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「すまない、2人とも」
手続きを終え、ナルとラウルを再びギルドマスター室まで連れて戻って来たマスターは2人に深く頭を下げた。
「ちょっ!頭をあげて下さいって!」
「そうだよ!悪いのはあいつでイーサンは何も悪くねぇって!」
「俺達が子供っていうのも間違いないしね」
「あいつら、俺らの実力を見ればびっくりするだろうな」
「でも、意外とあのイケメン詐欺野郎も強いかもしれないぞ?」
「ナル、イケメン詐欺野郎はないだろっ!」
と言いながらもラウルは肩を震わせている。
「最高のあだ名だと思うけどなー」
慌てた2人はマスターを元気づけようと笑い合った。
そんな様子の2人を見たマスターはクスリと口元に笑みを浮かべた。
「強いなぁ…、2人とも。本当にすまなかった。初めて依頼してきた男で、あそこまで性根が腐ってるとは思ってなかったんだ。ここに来てくれる人は、人が良い人が多かったもんだから」
「だーかーらー!気にしてないって!グランディまでは俺達で行くから!」
「…そうだな。その方が良いのかもしれない」
ラウルの頭をワシャワシャと撫でながら、人差し指を立てる。
「──だが、転移魔法塔を使うのは禁止だ。これは転移魔法を使える範囲を広くする為の修行でもある。だから沢山寄り道して来なさい。良いね?」
* * *
「それじゃ、行ってきます!」
「おう、気をつけるんだぞ」
「ラウル、行ってきますは?」
「…行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
マスターはにこりとラウルに笑いかける。
ラウルは行ってきます・ただいま、を言うのはまだ慣れないようで、促されないと中々言わない。顔を赤くして、そっぽを向きながら言うので恥ずかしいようだ。
「何かあればすぐに連絡を。いいね?」
翌日の早朝。マスターとアレスに見送られ、2人は徒歩で出発した。
グランディまでは、このユニバースから3つの街を経由するのが一般の道となっている。
街を出た2人はのんびりと歩を進める。
「晴れて良かったなぁ」
「そうだな。──なぁ、Aランク試験って難しいのか?」
「さぁ?アレスは俺達なら余裕だろうって言ってたけど」
「ギルティ隊長の訓練よりマシだったら良いなぁ」
「え?でも試験だろ?それより難しいんじゃ…。大体Bランクに上がる時だって…」
「……覚悟した方がいいかな…」
Bランク試験の事を思い出したのか、顔を青ざめさせるラウル。
「筆記もあるんだったか…?」
「どうだっけ?……え、それって結果返ってくる…?」
ナルもサッと顔を青ざめさせる。
「…全問正解じゃないと、ヴァンさんに……」
「っ!」
「たっ、楽しい事!楽しい事考えよう!」
「そっ、そうだな!」
腰に剣を携え、申しわけ程度の荷物を背負った子供の2人旅。2人を追い抜く馬車に乗ったおじさんや馬に乗って行く冒険者達からは、不思議そうな視線を向けられる事はあるが2人は一切気にしなかった。
「どけどけーっ!!!邪魔だ邪魔だっ!」
地鳴りのような馬と馬車の音とともに、怒鳴り声が後ろから聞こえてくる。
サッと森の近くに身を寄せた2人は、後ろから来る馬に怯えたのか、あたふたと道の真ん中で怯え止まってしまった馬を必死に宥めて端へ寄せようとしているおじいさんを見つけた。馬は一頭で、屋根の付いていない荷馬車が取り付けられている。後ろの馬車は一切止まる様子を見せない。このままでは弾き飛ばされてしまうだろう。
「ラウル!」
「分かってる!」
おじいさんの元まで跳躍したナルは彼を抱き抱え、さっきまで自分達がいた場所へ避難させる。ラウルは即座に馬に飛び乗り、馬を宥めにかかった。
「ここでじっとしてて」とおじいさんに言い残し、ナルは馬に取り付けられている荷車の方へと走る。ようやく動き出した馬に合わせ、取り付けられた荷車を押し、端へと寄せたちょうどその時に後ろから来た馬車が物凄い勢いで横を通り過ぎて行く。
「さっさとどけよ!おせーんだよのろま!」
