第一章
「はぁ……はぁ……」
激しく燃え上がる野原を一人の少年が走っている。
まわりには、いくつもの人間と人型の化け物の死体が倒れ、
血生臭く、その異臭でむせ返りそうになるほどだ。
少年は今にも泣き出しそうな自分を必死にこらえ、誰かを探していた。
ゴゴォォォ!
爆発音と共に一本の閃光が空を裂いた。
少年はその音に驚いたが、
それを見るやいなや、その方向へと走り出した。
「師匠!」少年は叫んだ。
目の前にはたった一人で複数の化け物と戦う男がいた。
「廉!?何してるさっさと逃げろ!」
「でも、師匠!」
廉と呼ばれた少年は怒鳴られたが、引き下がらなかった。
一瞬、廉の師匠は廉のほうに気がとられ隙ができた。
バシュ・・・
その一瞬をつかれ、化け物の剣が廉の師匠の腹を貫いた。
「ぐあっ・・・!」
腹からは血が噴き出し、体がよろめき、倒れそうになった。しかし、足を強く踏み締め、拳から血が出るほど強く握った。
「ぬあぁぁぁぁぁぁ!!」
廉の師匠は叫ぶと衝撃波を放出し、周囲の敵を一気に吹き飛ばした。
廉の師匠はそれで力尽きたのか、その場に倒れた。
「師匠!」
廉はすぐに師匠のもとにかけよった。
「廉・・・オレは・・・ここまで、みたいだ」
と、止めどなく出血している
刺された腹部を押さえながら、苦し紛れに廉の師匠は苦笑した。「何言ってるんですか!生きてくださいよ!
オレ、まだ教えてもらってない事たくさん・・・!」
「お前には基本は教えた 後は応用し、強くなれ
そして・・・」
廉の師匠は廉の手をにぎりしめた。
「世界を頼む 廉は・・・空の・・・」
そこまで言いかけたが廉の手から、
廉の師匠の手は力無く廉の手から落ちた。
「師、匠・・・?」
絶望感と共に、吹き飛ばした化け物達ももどってきた。
「うぁぁぁぁ!!」
涙を流しながら廉が叫ぶと空色の閃光が立ちのぼった。
ガタッと音を立てて、机に寝ていた少年は跳ね起きた。
あたりを見回すとそこはいつも自分が通う学校内のある部室だった。
「また、あの夢か……」
と、ぼそりと言うとしばらくぼーっとしていた。
すると、一人の少女が入って来た。
「あ、廉。きてたんだ」
その少女は少年に向かって言った。
「ああ・・・桜か」
廉という少年は桜と呼んだ少女をまだ、眠たそうな顔で見てそう言った。
「また寝てたの?」
桜は向かいの椅子に座ると言った。
「どうしてわかったんだ?」
桜はクスッと笑った。
「おでこ。赤くなってるよ?」
あ、と気付いて額に手を当てて廉は苦笑した。
ふと、廉は窓の外を見た。窓の外からはずっと遠くに見える
天高くたっている光の柱を見た。
廉達の住む惑星クランペリア。
クランペリアに対面する惑星セレスティア。
この二つの惑星の距離は、非常に狭く、
本来ならば二つの惑星は、互いの引力で衝突してしまう。
しかし、二つの惑星の間を繋ぐ七本の光りの柱があった。
ディバイディング・チェーン―――。
遥か昔、二つの惑星が一つであった頃。
クランペリア民族とセレスティア民族の間では争いが絶えなかった。二つの民族には合わせて七人王が存在し、
その王は、途絶える事のない争いを止めようと
クランペリアとセレスティアを二つの惑星に切り離した途絶える事のない争いを止めようと
クランペリアとセレスティアを二つの惑星に切り離した。
そして、七人の王は、クランペリア側とセレスティア側から王のみが持つ力を使い、
命と引き換えにディバイディング・チェーンを作り出し、
二つの世界は均衡を保ち続け、争いも終わったかのように思われた。
クランペリアの文明は現在の地球よりもわずかに進んでいると共に、
地球と酷似した環境へと発展していった。
一方、セレスティアでは文明がクランペリアよりも急激に発展した。
セレスティアはクランペリアを侵略するため、
兵士"使徒"を何らかの方法で送り出してきた。
それにクランペリア側も応戦していた。
長い間クランペリアに大きな力の柱が七本も立つと生物にも影響が出た。
七本の柱は空、火、水、風、地、氷、雷という
七人の王が持っていた力が備わっていて、
それを長い間ディバイディング・チェーンから
