起きたら異世界、そして魔法少女
「……?」
目が覚め、あたりの様子を見るとおかしい。
卓人は昨夜、ホテルのベットで寝ていたのだ。
だが、卓人は今、森の中にいた。
「……は?」
意味が分からない。状況が理解できない。なぜ自分は森で寝ているのだ。誰かに誘拐されたのだろうか。
「コーチか?それともマスコミか?なんかのテレビ番組か?」
ドッキリ企画かと思いあたりにカメラがないか探すが、それらしきものは見当たらない。
「何なんだよ、見えないくらい遠くのカメラで撮ってるのか?でもだからってこんな森に置き去りにするほど頭おかしいテレビ局なんてさすがにねえだろ。あったら訴えてやるレベルだぞ……あ」
卓人は、昨夜に見たサイトの事を思い出した。
「そういや、異世界がどーたらって書いてあったっけ?なんだ、まさかあれのせいで異世界に飛ばされたっつうことか?」
卓人はスマホで確認しようと、ズボンのポケットをまさぐるが、見つからない。
「あー、枕元に置いておいたんだな……なんだ、俺手ぶらじゃん、マジかよ」
卓人の今の格好は、寝るときに着てた長袖長ズボンの黒いジャージだ。「Butterfly」というロゴがついている。持ち物は何もなし。財布も携帯も、食料ももちろんない。
「あー、喉乾いた、くっそ、買う金もねえよ、どうすりゃいいんだ……」
卓人は途方にくれ、しかしこのままでいるわけにも行かず、歩いた。
それから1時間ほど歩いたころだろうか、卓人の腹の虫が騒いでいる。
「あー腹減った、喉乾いた、もう嫌だ」
外は無駄に暑く、汗もダラダラだ。進んでも進んでも森の出口は見えない。
「本当にここは異世界っつうのかよ。昨日のあのサイト、ホントに異世界に連れてってくれるのかよ」
サイトには『新しい人生を異世界で始めませんか?』と書いてあったが、卓人はまだ人生に未練がある。異世界なんかで遊んでいる暇はない。
「あー、来年こそ水谷選手に勝つために練習したかったのによ、どうしろっていうんだよ、あ、そういえばあのサイト……」
昨日のサイトに何か書いた事を卓人は思い出す。
「確か、名前と職業ってのがあったっけ、確か、魔法少女って書いたよな。でも俺は俺だし、昨日と変わらねえぞ」
股間にブツはついているし、体や骨格も卓人のものに違いない。
「ん?」
卓人は自分の体をまさぐっていると、ズボンのお尻のポッケに何かが入っているのを見つけた。
「なんだこれ、腕輪?」
表が赤、中が黒に輝く輪っかのブレスレットのようなものがポケットには入っていた。卓人はとりあえず左手につけてみた。
「異世界特典って奴か?これボタンか」
ブレスレットにはボタンがついており、卓人はそれを押してみた。すると、
「な、なんだなんだなんだ!?」
卓人の体は光り出した。
卓人は自分の体が変形されるような感触を覚える。骨格や顔の形が変化しているのだ。
そして光はやみ、卓人は自分の体を見てみると、
「な、なななんだこれ……!?」
赤のワンピースに、胸元には黒のリボン。足元は黒のロングソックス。そして頭には黒の尖がり帽子。帽子の下は赤の髪の毛が隠れている。左手にはホウキが握られていた。
さらに、卓人の胸は膨らみを帯びている。いや、胸元だけではなく、体全体が丸みを帯びている。卓球によって鍛えられたゴツゴツした体は跡形もなく消え、まるで女性のようになってしまった。
「いや、これ女だよな!?まさかこれ、ま、魔法、少女か!?」
そう、卓人は魔法少女になっていた。
そして、右手には、おかしなものが握られていた。
「ラケット?」
表面に赤、裏面に黒のゴム製のラバーが張られている木造のもの。それはまさしく、卓球のラケットであった。