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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
一章 Aランク試験と信仰村コーリネ
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 その村は、グランドアルス帝国にある帝都から馬車で約1週間程の距離にある山奥にあった。

 村に行商人が訪れる回数は月に1回程度と少なく、ほぼ自給自足での生活であったが、活気がある村だとそこに通う商人たちは言う。

 だが、村人達が助け合って成り立ってきたこの村のカタチは、数ヶ月前にあった神の降臨で神の為の村と変わってしまった。しかしそれを疑問に思う者は誰もいなかった。


 村長と、その隣に着飾った娘が、神の前で頭を深く下げる。その後ろにはこの村の村人達が全員集まり、深く頭を下げている。


 「この子が今月、あなた様のお力になる者です」

 「あなた様のお力になれる事、心の底より嬉しく思います!どうぞ、骨の髄まで堪能して下さいませ!」


 その娘の顔は歓喜で喜びに溢れていた。


 「ふむ、良かろう」


 そう言って笑った男は仰々しい椅子に座り、口元は面白そうに上がるが、逆光で顔立ちはよく見えない。

 ただ、その耳はエルフのように尖っており、組んだ足首までは人間の物と思えるのにも関わらず、足の先には黒光りした鱗が付き、2本に分かれた鋭い爪になっていた。


 娘を連れて奥の祭壇へと消えていった彼を見送った村人達は、高揚した様子で普段通りの日課へと戻った。


 「村長ー!冒険者の方が我々の村を調査したいとやって来られましたよー!」

 「お!客か!久しぶりだなぁ!ゆっくりして行ってもらいなさい」

 「はーい!」


 村にやって来た冒険者。だが、神の降臨があってからというもの行商人であろうと、旅人であろうと、犯罪者であろうと、ここに来た者全員が、この村から出て帰る事は叶わない。









* * *










 毎日の訓練、ユニバース隊員としての魔物退治、そしてギルドの依頼もこなし、更には女装してユアーズのバイトとして働いていたある日の事。ナルとラウルは珍しくギルドマスター室に呼び出された。


 「よく来たな2人とも。座ると良い」


 2人にお茶を出し、自らも2人の正面に座ったマスター。


 「突然だが、Aランク試験を受けてみないか?」

 「Aランク試験?」

 「そうだ。そろそろ2人とも試験を受けても良い頃かと思ってな」


 ギルド冒険者のランクは、それぞれの支部でこなした依頼の数、ランクの強いモンスターの討伐数など最低限のマニュアルで決められてはいる。だが、Bランクまではそれぞれのギルドマスターが所属する冒険者にランクをつける事を任されているのだ。よって、Bランクとは言っても、ある程度幅の広い強さの違いが出来るわけである。中には裏金でBランクまで上がる者もいるらしい。それを解消しようと、Aランクからはグランドアルス帝国にある帝都、グランディにあるギルド本部で試験が行われる。


 「ふーん。じゃ、さっさと終わらせてこようぜ、ナル」

 「ちょっと待て、ラウル。これが紹介状だ。ギルドカードはもちろん要るが、これが無いと試験を受けさせてもらえないぞ」


 紹介状を渡すと、マスターはまた別の紙を取り出した。


 「ついでにこの依頼も受けてみないか?大至急らしいんだ」


 依頼の内容はグランドアルス帝国、帝都グランディまでの商隊の護衛依頼だった。

 日付は明日からとなっていた。


 大都市には転移魔法塔という便利な建物がある。この建物がある場所から同じ魔法転移塔がある場所へと移動できる優れものだ。このユニバースの街にもあるし、帝都グランディにももちろんある。だが、何故それで移動しないのかというと、単に高額だからである。商品を売る商人にとっては、沢山の物を運ぶ為にこれを使うと、むしろ赤字になる程高額らしい。

 いずれは一般市民でも普通に使える値段になると言われているが、出来たてで目新しい今は貴族達の観光用の移動手段となっていた。

 なので今はまだ、護衛をつけた商隊が旅をするのは珍しくないのだ。


 「別に俺は良いけど…」


 チラリとラウルを見ながらナルが頷くと、ラウルは紙を何かの仇のように睨みつけながらも頷いた。


 「分かった」


 ラウルはユニバースで生活するうちに、マスターや隊長達、ここで、よく顔を合わせる人達には慣れた。だが、初対面の人には人見知りするのだ。


 「よし、まだ下に依頼主がいるだろうから挨拶しに行こう。それと、ついでにグランディに着いて試験を終えたらちょっと様子を見て来て欲しい村があるんだ。頼めるか?」

 「もちろん。それはユニバース隊員としてか?」

 「そうだ。実は3日前までに届くはずの報告書がまだ届いていない。ただ遅れているだけで、考えすぎだったら問題ないが…。様子を見に行くのは試験が終わってからで構わない。試験の間に報告が来るかもしれないしな。──良いか?お前達がAランク試験を受けに行く事は誰に言っても構わない。だが、ユニバースの隊員である事は秘密に動いてくれ。お前達はまだ未成年なんだから、世間に顔を見せるのは早すぎる」

