男装女子の苦悩
私、光原美緒は、男装が趣味の女子だ
学校では、普通に女子っぽくしているが
休みの日には、男装をして街を歩いている
女の子からの視線が集まると嬉しくなる
でも、恋愛対象は、断然、男だ
男装をするのは、あくまでも趣味の範囲だ
両親からは、理解を得られているし、寧ろ
凄く 褒めちぎってくれる
母親に関しては、男だけの事務所に
履歴書を送ろうとした始末だ
まぁ、止めたけどあの時は、本当に焦った
父親は、キャッチボールやサッカー、バスケなど
息子が出来たらやってみたかった事を一人娘の私に
休日になると誘って来る
息子が出来たみたいだと嬉しがっている
しかし、学校では、理解を得られない可能性が高い
だから 私は、バレないように必死なのだ
クラスのリーダー的存在の女子数人が男装女子に
苦言を申し出ているのだ
男装女子の私にしたら 登校拒否になるぐらい
酷い内容なのだ
そんなある日、クラスに転校生が来た
低めの位置でツインテールにしている凄く可愛い子だ
「金山 瞳です 宜しくお願いします!」
緊張しながらも自己紹介を済ませ空いている
私の後ろの席に着いた
「宜しくね!瞳ちゃん 私は、光原美緒」
私は、笑顔で瞳ちゃんに挨拶をした
瞳ちゃんも笑顔で挨拶をしてくれた
「次の授業は、音楽だから一緒に行こう」
私は、瞳ちゃんと一緒に音楽室に向かった
「今日の放課後空いてる?もし、良ければ
私が校内案内してあげる」
私が 提案すると瞳ちゃんは、喜んでお願いをした
放課後になり、私と瞳ちゃんは、一緒に校内を
歩いていた
今日は、部活がある日なので瞳ちゃんに
何の部活動があるのか説明をしながら見学をした
最後は、体育館で男子バスケ部を見学する事になった
「美緒ちゃんは、何の部活に入っているの?」
「私は、帰宅部なんだ 帰ってすぐに男装の研究を」
私は、失言に気がつき 大慌てで言い直した
「帰ってすぐに勉強とかしないとね!そう勉強!」
焦る私に瞳ちゃんは、不思議そうにしながらも
真面目なんだねと褒めてくれた
女の子の歓声を背に見事にシュートを決めた
同じクラスの一ノ瀬 拓也が他の男子と抱き合い
喜びを分かち合っていた
拓也は、私の初恋の人
付き合えたらいいなと思ってる
「ねぇ、美緒ちゃん もしかして 一ノ瀬君の事が
好きなんじゃない? 顔に書いてあるよ」
瞳ちゃんに指摘されて私は、動揺した
「そんなんじゃないよ!それに仮にそうだとしても
どうせ私なんか相手にされないから!
瞳ちゃんなら付き合えたりするかもだけど…」
瞳ちゃんは、私の頬を優しく両手で包んだ
「美緒ちゃん そんな悲しい事言ったらダメだよ
女の子は、誰でも可愛くそして綺麗になれるんだから
それに美緒ちゃんは、充分、可愛いから!」
瞳ちゃんの真剣な眼差しを受けた私は、何故か
自信を持てた気がした
「ありがとう 瞳ちゃん 私、頑張ってみるよ」
私は、瞳ちゃんに応援されながらも
拓也に毎朝、挨拶をするようになった
初めは、挨拶だけだったけど今は、会話を
するようになった
拓也は、男子からも女子からも好かれる奴だった
だけど 私は その時、拓也と話せた事に
浮かれていて 女子数人からの視線に
気がつかなかった…
「ねぇ、あんたさー 最近、拓也と話したりして
馴れ馴れしいよね」
「どんなに 頑張って 媚び売っても
拓也は、あんたの事なんか 眼中にないから」
「そうよ!あんたみたいな奴 相手に
されるわけないじゃない!」
体育館の倉庫裏に 拓也の取り巻きから
呼ばれて一方的に言われ放題だった
私は、特に反論もせずに黙っていた
それが気に食わなかったのか 取り巻きの
リーダー的存在に ビンタされそうになった
…がしかし、痛くはなかった
