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イースグレイ王国の幽霊王女  作者: しろ
0章 プロローグという名の幼少期
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 ポカポカとした暖かい日差しの中、一歩間違えば迷子になってしまうような大きな庭で3人の兄妹が遊んでいた。


 「ほら、ラティ。こっちだよ」


 トテトテトテッとまだ覚束ない足取りで、上の兄の腕の中へ勢い良くダイブした幼い少女は満面の笑みを浮かべる。


 「にーさま!」

 「ああ、俺のラティ。なんてかわいいんだろう」

 「兄上、“俺の”じゃないでしょ。“僕達の”だ」

 「ああ、そうだな。悪かった。俺達のかわいいラティだ」


 それを聞いた下の兄は満足そうに笑う。


 「ほら、ラティ。こっちへおいで。今度はあっちで本を読もう」

 「うん!」






 「──そして、おうじさまは、おひめさまと…くらし、けっこんしてしあわせにくらしました?」

 「ちょっと惜しいな。こうだよ。そうして王子様はお姫様を救い出し、2人は結婚して末永く幸せに暮らしましたとさ」

 「めでたしめでたし。物語の最後にはこの言葉も必要でしょ?」

 「ああ、そうだな」


 木の陰で妹を挟んで本を読んでいる3兄妹の姿は、誰が見ても幸せそうだった。


 「とっても上手だったよ、ラティ。だんだん文字を読めるようになってきたね」

 「流石僕達のティア!将来が楽しみだ!」


 にぱぁと破顔する妹の顔を見て兄達はますます笑顔を深くする。

 そよ風に吹かれて揺れる花々や木々も、仲の良い兄妹を優しく見守っているようだった。






 「スウィンク!ヴァルジット!こんな所にいたのね。探したわよ」

 「母上…」


 声のする方を見ると、沢山の侍女やメイドの先頭に立っている女性がピンッと背筋を伸ばした綺麗な姿勢を崩さないまま進み出てきた。様々な宝石が散りばめられた豪華なドレスに身を包み、オレンジに近い明るめの金髪を様々な宝飾品で結い上げた彼女を見たヴァルジットは思わず嫌そうに呟いた。

 兄のスウィンクは眉を若干寄せるが、何も言わない。

 女性は3人の近くまで来て、口元が隠れるように扇を広げる。


 「またその子と一緒にいたの?やめなさい。貴方達は王子よ。やる事が沢山あるの。ほら、お勉強の時間ですよ」

 「ですが母上、ラティアだって姫です」

 「ヴァルジット、屁理屈を言ってわたくしを困らせないで。王子と姫には雲泥の差があるのよ。女子に生まれたその子はどうだっていいわ」


 ギュッと1番上の兄であるスウィンクの手を握って不安そうな顔をする妹の頭を撫で、彼は小さく囁く。


 「ごめんな、ラティ。遊ぶのはまた今度だ。また行くから待っててくれるか?」


 コクンと頷く素直な妹に微笑み、小さな頭にポンッと手を乗せる。


 「良い子だ、また、な?──ヴァルジット、ほら行くぞ」


 ラティアを守るように母の前に立っているヴァルジットに声をかけ、スウィンクは母親に一切目を向けずに城の中へ入って行った。

 ヴァルジットは一瞬ムッとした顔をしたが、後ろにいるラティアに最大限の笑顔を見せ、口パクで「またね!」と言ってから、こちらも母親には目を向けずに兄を追いかけて行った。


 残されたのは小さな少女ラティアと、その母親である現王妃、そして王妃の後ろに侍る侍女やメイド達のみとなった。


 「いい加減になさい。さっきも言ったけど、あなたと王子達とでは身分が全然違うわ。2人の大切な時間を取らないでちょうだい。これから大事な時期なの。あの忌々しい子に万が一でも次の王の座を奪われる訳にはいかないのよ」


 王妃はスゥッと目を細めた。


 「はっきり言うわ。あなたは要らないの。大切なのは男の子であり、後継者になりうることなの。分かるわよね?ま、あなたでもあの忌々しい子より王位継承権は上なのだけど。でもあなたが継ぐ事はないわ。あなたはその子の壁にでもなってなさい。それくらいしか役に立たないのだから。でも、王になるのはスウィンクかヴァルジットよ。それは揺るがないし、揺るがせない。だから、これからは私の大切なあの子達に近付かないで」


 俯いてしまった少女を見て、小さくため息を吐き、後ろにいた1人のメイドを呼ぶ。


 「ケイティ」

 「はい、王妃様」


 呼ばれたメイドが頭を下げ、前に進み出る。


 「この子を今使われてない離宮に移しなさい。あなたはわたくしの側仕えを離れ、そこでこの子の世話を命じるわ」

 「え!そんな!!!お願いです王妃様!それだけはどうか!私は王妃様のお側でお仕えしたいのです!!!」

 「ケイティ。わたくしの命令が聞こえないの?それに、お給金を下げるとは言っていないんだし大丈夫でしょう?よろしく頼むわね。くれぐれも王子達に接触させないように」

 「はい…」


 王宮に戻って行く王妃を深々としたお辞儀で見送った後、ケイティと呼ばれたメイドはラティアを睨み付けた。


 「あんたの…!あんたのせいで!!!」


 茶色の髪をお団子に結び、髪と同じ瞳を持ち、そばかすのある顔は普通にしていれば可愛らしいのだろう。だけど、目を吊り上げ、肩を震わせている姿はラティアにとって、ああ、意地悪そうな人だなぁといった感想しか抱かせなかった。






 「来なさい」


 少し落ち着いたのか、ラティアに手を上げる事なくそれだけ言って歩き出す彼女に無言で従う。

 ここではラティアが王妃から嫌われているのを知らない者はいない。それを王も黙認するものだから、侍女やメイドといった使用人達からの嫌がらせを受けたり敬遠されてきた。

 けれど、2人の兄は例外だった。ラティアの事を可愛がり面倒を見てくれた。2人に育ててもらったと言っても過言ではない。と言っても、1、2歳差の兄達に育ててもらったと言うのは流石に言い過ぎかもしれないが…。

 でも実際、ラティアという名前も2人の兄が決めてくれたらしい。


 服だって母親のような豪華なドレスを着せてもらった事はない。でもさすがに姫とあってか、ボロの服を着せられたりする事はなく、自分で着れるような平民の女の子達がよく着ているような簡素なワンピースばかりだった。

 でもそれを不満に思った事は一度もなかった。

  沢山の装飾をつけて着飾っている人を見るのは好きだったが、自分がそうなるのは重そうで動きづらそうだった。だから、今のワンピースは軽くてとてもお気に入りだったのだ。


 愛情は2人の兄からこれでもかと言うくらい貰っていたし、親や使用人達にどう扱われようとラティアにとっては何の問題もなかった。







* * *






 連れて来られたのは王宮の敷地内にある、王宮から1番離れた離宮の一つだった。


 「あなたにはここで生活してもらいます。外には一切出ないように。そして王宮には絶対に近付かないで下さい。あなたはこれから王子様方には一切お会いする事が出来ませんので」


 目も合わせず、それだけ言って部屋から出て行く彼女を見送り、ラティアはこの広い部屋を見回した。

 この部屋に入るまで人気ひとけは全くなかったが、埃が落ちている事もなく、快適に過ごせそうだった。


 奥にある扉を開けるとそこには簡素なベットもある。

 思わず飛び込むと少し早いお昼寝とばかりに寝入ってしまうラティアであった。













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