追跡
-47-《追跡》
夜の町、それは昼間よりも少し喧騒の収まった、静かな町。しかし、こんな時間こそ《そういう奴ら》にとっては至福の時間なのだろう。誠二は残された最後の一人、《森山秀樹》を電柱の影から見張っていた。
すると、スマホにL○NEが来る。
『先輩! 飲み物買っていきますけど、ミカンとグレープならどっちがいいですか? 』
誠二は森山から極力目を離さないようにしながら返信した。しかし、それよりコンマ一秒早く、誰かの返信が入る。それはこんな感じ。
『僕はグレープが好き。出来れば濃厚って書いてある方ね』
誠二はなんとなくイラッとしたが、今は見張りの途中だ、そんな場合じゃない。ここは穏便に対処しよう。そう考えていると、神崎のコメントが来た。
『ええと、先輩も松崎さんもグレープでいいですか? 濃厚の方? 』
誠二は慌てて返信する。
『いや、俺はあっさりの方がいい。後、一応ストローもつけてもらって。この状況で直飲みすると目線が外れる』
神崎のコメントは早かった。
『了解です。位置はスマホで共有されてる奴ですよね? 』
これには大和が返信した。
『そうそう。僕の位置、栞ちゃんからちょっと遠いけど、来れる? こっちから移動しようか? 』
神崎はこれにこう返答する。
『いいえ大丈夫ですよ。一応エレベーターもありますし』
誠二は確認していないが、どうやら大和はビルの屋上か何かにいるらしい。会話が途切れると、今度はこんなコメントが大和から来た。
『八代、動いたぞ! 追いかけられそうか? 可能なら追いかけてくれ、こっちからは見えない位置に行きそうだ。不可能なら僕が移動する』
誠二は素早く返信する。
『問題ない、追いかける。お前はそこで待機してろ』
大和からは美少女系のキャラクタースタンプで「OK」と送られてきた。
相変わらずふざけた奴だが、指示はまともである。それから、ちょっと思うのは、
(あいつ、返信めっちゃ早いけど、ちゃんと見張ってるのな)
画面を凝視してそうな速度で送ってくるのに、自分以上に大和が相手をよく見ているということ。流石はストーカーが本業の男だ。誠二は追跡対象が店に入ったところで、折角なのでその理由を聞いてみる。
『お前返信早いよな。どうやって見張ってるんだ? 』
大和からの返信はやっぱり早かった。
『追跡対象からはかなり距離があるからな、来たコメントは自動読み上げさせてイヤホンで聞いてる。返信はブラインドタッチでやるし画面を見る必要もない。ちゃんと見張ってるぞ』
流石はプロ、慣れというのは恐ろしいものである。誠二は尊敬なのか呆れなのかよく分からないため息を漏らして、服装を正すと、店に潜入した。
※
店の中は若者が多いバーのようで、誠二は目を見張る。
「森山は、こんなとこに一体何しに来てんだ? 若者漁り? 」
ここがとても50代後半の森山に似つかわしい場所とは思えない。むしろ、誠二でさえここにいるのが気まずいくらいだ。男達はピアスだらけだし、女のスカートは下着が見えそうな位に短い。本当に不良どもが集まる場のようである。誠二もそれなりに荒れた人生を送ってきたが、こういう場所に縁がある程じゃない。
「早く森山を見つけよう………」
誠二は頭を抱えた。
すると次の瞬間、後ろから訪れる衝撃、と遅れて飛んでくる怒鳴り声。
誠二は反射的に後ろを振り向く。誠二の背後にはガラの悪そうな屈強な男が立っていた。
「おい、あんちゃん、ここはおめぇみたいな地味野郎が来るとこじゃねぇぞ? 分かってんのか? あん? 」
誠二はため息をつく。
「空気に合ってないのは重々分かってるよ。だが、こっちも仕事なんでね。邪魔するなら腕ずくで黙らせるぞ」
彼の瞳には再び獣が宿っていた。
踏んできた場数なら、そんじょそこらの不良には負けない。勿論、続けてきた訓練だって。その自信が彼を気だるげな警官から、危険な大熊へと変える。男は一瞬怖じ気づいたように後ずさるが、周りの目を気にするように周囲を見渡すと、再び足を前へと踏み出した。
一瞬のラグ。
二人は衝突する。
大男が相手でも関係ない、柔術はその為にある技だ。誠二は体格で負けている相手を、その技術で冷たい床へと叩きつけた。
「次はどいつだ? 」
それから、恐ろしい瞳を周囲に向ける。
それだけで、先程まで喧嘩腰だった不良たちの血の気は急速に引いていった。
そんな最中、人混みの向こうから、誠二を呼ぶ声がする。
「おーい、兄貴ぃ! 」
《つづく》
<次回予告>
大和「やったぜぇ!僕大活躍!」
誠二「そうかそうか、偉いな」
神崎「良かったですね」
大和「………え!?なんで普通に誉められてんの!?どういうこと!?」
誠二「お前が頑張ったから」
神崎「頑張りましたからね」
大和「ええーー!?どうしよう素直に受け取れないっ!」
誠二「ひねくれものは損をするぞ、素直に誉められておけ。つーかいちよう前回もお礼言ったよな?」
神崎「言ってた気がします」
大和「そういえばそうか。次回、《裏にあるもの》。言葉の深読みは駄目だな」
<つづく>