驚いて顔を上げるとそこにいたのは、
拓也だった…
「何で?拓也が!私の事なんかを
守ってくれるの!?」
拓也は、私に背を向けながら私を安心させてくれた
「何でって…そんなのお前が好きだからだよ」
その言葉で拓也の取り巻きの子達は、
驚いた顔をしたが馬鹿じゃないのと
捨て台詞を吐いて逃げて行った
私は、ビンタされずに済んだのと拓也が
守ってくれたのと拓也に告られた事によって
腰を抜かしてしまった
立てなくなった私と同じ目線でしゃがみ
頭をポンポン優しく撫でてくれた
「俺のせいでごめんな あいつら 本当、勝手だよな
でも、もう、お前に手出しさせねぇから」
そう言われ何故だか涙が出た 涙は、止まらなかった
「大丈夫か!?よしよし、怖かったな
もう、大丈夫だからな!」
拓也は、私を優しくでも、力強く抱き締めてくれた
あれから拓也と付き合う事になった私は、
瞳とも相変わらず仲良くやっていた
「美緒、良かったね!念願の拓也君と
付き合う事になって 私、安心したよ〜」
「瞳のお陰だよ!私、あの時、瞳に
背中、押して貰わなかったらきっと
拓也と付き合えてなかったと思う
だから 瞳には、本当、感謝してる
ありがとう 瞳 これからも 仲の良い
大親友でいて下さい!」
私達は、少し、涙を浮かばせながら握手をした
でも、こんな幸せは、長くは続かなかった…
ある日、いつもの様に拓也と学校に行くと
瞳が 慌てて私の方に走り寄って来た
「美緒!大変だよ!ちょっとこっちに来て!」
瞳に引っ張られながら辿り着いたのは、
学校の行事予定の紙などを貼る為の掲示板に
私の隠し撮りされた男装写真が貼られていた
その写真には、私の名前と悪口が書いてあった
その写真を見ようと多くの生徒が群がっていた
私は、その写真を急いで剥がした
震えが止まらなかった
瞳は、私を優しく抱き締めてくれた
『誰が盗撮して貼ったんだろう…それに
なんで男装してるのに私だって分かったんだろう』
私は、そればっかり考えていた
周りの生徒達は、私の方を見て悪口を言っている
「男装なんてやだね」 「瞳 狙われるんじゃない?」
「男装するなんて普通じゃねぇよな」
私の趣味の男装に何も知らない人達が自分達の
価値観をぶつけ合っていた
男装したって心は、女の子のまま
男装は、ただの趣味
男装すると自分が別の人間に なれたような気がする
気持ち的にも 強くなれた気がする
私は、きっと拓也が反論してくれると
本気で思っていた
でも、それは、大きな間違いだった
「ごめん…俺、理解出来ない 美緒とは、もう
付き合えない 本当にごめん」
私は、大勢の生徒達の前で振られた
私は、それよりも拓也に拒絶されたのが
ショックだった
私は、瞳と教室に戻ってからも
クラスメイトから白い目で見られた
耐えられなくなり、教室から飛び出した
瞳だけが私の後を追いかけてくれた
私の足は、自然と屋上に向かった
「来ないで!もう、こうするしかないの」
私は、低い柵を乗り越え屋上の淵に立った
瞳は、黙って私を見つめるしかなかった
「美緒…私は、美緒が男装してたとしても
友達だよ!だって 男装なんて趣味でやってるのに
何で 何も知らない周りの人達が 人の趣味に
口出すの?それっておかしいよ…それに
美緒が 男装してたのカッコ良かったもん
拓也君なんか目じゃないよ!あんな男、
別れて正解だよ!だから こっちにおいで?」
瞳に優しく諭され私は、もう一度、柵を越えて
瞳の方に駆け寄った
瞳は、わたしを力強く抱き締めた
「馬鹿!死ぬなんて考えちゃ駄目!
確かに 死にたくなる事もあるよ でも、
死んだら何も出来ない 何もやり直せない
だから 生きて 生きてみんなを見返すの!
