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事件記者と捜査官

-2-《事件記者と捜査官》


 町外れにある小規模な自動車部品工場の鉄扉から、「ガンガン」という鈍い音が何度も響く。その音の正体は、中から誠二が鉄扉を蹴る音だった。

 誠二は息を切らしながら悔しそうに言う。


「 くそっ! 開かない! 」


そんな誠二を遠目に見て、神崎はため息をついた。


「 分厚い鉄扉が人力で壊せるわけないですよ。犯人の女が言っていたように、ここで助けを待つしかないですって 」



時は遡って30分前。

黒ローブの女は無力化した誠二たちを前にして言う。


「 あんたたちには少しの間、仲間と連絡の取れない場所にいてもらう。(みさき)、丁度いい場所が近くにないか調べておくれ 」


彼女が声をかけたのは、まだ車にいる仲間のようだ。黒いミニバンの中から若々しい男の「 了解しましたっ! 」という声が聞こえてくる。

 そして、1分とかからずに次の声が飛んできた。


「 確認取れました! ここから5分の所に丁度いい廃工場があるそうです! 」


黒ローブの女はゆっくりと頷いて、仲間に聞こえるように少し大きな声で言う。


「 よし、それを使わせて貰おう 」


彼女は神崎の目を見て説明した。


「 安心しな。無事にアジトまでカネを運べたら、警察の仲間に連絡をいれてやるからね 」


すると、どこからともなく、神崎と黒ローブの女の間にボルゾイのような顔をした白い悪魔、ラキアがひっょこりと割り込む。

 ラキアは驚いたような高い声で黒ローブの女に言った。


「 え〜ホントにいいの? それだと、連絡の場所とタイミングによっては電波辿られて捕まっちゃうんじゃない? 」


突然の事態に黒ローブ二人組はしばし沈黙するが、沈黙の後、ライフルを持った男はすっとラキアを後ろ手に縛り上げて言う。


「 ……救済者様。こいつはどうしますか? 」


黒ローブの女は白い悪魔を頭から足までゆっくり観察して、ライフルを持った男に答えた。


「 警察、ではなさそうね。無害そうだし、その辺に捨てておきなさい 」


男は「 分かりました 」と一つ返事で応答して、ラキアを連れて歩き出す。


「 ええ!? ちょっと待ってよ!? ねぇ! 」


 ラキアは必死な声でライフルを持った男に呼びかけていたが、特に気にされることもなく連行されていった。

 誠二は冷たい視線をラキアの方に向けながら呟く。


「 何がしたかったんだアイツは…… 」


神崎も「さぁ?」と首を傾げた。

黒ローブの女もラキアに調子を狂わされた様子だったが、思い出したように誠二たちに言う。


「 しかしまぁ、あの生き物が言っていたことにも一理あるね。連絡はなしだ。 代わりにお前たちの車を工場の前に置いていってやろう。お仲間が前を通れば直ぐに助けてくれるさ。それまでここで大人しくしてるんだね 」



誠二は眉間にシワを寄せて神崎を怒鳴った。


「 パトカー1台外に置いたからって助けなんて来るわけないだろ! ここをどこだと思ってるんだよ!頭ん中お花畑か! 」


彼が言うように、この街では処分費用を懐に入れるために公務員が不法投棄を行う例は多い。無人のパトカーがあっても緊急事態だと思う人は少数だろう。

 神崎は口を尖らせて誠二に言う。


「 助けが期待できないからって壊れない扉を蹴り続けるんですか? 体力の無駄ですよ。ね、ラキアちゃん 」


神崎の横にいつの間にかいるラキアも神崎に同意した。


「 そーだよ、誠ちゃん。ポジティブに考えようよ。ここは電気も水も来てるし、非常食もおいてあったよ。暫く暮らすには問題ないって 」


誠二は更に声を荒くして怒鳴る。


「 元はと言えばお前が余計なことを言うからこうなったんだろうが! 何平然と入ってきて我が物顔してんだよ! 責任とってここから出せよ白毛玉! 」


ラキアはやれやれと両手をあげて言った。


「 もう、誠ちゃんは短気だなぁ。仕方ない、出るのを手伝えばいいんでしょ? 」


それから、前と同じくブラックホールを開いて、そこから横幅3メートル、高さ2メートルほどもある黒い道具を引き摺るように取り出す。麺棒のような棒が平行に2つ重なったそれは、製麺機のようだった。