 「分かってるよ」

 「任務に行く度に聞いてる」

 「分かってるんなら良い。ちゃんとアレは耳につけてるな?」


 アレとは、ナル達が片方の耳につけているピアスの事だ。これはただのピアスではなく、魔導具の1つで、通信魔法として使える物である。ただ、バカ高く、更には魔力の扱いに長けた者しか上手く使えない為、持ってるのはマスター、隊長・副隊長達、それにナルとラウルのみだった。


 もちろん、と2人は頷く。


 「よし、じゃあ依頼主に顔見せといこうか」


 立ち上がったマスターに続き、部屋を出て階段を下りる。

 ギルドの中を見回したマスターは、目当ての人物を見つけたらしく、そちらへと向かいながら声をかけた。


 「ピグさん!依頼を受けてくれる者を見つけて来ました」

 「おおっ!さすがユニバースのマスター!仕事が早いですな!!!」


 嬉しそうに振り返った男は、どう見てもぽっちゃり系では抑えきれない体型で、濃い緑の髪は頭頂部が薄くなっているのだろう、無理やり横から引っ張ってきた髪が汗でペタリと引っ付いてワカメのように見える。中の食堂の料理長ジェフさんとは全然違って、オシャレには到底見えないチョビ髭を撫でていた彼は、後ろについて来るナル達を見て眉をひそめた。


 「…依頼を受けてくれるという人は、まさかそんな子供じゃあるまいでしょうな?いやいや、よりによってマスターがそんな子供を紹介する訳ないですよなぁ!すみません、どうも早とちりしてしまいまして!」


 いかにもバカにした言い方に、ピクリとマスターの片眉が釣り上がる。だが、穏やかな笑顔だ。


 「いえ、この子達で合ってますよ。こう見えてとても強い子達です。2人ともBランクですから、あなたのご希望にも沿っているかと」

 「アッハッハッハッハ!冗談にも程がありますなぁ!こーんな餓鬼…お子ちゃまにうちの荷物が守れるとは到底思えませんからなぁ!」

 「まさか。この2人で充分過ぎる程ですよ。むしろ過剰な守りになってしまうかと」


 にっこりと笑うマスターだが、マスターからは殺気が湧き出していて、ナルとラウルの2人はブルリと身を震わせ一歩後退る。

 一方、男はそんな様子のマスターには一切気づいてないようで笑い続ける。


 「この2人で充分?そんな訳ないでしょう!とてもBランクの実力があるとは思えませんしなぁ!あなたが贔屓したのでは?アッハッハッハ!」


 ひとしきり笑い、フゥーと息を吐いた男はようやく笑いを抑え、辺りをキョロキョロと見回す。


 「で、本当はどなたでしょう?」

 「……ですから、この子達です。実力はユニバース支部ギルドマスターである、この私が保証します」


 ようやく、本気でこの2人を護衛につける気だと気付いた男は、小さな目を鋭くさせて2人を見る。


 「…いくら名高いユニバースのギルドマスターでもこれは無いですなぁ…。うちの荷物を安心して預けられる訳がない」

 「その通〜り!!!旦那!騙されなくて良かったですねぇ!!!こんなガキンチョどもが護衛の依頼を受けるなどもってのほか!!!ましてやBランクになってるなど、このマスターが試験を甘くしたからに違いありません!!!屈強な戦士が多いと噂だったので、このユニバース支部にまでこの僕が!わざわざ!わざわざ!!!足を伸ばして来たのですが、どうやら間違いだったようですねぇ!!!」


 突然話に割り込んできた細身で長身の男がベラベラと喋りながら、マスターと太っちょ男の間に入り込む。

 綺麗に七三分けにされた金髪、長めの睫毛、高い鼻に少し大きめの口は見る者によってはイケメンに見えなくもない。だが、常に一緒にいるマスター、アレス、ラウルとその他の隊長達のイケメン顔に見慣れたナルにとって、彼はただ気取っている顔にしか見えなかった。まるで今にもバラを咥えそうな勢いである。


 「どうです?その話、正真正銘Bランクである僕がお受け致しましょうか?」

 「おお〜!!!それは有難い!是非とも君にお願いしよう!その子供達よりよっぽど信用できる!!!」


 あからさまにバカにした顔をナル達に向けた太っちょ男に、マスターは許せないとばかりにギリリと拳を固く握り締める。今にも殴りそうな勢いにナルとラウルはヒヤヒヤするが、何度か息を深く吸ったマスターは笑顔とも呼べない笑顔を浮かべた。


 「…では、そのように手続き致しましょう」


 マスターは笑顔を一切崩す事はなかったが、もう、こいつからの依頼はこのギルドでは絶対に受けない、という強い決意が現れているように見えたのはきっと気のせいではないはずだ。








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