我が身にかかる
-32-《我が身にかかる》
「しかし、正義の奴隷だなんてよく言ったものですよね。常日頃、暴行罪犯しまくりの先輩が」
神崎は小春の手をしっかりと握りながら、神酒邸への玄関へと歩いていく。小春を挟むように並んで歩いていた誠二は彼女の言葉に口を尖らせた。
「なんだよその言い方! 俺だって一般人相手には反撃以外しねぇよ!? 」
神崎は扉の横についたチャイムを押しながら冷たい目を誠二に向ける。
「いや、反撃もしちゃいけないんですよ………。それに、松崎さんにいつも暴力振るってるじゃないですか。一応あれも一般人ですよ? 」
しかし、これを誠二は右の掌を神崎の方に向けて否定した。
「いや、あれは違う。あれはただの変態だから、変態目変態科の大和という生物だから」
その数秒後、チャイムの音に遅れて玄関の扉が開く、のだが………。
「えっ!? 」
扉から出てきた女は、出迎えるでも追い返すでもなく、慌てたようすで二人を押し退けて、町の方へと走っていった。誠二は瞬く間に視界から消えてしまった後ろ姿を思い返して神崎に言う。
「神崎、今の、見えたか? 」
神崎は首を傾げた。
「ええ、女の人が向こうに………」
誠二は彼女の言葉に首を振る。
「そうじゃない、あいつが持っていたモノだ」
神崎はなんの事か分からず、先程の女が消えていった方を見た。
「もの………? 」
誠二はその内に開きかけの扉に手をかけて、それを全開にする。
「ああ、そうだ。あいつは血のついたナイフを持っていた」
神崎と小春はその言葉に目を丸くした。
「そんな、まさか」
誠二は神崎に言う。
「パーティーグッズか何かならいいが、もしそうでなかったなら………。早く探した方がいい」
神崎は彼の言葉に頷いて、握っていた手を離し、家の中へと走り出した。誠二も神崎が走っていった方向とは別に、二階への階段を登りだす。
そして、一番に、それを見つけたのは、
「お母さん!? 」
二人が側から居なくなった後、家を探し始めた神酒小春であった。小春の悲鳴に呼ばれて、誠二と神崎が順に部屋に流れ込む。
二人がそこで目にしたのは、涙を浮かべて倒れた身体を揺する小春と、多量の血を流す、女性の姿。神崎は訳がわからないままに、台所に下がっているタオルを持って女性に駆け寄った。
「止血、それと回復体位………! 」
ただ、久々に取り出した応急処置の知識に自信はない。誠二は平静を失っている神崎に声をかける。
「神崎! そっちはいい! お前は事情を説明して救急車を呼べ! 手当てなら俺の方が得意だ! 」
神崎ははっとして自分のスマホをポケットから取り出した。誠二はぽろぽろと滴を溢す小春の肩を軽く叩いて質問する。
「これだけの家だ。救急セットくらいはあるだろ? どこにある? 」
小春は涙を拭いて答えた。
「二階………二階に上がって直ぐの部屋」
誠二は彼女の言葉を聞くと、一言、「分かった、あまりその人を動かすなよ」と注意してから部屋を出ていく。
それと同時に、神崎の掛けていた電話が繋がった。神崎は小さく息を吐いて、用件を伝える。
「救急車をお願いします。場所は西本町の神酒邸です。人が血を流して倒れているんです! 」
しかし、
二階から救急箱を持って降りてきた誠二は、すっかり放心している神崎の姿を目にした。誠二は倒れた女性に駆け寄って、救急箱を開き、神崎に声をかける。
「どうした? 」
神崎は聞き取りずらい小さな声でそれに答えた。
「………先輩、救急は来ません………神酒邸って聞いた途端に、担当者が《どうせまたイタズラだろ? 》って………」
誠二はそれを聞いて表情を暗くする。
「そうか………分かった」
彼には応急処置は出来ても、本格的な治療は出来ない。それを行える医療知識なんてまるでないのだから。手を動かしつつも、よぎる不安。
そして、
………それから10分後、一通りの処置が終わった頃には、既に彼女の心音は止まっていた。
《つづく》
<次回予告>
誠二「長い作品だと、些細な方針転換はよくあることだよな」
神崎「いきなりなんですか?」
誠二「俺の好きなゲームがついに萌えキャラを出しはじめてしまって正直困惑している。なぜなんだ………」
神崎「まぁ、時代としか」
誠二「時代がなんだ!変わらないものだってあるだろう!任◯堂もあの有名シリーズについに女装を出してしまうし、もう俺はどうすれば!」
神崎「もしかして先輩、自分が恋愛ゲーのキャラみたいな発言を強要されることを危惧してます?」
誠二「うん」
神崎「大丈夫ですよ。その顔で臭いこと言ってもモテませんから」
誠二「!?」
神崎「もてそうな人は次回登場しますよ。これこれ、《外の人間》って話です。だから心配しないで下さい、先輩はそっちに走らなくてもいいんです」
誠二「どうしよう、素直に喜べない………」
<つづく>




