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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
0章 プロローグという名の幼少期
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16




 ナルとラウルが呼び出されたのは、ユニバースの室内にある訓練場の1つであった。


 「よく来たわねぇ〜」

 「あれ?珍しい。エルもいる」


 室内にはマスターとアレスと、新人育成隊C隊長となったエルの3人が立っている。


 「うふふふ〜」

 「よし、来たな。ナル、ラウル。今から新しい訓練を始めるぞ」


 新しい訓練?と顔を見合わせた2人だったが、マスターとアレスの何か企んだ様な笑顔とエルの心底楽しそうな顔を見て、ジリ、と思わず後ずさる。


 「なぁ、ナル。なんか心底嫌な予感しかしないんだが…」

 「奇遇だな。俺もなんだ」


 入って来たドアの方を見たラウルは小さく舌打ちする。そこには、にこやかな顔で手を振るクウラとリアがいたのだ。これでは逃げられない。


 「これ、な〜んだ」


 にこにこ顔のエルがナル達の方へ歩み寄り、後ろに隠してた物をバッと広げる。


 「ウエイトレスの服…?」

 「ここのギルド併設のカフェ兼食堂、“ユアーズ”のだよな?」


 つい最近、ここのカフェ兼食堂にも名前がついたのだ。その理由は魔物の肉にあった。

 対魔物殲滅組織ユニバースと言う名前の通り、魔物を相手にする事が多く、人数もまだ少ない事もあり、あちこちを飛び回っている隊員達。と言っても今はまだ隊長、副隊長達とナル、ラウルしかいないが。

 ある日、魔物を倒しまくってお腹が減ったとある隊長…──2番隊隊長のギルティがモンスターでも食べられる奴はいるんだし、魔物も一緒じゃねーかと肉を焼いて食べてみたところ、とんでもなく美味しい魔物を発見したのが始まりだった。ただ、とんでもなく不味い奴もいたらしい。

 それまでも倒した魔物が食堂に出される事はあったのだが、裏メニューとしてしかなかった。魔物が現れる数が少なかったからだ。だが、最近は頻繁に出現するようになり、それから倒した魔物で美味しい奴は持ち帰り、ユニバース内の食堂でも、カフェ兼食堂でもここだけの看板メニューとして出すと人気が出たのだ。

 だが、メニューに出るのは魔物を倒した時だけなので、幻の高級食材として浸透していってる。その時にこの店の名前がなかった為、一般人からの強い要望で名前が付けられる事になったのである。


 話は逸れたが、その“ユアーズ”のウエイトレスの服が目の前に広げられていた。


 「そう!ユアーズの制服よ〜!そうと分かれば、さぁ!さっそくこれに着替えて貰うわよ〜!」

 「いやいや、何も分かっていませんが!?」

 「ちょっと待って下さいよ!これ、どう見ても女物ですよね!?」


 ナルとラウルは同時に叫ぶが、彼女達は聞く耳を持たなかった。


 「自分で着るか…着替えさせられるか…どっちが良い?」


 ナルはその言葉に過敏に反応した。


 「はいっ!はいっ!自分で着ますっ!」

 「おい、ナル!女の服だぞ!?」


 ギョッとして言うラウルの肩に、ナルは諦めた表情に見えるようにしながら手を置いた。


 「見てみろ、ラウル。ここには、エルもクウラもリアもいて、更にマスターやアレスまでいるんだ。俺達に勝ち目はない」


 いかにも残念そうに見えるように言うが、なんと言ってもナルは女の子なので、何も問題ないのだ。むしろそれがバレる方が問題であった。


 「という訳で俺は着替えて来る!」


 エルが持っていた一着を引ったくると、そのまま走って部屋を出る。素直に服を持ったからか、クウラもリアもナルを止める事はなかった。

 隣にある更衣室で素早く着替えを済ませたナルは、久々のスカートに戸惑っていた。


 「…足元スースーする…。凄い違和感だな…」


 すっかりズボンに慣れてしまったナルは違和感を覚えながらも、訓練場に戻り、中を見た途端に吹き出しそうになったのを堪えた。そこには、ラウルは抵抗して案の定負けてしまったのか、ウエイトレスの服を着せられた彼は四つん這いで項垂れていたのだ。

