賭けの結果
-45-《賭けの結果》
目覚めると、そこは白いシーツが眩しい、病院のベッドの上だった。どうやら豪勢にも一人部屋を使って、誠二は眠っていたらしい。
「………期限は過ぎたか」
病室のカレンダーの日付は《賭け》の終了翌日になっている。扉の先から現れた神崎が、慌てて彼に声を掛けた。
「先輩、起きたんですね! 良かった、本当に良かった」
誠二は事をなりゆきを彼女から聞く。
あの後、誰かが通報で呼んだ《外》の警察によって犯人は逮捕され、彼らは木下賢人の殺人未遂を認めた。そしてそこから依頼主の神酒の秘密を知って、脅しを始めていたことも。
神崎はベッドの隣の椅子に座って、嬉しそうに説明する。
「神酒は明日逮捕されるそうですし、これで万々歳ですね」
誠二は彼女に聞いた。
「小春はどうなる? これで両親ともいないことになるんだろ? 」
神崎は持っていた警察手帳を閉じて、静かに答える。
「小春ちゃんは、あの年齢ですからね。少年院にもいかないでしょう。その代わり、余罪が明らかになっていっている今、神酒が釈放されるのは、ずっと後の話です。それまで施設ですよ」
誠二はため息をついた。
「賭けの結果はどうなった? 明の無実は囁かれたか? 」
神崎は首を横に振る。
「いいえ、それはありませんでした。きっと、全部、嘘だったんですね。こちらにリスクがない賭けなんて可笑しいとは思ってましたが」
ただ、悔しそうに天井を見つめる誠二に神崎はこう付け加えた。
「で、でも、囁きはこの町から居なくなったと思いますよ。どこにも、闇のゆりかごは残ってません」
意外な言葉に、誠二は目を丸くする。
「それはどういうことだ? 」
そして、神崎が説明しようとすると、窓から見慣れた白い獣が現れた。
「あっははー、どうしてだろうね! そんなことより誠ちゃん、今日はいいお天気だよ! 見てみなよ! 」
言われた通り窓の外を見ると、そこには本当に何処までも青い空が広がっている。神崎は誠二にポケットから取り出したものを渡した。
「先輩、これ」
それは、誠二の警察手帳である。
誠二が神崎の方を見上げると、神崎は誠二に言った。
「これは先輩が持ってるべきだって、賢人くんが進言してくれたんですよ。私もそう思います。だって、先輩は正義の味方ですもんね」
誠二は渡された手帳をまじまじと見る。
※
「これが警察手帳? カッコいいなぁ」
明はこれを誇らしそうに見せてくれた。
「どうやったら、俺も明みたいな正義の味方になれる? どうやったら、あいつらみたいな悪い奴らをやっけられる? 」
誠二は無邪気にも質問した。
質問の答えは覚えている。
「うーんそうだなぁ? 世界は平面だって知ることかな? 」
「へいめん? 」
「そ、どんな人間も、どんな動物も、植物も、おんなじ地面に生きてるってこと。僕がこれを持ってるからって、偉いなんてことは全然ないし、ただの1人の人間だってこと」
「そうかな? 警察は他の人より色々出来るよ。とっけんっていうんだっけ? 」
「だから見下ろして上から逮捕だけしてればいいのかな? 僕がルールだ! そうじゃなかったら駄目だよ! って」
「………それはいけないよ」
「そうだよね。だって僕には自分の意見や法律を伝えることは出来ても、押さえつける権利なんてないもん。神様じゃないから」
「じゃあ、どうすればいいの? 」
「話を聞いてあげるんだよ。どんなに悪い人だと思っても、勿論、どんなに誠ちゃんが喜ぶ事を言ってる人の話でも。真っ直ぐに聞いてあげるんだ」
「それから、どうするの? 」
「それだけだよ。僕はそれだけ。他は得意な人がやってくれるよ。だから、僕はそれだけでいいんだ。それが、僕自身が決めた正義だから。ただ一つの、わがままだから」
※
「いや、まだ終わってないさ」
誠二は上半身を起こして言った。神崎は驚いたように目を見開く。
「え? 」
誠二は笑顔で神崎に伝えた。
「俺は犯人を逮捕するしか能がないから、明さんみたいな優しい人にはなれないし、なるつもりもない。だから、俺は最後までちゃんと聞いてやるよ、最後の一人までな。勿論、俺のやり方でだけど」
《つづく》
<次回予告>
神崎「今回で完結しそうな雰囲気を出していたな?あれは嘘だ」
誠二「正直、俺は前回で終わらせても良いくらいなんだけどな」
大和「ちょっとまって、そうしたら僕の活躍が全然見せられないじゃん」
神崎「大丈夫ですよ。あなたが活躍することなんてありえません」
大和「ええ!?だってこの後、記者クラブの話が出てくるんでしょ?それは僕無しじゃ語れないじゃん!」
誠二「別に居なくても語れるよ。記者クラブっつうかただの犯罪者集団だし」
神崎「法律に違反する相手ならジャンル問わず関われますよね。警察ってジョブは」
大和「記者はもっと自由に関われるんだけどね。捜査権がないだけで」
<つづく>




