二人の記者
-50-《二人の記者》
誠二と神崎がいるバーから少し離れた屋上で待機していた大和は、バーから森山が出てくるのを見つけて、三脚に乗せた望遠レンズでそれを追いかける。すると、誠二から連絡が入った。
『大和! 森山の他に誰か出ていかなかったか!? 』
大和はもう一度周囲を確認して答える。
『いや、他には誰も出ていってないぞ。どうかしたのか? 』
返信の代わりに来たのは、着信だ。
『森山の会話相手に逃げられた! 部屋の床に通路があったんだ! 』
聞こえてきた電話の声は、感情が高揚しているようである。大和は可能な限り穏やかな口調で言った。
「隠し通路か、分かった。僕の方で調べてみるから、くれぐれも追いかけるなよ? 」
誠二は納得したように答える。
『分かった。ここで待機する』
大和は電話を切って、代わりに画面を弄り出した。
(確か、《密会用の隠し通路》について調べてたやつが居たな。そいつの資料を使わせて貰おう)
すると、急に右腕に走る痛み。
操作していたスマートフォンと、赤い何かの液体がコンクリートの上に落ちた。
「なんだ!? 」
大和は慌てて後ろを振り向く。
そこには昔見慣れた姿があった。ぼろぼろになった緑のジャケット、薄く桃色の入ったサングラス、長すぎるくらいの黒いズボン。昔、同じ新聞社にいた男である。
「山本、なにしてんだ」
大和は訝しげに目を細めた。
山本哲也はその様子を面白がるように笑う。
「お前こそ何をしてるんだ。不良警官に情でも湧いちまったか? 」
彼の手元にあるのは、ダーツの矢。
痛みの原因もこれだ。
「別にそんなことはないさ。僕は個人的に森山を調べてるだけだよ。いい記事が書けそうだからな」
大和は染み込むように広がっていく痛みに耐えながら、弱味を見せぬように出来るだけ気丈に振る舞う。山本は表情を厳しいものに変えて言った。
「そういう見え透いた嘘はいいんだよ。あいつがお前抜きでここを見つけられる訳がねぇだろ」
大和は冗談っぽく笑って応える。
「ま、そりゃそうか」
山本は大和の左足にもう一本、ダーツの矢を投げた。
「ふざけてる余裕があるなら答えろ。お前の目的はなんだ? どうして俺たちを裏切って記事の種を奪う? 」
大和は顔を歪めて短い悲鳴を上げる。
「………っ! 奪ってるつもりなんてないよ、僕は種の代わりに新しい花の場所を教えて貰う。どこに問題があるんだ」
強気な言葉を口にしたが、内心は震えていた。
(いやいやいや! 無理だって! 向こうの腕を見ろよ、ムキムキよ? こっちは美少女並みの太さだっちゅーの! 戦うのは無謀だって! まじで勘弁! )
山本はそんな大和に追い討ちをかけるように言う。
「そんなことをしていれば必ず花の総数は減る。皆が求めているショッキングな記事も書けなくなる。お前はそれでも責任が取れるっていうのか? 」
大和はその目をにらみ返して怒鳴った。
「責任? 知らねぇよ! そんなにヤバい記事が書きたいなら自分で事件でも起こしやがれ! 」
そして、内心ではもっと大声で叫ぶ。
(いやぁああ! 誰か助けにこいよぉお! 八代ぉお! 栞ちゃぁん! お前たちの馬鹿力でなんとかしろよぉおお! ほら! 悪口言ったぞ! ツッコミにこいよ! )
そうしたら、
「呼ばれた気がしたから登場! いっつも笑顔なプリティボーイ! ラキアたんでぇえす! 」
悪魔がきた。
大和は今度は声に出して叫ぶ。
「誰か助けてぇええええ!! 」
ラキアは唖然とした。
《つづく》
<次回予告>
誠二「なんだか本当に大和編みたいだな」
神崎「私たち出番無かったですね~」
誠二「あいつってそんなに需要あんの?」
神崎「ないと思います。この話があるのは《あと一人、捕まえなきゃいけない人》がいるからですよ」
誠二「そうだな。さっさと終わらせたいもんだ」
神崎「終わりますよ、もうすぐです」
誠二「次回、絶対正義の英雄忌憚《暗黙のルール》。終わらせるのも大和かもな」
<つづく>




