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「なんなのよっ、もうっ!!!」
はぁはぁと肩で息をしながらも目の前にいたモンスターを倒したクレアは悪態をつく。滴り落ちる汗を腕で拭い、次のモンスターへと飛びかかるがその表情に余裕はなかった。
強いモンスターはあらかた片付けたが、まだCランクや弱いモンスターが残っている。
「クソッ、多すぎる…」
近くではタンドリクスも悪態をつきながらCランクのモンスターへと斬りかかっている。
残っているのは弱いモンスターだけだと言っても、数はまだまだ多い。それに、高ランクのモンスターにやられてしまった冒険者も多く、状況は不利となっていた。
それに今、目の前に多くいるのはこの辺りに多く生息しているゴブリスライムンである。
魔法を使い遠距離攻撃を得意とするモンスターだ。これには、短剣二刀流使いであるクウラと剣を得意とするタンドリクスもなかなか近づけず苦戦していた。
少し遠くでは、あのごつい男が時々周りに声をかけながらもモンスターを倒している。
声かけが頻繁じゃなくなったのを見ると、彼もだいぶ疲れているようだ。
「っ!!!」
魔法を撃ちながら、勢いよくジャンプして来たゴブリスライムンを間一髪で転がって避けたクレア。
「大丈夫かっ!?」
「はっ、これくらいっ!」
体に鞭打って立ち上がり、そのまま短剣を突き刺す。
「クッ、ハァッハァッハァッ……」
「──少し街で休ませてもらったらどうだ?」
背中合わせになったクレアとタンドリクス。その間にもジリジリとゴブリスライムンは距離を詰めて来ている。
「ハァッ、ハァッ、…そんな、事、言う?──私が抜けちゃ、だいぶ、キツくなるんじゃない?」
チラリと周囲を見回したタンドリクスは嘆息した。死者はいないにしても、門まで戻った脱落者がだいぶ増えていた。戦ってるのはクレアとタンドリクス、がたいのいい男と数人だけである。
「…違いないな」
やはり弱くても数には敵わないのだ。
「おやおや皆さん、だいぶお疲れのようですねぇ〜!!!この事件!Bランクである僕が解決して差し上げましょう!!!」
そう言いながら門から現れたのは、七三分けにされた金髪の長身の男。
「おお!貴殿、Bランクか!助かる!」
がたいのいい男は助っ人が来たと、安堵した表情だが、クレアはなんだか嫌な感じがして落ち着かなかった。
「…ねぇ、なんだかあんまり良い予感はしないんだけど……」
「だが、一緒に戦ってくれるんならなんでも良い」
「…そうね。Bランクならそこそこは出来るでしょうし……」
ただ、助っ人に来てくれたと思った面々の予想は裏切られた。クレアの予感は当たり、モンスターとは戦わず、森の奥へと行こうとする長身の男。思わずクウラが叫ぶ。
「ちょっと!手伝ってくれるんじゃないの!?」
「はは、まさか!!!Bランクである僕にザコの相手をしろと?あなた達がザコの相手をしておけば丁度良いでしょう!?僕は任務途中でもあるんです!怪我をする訳にはいきませんのでね!わざわざここまで足を運んだ事に感謝して欲しいものですねぇ!!!Bランクであるこの僕が!この原因を調べて来てあげるので安心してモンスターを倒していて下さい!!!」
そう言ってモンスターの攻撃をヒラリヒラリと避けながら、森の中へ入って行ったのを呆然と見送る。
「何あれ…。ちょっと!行かせて良かったんですか!?」
丁度近くまで来たがたいの良い男に話しかけると彼は唸った。
「うーむ。惜しいのは惜しいが、原因を突き止めずにしてはこれが解決する事も無いだろう。彼に任せるしか…」
「じゃあこっちはどうするんですかっ!みんな限界ですよっ!?」
「気合いでなんとかするしか…」
「気合いでなんとかなるかぁっ!!!」
その勢いで、クレアは3匹のモンスターを瞬殺した。
力を振り絞って半分は倒したが、とうとう限界は訪れた。
「もっ、無理……」
ガクンと膝から力が抜け、ゴブリスライムンが持つ棍棒が目の前へと迫る。
ゴブリンの頭の上にいるスライム達が楽しそうに笑ったような気がした。
どんどん近付く棍棒。まるで世界がスローになった気分だ。
そこに何者かが割り込んで来た。
クレアよりだいぶ小さい背中。フードを被っている為、顔も髪の色も見えない。
そして──。次の瞬間には目の前から消えていた。
ゴブリスライムンが血飛沫を上げながら後ろへと倒れていった所でクレアは意識を失った。
* * *
「うへぇー。あいつがユニバースの隊員とか最悪じゃん」
「ふん、そんな噂どうせすぐ消えるだろ」
「んー、そうだと良いけどなぁ。ユニバースの評判にも関わるじゃん。あいつが入ってるって噂になってるってマスターが知ったら……」
「確かに…」
2人はブルリと身震いした。
昨夜はモンスターを出来るだけ遠くから魔法で片付け、とっとと宿屋へ引き上げたナルとラウル。クレアさんが危ない所を見てしまったナルは思わず前へ飛び出してしまったが、それは仕方なかったと割り切っている。
早朝に起きてギルドで事情を聞いた彼らは、宿屋へ戻り一階の食堂で2人きりで話していた。
モンスターが押し寄せた原因は魔物だったと、ギルドでは既に知れ渡っていた。
ユニバースの研究員達がマスターからの連絡を受け、現場に急行して通行止めしてくれたものの、1人現場に入ってしまったらしく、その者が全ての魔物を倒した英雄でユニバースの隊員だともっぱらの噂らしい。
その人物を見た時のナルとラウルの衝撃といったら。2人にとっては最悪の噂であった。
「あ、おはようございます!あの…昨日は寝ちゃってて…。気付かなくてすみませんでした。お加減はいかがですか?」
タンドリクスさん、クレアさん、それにペインスハイムさんが下へと降りて来たのを見たナルとラウルは立ち上がる。
「問題ない」
「ええ、怪我はそんなにしてないしね!ぐっすり眠ったからもう平気よ!心配してくれてありがとう」
「昨夜はゆっくり眠れましたかな?」
ニコニコと返事してくれる3人は本当に心の底から優しい人達なのだろう。昨夜は本当に間に合って良かった。
ナルは笑顔で返す。
「何も気づかないくらいゆっくり眠れました!」
ラウルも珍しく優しい笑顔だったので、3人は驚いたようだった。だけど、それを言ってしまっては笑顔が無くなると思ったのか、普通にしようとしている。でもチラッチラッとラウルを見ているので、ナルにはバレバレだったがそれがとても微笑ましかった。




