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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
一章 Aランク試験と信仰村コーリネ
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 「じゃ、ラウル。軽く復習でもしとくか」

 「ああ」


 地面に座り込み、昨日買った、ダンジョンについて書かれた本を取り出す。


 「え、嘘でしょ。その本ってダンジョン初心者に向けて書かれたやつじゃない。まさかダンジョンに入った事ないとか言わないわよね?」

 「そのまさかですけど?」

 「…ナル」


 ラウルに言われて、深く息を吸う。いつもはこんな事で腹を立てたりはしないのだが、さっきの言葉遣いが相当頭にきているようだ。つい喧嘩腰になってしまう。

 昔はこんな事なかったのに。何を言われてもなんとも思わなかった。

 そこで、ふと思い至る。


 ──ああ、そうか。今は1人じゃないからだ。今の自分の強さはアレスや他の隊長達がくれ、そしてラウルと共に努力してここまで来た。

 それを、バカにされたのがどうしても許せないのだ。


 ラティアだった時は兄達しかいなかった。使用人達がバカにするのは決まってラティア1人だ。兄達をバカになんてする事はない。将来自分の身が危うくなる事を恐れたのだ。だから、攻撃対象はラティア1人であった。なのでなんとも思わなかったに違いない。


 「ダンジョンでは転移魔法が使えなかったよな」


 他の人には聞こえないようにポツリと言ったラウルの言葉に、ナルは顔を上げる。


 「そうみたいなんだ。不便だな。──でも、他の魔法は何を使っても大丈夫らしい。火を際限なく使っても窒息しないんだってさ。やったな、ラウル!」

 「お前…バカにしてるだろ?」


 ジト目で睨んでくるラウルに、ナルは朗らかに笑う。


 「そんなまさか!ただ、壁とかは壊せないらしい。不思議だよなぁ…」

 「…試してみるか?」

 「いや…、今はやめとこう。一応試験だし。やるんなら、2人だけでダンジョンに入った時だな」

 「まぁ、そうだな」

 「ちなみに、罠とかも仕掛けられてるらしいけど…ラウルは場所が分かったりする?」


 ラウルが何言ってんだこいつ、と言った目でナルを見る。


 「分かるわけねぇだろ」

 「そうだよなぁ…。まぁ、その都度対処だな」


 ナルはパラリと本を捲り、一文を読み上げる。


 「ダンジョンでは魔法を使っても、1割程の魔力がダンジョンに吸収されるようになくなってしまう。なので、魔法を使う時は注意が必要である」

 「つまり、吸収される分を想定して、それ以上の威力でやれって事だろ」

 「そういう事だな」


 そこまで話した時、誰かが近寄って来た事を感じ取ったナル達は、そちらの方を見る。

 にこやかな笑みを浮かべながら来たのは、ここのギルドマスター、ガナサックさんだった。


 「どうされたんですか?」

 「いや、昨日言い忘れた説明をね…。その前に、分からない事があれば教えてあげるよ」

 「うーん…。それじゃあ、例えば、反則ってどんな事ですか?」

 「そうだね。Aランクの彼らにお金を握らせて偽の報告をする、とかかな。これはどちらも厳罰対象になるからやらないでね。数十年はAランク試験受けられなくなるから。──ちなみに、地面をぶっ壊して下へ降りようとした人もいたけど、まずダンジョンに穴があけられなかったから、まずそれは反則出来ないね」


 なるほど。下へ強行突破しようとする人もいたのか。ナルは頷く。


 「他にあるかい?」

 「いえ、ありません」

 「それじゃあ、言い忘れた説明だけど、試験は1週間って言ったよね。これは帰って来る時間も含まれてるから、ちゃんと計画して進んでね。あと、Aランクの彼らは基本手出ししないし、口出しもしない。彼らにダンジョン攻略に関する質問をするのはダメだからね」

 「分かりました」

 「モンスターと戦いになったりしたら、自分達のペースで戦うか逃げるかして。ただし、パーティー、セリオの彼らに擦りつけて逃げるのは無しね。これも反則の内の1つだから。食料とかは彼らも自分で持ってるから、気にしないで良い。とにかく、判定員だからいないものと思って行動してくれたら良いよ。ちなみに、ダンジョン内で使った技は口外しないように契約しているから、その辺も気にしなくて大丈夫。全力を出しておいで」