漏れだした粒子が大気と共に人が取り込んでいた。
その結果、一部であるがその力を使い、戦う者が現れた。
その力の名を人はフォースと呼んだ。
廉は小さい頃、亡くした師匠に何度も聞かされた事を
思い出しながらディバイディングチェーンを見ていた。
「……また、あの夢を見た」
視線を室内に戻すと、廉は悲しそうな表情になって言った。
「突然の大量の使徒襲来、
そのせいで廉の師匠が亡くなってから、もう十年たつのね」
桜は深いため息をついて、真剣な表情になるとそう言った。
「あの時は、ありがとう……
桜があの時探しに来てくれなかったらどうなってたか」
廉は深々と礼をしながら桜に言った。
「それ何回も言われたわよ」
と、桜は呆れたように言った。
「私が幼なじみでよかったでしょ?」
桜は得意気に冗談混じりで廉に聞いた。
「いや、単なる腐れ縁だな」
と、廉は態度を変えてあっさりと言葉を返した。
「ちょっ・・・!腐れ縁って!」
「おっと、なんか飲み物買って来るわ」
廉は席を立って、ごまかしたようにそそくさと出ていった。
「もう……」
桜はそんな廉を見て、わずかに微笑みながらため息をついた。
自動販売機のボタンを押してお茶を買うと早速、
缶を開けて一口飲み、一息ついた。
「おっす!」
廉は後ろから誰かに呼ばれた。
声の主のほうへ振り返ると見慣れている少年二人がいた。
「あ、冬悟に隆矢さん」
廉の呼びようからすると、どうやら一人は廉の先輩らしい。
「これから部室に行くのか?」
と、廉は冬悟の前まで歩み寄ると言った。
「ああ 部室行こうかと思ってたら偶然会ったんだ」
冬悟と呼ばれた少年はそう答えた。
「オレは新しい任務言い渡されたんでな その帰りだったんだ」
隆矢という少年は持っていた書類を見せながら言った。
「また、出たんですか?」
隆矢の言葉に廉は敏感に反応し、顔は強張った。
「ああ とにかく、部室に戻ろう」
「はい!」
と、廉はうなづいた。
三人は部室へ戻っていった。
「中央都市内の小さな教会で、使徒の出現反応が出た」
部室に戻った三人は早速任務の説明にはいっていた。
「教会か なるほど、デビルドールの生産にはもってこいの場所って訳だ」
冬悟が教会の場所を示した地図を見ながら言った。
「奴らの操るデビルドールは人の負の感情……怒りや悲しみを持つ人間を食う事で
原形である人形から化物となる……いや、使徒といったほうがいいな
使徒はセレスティアからの刺客で、さらに仲間を増やすのを促す役目だ。
誰かが亡くなって悲しんでる人は一人や二人いるだろうから、それを狙ってって事だろうな」
隆矢はうなづいてそう答えた。
「それで、今回は何人で行くんです?」
桜が手を机に置いて言った。
「今回も二人で大丈夫だろうな そうだな……廉と冬悟にするか」
「えぇぇ!?また、オレですか!」
と、冬悟はあらかさまに嫌がった。
それを見て廉は苦笑した。
「まあ、そういうな オレ達は対使徒組織の
ジェネラルの兵役に望んで志願したんだからな
打ち合わせは二人でやっといてくれ がんばれよ」
と、笑顔で冬悟の肩を叩いた。
冬悟はがっくりと肩を落として深いため息をついた。
翌日、廉と冬悟は使徒に気付かれないように
私服でその教会に向かって歩いていた。
「ったく あの人って人選横暴すぎんだよなぁ
オレ、先週もだったんだぞ。桜行かせろよ、桜」
と、冬悟が廉に向かってぼやいている。
廉は呆れたように冬悟に言った。
「仕方ないだろ 桜は剣使うんだから
潜入捜査には向かないんだよ
オレや、お前みたいに武器使わない奴向きなんだろ」
そう言葉を返されて、冬悟は納得いかないのか、
少しむくれた表情をして、文句を言うのを止めた。
「お、ここじゃないか?」
二人は足を止めた。そこは少し古びていて、大きに教会があった。
「ああ 地図でもここで合ってるみたいだ 行くか」
二人は真剣な表情になり、冬悟が聞くと廉は深くうなづいた。
教会の扉をゆっくりと開けると
ちょうど近所の人達が集まって礼拝をしている所だった。
二人は静かに近くの空いている椅子に腰掛けた。
