人物が目に入る。


 ナルを抱いたまま、魔物の方へ行く。

 魔物はあちこち引き千切れ、原型もあまり良く分からなかったが、左足が辛うじて残っていた事からナルに刺さったのが何だったのかを知る。ナルに刺さっていたのは魔物の右足だった。


 「これを倒したのか…」


 どうやらギルティも付いて来ていたようで、ほぼ人型に近い魔物を見て驚いていた。


 「それで、あいつはどうする?」


 ギルティが指したのは、倒れ伏したもう1人の人間の方であった。


 ナル達を早く病院に連れて行ってやりたいのは山々だったが、倒れた人間を放置する訳にもいかないし、何よりまだ魔物が出て来たゲートが残っているのかの確認も出来ていない。

 取り敢えず生死の確認をとアレックスが近寄ると、急にグイッと襟首を掴まれる。ナルに負担がかからないように引き寄せられるがまま、ある程度顔を寄せると、眉間に皺を寄せた男と目があった。どうやら生きていたらしい。ナルをチラリと見てホッと胸を撫で下ろしている。


 「お前ら…この子達の親か」


 アレックスはナルの親となってはいるが、ギルティは違う。だが、ユニバース内での今の戦闘員は人数も少ない。と言うよりむしろ隊長や副隊長しかまだいない。なので特に戦闘員は結束力が強く、ある意味家族のようなものだ。だからアレックスは頷いた。


 「ある意味そうだな」


 そう答えた途端、更に強引に引き寄せられる。眉を寄せるアレックスには全く気づかないらしく、男は怒鳴った。


 「ガキをこんな所にたった2人放り込んで一体どういうつもりだ!」


 スッと目を細めるアレックス。

 どういうつもりも何も、連絡をもらって急いで来たんだが。

 アレックス自身、違う場所でさっきまで100体以上の魔物と1人で戦っていたのだ。連絡をもらい、これでも急いで終わらせて来て、たまたま合流したギルティとここに到着したのである。

 だが、それを赤の他人に説明するのもしゃくだ。


 「そういうあんたは?この子達以上の働きをしたのか?どうせ、あの魔物もこの子達が倒したんだろう?」


 ぐっと言葉に詰まった男を冷たい視線で見下ろすアレックス。

 それをギルティが宥めに入った。


 「おいおい、アレックス。お前怪我してる一般人に喧嘩売んなよな」

 「……」

 「おい、無視すんじゃねぇー」


 フゥーッと大きく息を吐いたアレックスは、片方の手を男に差し出した。


 「……来い。一旦うちの病院へ連れて行ってやる。…この子達の正体を見た件についても話し合わないといけないし、な」


 ゲートよりも病院が最優先とした彼らは、一旦転移してユニバース直属の病院へと向かった。













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