殺しの理由
-26-《殺しの理由》
「………ざけんなよ! ためしで人殺しなんて、何考えてんだ! 」
しかし、囁きは不敵に笑う。
「ふふ、私が殺人をしたという証拠が何処にあるんですか? トラック運転手や他の人間が私を見た、とか? 」
そうだ、証拠なんて何処にもない。誰にともなく囁いた言葉で人を殺した、なんて、誰が信じるというのだ。
「………くそっ! 」
誠二は悔しそうに拳銃を下ろす。
囁きは言った。
「それに、彼の死を望んだのは私ではありません。私は悪魔、契約がなければ何も出来ぬ存在………頼まれたからやったのみですよ」
神崎は怒りを隠せぬ顔で声を荒げる。
「誰がこんな酷いことを依頼するって言うんです! 人間がこんなことを依頼する訳がない! 」
囁きは答えた。
「依頼者は死んだ彼と同じ学校に通う生徒ですよ。彼が椅子に座って勉強してるのがとにかくうざくて、仲間と遊んでても楽しくない、殺して欲しいと頼まれて、彼の寿命十年と引き換えに依頼に応えました」
神崎はそれで少し笑顔になる。
「分かりやすい嘘ですね、やっぱり依頼者なんていないじゃないですか。そんな馬鹿みたいな理由で、人が人を殺す訳がない」
だが、誠二はそっと神崎に語り掛けた。
「………もし、理由も分からず気にくわない奴が側にいて、もし、それが処罰の対象にならない自分達にとってだけの悪で、もし、自分にとってその代償が小さかったなら。頼るやつは必ず出る」
神崎は「そんな」と小さな声を漏らす。
「じゃあ、頼る人間が悪いって言うんですか? そんなに悪い人間がこの世界にいるって………」
誠二は首を振った。
「いや、悪い人間がいるんじゃない。人間は弱い生き物だから、多くの人間はそういう心を持ってるもんだ」
そして、こう続ける。
「ただな、そんなときに《殺し》を楽に行ってくれるこいつさえいなければ、人間はそれを思いとどまる、それだけだ」
悪魔の耳元でなる拳銃の金具の音。
悪魔は楽しそうに笑った。
「私がいなければ事件は起きないと? 貴方は本気でそんなことを思ってるんですか? 」
誠二は強い意思のこもった言葉を発する。
「ああ、そうだ。だからこの町は、あの事件まで平和だった。そうだろ? 」
囁きは静かに人差し指を誠二の鼻に向けた。
「なんてお門違いな。 私がいなくとも犯罪は起きます。平和だなんて、周りを見ていない馬鹿の戯れ言ですよ」
誠二も人差し指を立てて彼女を指差し返す。
「じゃあ囁くのを止めろ、そうすれば犯罪が起きるか起きないかなんて一目瞭然だろ」
すると、彼女は少し不機嫌そうに指を下ろして言った。
「それは………彼に聞いてみないことには出来ません。まだ賭けの最中ですから」
誠二は彼女に提案する。
「その《彼》ってやつに聞いてみろよ。駄目なんて言ったときは俺がそいつをしばいてやる」
自信に満ちた言葉。
そして、その後ろから響いたのは、
「別にいいよぉ~? 」
という気の無い返事。
誠二も神崎も驚いて振り返った。
彼らが見たのは、最早見慣れてしまった白い悪魔、ラキアである。ラキアはいつもの調子でケタケタと笑いながら、囁きに話しかける。
《つづく》
<次回予告>
神崎「悪い子はいねがぁ!」
八代「俺が悪い子だ!」
大和「僕も悪い子だ!」
神崎「実は私も悪い子だ!」
神崎・八代・大和「そっか、皆悪い子なんだね! じゃあ、皆の心は一つだ!皆で言おう!」
三人「光合成で生きていきたいっ!」
神崎「次回、絶対正義の植物忌憚、《二体の悪魔》。月曜日に悪魔は巣食う!!お楽しみに!」
<頑張らない>