それに 盗撮して 掲示板に貼った犯人を
見つけていないんだしさ!私と一緒に
犯人を見つけよう?」
「さっきは、ごめんね…心配かけて」
私が謝ると瞳は、まだ、目に涙を浮かばせ
ながら困ったような笑顔を見せた
「本当、びっくりしたよ…それに凄く
悲しかった…何であんな事したの?」
瞳に聞かれ私は、素直に答えた
「あのね…わたしは、男装が趣味なの
でも、心は、女の子 男装をすると
強くなれた気がするし、別の人間に
なれた気がして楽しいの だけど他の子から
あんなに拒否されたら やっぱり、傷つくよね」
「そうだよね でも、だからと言って
死ぬなんて止めてね」
瞳からもう一度、お願いされ私は、決して
瞳を悲しませないようにしようと心に誓った
私達は、取り敢えず教室に戻り、
クラスメイトから 今日、朝早く
学校に来た人はいるか聞いてみた
「私、今日は、日直だから早めに来たよ」
三つ編みで黒縁眼鏡をかけたクラスで一番、
大人しい五十嵐 香織ちゃんだけが答えてくれた
他の子は、私を軽蔑した目で見ていた
その中には、拓也もいた
私は、何度も泣きそうになったが何とか耐えた
「もしかして 掲示板の前で誰か見なかった?」
私が聞くと香織ちゃんは、首を横に振った
「ううん 誰も見なかったよ 写真なんか
貼ってもいなかったし…」
私は、香織ちゃんにお礼を言った
チャイムが鳴り、担任が入って来た
私が席に戻ろうとすると瞳が耳元で
『後で 香織ちゃんと話をしよう』
そう言って来た
短い休み時間になり、私達は、香織ちゃんを
教室から離れた廊下に呼び出した
「話って何かな?瞳ちゃん」
「朝の会の前に 美緒が香織ちゃんに聞いたよね
掲示板の前で誰か見なかったかって
そしたら香織ちゃん なんて答えた?
『誰もいなかった…写真も貼ってなかった』
おかしくない?」
私は、何もおかしくないよと
瞳に言ったが聞く耳を持たなかった
「それのどこがおかしいの?私は、
本当の事を言っただけだよ」
「まだ、気がつかないんだね…香織ちゃん
朝、あの場にはいなかったよね?
日直は、朝、早めに来て花の水換え
先生から日誌を貰う 先生から頼まれる雑用を
こなさなければいけない だから掲示板の前に
行く暇なんてなかった なのにどうして
写真も貼ってなかったって言ったの?
美緒は、一言も 写真なんか言ってないのに」
香織ちゃんは、凄く驚いた顔をした
私も 実は、驚いた 全然、気がつかなかったのに
瞳だけが その一言で 確信へと変わったのだ
「やっと気がついたみたいだね 香織ちゃん
なんでしょう?美緒を盗撮して 掲示板に
名前と悪口を書いた犯人は…」
香織ちゃんは、笑みを浮かべた
「あーあー バレたんなら仕方ないね
せっかく 字も誤魔化して書いたのにな
そうだよ 私が 美緒ちゃんを盗撮して
掲示板に貼ったの 朝早く学校に来た時にね」
私は、まさか 大人しい香織ちゃんが
そんな事をするとは、夢にも思ってなかった
「どうして?どうして そんな事を?
それに 何で私だと 気がついたの?」
私は、動揺しながら 香織ちゃんに聞いた
「私が買い物をしてる時に 丁度、
美緒ちゃんを見かけたの トイレに入る時は、
普通の女の子の格好だったのに出て来たら
男の子の格好になってて でも、バックと
靴は、変わってなかったから気がついたの」
香織ちゃんは、下を向き 不敵な笑みを浮かべた
私は、香織ちゃんに歩み寄った
「香織ちゃん…?」
香織ちゃんは、私を睨みつけた
「あんたを盗撮して悪口を書いたのは、
拓也君と別れさせる為!拓也君は、
男装女子を良く思ってないって 取り巻き達と
話してるのを聞いた事があったの
だから 男装したあんたを見た時は、
思わずスマホで撮影して専用のでプリントした」
「もしかして 香織ちゃんも拓也君の
事が好きだったの?私と別れさせる為に
そんな事をした… そんなの卑怯よ!」
私は、自分の想いをぶちまけた
「私は、拓也君に好かれる為に 凄く努力をした
いつも、男装で男の子っぽくしてるから
その癖が付いて 直すのが大変だった…
でも、拓也君と付き合えて本当に嬉しかった!