しばらくして、礼拝が終わり二人は
正面にに奉ってある翼の生えた男の石像を見ていた。
「おや、初めての方々ですかな」
その教会の神父が二人に声をかけてきた。
二人は神父に軽く礼をすると、視線を石像へ戻した。
「立派な石像ですね」
と、廉が石像を見ながら言った。
「ありがとうございます この石像はわたしの曾祖父の代から
ある風の王を現した石像です」
神父は誇らしげに言った。
「じゃ、この教会は風を崇拝する教会なんですか」
冬悟が神父に聞くと神父は、にっこりと笑ってうなずいた。
「風の王である、ティルア様が司るのは再生で、
私達はそれを重んじています。」
神父は二人の前まで出てきて石像をジッと見ながら語り始めた。
「火の王グランデは愛を
水の王クレアは慈悲を
地の王ディルカは破壊を
雷の王レイキは怒りを
氷の王エドは悲しみを」
「そして、空の王キリトは創造を、ですね。」
神父が語っていると途中から廉が話し出した。
神父はそれを聞くと振り返って廉を見た。
「お若いのによくご存知で
あなたは空の王を崇拝されているのですか?」
「ん〜まぁそんなところです」
廉は少し考えてから答えた。
「そうですか」
と、神父はニッコリと微笑んだ。
「神父様」
話が途絶えると、神父に一人の少女が話しかけてきた。
「やあ、朝菜か」
神父にぺこりと挨拶した後、廉と冬悟にも軽く礼をした。
それに廉と冬悟も礼を返した。
「あ、あの例の件は……」
と、朝菜は少しおどおどしたように神父に聞いた。
「その事はわかっているよ 今日の夜十一時に来なさい」
それを聞くと朝菜の表情が明るくなった。
「じ、じゃあ。」
「うん だから、今は帰って気持ちを落ち着かせてきなさい」
神父は朝菜の両肩に手を置くと、
またニッコリとして言った。
「はい わかりました」
朝菜は再び一礼すると、うれしそうに帰っていった。
その日の夜、二人は教会の入口にきていた。
「おい、廉 どうしてあの神父だって思うんだ?」
冬悟は廉に声をひそめながら、不思議そうな表情で聞いた。
「あの朝菜って娘の言ってた
例の件ってのがどうも気になってな
こんな真夜中にあの神父と朝菜の他は誰も干渉出来ないよう、
鍵もかかってる 明らかに怪しい それに……」
廉はポケットから取り出したイヤホンを耳につけながら言った。
「笑顔が神父なのにいやらしい ほら、イヤホン」
廉の話に冬悟は苦笑してイヤホンを受け取った。
「昼間のうちに盗聴機仕掛けといた」
「そういう事はもっと早く言って欲しいな」
と、二人は顔を見合わせて笑うと、
イヤホンを耳につけるとスイッチを入れた。
「あの人は本当に生き返るんですか!?」
朝菜の声がいきなり大きく聞こえ、二人はビクリとした。
「ああ そのためにはやってもらわなきゃならない事があるんだ」
次に神父の声が聞こえてきた。
「なんですか?」
「この人形に食べられてくれよ」
神父の一言が引き金になり、二人は目を合わせた。
冬悟は教会の扉をたった一発の蹴りで細かく切り裂くと中へ乗り込んだ。
見ると朝菜の前にいる骸骨型の不気味な人形がすでに動き出している。
「え?」
朝菜が廉と冬悟のほうに気が移った瞬間、人形は腕を振り上げた。
「冬悟、頼む!」
「任せろ!」
冬悟は地を蹴って、目にも止まらぬ早さで移動すると
朝菜を抱えて、振り下ろされた人形の攻撃をかわした。
「ぬっ!?フォース使いか」
と神父が冬悟の動きを見ていった。
「くらえっ!」
神父の隙をついて、廉が手の平に
バチバチと音をたてて光の球を生み出すとそれを神父に投げ付けた。
それを神父はジャンプして避わすと足を天井につき、逆さづりなった。
「やっぱり、使徒か」
と、冬悟が神父に言った。
「ご名答 よくわかったな」
神父がいやらしい笑みをうかべた。
「せっかく、朝菜の願いを叶えようとしてやったのに」
神父は天井から下りると人形の近くに着地した。
「愛する人を取り戻したい そんなささやかな願いをね」
廉と冬悟は朝菜のほうを向いた。
「わ、私の夫は使徒に殺されて、死にました だから……」
と、朝菜は怯えたように言った。