 「分かりました」

 「そろそろ時間かな」

 「そうですね」


 手足をグッと軽く伸ばす。

 セリオの人達も大きな荷物を背負い準備を整えている。1番大きな荷物を持っているのはオストダムさんだ。


 「気をつけて。──君たちにフィースティーナ様の加護があらん事を」


 ガナサックさんに軽く頭を下げて、ナル達はダンジョン内へと足を踏み入れた。






 中は薄暗くて狭い洞窟かと思いきや、天井も高く、全体的に広い空間で、白い建物で作られたような感じだ。中でも目を引くのは、6体の大きな人型の鎧が、仰々しくお互い3体ずつ向き合って立っているものだろう。というより、それしかなかった。人間の大人より3倍は背が高いだろうか。

 それぞれの手には、剣、槍、弓、杖、斧、棍棒が握られている。


 その間を通った先に黒い影になっているのが見えるので、きっとあれが下へと降りる階段なのだろう。


 「これ、通ったら動き出す仕組みか…?」

 「うわぁ、ラウル、嫌な事言うなよ。ぜっっったい嫌だぞ、俺」


 そろそろと進み、2体の間を通る。

 目が光って動き出すかと思いきや、彼らは微動だにしなかった。本当に、ただ置いてあるだけのようだ。


 「…ふっ」


 小さな笑い声に、ナルが後ろを振り向くと、小さく肩を震わせているセドリックさん。

 ホッと胸を撫で下ろしたナルを見て、笑っているようだ。ムッとして見やると、彼は軽くて手を振る。


 「──いや、悪い悪い。なんか初々しいからかわいくてな」

 「かっ、かわっ…!?」

 「ほら、ナル行くぞ」


 かわいいだなんだと言われ慣れなかったナルは思わず顔を赤面させ狼狽えるが、ラウルに手を引っ張られ正気に戻った。


 「あ、うん」


 そしてモンスターが現れる事も、鎧が動き出す事もなく奥へ進み、無事に階段の前まで辿り着いた。


 降りた先は白い通路になっていて、三方向に別れている。ここまでは別に普通だと言って良いだろう。

 ──目の前の通路にいる、異様にバウンドするスライム達を除いて。


 「…なんだこいつら」


 地上にいるスライムが、こんなにバウンドしているのを見た事はない。

 地面を這うように移動するか、軽くジャンプして移動するくらいだ。

 それがどうだろう。目の前にいるスライム達は、そんな緩慢な動きなんて無理ですとでも言うような激しさで飛び回っている。

 中でも目を引く1匹は、床だけじゃ物足りないらしく、壁、天井を駆使して上下左右に飛び回っているではないか。

 これには、様々なモンスターや魔物を見てきたナル達も言葉を失った。


 「…違う道行くか……」


 ラウルの提案に、ナルは頷く。

 ジッと見ていると、だんだん楽しそうに見えてくるバウンドするスライムの所には何となく行きたくなかった。




 試験である事を思い出したナル達は、先を急ぐ事にした。バウンドするスライムも、ちょっと変わった行動をするモンスターも全て倒して先へと進んで行く。今出てくるモンスターはそんなに強くない。

 スピードが早いのだろうか、慌ててオストダムさんが何やら用紙に書き込んでいるが、気にしなくて良いとガナサックさんに言われたので気にせずに進んでいる。ついてきてくれている他2人も途中からオストダムさんに加わり、歩きながら何かを書き記していた。








 ──カチッ


 「う、わっ!?」


 横から飛んで来た槍をナルはギリギリで避け、数本を瞬時に魔法で燃やす。


 「な…なっ……!」


 顔に直撃する寸前で、燃え尽きた槍を見てリリスティアさんはワナワナと震えている。これは、手出ししなくても自分で対処出来たのに、と怒っているのだろうか。

 もしそうだったら悪い事をしてしまった、とナルは頰をかく。

 女性の扱いは本当に難しい。


 「悪い、なんか踏んだ」

 「いいよ」


 簡単に謝るラウルに、ナルは平然と返す。


 危険を回避しながら進むのも良いが、その都度危険を克服しながら進んで、もっと強くなれ。

 それがギルティ隊長の教えだ。


 2人を強くする為、ギルティ隊長は2人を散々危険な場所に放り込んで来た。だから、この速度くらいなら2人にとってなんて事はない。


 何事も無かったかのように先へ進むナル達を見て、セリオの男性組セドリックとオストダムは小さく感嘆の声を漏らす。


 「ほぉ……」

 「やるな、あいつら」

 「これは…いくかもな」

 「だな」


 ただ、リリスティアだけは違った。


 「ちょっと!なんなのよあの子達!!!なんで平然と進めるの!?頭おかしいんじゃない!?」











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