 …案外似合っている。


 「ラウル…可愛いよ?」

 「うっせぇ!!!そんな事言われても嬉しく、ね──…」


 ナルに言われて勢いよく顔を上げた彼は、言葉を詰まらせた。ポカンとした表情でナルを凝視している。

 あ、これはまずいかな、と思ったナルはいかにもわざとらしく見えるようにウインクした。


 「どうだ?惚れたか?」

 「惚れる訳ねーだろ!」


 そう言いながらも、そっぽを向くラウルの頰は赤く染まってる。


 「2人とも思ってたより似合うわね…」

 「そうね。これならユアーズの要望にも応えられるわ」

 「しかも修行まで出来るんだから一石二鳥ね〜」


 クウラ、リア、エルがコソコソと3人で話しているが、内容は丸聞こえである。この会話でナルは大体の事を察してしまった。


 「よし、2人とも着替えたな。それじゃ、これから変身魔法を使って髪の長さと色を変えてもらう。そしてそれを継続したままユアーズの店員として働いてもらう」

 「はぁっ!?」

 「やっぱり…」


 ラウルは3人の話を聞いていなかったのか、驚いた声を上げるが、ナルは納得したように頷いた。


 「前にストダムさんが人手が足りないって言ってたから、それの補充だろ?」

 「よく分かったな」

 「じゃあ別に女装しなくても良かったんじゃ……」

 「言ったろ、ラウル。これは訓練でもある。変身魔法を使い続ける事で、消費する魔力量の調節の練習にもなるし、魔法を使い続ける事で魔力量を増やす事が出来る。これは魔法を使ってる最中の魔力切れを防ぐ為のものでもあるからな。──地味だとバカにしてるかもしれないが、きついぞ」


 (あれ?それじゃあ俺ってこれで結構魔力量増えてたりするのかな?)


 離宮を出る頃から髪と目の色を変えていたナル。ここへ来てからの訓練で魔力量が増えたと思っていたが、変身魔法による魔力量の増加もあったのかもしれない。


 ナルにとって色を変えるのは、もうお手の物だ。問題は髪の長さだが…、まぁ、大丈夫だろう。


 「それに、別人になりきる練習にもなるしな」

 「ここは魔物専門なんだろ?そんな練習要らないだろ…」


 着替えてしまったにも関わらず、ラウルがなんとか最後の抵抗を試みているが、マスターが笑ってそれを却下する。


 「何言ってるんだ、ラウル。ギルドの依頼で潜入のものがある時に役立つだろ」

 「ギルドって…」

 「沢山の依頼を成功させる事で、このユニバース支部のギルドは腕の良い奴が多いと評判になるからな。色々な融通も利くようになるし、大事なんだよ」

 「──さて、何色が良いかな」

 「はーいっ!はいはいっ!ナルは絶対ピンクブロンドが良いと思いまーす!」

 「良いわね!私もそれが良いと思うわ〜!」

 「ラウルは…青かしら?」

 「そうねぇ〜…。ラウル〜、一度青に変えてみて〜」


 ラウルは観念したのか、渋々だったが言われた通り色を変える。


 「長さもよ」

 「ぐ…」


 ラウルの限界値だったのだろう、肩まで伸びたように見える髪は自然だった。恥ずかしさから赤く染まった頰、そして少し睨み上げるような目つきだが、その目は涙目だ。更にウエイトレスの服を着ている事から、もう完全に女の子にしか見えない。


