八代誠二
-35-《八代誠二》
周囲の防犯カメラは大方調べたが、その殆どはハリボテで、実際に動いていたものはごく少数、しかも、やや現場からは距離のあるもので、当然というべきか、犯人らしい姿は映っていなかった。
「残念だが、これもハズレらしい」
賢人が首を横に振りながら、二人の元に戻ってくる。神崎はそれに落ち込んだ素振りを見せつつ、賢人に言った。
「そっか、仕方ないね………調べてくれてありがとう」
言われた賢人は必死に手を横に振る。
「別にお礼なんていいよ! 何も見つかって無いんだし………。ほんと、ごめん」
そして、誠二はそんな二人に挟まれてとてつもなく気まずそうに縮こまっていた。
「あの、俺、帰ってもいい? もうさ、無理なの、息が苦しい………」
しかし、そんな誠二の肩を神崎が叩く。
「何言ってんですか先輩! バッチリ捜査して、神酒に勝ちますよ! 」
誠二は最早泣き笑いを浮かべるしかなかった。するとそこに、悲鳴。
「強盗だ! 誰か助けてくれ! 」
誠二は先程とは一変して、目付きを仕事の時のものに戻し、何かに弾かれるように銀行の方へと走っていく。
「あ! ちょっと先輩! 」
銃や警棒さえ持っていない誠二を、神崎は慌てて止めようとしたが、もう遅く、その後ろ姿はあっという間に遠ざかっていった。
「俺が止めた方がいいか? 」
賢人は神崎に聞く。
神崎は何かを諦めたような顔をして、首を横に降った。
「ううん、いいよ、先輩なら多分大丈夫だから」
賢人は暫く黙った後、神崎に尋ねる。
「……栞は、あいつと仕事がしたくてこっちに来たんだったよな? お前にとってあいつはそんなに信用できる奴なのか? 」
神崎は苦笑いを浮かべながら答えた。
「信用……はできるかな。どうしてそんなこと聞くの? 」
賢人はそんな神崎の手をとって、銀行の方に歩き出す。
「いや、俺は栞と仕事がしたかったからさ。あいつにどうして負けたのか知りたくなったんだよ。なんか、そんなに凄い奴には見えないし」
神崎は賢人の歩調に合わせて歩きながら笑った。
「賢人くんは先輩に何かで負けたの? 知らなかったな。確かに、先輩はそんなに凄い人には見えないし、実際そうじゃないよね」
そして、自分の方を見ている賢人の目に、優しい笑顔を投げ掛ける。
「でも、凄くはないけど、先輩はいいひとだよ。賢人くんもきっと仲良くなれると思う、ううん、なりたいと思うよ」
賢人は思わず目を反らして、だんだんと近づいてきた銀行の方を見た。
「そうかな? 資料を一通り見た俺にはあいつが力でなんでも解決してきた、どうしようもない不良に見えるけど」
神崎は賢人の手を離して彼の前に立つと、彼の言葉に対して首を振る。
「賢人くん、それは違うよ。先輩はいつも、そういう人たちにやられる側だったんだもん」
賢人は目をしばたかせた。
「まさか……」
神崎はそんな彼に懐かしむように説明する。
「今の先輩を見てたら、とてもそうは見えないよね。私だって、昔見たのは夢だったんじゃないかって思うくらいだし。でもね、ほんとなの。先輩は優しいから、いつもやられっぱなしで、友達も全然いなくて」
ただ、話の途中で銀行の方から大きな警報音がして、そちらに駆け寄ることににってしまった。駆け寄りながら、神崎は説明の続きをこうまとめる。
「不良っていうより、単に不器用なんだよ。《正義》をとっても大切にしてるけど、それを上手く表現できないの。分かってあげてくれる? 」
それは、憐れんでいるようで、どこか尊敬さえ感じさせる不思議な言葉だ。賢人は頷くわけでも、首を振るわけでもなく、ただ悲しげに銃を抜いて、銀行の中に向ける。
「動くな! 警察だ! 」
だが、銀行の中の強盗たちは既に鎮圧され、苦しそうな面持ちで誠二の前で正座をさせられていた。誠二は一瞬、
「お………」
と広角を持ち上げて言いかけて、賢人の顔を見てから真顔で黙る。賢人は全力で声を上げた。
「いや! なんで!? なんで目を反らすの!? 俺なんかした!? 」
誠二はぼそぼそと小声で答える。
「……いや、あの、なんかすみませんした……」
最早不良感なんて見る影もない、ただのコミュ障だ。神崎はそんな誠二に駆け寄って、嬉しそうにその肩を叩く。
「流石先輩! 銃を持った三人組くらい、素手で余裕ですね! 」
誠二はそれに、少しだけ嬉しそうな顔をして頷いた。そして、神崎の頭を何度かつついて、頭上を指差す。
「……神崎、あれカメラじゃないか? 」
神崎がそちらを見ると、確かにそこには《稼働中》と書かれたカメラが据えられていた。
《つづく》
<次回予告>
誠二「銀行強盗やるってのは、やっぱり金に困ってんのかな」
神崎「そうですね。仕事がないとか、満足に稼げないとかだったらちょっと同情します」
誠二「まぁ、単に金が欲しいだけの奴もいるだろうけど。社会が原因なら救済は必要かもな」
神崎「でも、犯罪の件数は社会の豊かさと反比例するわけじゃないんですよね。そこが難しい所です」
誠二「周りが裕福だからこそ自分が惨めに見える、そんなこともあるんだろ。結局はそいつ1人の責任じゃねぇよ。ただ、そいつ1人の責任にしたいだけだ」
神崎「そうかもしれません。犯人も私達と同じ、ただの1人の人間ですもんね」
誠二「なんか真面目に話して疲れたな、次回《最後の寄付者》。次回はもうちょい遊ぼう」
<つづく>