アッハッハッハ!と捨て台詞と笑いを残して去って行った馬車に乗ってた人物は、ナルとラウルにとって見間違えるはずもなかった。昨日の太っちょ男とイケメン詐欺野郎である。
「あいつらっ!」
「──大丈夫ですか?おじいさん」
馬に乗ったまま、去った馬車を睨みつけるラウルは取り敢えず放って置いて、ナルは座り込んでしまったおじいさんに手を差し出す。
「お、おお…。ありがとう、助かったよ」
ラウルが馬から降りて、手綱をおじいさんに返してる時に、また後ろから馬の走って来る音が聞こえてきた。
「──ペインスハイムさーん!!!ご無事ですか!?」
男女はナル達の目の前で止まると、馬を降りる。
「もうっ!若旦那様の言う事を聞かずにさっさと1人で行ってしまわれるんですから!焦りましたよ!!!」
「いやはや申し訳ない」
プンプン怒る女性はまるで視界には入ってないとばかりに気にせず、横にいた男性は少し心配そうにおじいさんに話しかける。
「さっきの馬車、まるで暴走しているかのような走りでしたが…お怪我は?」
「このお2人が助けて下さったもので、全て無事でした」
「それは──」
背が高く、目が細い為目つきが悪く見える男性は、ナル達を交互に見比べた後、頭を下げた。その角度はきっちり90度である。
「ありがとうございます。お礼はいかほどお渡しすれば宜しいでしょうか?」
「…は?」
「俺達はこの方の護衛を頼まれていた者です。それなのに守れなかった。俺達がいない間、守っていただいたあなた方にお礼をお渡しするのは当然の事でしょう?」
「いえっ、助けたって言ってもたまたまですし、そんなつもりで助けたんじゃないので結構です!」
うんうんと頷くラウル。
だが、そういう訳にもいかないと渋る男性を止めておじいさんが話しかけてくる。
「それにしてもこんな小さな子供が2人だけで旅してるんでしょうか?ご両親は?一緒じゃないんですか?」
「今は2人旅です」
この言葉に、女性がキラキラとした眼差しで会話に入ってくる。
「へぇ〜!たった2人っきりで!?凄いねぇ〜!どこまで行くの?」
「グランディまで」
別に隠す事でもないのでナルは正直に答えた。
「それは丁度良い!私達もグランディまで行く途中なんですよ。どうです?旅は道連れと言いますし、良かったら私達と一緒に旅しませんか?お礼もしたいですし、賑やかな方が私も楽しいので」
「だったらなんで私達を置いて行っちゃうんですかぁ!」
女性の嘆きは見事にスルーして、おじいさんはにっこりとナル達に笑いかけてくる。
「ね、良いでしょう?」
2人は顔を見合わせた。
カタンガタンと不規則に揺れる荷馬車に、ペインスハイムと名乗ってくれたおじいさんと一緒に乗せてもらい、流れて行く景色を見ながら彼の話を聞く。彼は商人で、グランディに住む息子や孫達に会うついでに商品を売りに行くと言う。
護衛だというクレアさんとタンドリクスさんは、それぞれ馬に乗って荷馬車の横についてくれていた。
「──1番下の孫は丁度あなた達と同じ年なんですがね、まだまだ甘えたで…。お2人は本当に立派ですね。この歳で2人旅。ご両親にもさぞかし信頼されているんでしょう。可愛い子には旅をさせよと言いますし、うちの孫にも是非見習わせたいくらいですが…、まだまだ物騒な事が多いですからね、心配で心配で…」
「いやいやいや!普通子供2人だけで街の外に出す方がおかしくないですか!?」
「確かにそうかもしれないが…。それだとお前がこの子達の両親をバカにしているようにしか聞こえない…」
「あっ!そうかそうなっちゃうのか!違うよ!そんなつもりで言ったんじゃないんだけど、その、なんて言うか…」
口ごもってしまったクレアさんにナルは笑いかける。
「大丈夫ですよ。俺達はこれからギルド本部でAランク試験を受けに行くんです。だから、簡単にやられたりしないのを分かってて送り出してくれたんです」
「…は?」
「えっ!?Aランク試験っ!?」
タンドリクスさんとクレアさんが固まってしまったのをよそに、ペインスハイムさんは穏やかに笑う。
「お2人ともお強いんですねぇ〜」




