裏にあるもの
-48-《裏にあるもの》
「え? 真子? 」
誠二は思わず瞬きを繰り返した。
それは常日頃自分以上に地味な妹がこんな所にいるとは、まるで思ってなかったからだ。そして思う、
(ここに来るなんて、どんな格好してやがるんだ? )
自分の知らない妹の姿が少しだけ気になった。しかし、現れたのはいつも通りダルダルの私服を着た真子の姿である。真子は誠二に笑い掛けた。
「いきなり喧嘩だっていうからビックリしちゃったよ。兄貴は私服で仕事? 」
誠二は周囲の目線を感じて少し気まずそうにしながら答える。
「まぁ、そんなとこだよ。お前はここでも相変わらずな服装だな」
真子はマイペースに言った。
「うーん、私はこのバーじゃなくて、奥のスペースに用があるからね。別に派手にする必要なんてないし」
誠二は奥の方を見つめて首をかしげる。
「奥にスペースなんてあるのか? 何をするための場所だ? 」
彼の疑問に真子は、少し呆れたようすで返事をした。
「この奥は会員制の食事スペースになってんの。その手の業界じゃ有名だよ、最高に美味しいパフェが食べられるんだから」
なんだか、馬鹿にされている気分である。誠二はやや不機嫌に写真を差し出しながら真子に聞いた。
「そこに森山………もといこのおっさんが入ってこなかったか? 俺はこいつを探してるんだが」
真子は写真を少し見て誠二に返すと、顎に手を当てて、暫く考える。
「見てはいないなぁ、というか、裏は個室だし。そこの鍵を借りてない限りは入れないよ」
誠二は頭を抱えた。
「まじか。それはしてやられたな。ヤバそうな会話が聞けそうだったのに」
すると、真子は面白そうに言う。
「普通なら入れないけど、店員さんにお願いして食事を運ばせて貰ったら? それなら中に入れるでしょ」
誠二は納得したように笑った。
「なるほどな、それはいいアイディアだ。使わせて貰う」
しかし、謎の問題にぶつかる。
店の店員に声を掛けると、なぜかそこでは女性限定のルールがあるらしい。真子は女性客が多いからじゃないかと推察していたが、こちらとしては不都合だ。まさか大学生の妹に危険かもしれない仕事をさせるわけにはいかないし、自分も行けない。
「神崎を呼んだ方がよさそうだな」
誠二はため息をついてスマホを立ち上げる。真子はその様子を笑って見ていた。
「兄貴が女装してもいいんやで? 」
勿論、誠二には、
「いいわけねぇだろ。30近いおっさんの女装なんて誰得だよ。つーか普通にバレるわ! ギャグ漫画じゃねぇんだぞ! 真後ろで追尾しててもバレないご都合主義なんて現実にないの! 」
と断られたが。
《つづく》
<次回予告>
誠二「家族でも知らないことってのは結構あるもんだ。だが、まさかたった一人の家族のことで知らないことがあるとは、俺もまだまだだな」
神崎「実際、血が繋がってても他人ですからね。会えない時間も結構ありますし、すべてを知ってる方が難しいと思いますよ」
誠二「そりゃそうだ。でも、個人的には真子にこういうところには来てほしくないと思うよ。いく場所が少し違うって言っても、不良どもに絡まれたら嫌だしな」
神崎「先輩、中々いいお兄さんじゃないですか」
誠二「個人の自由と安全、早々両立できるようなもんじゃないのが辛いな」
神崎「はは、ジレンマですね」
誠二「世の中が全員聖人だったら良かったのに」
神崎「次回、絶対正義の英雄忌憚《偽装と盗聴》。無茶言わないでくださいよ、次回のタイトルこれですよ」
誠二「うん、もう駄目だな」
<つづく>




