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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
一章 Aランク試験と信仰村コーリネ
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 「そんな事が……」


 起こった事を全てギルドマスターであるガナサックさんに報告する。難しい顔で考え込んでいた彼はすぐに部屋に人を呼ぶ。


 「今すぐにダンジョンへの立ち入りを禁止してくれ!絶対に誰も入れるな!」

 「はいっ!」


 ギルドマスターのただならぬ気配に職員は理由も聞かず、走って外へ出て行った。これで取り敢えずは安心だろう。

 そしてガナサックさんは部屋に集まった全員の顔を見回す。


 「怪我もしているのに全員での報告助かりました。今日はもう早く帰って休んで下さい。試験がとうなるかに関しては何も言えませんが…、また色々と聞かせてもらう事もあるかもしれませんので、取り敢えず数日の間は連絡の取れる場所に居てもらえると助かります」


 それを聞いた全員は頷き、ナルとラウルは先に部屋を出て行く。

 けれど、他の冒険者は一切動こうとしないので、疑問に思ったガナサックは首を傾げた。


 「皆さんは帰って身体を休められないのですか?」

 「あの、実は──」


 さっきまでの説明では、現れた魔物かモンスターかよく分からないものと、現れた2人の男女の報告が主になっていた。

 でもそれを誰が倒したとは正確には言ってなかった。誰が倒したかよりも、ダンジョンに現れ確実に全員を消そうとした者達の方が重要視されたからだ。

 すぐに討伐隊を組もうとしたガナサックだが、既に討伐されたと知り、モンスター達の特徴を詳しく聞いただけだったのだ。

 ナル達も別に話すつもりはなかったようで、だからその部分は流されたのだったが…、ナル達以外部屋に残った事を見ると全員が話そうと思っていたようだ。


 「俺達はあそこで何も出来なかった。あれはAランク程度じゃない。それをあの子はたった1人で相手にしたんだ」

 「あのナルって子の方もそうよ。私達が不意打ちでやられて、目を覚ました時にはたった1人であの大蛇と戦っていたの。しかも私達一人一人に結界まで張って」


 その後も詳しく聞いたガナサックはふむ、と考え込んだ。


 「分かった。その件も考えさせてもらう」






* * *







 ギルドから出たナルとラウル。

 周囲には依頼を受けようとギルドの中へ入って行く冒険者や、依頼を終え受け取った金で早速飲みに行こうとしている冒険者もおり、人通りは多い。

 ナルの手を引っ張るように隅へ連れてきたラウルは、しゃがんで背中を差し出す。


 「何を…」

 「限界なんだろ。分かってるから、ほら早く」

 「それはラウルだって同じだろ…」

 「ナルほどじゃない。まだ余裕だってある」


 ナルは悔しさに顔を歪めるが、魔力を使い過ぎ、限界なのも事実だった。今にも倒れてしまいそうだったのを、さっきまでは必死で我慢して何でもないように振る舞っていたのだ。


 「…ごめん」


 ラウルの背におぶさると、ナルはすぐに意識を失った。


 「…ったく、無理しすぎなんだよ」




 ラウルはナルを背負ったまま宿屋に向かって歩いて行く。

 2人を覆うようなマントを身につけたせいか、大通りで優しい目を向けられる事はあっても、ナルが怪我をし気絶しているなどと思う人はいないだろう。

 ユニバースでもナルの不調を気付ける人間は少なかった。それでも、一緒に過ごす内に、ナルの不調をラウルは気付けるようになった。その事実がラウルを優越感に浸らせる。今はまだ、ラウルはこの気持ちがどう変化していくのかを知らない。






* * *






 目を覚ましたナルは、目の前で眠るラウルの姿を見てビックリした。

 宿屋に連れて帰って来てくれたらしいが、ベッドは2つあったのに。

 太陽が高くにあるので、もうお昼に近いようだ。それでもまだラウルが目を覚まさないのを見ると、彼も相当無理をしていたらしい。悪い事をしてしまったなと思ったナルだったが、今のうちに急いで着替えてしまおうと部屋を出た。

 ラウルやユニバースにいる人達にはどうしても見せたくない傷があるから、出来るだけ何があっても脱がさないようにお願いしてあるのだ。怪我だってそこを晒すような怪我はした事が無かったから、今まで女とバレずにここまで来れた。それでも戦いが終わった後、そのまま寝てしまうのは気持ちが悪い。

