三人連れ
-24-《三人連れ》
マリンツリービル。
それはこの町と、外との狭間にある高層ビルの名前である。ガラス張りの外装はこの町には異質な程都会で、中にいる人間たちも、自分達とはまるで異質なものであると感じるほどだ。
二人きりのエレベーターで、神崎はなんだか急に不安になってくる。
「本当にここ、ですよね? 間違ってたら、私たちどうなるんでしょう………。入り口のセキュリティゲートで警察手帳も見せちゃいましたし………」
誠二は神崎の肩に何度か手を下ろして、笑った。
「ま、その時はその時さ。最悪なら俺に無理やり連れてこられたって言えば問題ねぇよ」
その言葉に、神崎はゆっくりと肩の強ばりが抜けていくのを感じる。
「はは、そうですよね。先輩の過去の過ちを語れば、私の小さな過ちなんて霞みますよね」
本当に誠二を身代わりにするつもりなんて毛頭ないが、神崎は笑顔を作って頷いた。やっぱり、自分にとって誠二は大きい存在なのだろう、今もそれをはっきり実感する。誠二は神崎に笑顔を返した。
「そうそう。前科十数犯の俺の方が疑われて捕まって刑務所で一生を終えるって………あれ、目から汗が………」
その表情は微妙にひきつっていたけど。
神崎はこれから開くだろう扉の方に顔を戻して言う。
「そういえば、警察権威なんて無いにも等しいこの町で警察手帳が通じたんです。なにもないってことはないはずでしょう」
誠二はしょぼーんという顔をして、同じように扉を見つめた。
「蛇が出るか、竜が出るかってとこか」
そして、扉が開くとそこには………。
「よっ! 」
松崎大和がいた。
神崎はすかさず彼の背後をとって手錠を掛け、誠二はそんな彼の写真を撮る。
「13:20、不法侵入で逮捕」
大和は思わず大声を上げて、
「ちょっとぉおおお!? 」
仁王立ちする二人に説明した。
「なんで!? 不法侵入なんてしてないよ! 僕、記者クラブのツテで入れてもらっただけだからね!? 」
二人は顔を見合わせる。
誠二は神崎に聞いた。
「本当だと思うか神崎。俺は確実に黒だと思うが」
神崎は顎に手を当て、冷静に分析する。
「五分五分ですね。彼の記者としての実力は確かですし、主張自体はあり得なくはないです。でも、不法侵入と窃盗の前科もありますから、そっちの可能性も残ります」
誠二はひとつ頷いて大和の方に向き直った。
「とりあえず持ち物検査して、なにも出なかったら解放しよう」
大和は安堵の息を漏らす。
「そーそ、冤罪は良くないよ! 」
だが、その10秒後。
「………おい、これは何だ? 」
彼の上着からはピンク色のブラジャーが現れた。大和は瞬きを何度かして口を開く。
「え? 僕が趣味で買ったのだけど? お前が盗むのは良くないぞ~って言うから」
神崎は無言で目をそらした。
「タグ付いてますし、本当に新品みたいです………先輩」
誠二も、ドン引きしつつ、ブラジャーを彼の上着に戻す。
「まじか………なんかごめん」
大和はそれをぐいと奥にしまい直して、鼻を鳴らした。
「ま、僕くらいになると、人の助言はちゃんと聞くってこったな。よぉく覚えておいてくれよ」
まぁ、二人は無視して既に廊下を進んでいたけれど。誠二はある部屋の前に立ち止まって、神崎に目配せをする。
「ここだ」
神崎は頷いて、スマホを何度か触ると、それを本来カードキーをかざす場所にかざしてみせた。そして瞬間、かちゃりという音と、神崎の声。
「開きましたよ」
誠二は笑顔で頷く。
「持つべきものはサイバー対策科の友人ってか」
最早サイバー対策どころか、サイバー犯罪科と成り果てているあの部署が役に立つときがくるとは、全くいい時代になったもんだ。
神崎は誠二の目をちらりと見てから扉を開ける。
《つづく》
<次回予告>
八代「最近のマイブームは64、そろそろRTA動画に挑戦しようと思ってる八代誠二だ」
神崎「今も昔もわんちゃんブームの真っ只中!今は大型犬が欲しい、神崎栞です」
大和「パンティとブラジャーは蜜の味、松崎大和だよ!」
八代「今回は三人でやっていくらしい。だから、いつになくスペースがないぞ」
神崎「三人の方が会話のレパートリー増えるんですけどね~」
大和「そうそう!字数制限が僕たちの可能性を潰してるよね!」
八代「いやいや、考えてもみろ神崎。こいつと俺たちの会話はワンパターンだぞ」
神崎「そうですかね………ええと、松崎さんが変態発言して、先輩が私に声を掛けて………」
八代「神崎が大和を捕まえる。こんな感じじゃないか?」
神崎「ああ、確かに!」
大和「………次回、絶対正義の英雄忌憚《悪魔は笑う》。お楽しみに」
<つづいてく>