なのに…香織ちゃんにあんな事されて
拓也くんに振られて 凄く悲しい…」
香織ちゃんと瞳は、黙って私の話を聞いていた
「美緒が必死に努力してたのは、私が一番 知ってる
香織ちゃんも好きなら正々堂々と勝負しないと
そんな事してもし、拓也君と付き合えても
後でバレたりしたらお互い嫌な気持ちになるよ
きっと 後悔するはず…香織ちゃん 可愛いんだから
もっと 自信持って!」
瞳が香織ちゃんを励ました
「本当にごめんなさい!私、卑怯だよね…
そんな事しても 幸せにはなれないのに
その時は、そうするしか美緒ちゃんと
拓也君を別れさせられないと思ってた
でも、これからは 正々堂々と勝負するね!
美緒ちゃんの恋を邪魔してごめんね…
私も 瞳ちゃんに励まされたから
自信持って頑張るよ!」
私は、絶対に許せないと思っていたけど
香織ちゃんは、ただ、不器用なだけだった
だから私は、香織ちゃんが 幸せになれるように
応援するつもりだ もちろん瞳と一緒に
お昼ご飯になり、私と瞳と香織ちゃんで
屋上でお弁当を広げた
「まさか 私も一緒にご飯食べてもいいなんて」
香織ちゃんは、まだ、よそよそしかった
「何言ってるの!確かに香織ちゃんが
やった事は、許せる事じゃないけど
でも、不器用なだけだったんだから」
瞳も香織ちゃんを受け入れている
「これから 私達と一緒に 素敵な恋をして
彼氏を見つけようね!もう、私、吹っ切れたよ」
そう私が言うと香織ちゃんは、複雑な顔をした
「私も…吹っ切れた 実は、私、美緒ちゃんの
男装を見て初めて気がついた…私って
男装女子が好きかもって…でも、男の子の方が
好きだけど!だから 拓也君が美緒ちゃんの事を
振った時は、前まで好きだったのに急に
冷めてて…自分でもびっくりしたの
それが目的だったはずなのに」
私は、もう気にしないでと香織ちゃんに言った
「私は、彼氏作る気ないかな…彼女が欲しいんだ
美緒…付き合ってくれないかな?僕と…」
「何言ってるの?瞳…って 僕と?え?」
私と香織ちゃんが困惑してると瞳は、
自分の髪を ウイッグを外した
私達の驚きの声は、屋上に響いた
「瞳が男の子?何で今まで黙ってたの!?」
「瞳ちゃんが 男の子…つまり、女装男子!」
私と香織ちゃんが慌ててるのを見て
瞳は、面白がっていた
「ごめんね…美緒に近づく為に女装してたんだ
僕が 美緒を始めて見た時は、びっくりした
まさか あんなに可愛い子が男装をして
カッコ良くなるなんてって思った
僕も 女装が趣味だったから仲良くなりたいと
思って美緒がいるこの学校に転校して来た
美緒の恋を応援するのが辛かった
だって いつの間にか 美緒が好きになってたから
改めて言わせて下さい 僕と付き合って下さい 」
私は、自然と涙が出た
男装が趣味の私を好きになってくれて
しかも、自分の気持ちを押し殺してまで
私の恋を応援してくれるこんな素敵な相手
他にいない きっと後悔する
「はい…こんな私で良ければ お願いします!」
私と瞳は、握手をした
香織ちゃんは、自分の事のように喜んでくれた
放課後 私達は、仲良く3人で帰った
「瞳って本名?学校これからどうするの?
女装したまま 通う事にするの?」
「私も気になる!瞳ちゃん本当に可愛くて
男の子だなんて気がつかなかったよ!」
私達が気になる事を一気に言うと
瞳は、困ったようなでも、嬉しそうな
顔をしながら答えてくれた
「瞳は、本名だよ それが原因で
いじめにも遭ってたんだ だから転校するのに
両親にそれを言い訳にしたよ 両親もいじめの事で
学校に乗り込んだりしてたから 許してくれたよ
まぁ、両親に謝られたけどね
でも、僕は、この名前が好きなんだ
だって 両親が 僕の為につけてくれた
大切な名前なんだから 恨んだりしないよ
学校は、女装しないで行こうかなって
思ってるんだ 女装のままだと守るべき相手を
守りらづらいからね!」
「私も早くこんな素敵な彼氏を見つけられる
ように努力します!」
香織ちゃんがそう言い切った
私達は、お互いに幸せになろうと約束した
あの時、本当に死ななくて良かった
瞳が説得してくれたお陰で
今、私は生きている
生きてて良かったこんなにも
明るい未来が待っているんだから…