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我欲の天秤

-44-《我欲の天秤》



「どうやら、賭けは僕の勝ちみたいだね、うーちゃん」


白い獣は床で涎を垂らして寝ている大和に微笑ましそうな顔を向けてから、ウィスィに声を掛けた。ウィスィはそんな彼の言葉にため息をつく。


「まだ結果は出ていないでしょう? それとも、暇をもて余してここに来たんですか? 」


ラキアは嬉しそうに笑った。


「あー、バレちゃった? だぁれも遊んでくれないから、ここに来ちゃった~」


ウィスィは椅子から立ち上がり、その椅子の右のひじ掛けに座る。


「いいですよ。話を聞きましょう」


ラキアはピョンピョンと嬉しそうに跳ね回ってから、左のひじ掛けに座った。


「やったぁ! うーちゃんは相変わらず優しいね! 」


ウィスィはその言葉を聞くと、思わず自分の手の指を弄る。


「………優しくなんてありませんよ。私はそんな存在じゃない。誰かを助けられる力を神は私に与えてくれなかった」


ラキアはその様子を横目で、不思議そうに見た。


「どうしてそう思うの? 誠ちゃんが、うーちゃんを悪者だって言ったから? 」


ウィスィは首を横に振る。


「違いますよ。悪だと信じて裁いた相手が、とても悪には思えなくなっている今の現状のせいです」


二人の横で、大和が寝返りをうった。ラキアはそれを見て小声で言葉を続ける。


「それって前の小学生のこと? 」


ウィスィはまた首を横に振った。


「いいえ、違います。どうしてそう思うのですか? 」


ラキアは顎に手を当てて暫く悩んだ後、答える。


「どうしてだろ? 分からないけど、さっき君の依頼者が別の子にイライラしてたからかな? 僕にはその子が幸せになったようにはとても見えなかったよ」


ウィスィは弄っていた指を止めて、今度は拳を固めた。


「そうですか。私はまた失敗してしまったのですね」


ラキアは笑う。


「悪魔でも失敗するんだ? なんだか可笑しくなってきちゃった。君の依頼者のパパはね、偉い人で失敗したことがないから、その子が失敗するととっても怒るんだって」


ウィスィは固めていた拳をほどいた。


「彼らは本当に憎いものから別のものに責任転嫁する醜い人間ね、親子揃って。まるで私みたい」


ラキアは嗤う。


「ははっ、そんなもんだよ。どんなに綺麗ごといっても、人間は人間なんだから。みんな独りよがりだよ」


悪魔たちの会話はそれで途切れた。



誠二は大声を上げる。


「おい社会のゴミども! お前らが俺より強いだって? 笑わせんなよ! 」


当然、男達は誠二に目線を移した。


「はぁ? 誰だお前? 」


誠二はそれを見計らって、神崎に目で合図する。


(神崎、今だ。裁判員が通る方の扉から皆を逃がせ! )


神崎はその意図を理解して頷いた。

途端に始まる銃撃、急所を外すように、誠二は兎に角足を動かす。隠れてはいけない。今隠れれば、再び注意が他の連中に向いてしまう。


痛い


辛い


苦しい


所詮は人間の体だ。

急所でなくても、被弾すればただではすまない。


それでも、誠二は《正義》に従ったのだ。だって彼は、誰よりも《正義》の奴隷なのだから。


最後の一発の銃声。

彼は床に倒れ込み、裁判所は静かになった。


《つづく》

<次回予告>

誠二「どうしてうちの町にいるヤバいことに手を出す人間ってのは、裁判とか逮捕とか体裁だけは守ろうとすんのかね」

大和「まぁ、自分達の力を誇示したいんじゃねぇの?普通に暗殺とかしたら、自分の名前も出せないしな」

誠二「必要に迫られてる気がしねぇな。そんなに殺すのに躍起になられても困るが」

大和「僕たちは奴等にとって所詮その程度の相手ってことだよ。他人の人生をなんだと思ってんだか、酷い話さ」

誠二「そうそう、おけらだって懸命に生きてるのにな………で、おけらって何?」

大和「頭はザリガニ、身体はイナゴの謎生物」

誠二「まじか」

大和「次回、絶対正義の英雄忌憚《賭けの結果》。知らない生物はネットで調べると楽しいぞ。たまに心臓をやられるが」


<つづく>

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