表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/47

不変と決意

-56-《不変と決意》


 帽子を目深に被り、不自然に縁の太いサングラスを掛けた男は、白いズボンの下に伸びた足を一歩、また一歩と少女の方へと近づける。ウォーキングシューズは芝生の音を綺麗に殺し、黒いナイロンパーカーのポケットから取り出されるナイフも誰にも気づかれない。当然だ、ここには彼と小春を除いて誰もいない。


振り下ろされる凶刃を止める人間など、誰もいないはずだった。


「前田ぁああ! 」


だからこそ、彼は足を止めたのだろう。

何処からか飛んできた銃弾が、彼の手からナイフを背丈の低い草の上へと奪い取る。叫び声は男にとって聞き覚えのある声だった。


「悪いがその子は僕のネタ元だ! この町の壊れた現状を終わらせる為のな! 」


男は振り向かず、怯えた目でこちらを見てくる小春を睨んだ。


「終わらないさ、おまえ達が何をやったって」


それは諦めなのか、憎しみなのか、はっきりとは分からない。しかし、これだけは確かだろう。大和は言った。


「そうかもしれないな。いや、きっとそうだ、なにも変わりはしない。悪者を捕まえた所で、その原因、そのまた原因、全てを潰さない限りは変わらない。だが、変わろうとする奴が一人でもいれば可能性はゼロじゃない、そうだろ? 」


前田は聞いた。


「一度悪を肯定されて育った人間が、悪を否定する思考を持てるのか? 」


これには誠二が答える。


「さぁな、分からねぇよ。でも、そう信じたほうが幸せじゃねぇか」


前田は笑った。


「信じて足を掬われる………。俺は何度繰り返したんだろうな」


そして、柵を飛び越えて落ちていく。

彼は最後にまた笑い掛けた。


「最高の記事のネタだ、持っていけ」


大和はシャッターを切らない。

最後の時まで、目を開いてそれを見届ける。


(記事のネタならここにあるさ)


誠二はその後ろ姿を眺めていた。



「この町は静かになったな」


商店街のテレビの前、通りすがった男が言う。後をついてきた女は聞いた。


「そうなんですか? 私は新人なのでよく分かりませんが」


男は首に掛けたカメラを持ち上げて、少し遠くにある大きな建物へと向ける。


「ちょっと前まで、警察も俺と同じ側だって認識されてたのにな。その認識も変わってきた。俺が逮捕されるのも時間の問題だろう」


建物はこの町の警察署だった。

女はまた聞く。


「一体、何があったんですか? 」


彼は自分の撮った写真を眺めて、笑みを溢した。


神酒小春の証言で外の警察が動き、寄付連合はついに逮捕された。といっても、逮捕されたのは最後に残った森山だけだが。そのお陰で、警察は《寄付連合》のものでは無くなる。ようやく、警察としての息を吹き返したのだ。


男は言う。


「自らの犯罪を認め、反省したからといって、被害者から許されることは決してないだろう。だが、それにはきっと意味があった、と俺は信じたい」


その時、手元の携帯がなった。


「はい、もしもし山本ですが」


電話の相手は何かを一言だけ言って、電話を切る。山本は笑った。

画面に写し出されているのは、《大和》という文字。遠くからパトカーの音が響く。


「ここで区切りをつける、か」


この町はきっと変わらないだろう。

どれだけ手を尽くしたって、何処かで人が殺され、ものが盗まれ、誰かが苛められるのだ。だが、きっとこれが彼らにできる最高の《正義》であるはずだろう。俺はそう信じるしかない。



「『本当によかったの? 』って君は何度も僕に聞いたけど、今度は僕が聞かなくちゃあ」


「………」


「そうだね、愚問だよ。これは君の選択、成功でも失敗でも、君の意思であることに間違いはない。悪魔が《正義の為の囁き》をするなんて、前代未聞だよ」


「………」


「でも、僕は君に天国に行って欲しかったんだ。理由はよく分からないけど、きっと《昔の僕》ならそうしたと思う」


「………」


「それでも理由が必要なら、僕はこう答えよう。だって僕は《悪者》だから」


「………」


「バイバイ、臼井(・・)ちゃん」



《つづく》

<次回予告>

誠二「今まで色々あったな」

神崎「色々なことに飛び込んで、勝てない敵に噛みついて」

大和「それでも進んできたんだ」

小春「私は」

誠二「俺は」

神崎「私は」

大和「僕は」

全員「ただ《正義》になりたいと思う」


<つづく>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