「あれはデビルドールという殺戮人形なんだ
もともと人が生き返るはずがない 奴らはそういう人の悲しみに付け込むクズ共だ」
冬悟は朝菜を降ろすと使徒を睨み付けた。
「だから、オレらは奴らを倒すんだ
それが仕事と使命だからな」
廉の言葉に神父はニヤリと笑った。
「なら、どうする!?私を殺すか!」
と、神父が形相を変えて二人に言った。
「それ以外になんかあるか?」
と、冬悟は数歩で神父の後ろまで回り込むと
神父を廉のほうに蹴り飛ばした。
「廉、そいつを頼む!」
廉はうなづくと構えた。
神父は着地すると、目を赤く光らせた。
すると、神父の体から幾つもの突起が突き出た。
「ふははは!お前のようなひよっこに私が倒せるか!?」
神父は廉のほうに走り出した。
廉はピクリとも動かずその場で神父を睨んでいた。
「ふんっ!」
神父は拳を突き出した。しかし、拳は廉の顔の前でピタリと止まった。
「なに!?体が動かない!」
「残念だったな お前の回りの空間は停止させてもらった」
廉の言葉を聞いて神父は驚いた。
「貴様、空のフォースを!いや、しかし何故お前のような者がこんな技を!」
「……オレには強くならなきゃいけない理由があるからな」
廉は独り言のようにつぶやいた。
突然、冬悟のほうから機械の壊れる音が聞こえた。
見るとデビルドールは冬悟に蹴られ、粉々に切り裂かれていた。
「あっちは、風のフォース使いか!
今の蹴りでの斬撃といい、高速移動といい納得がつく!」
使徒は顔をひきつらせながら考察をしていた。
「さて、空間凍結もそろそろ限界だ
おしゃべりはこれくらいにしてこっちも終わらせるか」
神父が廉のほうへと視線を戻すと、廉は使徒に右手を向けた。
「ブレイムヴァイト!」
右手から神父めがけて、轟音と共に光線を放った。
それをくらった神父は一瞬で跡形もなく消し飛んだ。
轟音の後の静けさのなか、廉は座り込んでいる朝菜に歩み寄った。
「どんなに願おうと死んだ人は戻ってこない……
悲しいがそれが真理だ」
それだけ言い残して二人は教会から立ち去った。
休日が開けた月曜日の放課後、廉と冬悟は隆矢に正座をさせられていた。
桜は後ろで飲み物を飲みながらその様子を見ている。
「……壁に開いたでかい穴の修理費 蹴り壊された扉の修理費 その他諸々……
敵を見つけたら所構わず本気で戦ってかぁ?さぞかし楽に倒せたんだろうなオイ」
隆矢は請求書を叩きながら嫌みったらしく言った。
「毎回毎回……物壊してきやがって 特に廉!」
廉は怒鳴られてビクッと肩を動かした。
「お前にいたっては派手にやり過ぎなんだよ」
「か、加減はしたつもりだったんですけどねぇ」
廉は顔をひきつらせながら笑ってごまかそうとした。
「請求書を本部に送って睨まれるのはオレなんだから勘弁してくれ……」
隆矢はため息をつくと請求書を机の上に置いた。
「まぁいい……お前ら座れ」
そういって、二人をイスに座らせた。
「また、任務が入った」
「連続なんて珍しいですね」
桜の言葉に隆矢はうなづくと説明を続けた。
「場所は町外れにある廃墟だ」
「昔、工場だったってとこですか?」
「ああ そこにデビルドールがいるという情報が入った
数は推定17体 人選は桜と冬悟だ」
「またオレっすか!?」
「オレは!?」
冬悟と廉は思わず大声を出した。
「冬悟は前の任務の罰!廉はその日はオレと教会に奉仕活動!」
二人は深いため息をついた。
「作戦決行はいつですか?」
落ち込む二人をよそに桜は打ち合わせをはじめた。
「日時は三日後の正午がいいだろうな」
「わかりました」
了承すると、桜は二人に視線を移した。
「情けないなぁ」
桜は二人に呆れた表情を見せた。
キーンコーンカーンコーン
翌日、学校に四時間目の終礼のチャイムが鳴り響いた。
「さぁて、飯だ飯だ!」そういうと、廉と冬悟はバッグを持って屋上へ向かった。
二人はいつも昼休みになると屋上で過ごしている。
二人は階段を他愛もない話をしながら登り、屋上の扉を開けた。
「あれ?」
そこにはすでに桜がいて、外を眺めていた。
「桜!」
