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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
0章 プロローグという名の幼少期
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 ラティアが離宮で暮らし始めて一月が経った。

 ケイティが言ってたように、あれから兄達とは一切会えていない。しかも、ケイティも朝昼晩とご飯を運んで来るだけで、たまに近くにいる事もあるが、ほとんどは姿を見せないし、近くにいても話はしない。


 人と喋れない日常が、ラティアは寂しかった。




 離宮の中を探検し終わり、暇になってしまった頃、一度ケイティに遊んでもらえるようお願いした事がある。

 嫌がっていた彼女に何とかお願いして、何かを考えた彼女は渋々頷き、こう言った。


 「じゃあ、隠れんぼをしましょう。私が鬼をします」


 その言葉に大喜びしたラティアは部屋のベッドの下に隠れた。


 数を数え終わったケイティは、「探しますよー」と言いながら部屋の外へと出て行った。


 朝から始まった隠れんぼだったが……、ケイティは夕食の時間まで帰って来る事はなかった。


 初めから遊ぶ気なんてさらさら無かったんだと理解したラティアは、それからは1人で遊んだ。昼もあまり部屋に帰らなくなり、たまに戻っても、もう昼食が用意されている事はなくなった。でも、それもどうでも良くなった。




 ある日の朝、朝食の支度をしていたケイティが急にラティアに向かって怒り出した。


 「ああ!もういい加減にして下さいよ!私のエリートへの道を潰して。楽しいですか?あんたなんかさっさと豚で臭い変態の嫁にでも行けばいいのに。そうすれば私は晴れて王妃様付きに戻れる。無事に全てが丸く収まるのに!」


 準備していた食器をガッシャーンと床に叩きつけて、ケイティは肩を怒らせながら出て行った。ラティアはいつもの事、と箒を取り出し掃除していく。


 でも、「豚で臭い変態の嫁になれ」と言う言葉がラティアの中でぐるぐると繰り返されていた。


 私、ブタでクサイ、ヘンタイのおよめさんにならなくちゃならないの…?にーさまに教えてもらった絵本じゃ、せいりゃくけっこんをしなくちゃいけないこともあると教えてもらった。

 でも…私は、大好きな“姫と勇者”という絵本のしゅじんこうみたいに好きな人とけっこんしたい!

 ブタでクサイ、ヘンタイのおよめさんなんてぜっっったいいやだ!!!


 ──なら、どうしたらいいだろう?


 ラティアは問題を解決するべく、まずは離宮を出る事にした。






* * *






 離宮にも当然のように隠し通路が山ほどあった。


 小さな頃から1人でいる事が多く、それでも活発だったラティアは、王宮内で遊ぶ内に隠し通路を見つけ出す天才になった。でもそれは、ラティアが誰かに言う事もなかったので誰も知らなかった。もちろん、優しい2人の兄達もだ。


 その才能をこの離宮でも遺憾無く発揮して、外に繋がる通路がいくつかあるのを知っていた。しかも、その内の数本は王宮まで行ける。


 昼食が出ないのは知っているので、朝食はしっかり食べてから王宮のある部屋へと続く通路へ入った。そこは地下から王宮へと続いているようで、少し寒い。






 ──カタン


 小さな音を立て入ったその場所は、本がたくさん並ぶ図書室だった。

 周りに人がいないのを確認したラティアは、するりと中に滑り込み扉を閉めた。


 シン──と静まり返っている図書室に、誰もいないだろうと思ったラティアは、政略結婚を回避する方法を書いた本を探し始める。

 

 フッと影が差したのはその時だった。


 「おや?これはこれは…珍しい。小さなお客さんだ」

 「!」


 ビックリして見上げると、そこには白い神官のようでそうではない服を着たおじいさんが立っていた。


 「あ……ごめ、なさい…」


 咄嗟にメイドのケイティから王宮へ入るのは禁止だと言われたのを思い出して、謝るラティア。見つからなければ大丈夫だと思ってた自分に後悔するが、おじいさんはパチクリと目を瞬いて首を傾げる。


