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記者は事実を追う

-46-《記者は事実を追う》


 退院の直後、誠二のスマホに連絡が入った。画面に表示されている文字は《変態》。誠二はそれをフリックして、黒いスマホを耳に当てた。


「どうした、大和」


大和はすっかり疲れきった様子で、彼の問いかけに答える。


『どうしたじゃねぇよ。お前が調べろって言ったんだろ? 調べものだって楽じゃねぇんだぞ!? 』


誠二はそれを鼻で笑ってから、謝罪の言葉を述べた。


「そうかそうか、すまなかったな。それで、何か分かったか? 」


大和はそんな彼の態度に苛立ちながらも、呆れたように返答する。


『色々分かったよ。まず1つめに、子供の通学時間を狙った不自然な交通事故は、10年前の事件直前一週間だけで17件起きてた』


誠二は頷いた。


「そうか、やっぱり10年前の事件は明さんを標的にしたものだったか」


大和は続ける。


『2つ目に、神酒と利根は事件の2年前に既に出会っていた。そこから利根が神酒に何を言っていたかは分からないが、それが事実だ』


誠二は主張した。


「明さんの事だ。きっと自首するように説得していたんだよ」


大和は『知らねぇよ』と言って続ける。


『3つ目。寄付連合の金の出所はやっぱり不明だった。その頃の3人の口座記録と、臼井邸の資産記録をメールに添付して送っておいたから、確認しておいてくれ』


誠二はため息をついた。


「ほんとお前、変態だって部分を差し引けば優秀な記者だよな。助かるよ」


大和は声を荒らげる。


『はぁ? 僕は汚点を引いてもプラスで残る位優秀だわ! 新聞社はまたクビになったけどな! 』


彼のそんな言い分を聞いた誠二は、思わず吹き出して笑った。


「クビになったのかよ」


ただ、今回だけはこいつを助けてやろうとも思う。誠二は大和に提案した。


「まぁいいや、こないだ、いい記事のネタが手に入ったからメールで渡してやる。お前が優秀だって言うなら、またこれで新聞社に復帰して見せろ」


大和は威勢よく返事する。


『お!? まじで!? 期待してるぜ! 』


そういえば、こいつと出会ったときもこんな感じだった気がする。誠二はそれを思い出すと懐かしくなって、笑顔をこぼした。


「期待してくれ。最高のネタだ」



 こんなご時世、仕事が上手くいかなくても当然だ。だって警察はもう正義の味方なんかじゃ無かったんだから。それでも、夢を見て警察官になった誠二は、現実に耐えきれなかった。


同僚の前でどれだけ笑顔で強がっても、ここが自分の理想とはまるで違うことを一分一秒単位で思い知らされる。誰も見ていないだろう町の隅っこにあるベンチで、誠二はその日も項垂(うなだ)れていた。


「ああ、酒がほしい」


勤務時間に飲んではいけないことくらい、誠二だって分かっている。それでも、身体が現実を拒絶するあまり、その言葉が自然に喉をついて出てしまったのだ。


すると、隣にアルミと木のぶつかる音。


そちらを見ると、そこにはアルミ缶に入った安っぽい焼酎が置かれていた。缶の向こう側には見慣れない男が座っている。男はカメラを首から下げて、無言で缶を此方に押し付けてきた。


「………ありがとう」


誠二は彼に勧められるままに缶を手に取る。男は言った。


「顔に似合わずお礼とか言うタイプなんだな、お前」


男の手には酒ではく、ブラックコーヒーがある。誠二は少し不快感を感じながら、男に説明した。


「あんたには俺がどんな風に見えてんだよ。いちおう警察だぞ」


しかし、そんなこと気にしていないように、男はコーヒーを一気に飲み干して、旨そうに声を上げる。


「ま、そうだろうな。制服も着てるし、隣に帽子もある。警察なんだろうな」


そして、急に立ち上がって、道の向こうにシャッターを切り出した。誠二は彼が何をしているのかよく分からず、彼に尋ねる。


「おい、なにしてんだよ」


男は人差し指を口の前に立てて、誠二を黙らせた。


「静かに! 今大事なとこなんだよ! 」


誠二は漠然と腹が立つものの、なんだか言い返せず、仕方がないのでカメラの向いている先を見る。


「あれって………」


するとそこにいたのは、自分が走り回って探していた空き巣だった。誠二は慌ててそちらに忍び寄って、背後から彼を取り押さえる。


「空き巣野郎め! 逮捕する! 」


カメラマンはゆっくりと此方に歩いてきて、気の抜けた拍手をした。


「おーお見事お見事。流石はいちおう警察ってやつ? 酔っててもそれなりにいけるもんだねぇ」


だが、不思議とその言葉に嫌な感じはしない。むしろ、心の底から称賛されている、とそう感じる。誠二はカメラマンに言った。


「悪いな、獲物を横取りして」


カメラマンはそれを聞いて笑い出す。


「別に構わないさ。まぁ、勝手に恩義に感じてくれるなら、記事になるような情報くれるとうれしいけど? 」


誠二もつられて笑った。


「………分かったよ。俺が持ってる限り、とっておきの情報をやる」



誠二は電話を切る前にひとつだけ聞いてみたくなる。


「大和、これは雑談なんだが、ちょっといいか? 」


大和はご機嫌に答えた。


『ん? 別にいいぞ、またゲームでもするか? 』


誠二は息を大きく吸って、吐いて、言う。


「お前だったら20年前の事件を、どうやって立証する? 」


大和は考えた時間なんて感じさせないほど早く答えた。


『俺だったら犯人だと思う奴を追跡し続けるね、一年でも、二年でも。本当に犯人なら、必ずそいつは尻尾を出す。それまでに、不十分でも証拠をちらつかせると観察しやすくなるからベストだ』


やっぱり、こいつは間違いなく優秀な記者だ。しつこさにかけても、思いきりのよさにかけても。誠二は希望をもって頷いた。


「ありがとう、お前がいて良かったよ」


まあ、その直後、


『なにそれ!? これから俺が死ぬみたいな言い方やめてくれる!? 』


と怒られたけど。



《つづく》

<次回予告>

誠二「大和って幾つなんだ?俺より年上?」

大和「まぁ、5か6くらい年上だな」

誠二「いい年してクビになって、お前これからどうすんだよ」

大和「年上だと知った上で《お前》!?いいけど!どうにもしねぇよ、お前のネタに期待してる」

誠二「ま、お前ならまた記者に戻れそうだな。能力だけはあるもんな」

大和「人柄クズみたいな言い方やめて!!」

誠二「次回、絶対正義の英雄忌憚《追跡》。まごうことなきクズだろうが、お前は」

大和「お前にだけは言われたくねぇよ!?」


<つづく>

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