冬悟は大声で桜を呼ぶと、彼女は手を振って応えた。「なにしてんだ?」
二人は桜に歩み寄ると聞いた。
「うん ここからなら廃墟が見えるかな、ってさ」
桜が指差した先に、確かに廃墟が見えた。
「本当だ 今見ると不気味な感じするな」
冬悟は苦笑しながらこたえた。
「まぁ、見てもどうって訳じゃないんだけどね
じゃ、お昼食べるからまた放課後ね!」
桜はそういうと駆け足で戻っていった。
「オレらも食うか」
そういって二人はその場に腰を下ろして、弁当を広げた。
「……しかしまぁ、お前はきっといい奥さんもらうぞ!」
「は?」
冬悟はなんの話の脈絡もなく話出した。
「桜だよ さ・く・ら」
廉は嫌気がさしたようにため息をついた。
「あのなぁ……それはないって言ってんだろ
あいつはただの幼なじみだよ」
それだけ言うと廉は弁当を食べ始めた。
「毎回、お決まりのセリフだねぇ まっ今度、オレが任務一緒だからって妬くなよ!」
「アホか」
「準備はいい?」
桜は廃墟の入り口付近でイヤホン型の無線機で通信していた。
「オーケィ いつでもいいぜ」
冬悟は屋上で足を伸ばしながら言った。
任務当日、二人は廃墟を制圧するために配置についた。
「常に無線のスイッチはオンにしておいてね それから……」
――わりぃ 後にしてくんない――
無線機から真剣な声で冬悟が言った。
「もう来たの?」
「みたいだな」
冬の目の前にはすでにデビルドールが二体屋内から現れた。
――わかった 私も行動開始するわ――
「オーケィ」
そう応えると冬悟は地を勢いよく蹴った。
高速でデビルドールの後ろまで回り込むとまず、一体を蹴り飛ばした。
「お前は後回しね!」
もう一体のデビルドールは身体を軋ませながら腕を振り下ろした。
冬悟はそれに反応すると軽々と避けた。
振り下ろしたデビルドールの拳が当たったコンクリートは砕け散っている。
「さて、行くか」
冬悟は素早くデビルドールの前まで接近した。
体勢を低くし、足払いでデビルドールの体勢を崩した。
「沙斬吼脚」
その隙をついて、上段、下段、中段、回し蹴りの連続蹴りを浴びせた。
「よっと」
冬悟は高くジャンプした。後ろから蹴り飛ばしたデビルドールが拳を突き出していた。
デビルドールが突き出した拳はもう一体のデビルドールの体に突き刺さった。
「穿空翔牙!」
鋭い蹴りから生み出された衝撃波がデビルドールを真っ二つに切り裂いた。
冬悟は着地すると間髪入れず、廃墟の中に乗り込んだ。
桜は一階の廊下を抜き身の剣を構えたまま歩いていた。
(静か過ぎる……)
そう思っていた矢先だった。
ゴガァァァンッ
桜の真横を壁を突き破ってデビルドールが現れた。
即座に反応すると、拳を剣で受け流した。
「くっ」
一旦、間合いを開けて桜は構えなおした。
中段の構えのまま、桜に動き出しそうな気配はなかった。
「来なさい」
桜の言葉に反応するようにデビルドールは桜に襲いかかった。
それをまたしても受け流すと、がら空きになっている背中目掛けて剣を振った。
「封流勁華!」
渾身の一降りを食らったデビルドールは静かに崩れ落ちた。
桜はそのまま階段をのぼっていった。
二階にはすでにデビルドールと冬悟が戦っていた。
「桜!」
冬悟の指差した方向を見ると後ろから騒ぎを聞き付けたのかデビルドールが続々と来ている。
冬悟の背後からもデビルドールが迫っている。
「おらぁ!」
とりあえず、冬悟は交戦中のデビルドールを片付けると桜と背中合わせになった。
「挟み撃ちだな」
「でも、チャンスじゃない?」
桜の言葉に冬悟はニヤリッとした。
「行くぞ」
冬悟は両足にフォースを溜め、桜は剣にフォースを溜めた。
「虎王突攻弾!!」
床と平行に飛んで狭い廊下に密集したデビルドール達を一気に貫いた。
「海刃波濤撃!!」
桜の剣に水が集まると切り上げとともに波濤を生み出し、デビルドールを切り裂いた。
「終わりね」
桜は剣を鞘にしまうとため息をついた。
「帰るか」
桜はそれにうなづくと、二人は廃墟を出た。
その頃、廉はというと……
「今日中に終わらせるぞ!」
隆矢とともに教会の壁を直すのに没頭していた。
第一章 完