最後の寄付者
-36-《最後の寄付者》
強盗三人を縛り上げた後、賢人は奥のカウンターにいた女性スタッフの一人に警察手帳を見せ、事情を説明した。
「……ということで、あそこの監視カメラ映像を確認させて貰いたいんだ」
しかし、女性スタッフの反応はあまり芳しくないものである。彼女は手元のマニュアルを何度か確認して、賢人に頭を下げた。
「申し訳ありません。たとえ警察であっても、業務上の機密を漏らす訳にはいきません」
銀行の前の道を映しているだけのカメラにどんな機密があるというのか。神崎は納得できず、賢人を少し横に押し退けて声を大にする。
「そこをなんとかお願いします。人が1人亡くなってるんです! 」
裁判は3日後、彼女もここで引き下がる訳にはいかないのだ。賢人もその思いを酌んで、もう一度スタッフに説明した。それでも、回答は最初と同じである。
「申し訳ありません。例え警察であっても、業務上の機密を漏らす訳にはいきません」
誠二は、そんな一言一句違わぬマニュアル仕事をする職員の前の机を、大きな音を立てて叩いた。
「話にならねぇな。上を出せ」
その目はまるで血を求める大熊のように不気味に輝き、女性スタッフの身体を硬直させる。賢人は隣で同じように硬直している神崎に小声で聞いた。
「やっぱりただの不良じゃないか? 」
神崎はその言葉でハッと我に返って、彼の質問に答える。
「違う………はず」
だが、その声は何処か震えていて、先程とは対照的に弱々しいものだった。誠二に凄まれたスタッフは硝子で挟まれたカウンター越しに顔を蒼白にしながら、何度も頷く。
「わ、分かりました。直ぐにご案内致します、隣の彼が! 」
彼女にいきなり指差された隣の男性スタッフは、冷や汗を流しながら、自分の右手人差し指で自分の顔を指した。誠二は先程同様、威圧感のある声で彼に聞く。
「案内、してくれるよな? 」
男性スタッフは震えながら何度も「分かりましたから! 少々お待ち下さい! 」と繰り返した。
※
通された両開きの扉の先には、包み込むような良質な椅子に腰かけた恰幅の良い男の姿がある。神崎は少し背伸びをして、誠二の耳に口を近づけて囁いた。
「先輩、あの人! あの人は《寄付連合》の最後の一人。森山秀樹ですよ! 」
賢人はそんな情報交換中の二人に僅かに目をやって、一歩歩み出ると、深い礼をして森山に聞く。
「森山さん、お初にお目にかかります。私、夜見署で刑事部長をしている木下賢人という者です。今回は貴方に頼みたい事があり、このように訪ねさせて頂きました。お時間は宜しいでしょうか? 」
すると、森山は怪訝そうな顔で首を横に振った。
「何も話す事なんてない。帰ってくれ」
賢人は目を細めてまた一歩机に近づくと、再び彼に言葉を掛ける。
「人が亡くなってるんですよ? それはあまりに非協力的ではありませんか? 」
森山は立ち上がって、大声で怒鳴った。
「非協力的!? そんなの関係ないだろう! 知らないものは知らない! それ以外になんと答えろと言うんだ! 」
神崎はその返答に首を傾げて、賢人の前に移動すると、森山に質問する。
「あの、すみません。話が噛み合ってないような気がします。貴方はなんのことを言ってらっしゃるんですか? 」
森山は大きな音を立てて再び椅子に腰かけると、彼女の質問に答えた。
「何のこと? そんなの10年前の銃撃事件のことに決まってるだろう! 一度答えたのに、何度も何度も聞いてきやがって、しつこいやつらだ! 」
どうやら、本当に話が噛み合ってなかったらしい。誠二は2、3回瞬きをしてから、その場で森山に説明する。
「それは違うぞ、森山さん。俺達はつい昨日起こった事件の捜査をしている。そのために、あんたの店から外を映してる監視カメラの映像を確認させて欲しいだけだ。それ以外にない」
森山はそれで自分が突拍子も無いことを言っていたことに気がついたのか、急に表情を気まずそうなものに変えて、三人に答えた。
「監視カメラ………? なんだそれなら早く言ってくれれば良かったのに。あれなら別に構わないよ。今すぐ見れるように準備をさせるから待っていてくれ」
そして、扉の方に声を掛けると、向こう側で廊下を蹴る慌ただしい音が響き、カメラ映像の視聴準備は直ぐに整った。
《つづく》
<次回予告>
神崎「はーい、良い子の皆!いつも明るく元気な警察のお姉さんだよ!」
誠二「いつもやる気が地面を突き抜けて下にある、警察のお兄さんです」
神崎「今日は、みんなに対人の問題が起こったときの対処を教えるね!」
誠二「わーい(棒)」
神崎「まずは問題になっている相手とちゃんと話し合ってみよう!ネットとかだと話がこじれるからやらない方がいいけど、現実なら効果的だよ!」
誠二「ま、自分が傷つく危険があるからな」
神崎「それでも駄目なら、その人の上の人間にお願いしよう!さあ皆一緒に!」
二人「店長だせオラぁ!」
誠二「ただし、良い子の皆も悪い子の皆も、不要なときにはやっちゃ駄目だぞ。迷惑だからな」
神崎「今回は必要だったんでしょうか?次回、絶対正義の英雄忌憚《犯人の目的》。ああ、このタイトルなら必要だったみたいですね」
誠二「メタ読み駄目絶対」
<つづく>




