その名は無い
-40-《その名は無い》
結論から言えば、その名前は本のどのページにも書かれていなかった。
「くそっ! 」
誠二は思わず苛立ち、自分の家に置かれた学習机を叩く。お前の考えは間違っている、何者かにそう突きつけられたような気がしたのだ。
すると、そうして諦めきれずに本をめくり直す誠二の後ろから、疲れはてた様子の神崎が現れる。神崎は誠二の机を、彼よりも大きな音を立てて叩いた。
「先輩! どうして先に帰っちゃうんですか! 三人は暴れるし、一人で連行するのは大変だったんですよ! 」
誠二はその声にようやく我に返って、神崎の顔を見る。
「………悪かった」
神崎は誠二の答えに疑問を抱いた。どうにも、元気がないような気がする。ここには賢人もいないし、気を使うような相手はいないはずなのに。 神崎は兎に角、彼自身にそれを聞いてみることにした。
「先輩、どうかしたんですか? 」
誠二は一瞬躊躇った後、質問に答える。
「………明さんの名前がなかった」
神崎は誠二の手元にある本を覗き込んだ。本はどうやら、ラキアの持っていた契約主の記録らしい。神崎は誠二に言う。
「それはそうでしょう。だって、明さんは死んでるんですよ。契約者になんてなれる訳がないじゃないですか」
しかし、誠二は悲しげに目線を落として、首を振った。
「そんな理由だったらどれだけ良かっただろうな。でも、違うんだ。この本には、あの事件で殺された警官達の名前もしっかり載ってる」
神崎はすっかり自分の方を向かなくなってしまった誠二に聞く。
「じゃあ、どんな理由で載ってないっていうんですか? ただの書き損じ、とか? 」
誠二はまた首を振った。
「それも違うよ。見ただろう? この本は俺たちの常識通りの書かれ方なんてしちゃいないんだ。書き損じなんてあり得ない」
そして、こう続ける。
「………ここに名前が無いってことは、明さんは事件の《被害者じゃない》ってことなんだよ」
神崎はようやく、誠二が落ち込んでいる理由を理解した。
「明さんは本当に首謀者だったってことですか? 」
誠二は弱々しく頷く。
神崎はその様子を見ていられなくて、今度は彼から本を取り上げて、自分が明の名前を探すことにした。そうだ、きっと文章が苦手な誠二が見落としたに違いない、きっとそうだ。
しかし、神崎が探しても明の名前は何処にもない。索引もなにもかも無視して、全ページを探したのに、どこにもない。そして、代わりに嫌なものを見つけてしまう。
「先輩、これ」
神崎が開いて差し出したページには、《ウィスィ・ラシネ》という名前と、見たことがない焼け爛れたような顔が描かれていた。
「なんだよ、これ! 」
誠二にはその事態がまるで理解できない。事件を起こした化け物が《被害者》で、それに利用された明が《加害者》? 一体、何を間違ったらこんな記述があり得るんだろう。
彼は堪らず声を荒らげた。
「おい! ラキア! 聞いてるか! 」
すると、呼ばれて机の引き出しの中からラキアが現れる。ラキアはいつもの調子で笑った。
「はーい! 聞いてないけど、呼ばれたから登場! ラキアたんでぇす! 」
誠二はそんな白獣の首元の毛を掴んで自分の顔に近づけると、獣を怒鳴る。
「これはどういうわけだ! どうしてあの悪魔が被害者で、明さんが加害者になっている? 説明しろ! 」
ラキアは誠二に落ち着けという手話をして、説明した。
「ええー!? なんでって、そのまんまの意味でしょ!? 僕にはそれ以上のことは分からないよ! 」
神崎も誠二の腕を掴んで、なんとか彼を説得しようとする。
「先輩、ラキアちゃんに当たったって仕方ないじゃないですか! それで事件が解決する訳じゃないんです、それなら、明さんの部屋を探した方がまだいいですよ! なにか出るかもしれません! 」
誠二は二人の必死の訴えを聞いて、手の力を緩めた。
「分かったよ。木下に電話しよう」
こんなやり取りが無駄なことくらい、誠二だって分かっていたのだろう。神崎は電話を取り出して、賢人に協力を要請した。
《つづく》
<次回予告>
誠二「最近ラキアがポケ○ンに見えてきた」
神崎「なにゆえですか!?」
誠二「だって何処でも呼べば来るし」
神崎「でも戦ってはくれませんよ?」
誠二「そういえばそうだな。適当についてくることはあっても、口ほど積極的に協力してくれないし」
神崎「むしろ邪魔してますよね」
誠二「よし、おじゃまモンって名付けよう」
神崎「それだとポ○モンっていうより、○まモンみたいですね」
誠二「いいじゃんご当地キャラ」
神崎「私たち、東京生まれ東京育ちなんですけどね………」
誠二「次回、絶対正義の英雄忌憚《手帳と鍵》。え?そろそろ別のキャラの会話が見たい?いや、むしろなにもここに書くな?」
神崎「それ作者死にますから先輩、やめてあげて下さい」
<つづく>




