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過去の声

-22-《過去の声》


 今回のことだけで言えば、大和はとても役に立ったと言わざるを得ない。なぜなら、彼が書いた記事のお陰で、あの後、篠田は《外》の警察に捕まり、全てが解決したのだから。誠二はやや嫌な気分になりながらも、まだ暖かいコーヒーの缶を差し出して、彼を労った。


「まぁ、今回は感謝しとくよ」


二人がいるのは、誠二の自宅である。

大きめのソファーベッドに腰かけていた大和は、立っている誠二から缶を受け取ってにこりと笑った。


「感謝なんてらしくないじゃないか。もしかして栞ちゃんの事、気にしてんのか? 」


誠二は彼のその言葉で思わず眉間に皺をよせる。そして、彼は胸になにかがつっかえたような声で問いかけに答えた。


「俺が行けなかったのは事実なんだ。気にしてない訳がないだろ」


だが大和はといえば、先程渡されたコーヒーの詮を開くと、からかう様な調子で誠二に言う。


「ほーん、お前にそこまでの責任感があるとはねぇ。それともあれか? 俺の栞ちゃんに近づくなってやつ? 」


誠二は大和の横で大きな音を立ててソファーベッドに倒れ込むと、大和を足で攻撃した。


「正直お前には本気で近づいて欲しくないが………別にそういうことじゃない。俺にはあいつが必要だし、あいつには俺が必要なんだよ」


大和は「いてっ」と小さな悲鳴を上げてから、すぐに誠二の足を手で退ける。彼は先程の笑顔をやめて、少し顔を真面目にすると、誠二に言った。


「それって僕が言ったことと何か違うわけ? まぁいいや。僕はあの記事で新聞社に復帰できたし、儲けた金で新しいカメラも買えちゃったし、満足満足」


誠二は短くため息をつく。


「そーかそーか、クビになるまでの期間をせいぜい楽しめよ」


そんなとき、大和から見て右手にある引き戸を開けて、誰かが入ってきた。


「あれ? 兄貴取り込み中? 」


それは黒縁眼鏡を掛けた、ボサボサ髪の女性。彼女は崩れたパジャマを気にする様子もなく、誠二に聞く。


「煩くしたら不味い? 」


誠二は上半身を起こして首を横に振ってから、今度は彼女に問いかけた。


「いや、こいつは気にしなくていい。それより、なんかやるのか? 」


彼女は右手の人差し指を顎の辺りに当てて、「うーん」と小さく考えた後、何かを諦めたように、低いトーンで言う。


「うん、明日休みだし、久々に徹ゲー(徹夜ゲーム)でもしようと思ってさ」


その答えに誠二はすぐ深いため息を着いた。しかし、


「はぁ、お前って奴は本当にどうしようもないやつだな………そういうのは兄ちゃんも一緒にやるって言ってるだろ! 」


彼が発した言葉は、大和が期待してた答えとはなんとなく違ったので、彼は耐えきれず声を上げる。


「いや、止めろよ! 真子(まこ)ちゃんも、そんなことしてないで寝なさい! 夜更かしばっかりしてたら、ろくな大人になれないよ! 」


ただ、それに対して八代真子(やしろまこ)は明らかに白い目を向けて呟いた。


「ろくでもない大人に言われてもなぁ」


大和は自分の片胸を両手で押さえて叫ぶ。


「心が痛いっ!! 」


まぁ、誰にも相手にされなかったが。

誠二はそんな彼を興味なさげに見てから、思い出したように聞いた。


「そういえば、例の件は調べてくれたか? 昨日頼んだやつ 」


聞かれた大和は、なんだか少し怒ったような表情を浮かべて答える。


「はぁ? 昨日の今日でやれなんて無茶だろ! 僕にだって仕事があんだぞ、分かってんのか!? ほら、これ資料! 」


文句を言いつつ、いつもの通り資料を揃えてくれたようだ。誠二はその資料を受け取って、直ぐに目を通す。


「サンキューな」


真子はそんな兄の手元を覗き込んで、首をかしげた。


「10年前の事件資料って。兄貴、もしかして(あきら)の事件調べてんの? 」


妹の質問に兄は首を振る。


「いや、これは別件だ」


そして、兄の横に座った大和も、コーヒーを一気に飲み干して真子に説明した。


「まぁ、10年前には違いないが、あの事件より少し前の事件、いや、事故って言った方が適切だな。これは10年前に起こったトラック運転手の死亡事故の資料だよ。たしか、君と八代も現場にいたはずだけど」


真子は彼の説明に、どこか納得がいかないように「ふーん」と気の無い言葉を返す。


すると、誠二は顔を上げて大和の方を見て言った。


「いや、あれは事故じゃなかった」


大和は少し困惑したように幾度か瞬きをする。


「はぁ? 何言ってんだ、お前。これは運転手の余所見が原因の事故だって書いてあるじゃねぇか。とうとう日本語読めなくなったのか? 」


誠二は大和の腹に軽く拳を叩き込んでから、仕方なさそうに説明した。


「お前じゃあるまいし、日本語くらい読めるよ。俺はこの資料に情報が《抜けてる》って言いたいんだ」


妹はテレビの前に置かれた平べったいゲーム機の電源をつけながら、兄に聞く。


「抜けてるって? 誰か別の人がわざと事故を起こしたっていうの? 」


兄はこくりと頷いた。


「そうだ。あのとき、あそこには俺とお前以外にもう一人いたんだ。ご丁寧に姿を隠して、な」


大和は空き缶を自分の横において、息を飲む。


「そりゃあ、いったい誰だ? 記録には何処にもそんなの書いてなかったぞ? なんで隠した? 」


誠二はゆっくりと息を吸って吐き、大和の問いかけに答えた。


「隠したんじゃない、誰も信じなかったんだよ。まぁ、そりゃそうさ、ガキが《悪魔を名乗る声》を聞いたなんて言ってもな」



《つづく》

<次回予告>

大和「いや今回は八代の家庭事情が明らかになっちゃったなー。皆、僕の自宅も見たい?見たい?」

真子「ウザイ」

大和「……さいですか」

真子「おっさんの自宅なんて誰も興味ないって、つーか、兄貴の自宅にも多分誰も興味ないから」

大和「世の中の無関心が怖いっす」

真子「そっちにあまり関心持たれても困るけどね。次回、絶対正義の英雄忌憚、《宗教団体と囁き》。見てくれると嬉しいな」

大和「ついでの僕の自宅も見て!」


<つづく>

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