20
ナル達が街の外へ出た時には、数人の男達が押し寄せる魔物相手に戦っていた。
それぞれ実力者のようで善戦しているが、それでも数には負けているらしく、押され気味である。だが、筋肉隆々のごつい身体を持った男が、士気を高めるべく大声で「大丈夫だ!」「なんとかなる!」「いけるっ!押せ押せー!!!」と叫んびながらも戦っている。自らも大型で強いモンスターを相手にしているというのに、疲れている様子はまだない。
その横をナル達が走り抜けるが、戦っている男達が気づくことはなかった。
南東の方の森へ飛び込んで、ナルとラウルは愕然とした。
そこにはこちらの方へと向かって来るモンスターが数えきれないほどいたのだ。
「うわー」
「軽く1000はいってるな」
「しかもランク色々混ざってるし。最悪じゃん」
ナルは小さくため息を吐いた。
「軽く潰して行くか?」
「うん。こんなに来てたら街の人たちいつまで持つか分かんないしね。あ、でも目立つの使っちゃダメだぞ?まだ街から近いから誰かこっちに来たら大変な事になる」
「ああ。ナルこそ、ここで力を使い果たすなよ」
「分かってるって」
「前は使い果たして本番は役立たずだったからな」
「それはー、ずっと前の話ですー!」
軽口を叩きながらも、2人は剣で前方にいるモンスターを斬り裂きなぎ倒していく。
「次々と…きりがないっ!」
「これも魔物のせいだろ!」
「さっさとゲートの所まで行こう!」
「ああ!」
2人は顔を見合わせニヤリと笑う。
「“旋風のグレール”!!!」
「“水の雲隠れ”!」
ナルの手からは雹が散りばめられ渦巻いた風が、ラウルの手からは霧のような中に水滴がキラキラ光り輝いたものが、凄い勢いで辺りを一掃して行く。
「うーん、かっこいいような気もするんだけど、やっぱ恥ずかしいなぁ」
「…そうだな。今の聞かなかった事にしてくれ」
「了解!俺のもな!」
詠唱もなしに魔法を使えるので、ナルとラウルの2人だけの時にかっこいい技名をつけて放つのが最近の2人の中で流行りだったりする。ただ2人ともネーミングセンスがないのか、毎回同じような名前になってきている。
これをユニバースの隊長達に聞かれたら、バカにされる事間違いなしなので、2人だけの秘密なのだ。
「炎、使えなくて残念だったな」
「別に」
ラウルの得意魔法は火属性なのだ。逆に水属性は苦手なのだが、これも普通の魔法使いより余程出来るので、魔法使いがこれを見て苦手と聞いたら俺らに謝れ!と怒るに違いない。
ちなみにナルにとって魔法の得意不得意はあまりない。魔法の適性が高かったようである。ただ、身体のつくりの関係上、剣や体術が苦手ではあるが、こちらも普通の剣士からすればバカを言うな!と言われるほどのレベルにまで成長している。
「さぁ、行くか!」
「ああ!」
モンスターを倒しながら、2人は更に森の奥へと進んで行く。
* * *
「うーわー」
「…ラッキー?」
「まぁ、うん、ある意味ラッキーだよな」
2人の目の前には、ゲートから出て来た約150体ほどの魔物がいた。今もゲートから出続けるそれは止まる事はないし、ゲートが壊れる様子もなかった。
その魔物の名は、ダイアモンドスコーピオンという。
ダイヤモンドスコーピオンは、人の2倍以上の大きさがあり、ダイヤモンドと言う名の付く通り身体が堅いサソリ型の魔物である。下級下位の魔物であり、普通ならCランクのモンスターと同等のレベルなのだが、少し特殊な魔物である。その理由は身体が堅い事にある。普通の冒険者では攻撃はまず太刀打ち出来ず、魔法も碌に効かないので下級下位の中でも厄介な相手なのだ。ユニバース内で、ダイアモンドスコーピオンの堅さは中級上位だと言われているくらいだ。ただ、攻撃の時以外の動きが遅いのと、毒を持っていない事から考えると、やはり下級下位の魔物と言える。
