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悪魔達の出会い

-30-《悪魔達の出会い》


「ああ、くっそ、切られた! 」


 高級マンションの一室、宗教団体《闇のゆりかご》の教祖室にいる大和は、機械音しか吐かなくなった携帯を悔しそうに閉じる。すると、彼を膝枕しているウィスィは本を読むのを止めて、静かに彼の頭を撫でた。


「あらあら、それは残念ね」


それはまるで拗ねる子供をあやす親のような動作で、大和は何故か急に怒る気が無くなってしまう。それよりも、彼は囁きに猫撫で声で言った。


「ああ、残念だよ。可哀想な僕を慰めてくれる? 」


囁きは静かながらも、何かを見定めるように大和に聞く。


「それで貴方は幸せになりますか? 」


大和は身体を起こして首を振った。


「いいや、ならないな。だからいいよ、それよりも聞かせてほしい。ラキアとはどうやって知り合った? どうゆう関係? 」


囁きは意外そうに手を止める。


「いきなりですね。それも意図がよく分かりません、何が目的ですか? 」


大和は答えた。


「理由………説明は難しいが、ま、僕も記者の端くれってこと。面白いことはどうしても知りたくなっちゃうのさ」


彼の質問に、囁きはその場から窓の外に目線を移す。


「………少し長くなりますよ」


彼女は静かな声でそれだけ忠告すると、大和の問いに答え始めた。



崩れかけた工場の一室で、綺麗な顔をした男は、鼻の側に皺を寄せて囁きを怒鳴り付ける。


「何を勝手なことをいってやがる! 悪魔は契約には絶対従順なんだろ!? なんで私の願いだけを断るんだ! 」


山羊の面を被った囁きは感情を剥き出しにする男にやれやれと首を振った。


「なぜ? それは貴方が、願いを叶えても幸せにならない、と自分で言ったからではありませんか」


すると、男は囁きに掴みかかって更に声を荒げる。


「そんなの当たり前だろ! 幸せになんてなるものか! あいつは高卒の癖に、俺に《大丈夫か? 》なんて生意気なことを言ったんだぞ! 殺したって気分なんて晴れない! いつまでだって憎い! それでも、少しでも楽になりたいと思うのが可笑しいのか! 」


囁きは早口に捲し立てた男の手首を、人間離れした力で掴んで振り払った。


「甚だ可笑しいですよ、そんな人間は五万といます。私はそんな意味の無い契約を結ぶほど暇ではありません」


男が自分の手首を見ると、そこにはくっきりとついた黒いアザ。彼はそれに強い恐怖を感じて、廃工場から逃げ出す。


男が逃げ出すと、入れ替わりに拍手の音が響いた。


「ははっ! よくできましたぁ! 」


拍手の正体は、窓から顔と腕を出している、見慣れない白い獣である。だが、囁きはその姿に渋い顔をした。


「貴方がなぜここにいるんですか? 貴方はこちらにいる必要など無かったはずですよ」


白い悪魔は彼女の言葉に首を傾げる。


「ん? 誰かと間違えてるの? きみとは初対面のはずだけど? 」


その反応に、囁きは仮面の下の表情を驚きから憐れみに変えた。


「そうでしたね。しかし、それでも貴方は私の元に来たのです。中々執念深いではありませんか」


獣は益々不思議そうに首を捻る。


「きみってもしかして僕以上に不思議ちゃんなのかな? 言葉が要領を得てないよね? あれ? 僕がおかしいのかな? 」


囁きはそんな獣に聞いた。


「それで、要件はなんですか? あまりここに居られると営業妨害なんですが」


白い獣は答える。


「僕と賭けをしない? 僕が賭けるのはこの紙切れなんだけど」


獣の指につままれた小さな紙に、囁きは驚愕した。いや、持っていることは予想していたが、まさか賭けるとは。


「………賭けの内容を聞きましょう」


喉から手が出るほど欲しい《天国行き》の切符に、囁きは唾をのむ。獣は嬉しそうに笑った。


「おっ? やる気だねぇ! いいよ! 聞かせてあげる! 」



「今考えても、不釣り合いな賭けですよ。向こうが賭けてるのは、数十人に一枚きりしか手に入らない代物で、私は負けてもここを出ていくだけ。それに、彼には勝つ気が感じられません」


囁きは絵本を膝の上に乗せたまま悲しげな声を出す。大和はそんな彼女に言った。


「僕はそれよりも、ウィスィがそんなに天国に行きたいって思ってる事の方が意外なんだけど」


囁きは彼の言葉に短い息を吐く。


「悪魔が救いを求めてはいけませんか」


大和は大きく息をすって、声を上げた。


「ふざけんな! 罪を償いやがれ! 」


そして、びくり、と震えて小さくなる囁きの姿にこう続ける。


「………八代ならきっとそう言うだろうな。ま、僕にはどうでもいいことなんだけど」


囁きは聞いた。


「どうでもいいこと、ですか。貴方は罪人が罪を逃れ、救われることを嫌がらないのですか? 」


大和はまた彼女の膝に戻って答える。


「死後はどうかなんて知らないけど。現実じゃよくある話だろ? そんなことにいちいち目くじら立ててたら、疲れるし、生きにくいだけさ」


囁きは彼の頭を優しく撫でた。



《つづく》

<次回予告>

大和「今回はウィスィちゃんスペシャルだったな。もしかして興味ない人も多かった?ごめんねー僕のスペシャルにすれば良かったよね。やっぱり需要って大事だし、記者やってるとよく分かるよ!需要がなきゃどんな凄い記事も売れないもん!え?もう時間?ちょっと短くない?え?あと十秒!?あ、あう……!次回!《正義の奴隷》!お楽し」


<つづく>

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