 「うーん…。良いけど…ちょっと違うわね。水色は?今度は目の色も変えてみて」


 言われた通り、彼は色を変える。


 「これだわっ!」


 クウラが嬉しそうにキラキラと目を輝かせ、同意とばかりにリアが頷く。良いわね〜、可愛いわぁ〜とニコニコ顔のエル。

 そして、3人の顔がナルの方を向く。


 「それじゃあ、ナル。ピンクブロンドよ!ラウルが短めだから、長さは腰ぐらいまでね!」

 「目は金色が良いかしら?それともピンク?」

 「どっちも試してもらいましょ〜」

 「もう何なら、髪の色もいろんなのを試してみましょうよ。ナルなら出来るでしょ」

 「そうね。ナルだし」

 「ナルだものね〜」


 今までにない3人の笑顔に、ナルは思わず顔を引きつらせた。







* * *








 「──うん、これで決まりね」


 色々試した結果、結局ナルは髪は腰より少し長めのピンクブロンドに、薄い桃色の瞳に決定した。

 今はその髪も3人にいじられツインテールとなっている。


 「つ、疲れた……」


 2人とも軽い化粧を施され、もう完全に女の子にしか見えなくなっていた。

 それを見たアレスとマスターは、ナルとラウルにはバレないように肩を震わせながらも、2人が女の子でも悪くなかったかもしれないと言い合っていた。


 「何言ってるの!これからなんだから!さぁ!行くわよ!」


 連れて行かれた先は案の定、ユアーズのキッチンだ。


 「よう!来たな!おっ?そいつらか?見違えるようだな、ナルにラウル」

 「っ!」

 「ストダムさん、俺達のの事分かって…?」


 事もなげに見破る料理長のストダムに、ラウルは固まり、絶対に分からないだろうと高を括っていたナルは少し狼狽える。


 「おう!アレックスに聞いてたからな!今日から空いた時間は手伝ってくれるんだろ?助かるよ!うちは3人しかいねーからな!」

 「そうですね。では、早速ですが偽名を考えましょう」


 料理を手伝っていたのだろう、濡れた手を拭きながら現れたのは、いつしか料理長のストダムの頭をお盆で叩いたお姉さんである。黒髪を組紐でポニーテールに結んだ彼女の名前は、リネイティスという。さっぱりした性格の彼女だが、人目のない所ではナル達にとても甘い。


 「偽名なんざいるかぁ?」

 「料理長は分かっていませんね!こんな可愛い子達、絶対に名前を聞かれるに決まってます!それで本名をバラす訳にはいかないでしょう?この子達が恥ずかしい思いをするだけですから。──あの、わっ、私が決めても、構いませんか?」

 「お前…決めたいだけだろ」

 「そっ、そんな事っ…!ナルくん、ラウルくん、良いよね?」


 料理長から顔を背けるように、ナルとラウルに迫るリネイティス。


 「もっ、もちろん!」

 「……」


 ナルは顔を仰け反らせながらも笑顔で返事をするが、ラウルは死んだ魚の目をしたまま頷いた。


 「そうね…、あんまり名前が変わると反応出来ないから…。やっぱここはあの世界の名前を入れるべきよねでもナル子ちゃんラウ子ちゃんとかはあんまり可愛くないしとなると」


 何やらぶつぶつと呟きだしたリネイティス。

 実は彼女、異世界物の本にどハマりしているらしいとナル達が知ったのは、たまたま5番隊副隊長コーキが彼女と話してる内容を聞いていたからだ。

 昔はよく異世界召喚と言って、違う世界から連れて来た人間を勇者として祭り上げ、モンスターや魔物を倒すのに貢献させていたらしいが、今では異世界から召喚する事は世界の法律できつく禁じられている。

