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ひとりぼっち

-53-《ひとりぼっち》


 神崎との会話の後、誠二はこの町に一軒だけある児童養護施設を訪れていた。ここに来たのは初めてではないが、やはり、施設の真っ白で単に四角い外観からは、どこか寂しさを覚える。


彼は一瞬ためらってから、数年ぶりにそのインターフォンを押した。


中から現れたのは、ついこないだまで側にいたようにさえ感じる見慣れた顔。皺の増えたその顔には、直ぐに喜びを示す形が浮ぶ。


「やぁ、八代くんじゃないか。久しぶりだね、何年ぶりかな? 」


もうそろそろ70代になるだろう男性職員は誠二の背中に手を置いて、流れるように中へと案内した。


「おっと、君は昔話に興味なんて無いよね。今日は小春ちゃんに用事があって来たんでしょ? 」


彼は優しさの滲み出る優しい言葉を、歩いている間にも繋ぎ続ける。気を遣っているのか、それとも、単に久々の再会を喜んでいるのか、予想もできないが、誠二はそれを遮るように彼に言った。


「楽しい昔話なら俺も好きだよ。でも、今はそれで時間を取られるわけにはいかないんだ。ごめん、(つとむ)さん」


勉は少し驚いたように目を大きく開けると、今度はそれを閉じて笑う。


「謝るなんてらしくないな、八代。ほら、小春ちゃんはあそこだ。やるべきことをやりなさい」


彼が指差した先には、座り込んだ女の子がいた。だが、湯水のようにお金を使って、世間を困らせていたお嬢様の面影はもうそこになく、彼女は他の子とは離れたところで、一人、ストラップを弄っている。誠二は後ろから近づいて、彼女に声を掛けた。


「随分と大人しくなったな、小春。自分がしてきたことを他人にされた気分はどうだ? 」


小春は此方を振り向かない。

その代わりに、弱々しい声で呟く。


「………同じ事? 違うでしょ、私はイタズラをしただけ。パパやママを殺したやつと私がおんなじなんて、あなた、頭がイカれてるんじゃない? 」


誠二はしゃがみこんでため息をついた。


「ああ、俺はイカれてるさ。だが、お前もイカれてる。自分のやったことを棚に上げているじゃないか」


小春は右手を自分の目の方へと持っていく、此方からはよく見えないが、声は鼻声になっている。


「そんなの、みんなあげてるじゃない。私だけが悪いの? 私だけを悪者にしてあなたは楽しいの!? 」


誠二は立ち上がって、小春の背中を見下ろした。


「お前だけが悪者じゃないさ。お前の勝手を許した父親、手伝い、警察、見て見ぬふりをした観衆、罪の責任は何処にだってある。だが、自分の罪にだけには目を瞑ろうとするな、自分の意思でちゃんと言え」


何をすればいいのか、きっと彼女には分かっているはずだ。これ以上の会話の必要なんて無い。誠二は勉に頭を下げて、その場所を立ち去る。大和と待ち合わせをしている公園に向かいながら、誠二は聞き耳を立てていなければ聞き逃してしまうほどに小さな声で呟いた。


「もしも逃げ続けたなら、今度はお前が殺されるぞ」


それは、森山以外で《寄付連合》の秘密を知っているのは、もうきっと彼女だけだから。



 小春の母親が死に、警察が駆けつけた後、情報収集のために帰って来た家政婦たちに聞き込みをしていた誠二は、ある噂を耳にする。


「小春ちゃん、偽の通報も酷かったけど、一番酷かったのは盗みね。お父さん、偽の通報を見つけたときには怒ってたのに、盗みの時は全然だった」


別のお手伝いさんも言った。


「そうそう、でも、最初に盗みをしたときは怒ってたのよ? 被害にあったのが自分の店だったからかもしれないけど」


また別のお手伝いさんも同意するように続ける。


「すごい剣幕だったわぁ、もうびっくりしちゃった。でも、小春ちゃんは不思議と堂々としてて、お父さんに怒鳴り返すの。『お父さんの子なんだから、仕方ないでしょ! お父さんよりずっとましよ!』って」



そのときの誠二には意味が理解できなかったが、今ならその意味がよく分かる。横にならんだ電気屋のテレビが喚いた。


『昨日未明遺体で発見されたのは、篠田登 68才と、神酒昌太郎 62才と判明しました。警察署内での殺人、警察はなにをやっているんでしょう』


『期待なんてするだけ不幸ですよ。あいつらはただの金が欲しい怠け者です』


誠二は無言で公園へと向かう。



《つづく》

<次回予告>

誠二「そういえば最近ラキアを見てないな。生きてるのか?」

大和「どうかな?あ、でも昨日は会ったよ。砂場に半分埋まってた」

誠二「ああ、砂浜とかでよく見るやつか?」

大和「いや?頭から腹位まで砂場につっこんでた」

誠二「何があったんだよ………!」

大和「次回、絶対正義の英雄忌憚 《判明する主犯》。いや、何も無いだろ」


<つづく>

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