そして、ダイヤモンドスコーピオンの利点はその肉の美味さにあった。
ラウルがラッキーと言ったのもそういう理由だ。
ダイヤモンドスコーピオンには、その堅い身体の鋏の中に、ほんの少しではあるがとても柔らかい肉がとれ、一般人ではまずダイヤモンドスコーピオンを倒す事は出来ない為、高級な珍味とされていた。ちなみに出現頻度も高いので、最近、ユアーズの人気メニューとなっている。
「これだけいたら俺達の分の肉も取っといてくれるんじゃね?」
「全部2人で倒さないといけないんだろ。だったら取っといてもらわないと割に合わない」
「まぁな。取り敢えず、ラウル。ゲート壊してくれる?」
「もう終わった」
ゲートの方を見ると、既に燃え尽きて無くなるところだった。
「おお、さっすが!んじゃ、あっちこっち行く前にさっさと終わらせますか」
「ああ」
「半分ずつかなぁー…いや、やっぱり…」
ナルとラウルはニヤリと笑いあう。
「「勝負だ!」」
一般人が普通には倒せない、堅い身体を持ったダイアモンドスコーピオンをどう倒すのか。
答えは簡単、力押しである。
炎を纏わせた剣を巧みに操り、ナルとラウルの2人は次々とダイアモンドスコーピオンの首を落としていく。
「っうわっ!」
ズルリと地面に足を取られ、転けそうになったところにダイアモンドスコーピオンの尾が迫る。
手を地面につき、グッと力を入れ後ろに飛び退く。その先にいたダイアモンドスコーピオンの頭を斬り落とし、そのまま蹴って前にいたダイアモンドスコーピオンに飛びかかり、また一体と確実に倒していく。
「まだまだ未熟なんじゃねーの」
「うるさい」
どうやらラウルに見られていたようで、バカにされるが、ラウルの背後に気配を消して迫って来ているダイアモンドスコーピオン二体を風魔法で吹き飛ばした。
「ラウルこそ、もっと気配の勉強すれば?」
「チッ。──今のは気づいてた。ナルが先に攻撃しただけだ」
「またまた〜、そんな事言っちゃって。舌打ち聞こえてたからな!」
ラウルの後ろにいた二体は吹っ飛ばしただけなので、再び起き上がりラウルに向かって来たのをラウルは微動だにしないまま魔法で燃やし尽くす。
「あーあ、燃やしたらせっかくのお肉が取れないだろ。一体から取れる量少ないのに」
「これだけいるんだ。問題ないだろ」
2人にとってはそれほど強くない相手だ。森に影響を与えないよう、範囲魔法は使わず数を確実に減らしていき、最後の一体。
ナルが剣を大きく振り下ろすと首が落ち、最後の一体が絶命する。
「よしっ、これで終わりだろ」
辺りを見回し、気配もない事からうーんと伸びをする。その体はダイアモンドスコーピオンの返り血で染まっていた。
「何体倒した?」
「うーん…悪りぃ、途中から分かんなくなった」
ラウルが呆れたようにため息を吐く。
「ったく、ナルはいつもそうなんだから、勝負になんねぇ」
「ハハッ、悪いって」
全然悪びれた様子のないナルを見て、ラウルはまた大きくため息を吐いた。
「早いとこ戻ろう。向こうはまだモンスターと戦ってるかもだし」
「あれくらい、速攻で終わってるだろ」
「んー、そうだと良いけどなー。あ、マスターに連絡入れないと。…ラウル、頼む!俺は疲れた!」
「嘘つけ!元気だろ!」
そう言いながらも、連絡をきっちり入れるラウル。
「──お疲れ様だってさ。後でここ封鎖して、コレアス在中の研究員が来てくれるって」
「分かった。じゃ、急ぎますか」
「だな」
戦っている途中で脱いでいたフードを深く被り直す。
街の方でのモンスターとの戦いが終わってたら良いなと思いつつも、2人とも街の方にまだモンスターがいる気配は感じていたのだ。
戦いはまだ完全に終わっていない。
「あーあ、風呂入りてぇなー」
「終わったら一番風呂譲ってやるよ」
「マジ!?そんじゃ、さっさと終わらせねーと!」
ナルは行きとは段違いの速さで走り出した。