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降りた先、そこは広い広間のような大きさの空間になっていた。
入ってすぐの場所のように天井が高い訳ではないし、同じくらい広い訳でもないと思うが、ここも奥の方まで見渡せないくらいの広さがあった。
「お?」
オストダムさんの視線の先には、ナル達と同じように階段を下りて来る人影が見える。
「あれは…」
先にダンジョンに入って行ったミンズパーティーとAランクの高い花のメンバーだった。向こうもこちらに気づいたらしく、1人の女性がナル達の方を指差して声を上げた。
「あー!!!」
広い空間なのでよく声が響く。
「あんた達もか」
「突然道を塞がれてな。階段が現れたんだ。“も”って事はあんたらも?」
「ああ。同じだ。──これはあまり良くない傾向だ。もしかすると…」
セドリックさんと向こうのAランクの人達が話してるのを尻目に、ナル達は周囲を警戒していた。
気配はほぼ無いが、確実に周囲の奥の暗い所から何かが近づいて来ている。それも、数が多い。
「…ラウル」
「ああ」
ナルとラウル以外は何やら深刻そうに話し合ってはいるが、見たところ、ゆっくりと近づいてくるそれらに誰も気づいて無さそうだ。
「あの〜」
「何だっ!今忙しいんだ!何も分からんガキンチョは黙ってろ!」
高い花の1人がナルを怒鳴りつけるが、ナルは気にせず続けた。
「モンスター来てるんですけど」
暗がりから飛び出して襲ってきた1体のモンスターをナルは風魔法で切り裂く。
「な…!」
四方八方の暗闇から続々現れるモンスターに向け、全員が背中合わせに武器を構える。
「ちょっとこれ、いくらなんでも多過ぎない?」
「ああ。こんなの普通はありえない」
「しかも……あれ見て。──あれってSランクのモンスターじゃない…?」
前の方に出て来ているのはほぼCランクのモンスターだが、リリスティアさんが指した先には一際目立つ大きさのモンスターがいる。巨人のような体躯のモンスターではあるが、それはまるでゴブリンのような見た目だった。
「こ、こっちにもいるわ…」
Aランク冒険者達がまずいという顔をしている。
結論を出したのか、セドリックさんが声を張り上げた。
「試験は中止だ!どうやらダンジョンの進化が始まろうとしているらしい。みんなで協力してここを脱出するんだ!」
「でもっ!こんなの……!無理に決まってるじゃないっ…!」
「弱音を吐くな!今、ここから抜け出す事だけを考えろ!」
みんなが緊張しながらも武器を構え直してる間、ナルはコソッとラウルに話しかける。
「なぁ、ラウル。あれってモンスターじゃなくて魔物っぽいんだけど…」
モンスター達の隙間からかろうじて見える、Sランクのモンスターの左手と両脚が人間のものであるのをナルは見逃さなかった。
「下級上位か…」
他には強くてもAランク程度の魔物しかいない。
2人は頷き合った。
「「なら、大丈夫だ!」」
別々の方向へ勢いよく飛び出した2人を見た他の冒険者達はギョッとした。
「コラァッ!!!ガキ共!戻って来い!勝手をするなっ!!!」
そんな言葉にはものともせず、2人は同時に剣を抜く。
そして、まずは一閃。
ナルの方は風魔法の併用で沢山のモンスターが切り裂けながら弾け飛び、ラウルの方は火魔法の併用でモンスターを弾き飛ばしながら焼いていく。
その光景をポカンと見ていた冒険者達であったが、高い花のリーダーっぽい男の人が我に返ったように怒鳴る。
「くそッ!あいつらを援護してやれ!!!ガキ共に負けるなァッ!!!」
後ろでも魔法の詠唱する声やら、武器をモンスターに斬りつける音がした事から、ナルは向こうでも戦闘が始まった事を認識した。
でも今はこっちだ。
あっという間に辿りついた下級上位の魔物に勢いで斬りかかるが、軽く手で払うように投げ飛ばされる。でもそれは想定内なので、空中で一回転して上手く着地すると共に火の魔法で魔物の顔を焼く。
「ギュギャアア!!!?」
怯んだ一瞬の隙をついて足下を氷で固めた。
これで身動きは出来ないだろう。
だが、油断する事なくナルはすぐさま水と風で作り出した魔法を魔物に叩き込んだ。
普通の風魔法と違い、冷気になって相手を切り裂くこの魔法。威力は充分あるこれは、足下の氷を溶かす事なく魔物を勢いよく切り裂いていく。
断末魔を上げながら魔物は倒れた。
残っているモンスターに注意しながらラウルの方を見ると、あっちも火だるまになった魔物が倒れるところだった。
「嘘…信じらんない……Sランクのモンスターをあんな一瞬で…」
「彼らは一体…」
「……」
「……」
「……」
ある程度固まってモンスターを倒している冒険者達が心底驚きナルとラウルを見つめていた事や、一緒に行動していたセドリックさん達はなんとなく分かっていたような気がすると言ったように黙って顔を背けたり、顔を青ざめさせたりしていた事には2人とも気づかなかった。
ナル達の活躍も大きく、ある程度モンスターを倒した事で、みんな少しずつ余裕が出てきていた、その時だった。
フォンとどこからともなく音が響いたかと思うと、2つの魔法陣が浮かび上がる。
「え……きゃあ!!!」
「うわぁっ!?」
それぞれ近くにいた冒険者がその魔法陣の中へ吸い込まれるように消えた。そして、それは恐ろしい程の吸引力を発揮し、魔法陣から遠い他の冒険者達までもが吸い込まれていく。
「あれは……転移魔法陣!?」
それに気づいたナルとラウルはすぐに走り寄ろうとした。
「ナルッ!」
「──ッ、ラウルッ!!!」
2人は手を伸ばす。
もう少し伸ばせばお互いが届く距離だ。そうでなくとも、2人とも魔法を使えば余裕で届いただろう。でも、それをしなかったのは、ナルの目にはラウルの後ろの転移魔法陣に吸い込まれてしまった人達が見えてしまった為。ラウルの目にもナルの後ろにある転移魔法陣に吸い込まれてしまった人達を見てしまった為だ。
本当は離れたくない。だけど、別れた方が良い。本能的に2人は分かっていた。
Aランク試験を受けに来た人達は、ナル達からするとそんなに強くない。Aランクの先輩達も強いのは強いのだろうが、アレスより…いや、ユニバースの隊長達より弱く思える。それに体力もない。Sランク──下級上位の魔物も倒せない彼らではきっとこの先にいるかもしれないモンスター達と対峙して生き残れる可能性は低い。
はっきり言うと、この中ではナル達の方が強いだろう。
だから──。
「ここを、出て会おうッ!」
「ッああ!」
ユニバースの名にかけて、この人達を無事に外へ。
お互いが無事にまた会える事を願いながら、2人は転移魔法陣の中へそれぞれ吸い込まれていった。