 異世界召喚がなくなった今では召喚された人の物語が、泣ける、感動すると大流行しているそうなのだ。

 そのファンの1人がリネイティスである。


 「じゃあ、こうしましょう!ナル美ちゃんにルアちゃん!どう?可愛いでしょ!」

 「ルア…?俺が……?」


 呆然とするラウルの頭に、マスターが哀れむようにポンと手を乗せる。


 「──では、2人をお願いするよ」

 「んじゃ、ナル、ラウル頑張れよ〜。ちゃんと演技しないと……バレるぞ?ま、女装趣味があると噂になりたくなけりゃ、全力でやるこったな!」

 「慣れた頃に私達もお客として行くから頑張ってね〜!」

 「楽しみにしてるわ」

 「うふふ〜、頑張ってね〜!」


 笑いながら去って行くアレス達。







 「──さて、そろそろ開店時間だ。注文を受け、料理を運ぶだけで良い。出来るか?」

 「はい」

 「バレる…女装趣味…女…」


 下を向いて何やらぶつぶつ言っているラウル。

 ナルは心配になってラウルを見るが、ゆらりと顔を上げたラウルの表情は完全に切り替わっていた。


 「はい、やります」








* * *







 「いらっしゃいませ〜!」

 「おっ!何々?新しい子?」

 「そうなんです〜。今日から入りました、新人のバイトです!」

 「へぇ〜、可愛いね!名前は?」

 「ナル美って言います。よろしくお願いしますね?」


 にっこり微笑んだナルは、その場にいた全員の視線を釘付けにした。

 また、別のテーブルでは。


 「──ご注文は?」

 「取り敢えず、これとこれ。それから──ん?君可愛いね?新人?名前は?」

 「っ!ル、ルア……です…」

 

 注文の途中で顔を上げた男は、目の前にいるあまりにも可愛いウエイトレスに目を輝かせた。

 グイグイ来る男に、ピクピクと顔を引きつらせながらもきちんと答えるラウル。


 「今日、空いてる?良かったら終わった後、俺達と遊びに行かない?たのしー事、教えてあげるよ?」

 「それは良いアイデアだ!何時に終わる?」

 「……ご注文はそれだけでしょうか?それでは失礼しま──」


 一礼してさっさと去ろうとしたラウルの手を男がガシッと掴む。


 「つれないなぁ。これでも俺、ギルド、ノース支部のBランクなんだよ。どうだい?自分で言うのもなんだが、力もあってなかなか良い男と思わないかい?」

 「っ!?」


 さわさわと手を撫で回す男に、鳥肌が立ったラウルは即座にそのまま投げ飛ばそうとするが、その前に横の席に座っていたガタイのいい男が、男の手を無理やり剥がした。


 「おいおい、やめときなよ兄ちゃん。そんな事しちゃ、ここの出入り禁止になるぜ。ここの料理は絶品だし、そんな事になっちゃ勿体ないと思うがなぁ?」

 「チッ…」


 ラウルの手を離して大人しく椅子に座り直した男。ねっとりした視線はまだラウルの方を見たままだったが、ラウルはそっちには目もくれず、助けてくれたガタイのいい男の方へ行き、頭を下げた。


 「助けてくれて、ありがとうございました」

 「いやいや、あれくらいなんて事ないさ。それよりも災難だったなぁ、お嬢ちゃん。ああいう奴はねちっこいからな、気を付けなよ」

 「はい」

 「それにしてもこんな美人な子が2人も入って。更にここも人が来るようになるかもなぁ」


 ナルがいる方も見ながら楽しそうに笑う男。


 「他の奴らにも宣伝しといてやるからよ、頑張りなよ」

 「…ありがとうございマス」


 全然ありがたくないと、素っ気なく返すラウルだったが、男は一切気にする様子はなかった。







 ナル美とルアの噂はあっという間に世間に広がり、そうして、ユアーズに新しい人気者の看板娘が2人誕生した。




















〜おまけ〜





 「はっ、はっ、はっ…」


 閉店後、ラウルは髪の色を即座に元の色に戻し、机に突っ伏していた。


 「ラウル、大丈夫か?」

 「これ、キッツ…。おまっ、なんで平気なんだよっ!」

 「んー、俺が天才だから?」


 ナルが笑って答えると、悔しそうに睨んでくる。それがまた可愛く思えてよしよしと頭を撫でると、顔を赤くした彼は大きく息を吐いて、再び机に伏せった。







 「──絵になるなぁ…」

 「料理長、写真!写真撮っときましょ」


 どこから取り出したのか魔導具のカメラでパシャパシャとシャッターを切るリネイティス。


 「これ、イーサンさんとアレックスさんに売ったら絶対高く買ってくれますよ!もしかしたら、他の隊長達も…!」

 「お前なぁ…、タダでやれよ」

















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