 ラキアは誠二に説明する。


「 これで誠ちゃんの身体を厚さ2センチ未満にすれば、あそこの通気窓から簡単に出られ…… 」


そして、説明の途中で誠二に工場の奥へと殴り飛ばされた。


「 ぐぶふっ!? 」


床に落ちて伸びているラキアを一瞥して、誠二はため息をついて頭を抱える。


「 こいつに頼った俺が馬鹿だったよ。神崎の言う通りだ、ここで暫く待とう。運が良ければ助けがくるかもしれない 」


神崎は満足げにコクリと頷いた。

その時、鉄扉の向こうから騒がしい声が聞こえ始めた。神崎は目を丸くして首を傾げる。


「 あれ?外が急に騒がしくなりましたね? 何かあったんでしょうか? 」


最初は小さく内容も聞き取れない声だったが、次第にそれらは大きくはっきりと聞こえてきた。


『 私の下着を返せ! この泥棒! 』『 それよりカメラを渡しなさいよ! お風呂の盗撮なんて最低よ! 』『 私は胸を触られたわ! 』


そして、その声が最高潮に達する少し前に、目の前の鉄扉が外から開かれる。

 息を切らしながら入ってきたのは細い青縁のメガネを掛けたナチュラルマッシュヘアの男性だった。男性は扉を閉めると息をついて額の汗を拭う。


「 ふう、危うく捕まるところだった。だが、ここまでくればもう安心だな 」


誠二は彼の背後に立って無表情で言った。


「 そうだな 」


男は誠二の声に驚いて後ろを振り返り、慌てた様子で聞いた。


「 げっ! 誠二!? それに栞ちゃんも!? なんでこんなところにいるんだよ!? 」


誠二は冷たい目を男に向けて言葉を返す。


「 それはこっちのセリフだ、大和。また下らない事をして、人に追われているのか 」


ひどい言葉を返されたメガネの男は誠二に人差し指を向けて怒鳴った。


「 またってなんだよ! 僕は何もしてないよ! 」


彼の名前は松崎大和(まつざきやまと)。誠二の知り合いの事件記者で、『 そういう事件 』の常習犯である。

 工場の奥から歩いてきた神崎は呆れ半分に、大和の胸元からピンク色のブラジャーをつまみ出す。


「 言い訳なら、この女性下着を隠してからしたらどうですか? 」


大和は焦ってブラジャーを取り返そうとするが、神崎に(かわ)されて、勢い余って床に倒れる。そして、倒れた拍子に肩掛け鞄の口が下を向き、そこからボロボロと下着姿の女性の写真が(こぼ)れた。

 誠二はため息をついて大和を見下ろした。


「 相変わらずだなお前は。だがまぁ、今回は良いところに来た。協力しろ 」


大和は誠二の顔を見上げて尋ねる。


「 協力したら見逃してくれる? 」


誠二は無表情で返した。


「 だめ 」



 工場を抜け出した誠二は、工場の目の前に停めてあったパトカーの運転席乗り込み、刺さったままのキーを回してすぐにエンジンを掛ける。

 今すぐにでも発進するという勢いに、神崎は慌てて助手席に乗り込み、大和も滑り込むように後ろの席に飛び込む。誠二は神崎と大和が乗り込むと有無を言わせずアクセルを強く踏み込んだ。

 突然の発進で神崎と大和は座席に押し付けられ、神崎は驚いて誠二を止める。


「 ちょっと先輩!? 先輩って免許持ってましたっけ!? 」


誠二はアクセルを踏み込んだまま答えた。


「 持ってない 」


大和は目を丸くして誠二に言う。


「 まじかよ!お前、今すぐ僕か栞ちゃんに運転代われ! 事故るぞ!? 」


ただ、誠二は何故か余裕の態度で返した。


「 心配するな、レーシングゲームは得意だ。それより、奴らの目撃証言があったのはこっちで合ってるよな? 」


大和は運転席に縋りついて怒鳴った。


「 合ってるけども!! あってるけども! 無免許運転は止めよう! ほんと危ない! なんでそんなに焦ってるんだよ! 」


 怒鳴られた誠二は、前を睨んだままため息をついて大和に聞いた。


「 ……15年前の事件を覚えてるか 」


唐突な問いかけに大和は困惑するが、普段の習性からか彼は素直に答えた。


「 ん? ああ、勿論だよ。『警察官集団銃乱射事件』だろ。僕の父もあの事件で殉職したんだ。忘れるわけないよ 」


そして、知っていることの証明として事件の概要について説明する。


「 町長の神酒昌太郎(みきしょうたろう)の街頭講演会で警備をしていた警察官6名が周囲の人間を突如として発砲。駆けつけた警官によって全員射殺された。そして、警官達を射殺した警官も自らの頭を銃で撃って自殺した 」


説明を終えた大和は再び誠二に尋ねた。


「 って、その事件が今の暴走に関係あるのかよ! 」


誠二は大和に言う。


「 お前はおかしいとは思わないか? 」


言われた大和は頭を掻きむしる。


「 いや、何が!? 僕の話聞いてる!? 」


誠二はそんな大和を無視して説明した。


「 事件に関わった警官達は事件後に素行や素性を調査されたが、彼らの誰にも問題は見つからなかった。あの事件のとき《だけ》全員が急に《発狂》した。誰かに《操られた》みたいにな 」


説明された大和はようやく誠二の意図を理解したが、哀れむような目で誠二を見つめた。


「 つまり、事件を仕掛けた人間がいるっていうのか? 馬鹿馬鹿しい。あそこにいた警官達は当日に急遽集められたんだ。前もって洗脳なんてできないよ! 」


誠二は前を見たまま呟く。


「 そうだな。《その場で人を操る術》でもない限り不可能だ 」


大和は渋い顔をして言葉を返そうとするが、それを止めるように激しいブレーキ音と衝突音と共に車が急停車する。

 止まった場所はシャッター街と化した商店街だった。商店街には数十分前に見たミニバンが乗り捨てられている。

 瞬きを繰り返す大和に誠二は言った。


「 とにかく、今は犯人逮捕だ。そうすれば全てが分かるはずだ 」



《 つづく 》

<次回予告>


アルバイター麺子の壊滅的な料理の腕が判明し、仕方なく調理場に立つ佐藤。しかし、当然のように常連客から厳しい評価を下されてしまう。更に常連客の一人から1週間後にライバル店が来ることも知らされ、佐藤は慌てて対策を始めるが……?


「 老舗ラーメン繁盛記 」第2話

「 いきなりの大ピンチ!? いざ料理修行! 」

次回もお楽しみに!

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