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ナル達が連れて来られたのは、ギルド本部に併設されている訓練場であった。
ユニバースの訓練場よりだいぶ広いが、ユニバースではいくつかに分かれているので、総面積にしたらきっとユニバースの方が広いはずだ。
中では、大勢の人が魔法の練習や組み手、剣の稽古をしている。
奥の方まで行くと、扉があり、そこに入れば人がいない新たな訓練場があった。先程の所よりも十分の一くらいの大きさしかないが、それでも十分に広い。
端の方には、紫、青、緑、黄、赤、白の風船のようなものが、棒の先に1つずつ順番に浮かべられていた。
「ところで、君達の職業…いや、得意分野は何かな?」
「魔法です」
ナルは迷わず答えるが、ラウルはなんと答えるか迷っているのか考え込んでいる。
「2人一緒に来たって事は、君は剣が得意なのかな?」
「いや…魔法で」
「ふふ、変わった言い方をするね。まるで剣も得意みたいだ。──でも、2人とも後衛か…。よし、分かった。取り敢えず、こっちに来て」
連れて行かれたのは、先程の6つの風船の前から30メートルほど離れた場所だった。
「これを割る勢いで…いや、全力で得意な魔法を撃ってみて。周りはちゃんとした結界が張ってあるから気にしなくて良いよ。まずは紫からね。割れなかったら、横の青、緑、黄、赤、白と順番にいってみよう」
こんなに簡単に割れそうな物が割れないなんて事があるのだろうか、とナルは首を傾げるが、ラウルが先に前へ出たので大人しく見守る事にする。
片手を突き出したラウルは、無詠唱で炎を打ち出した。
見事に風船に命中し、炎が風船を燃やそうとする。でも風船は割れずに、なんだか嫌がっている様子で左右に大きく揺れ動くだけだった。風船が嫌がるなんて事があるのだろうか、と思うが、左右に揺れる以外に小刻みに嫌々とでも言うように動いている様子を見ると、どう見てもそうとしか見えない。
「…チッ」
ラウルは更に魔力を込めたようだが、風船は左右前後に大きく揺れ動くだけで終わってしまった。
ここでラウルは左手も出し、左手からは風魔法を撃ち放つ。途中で炎と合体したそれは強力な威力となり風船へと襲いかかった。
咄嗟にナルは自分とガナサックさんの前に障壁を張る。
ドカァァーン!!!
いささか過剰過ぎるような気もする威力に、風船が可哀想に思えてくる。
これは絶対に割れただろうとナルは思った。
だが、風船は割れてなかった。揺れに揺れまくっているだけだ。ただ、少し萎んだような気もする。
これは……、不合格になってしまうんだろうか?
チラリとガナサックさんを見上げると、さっきまでの笑顔はどこへやら、ポカーンと口を開けている。
ラウルは紫色の風船は割れないと判断したのか、青色へと標的を変えたようだ。
最初から風と炎の混合魔法を叩きつける姿は、さっき割れなかった風船の鬱憤を晴らしているようにも見える。
それにしてもあの風船、丈夫だなぁ。自分に割れるだろうか。
そんな事を考えながら見ていると、数十秒後には風船がパァアアアンと、音を立てて割れた。
「…!」
目を見開くガナサックの姿は、ナルもラウルも見ていなかった。
「次は俺の番だな」
「思っている以上に硬いぞ、あれ」
「ん、分かった。全力でいく」
割れた風船は、下の棒から空気が入り、フス、フス、フスと新しい風船が膨らんでいく。
なんだか可愛らしい。
「建物は壊すなよ」
「結界張ってるらしいし大丈夫だって」
「ナルが全力出したら結界も形無しだっただろ」
「あー……」
以前の訓練を思い出すナル。
ある日、ユニバースの訓練場で魔法の訓練をしていた時、マスターが研究員の人達が作ったらしい結界の装置を持って来たのだ。
その装置で作られた結界の中で、ナルが魔法の訓練をしていると、勢い余って装置ごと結界を潰してしまった事があったのだ。
「でもあれは完璧な結界じゃなかっただろ。実験で使ってただけだし。だから大丈夫だって。見た感じ結構丈夫そうだし…」
「でもやろうと思えば壊せるんだろ?」
「まぁ、結界だけに集中したら…いけそうかも?」
でもこれは試験だ。結界を壊す訳ではないので、風船を割る事に意識を集中する。
ラウルでも壊せなかった紫色の風船。
ユニバースでの訓練で、アレス達からは魔法は良い線いってるんじゃないかと言われているが、隊長達にはまだ及ばないのも事実だ。
息をゆっくり吐き出し、ギュッと手を握りしめる。
「よし!」
気合いを入れて、ラウルと同じように片手を風船の方へ突き出した。
ありったけの魔力を込め、風魔法で風船の方へと飛ばす。
ダアァァァン!!!!!
空気のように圧縮されたそれは風船へと激突し、風船は激しく揺れ、余波となった風魔法が建物全体を揺らす。
これでもダメかとナルが思った時、更に激しく揺れた風船がパァアアアンと音を立てて割れた。
「!」
「やった!」
ラウルの方へ振り返り、ハイタッチする。
ラウルは苦笑しながらも受けてくれた。
「また負けたな」
「ふふ!どうだ!凄いだろ!」
「アレックス隊長なら1秒もかけずに割ったんじゃないのか?」
「もっと訓練すれば俺だってそれくらい…。でもラウルは割れなかったんだからな!」
「ふん、次やる時は、ナルよりも早く割ってみせる」
「次も絶対に俺の方が早いからな」
「…と言うより、これ、もしかして俺不合格?」
「あ…」
そう言えばテスト中だったと思い出した2人は、ガナサックさんを見上げる。
顎に手をやり、何やら考え事をしていた様子のガナサックさん。まじまじと2人のことを見ていた彼は、ナル達と目が合ってもしばらく微動だにしなかった。
「──なるほど。まさかここまでとは。イーサン様が推薦するだけの事はある…。──実力は分かった。2人とも合格だ」
「やった!」
「よし!」
軽いハイタッチの音が辺りに響く。
「それじゃあ、明日までに1週間ダンジョンに入る準備をして来て欲しい。2人はダンジョンに入った事はあるよね?」
「いいえ、初めてです」
「初心者か…。分かった。中にはモンスターは当然いるし、トラップなども仕掛けられてる。装備品や予備はもちろん、食料、衣類とかの必需品などを揃えて来るように。良いね?」
「分かりました!」
「集合は明日朝の7時、このギルドに来てくれ」
「分かりました!行こう、ラウル」
「ああ」
ラウルの手を引っ張って外に出ようとしたナルは、何かを思い出したように慌ててガナサックさんの方を振り返る。
ラウルはそれに引っ張られてつんのめった。
「また明日、よろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げたナルは、今度こそ2人で扉から出て行った。
「……なるほど。面白い子達だ。普通のBランク冒険者で黄色が多いと言うのに。まさか紫の風船を壊すとは。しかも無詠唱。もう1人の子も、あともうちょっとで壊すところだったし。魔力だけで言ったらとっくにAランクの実力はあるなぁ、きっと。どんな訓練をすればあれ程になるのか…。教えてる側も、それを実践する側も末恐ろしい……」
しかも、まだ幼い。これからの成長を考えると、将来が楽しみでもある。
だが。
「所詮はただ、魔法を撃っただけ。まだ幼い子供達がダンジョン内での実践ではどうなる事やら…」
でもまぁ、ユニバースのギルドマスター、イーサン様の推薦だという事に期待しよう。
そうして、ようやくガナサックもこの場を後にしたのだった。