 「何を謝る?ここは図書室だ。好きな本を好きなだけ読んでいいんだよ」


 くしゃりと笑い、頭を撫でてくれるおじいさん。


 「最近の者は特に本を読まなくなってしまった。先人様方の知恵の宝庫だというのに…。沢山読めばそれが自分の一部となり役に立つ事だってあるのに、だ」

 「ちえのほうこ…?」

 「そうだ。自分の人生を事細かに語っている本もある。参考になる物も多い。──でも、貴女様ならまずは好きな本を読んでいくべきだ。絵本でも物語でも何でもいい。ラティア姫様に、ぜひ、本を好きになってもらえると嬉しい」

 「!」


 自分の名前を当てられて、焦ったラティアは距離をとろうと後ずさる。それを見たおじいさんは慌てて「ああ、悪い悪い」とブンブン両手を振った。


 「もちろん、貴女様がラティア姫である事は分かってるが、それを他の者に言うつもりは一切ないから安心してほしい。──ププッ。とても信じられないって顔だな。ならこうしよう。わたしの秘密を貴女に話す。ただ、絶対に他の者に言わないでくれ。もし言えば、わたしも貴女が離宮から出ている事を他の者に伝える。貴女がわたしの事を誰にも喋らない限り、わたしも貴女の事は喋らないし、いつでもここへ来て本を読んでくれて良い。どうだ?公平だろう?」


 ラティアは少し考えた後、頷いた。


 「よし!じゃあ、まずは自己紹介からだな。わたしの名はヨハネス・グルーヴ。図書室の管理人であり──」


 ヨハネスと名乗ったおじいさんが、キラキラとした光に包まれ姿を変えていく。

 白髪だった髪は、濃紺に色を変え、その長い髪は一つ束ねられ前に流している。

 シワもなくなり、女性に限らず男性でも目を引くような美しい顔は小さな笑みを浮かべていた。

 よくよく見れば目の色も変わっている。濁った深い海の底の様な色から神秘さを感じさせる紫色へと。


 「すごい…!」

 「この王宮では占い師兼魔術師を名乗っているが、聖天十二翔の1人でもある」

 「せいてんじゅうにしょう?」

 「ああ、貴女は知らなかったか。それも致し方ない。今の国王夫妻、しかも王妃に世間から遠ざけられ、あんな扱いを受けていればな。

 聖天十二翔とは、つまり他の者より武力に秀でた者、もしくは知恵に秀でた者の集まりだ。世界中でも有名な集団の一つでもある。現在は──そうだな、11名所属している」

 「12人じゃないの?」

 「そうだ。聖天十二翔が出来た当初は12人だったらしいが、増えたり減ったりして、現在は11名だ」

 「へぇー」

 「まぁ、巷では結構有名人なんだよ、わたしも。と言う訳で、王宮に住む者には秘密にしてもらいたい。ここではちょっとした秘密の…まぁ、わたしのお楽しみ中ってところだからね」


 いいかい?と言うヨハネスの言葉に、ラティアは素直に頷いた。


 「──あの、それ、ラティアにも出来る?」


 そう言ってラティアが指差したのはヨハネスの顔だった。


 「それ?…ああ、変身魔法の事かい?」


 素直に頷くラティアにヨハネスは優しく笑った。


 「もちろん出来るさ!ただ、この魔法は高度だから沢山の練習が必要だ。挑戦したいかい?」

 「うん!」

 「なら教えてあげよう。ちなみに文字の読み書きは出来るかい?」

 「ちょっとだけなら、にーさまに教えてもらったの」

 「なら、文字の読み書きは出来るようにならないといけないね。あと、マナーも。全て教えてあげよう。これから毎日ここへ来れるかい?」

 「大丈夫!」


 力強く頷くラティアをみてヨハネスは頰を掻いた。


 (これは思っていたより酷い…。姫君に付けてる護衛などはいないのか?いつでも簡単に抜け出せるくらいに放置しているし、それを王妃が把握しているとは思えない。このままでは教育も受けさせて貰えず大人になって放り出されるのがオチだろう。──やはり、今回の王族どもは腐ってる。だが、次代の王子達とこの姫には見所がある。…まぁ、1人厄介なのがいるがな…)


 「じゃあ、まずは読み書きの勉強から始めようか」

 「はい!よろしくお願いします、ヨハネス先生!」

 「先生…か。なんだか照れくさいものだな」

 










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