 お風呂を借り、身体を清めるとスッキリする。

 戻った時にはラウルも目を覚ましていた。


 「昨日はありがとな。ラウルも疲れてたのに」

 「あれくらい余裕だって言っただろ」

 「ラウルだって珍しく今の時間まで寝てたのに?」


 いたずらっぽく聞くと、ジトーッとした目をされ返される。


 「背負った瞬間に意識を手放したのはどこの誰だったかなー」

 「ああはい俺ですー。…悪かったって」


 すぐに謝ったナルを見てラウルは笑った。


 「それより、体調は?」

 「もう平気だ」

 「肩、怪我してただろ?」

 「かすり傷。すぐ治るさ」


 ふーん、と頷いたラウルは空間から何かを取り出しナルへ投げる。

 それは魔力回復用のポーションだった。


 「一応飲んどけよ。次はイーサン達に言われてる任務に行かなくちゃならないんだから」

 「ラウルは?」

 「もう飲んだ」


 それを聞いて頷いたナルは、すぐにそれを飲み干した。全快ではないが、ある程度の魔力は戻り、ナルはホッと息を吐く。


 「取り敢えず、どうする?」

 「街から出られないのは痛いな。イーサンから連絡がないから、まだ村の方からも連絡がついてないはずだ。魔力が戻り次第直ぐに向かった方が良いと思うんだが……」


 マスターからユニバースの隊員として受けた依頼。それは馬車で1週間ほど行った所にある、コーリネという村の様子を見てくる事だった。何でも、その村へ入った後、そこから帰って来た人は1人もいないらしい。ただの旅人なら、そこにいる人に恋して帰って来なくなったと言えるだろうが、一人どころか商人までもが帰って来ないという不思議な出来事が起こっているらしい。それを耳にしたマスターはユニバースの研究員を向かわせたが、こちらも連絡が取れなくなったと言う。


 「そうだよなぁ。ギルドへ行ってみて情報を集めるだけ集めてから、魔力が戻り次第ガナサックさんに伝えて行ってみようか。どうせ試験は今回のはなかった事になるだろうし」

 「そうだな」


 今後の指針が決まった2人は、朝食兼昼食を食べに宿屋の食堂へ向かった。


 食堂の隅にある小さいテーブルで食事を注文した2人は黙々と食べ進める。

 外では旅装用のマントを羽織ったごく普通の格好だ。これなら剣を持っている事も分かりづらいし、あまり目立たないようにするのが2人の当たり前だったからだ。


 「おいっ!ガキィ!!!」


 突然、ガタイの大きな男が酒の入ったグラスを2人が座る席に叩きつけた。飲み物が溢れ、料理にそれがかかる前にナルとラウルはヒョイッと料理を避け食べ進める。まるで何事もなかったかのように振る舞う2人を見て、機嫌を損ねたのか男が怒鳴り散らした。


 「おいっ!何無視してんだよ!!!俺が誰か知らねーのか!」

 「……」


 赤い顔で昼間から酒臭さを撒き散らしている。完全に酔っ払いだ。

 ラウルは安定の無視。なので仕方なくナルが相手をする事にした。


 「…知りませんけど?」

 「アァッ!?ヒィック、俺様はなぁ!Bランクトップの男、スヒィンガー様だ!よぉく覚えとけ!!!」

 「ああ、はい」

 「何ダァ、その態度!ヒック、お前らの事はなぁ、知ってんぞ!ヒィック。試験から逃げ出して来た弱虫だろぉぉ!!!」


 どうやら昨日のダンジョンの噂が何らかの形で伝わったらしい。

 どうやってナル達の事を知ったのかは分からないが、逃げて来たのは事実なので、ナルは頷く。


 「はぁ、まぁ、そうですね」

 「はっはぁっ!!!ヒィィック。バァカめ。実力に見合ったとこに行かねーからだろぉ!!!オメェらはよ、E級で充分なんだよぉ!何ならよぉ、俺が教えてやろうかぁ!?B級の実力ってもんをよぉ!!!」


 真っ赤な顔でそんな事を言われても、全然教わりたくない。例え素面しらふであっても、そんなのごめんだったので断ろうとナルが口を開いた時、入り口から大きな声が聞こえた。


 「あーっ!いたーっ!!!」


 ナル達がそちらを見ると、そこには昨日ダンジョンで一緒だった女の人が立っていた。後ろからはその仲間の男性も1人ついて来ている。

 これは厄介な事になりそうだと、ナルは急いで残りの食事をかきこむ。ラウルは既に食べ終わっていた。


 「やっと見つけたわ!昨日はありがとう!どうしてもお礼をしたくて、みんなで手分けして探してたのよ。昨日はすぐに帰っちゃうし」

 「ああ?何だオメェ」


 ナル達に怒鳴り散らしていた男が、片眉を上げながら偉そうに聞く。まるで部外者は入って来るなとでも言いたそうな言い方である。それに気づいた女の人も高圧的に返す。


 「あんたこそ何よ?私達の恩人に何か用?」

 「恩人?こんなガキが?ハッ、冗談も程々にしな、ヒィック」

 「あんたこそ酔っ払いのクセに何よ。とっとと向こうに行きなさい。私はこの子達に大事な話があるの」

 「そうだな。怪我をしないうちにどっか行った方が身の為だ」

 「ぁあッ!?」


 言い合いは続き、今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気に、ナルとラウルは目を合わせて頷き合う。

 部屋には荷物も置いてない。

 宿の代金は前払いだったので、食事代を払い、2人は気付かれないようにそっとその場を後にした。











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