突然の襲撃後のこと
かすかな明るい光と、何やら騒がしい声で私は目を覚ましました。
「リオッ!!」
真っ先に飛び込んでこられたのはエド様とエマ様でした。私はお二人の体温を感じながら、まだぼーっとする頭でお二人の背中を撫でております。あれから気絶してしまった私は、医務室に連れてこられたようです。段々と頭がはっきりとしてきて、魔物の襲撃のことを思い出しました。
「…………魔物は…………魔物の残党たちはどうなったのです!?」
「そんなこと心配しなくてよろしい。既に残党は一匹残らず掃除されました。」
ベッドの隣に座っていたのはフィルマン様でした。この方は医学の方の知識もあるので、私を看てくれたのでしょう。その様子ですと、大きな怪我はなさそうです。あのクマ、生命力が強かったですし、少々心配だったのです。私はフィルマン様のその言葉にほっとしました。すると、
「馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!! なんであんな無茶するの!!」
突然エマ様が私の背中を思いっきり何回も叩きます。私はその衝撃で息が詰まる思いがしながらも、心配をかけてしまったのだと感じました。肩が濡れた感触がしたからです。エド様は私から体を離されて、私を睨みつけられていました。しかし、その顔は涙で濡れておられました。
「本当だよ! 僕らが無事でも、リオが死んでしまったら意味無いじゃないか!! 命に代えてもってなんだよ!! 次したらリオの服に虫入れるよ!!」
……それは勘弁してほしいところです。私はお二人が元気そうで安心し、微笑みました。
「……申し訳ありませんでした。お二人方、お怪我は?」
「リオたちが守ってくれたから」
エマ様も私を抱きしめたまま首を横に振りました。
「……それはよか……」
「良くないから言っているんだよ!! リオ分かってないよね? ちょっとそこに正座!!」
そのあと私はエド様に叱られてしまい、エマ様からは再び背中を叩かれ、そして、お二人共私に抱きつかれて泣かれました。私はお二方をただ抱きしめ、謝り続けました。数分が経ち、ふとお二人共から声が聞こえなくなったかと思うと、代わりに寝息が聞こえてきます。
「殿下も姫も、殆ど寝ずに付きっきりで看病をなさってくれたのです。」
フィルマン様が小声で私に教えてくれました。私はお二人をそっとベッドに寝かし、仕切りのカーテンを閉めました。
「フィルマン様、ご迷惑をおかけいたしまして……」
その時、視線を感じたので、見ましたところ、フィルマン様が私の顔をじっと見ておりました。
「………申し訳ございません。………あの……何か…?」
フィルマン様が私の奥をじっと覗き込むかのように見られるので、私はついそう聞いてしまいました。
「………いえ。この話は次の勉強会のときにでも致しましょうか。今は体をお休ませてください。」
私はフィルマン様のその反応に首をかしげながらも頷きました。そして私はその後、別のベッドで横になり、お昼まで深い夢の中へと落ちていきました。
☆
それが夢だと気づいたのは、最初に目に映った懐かしい光景を見た時でした。そこは私のかつての家。漫画や教科書が乱雑に置かれた私の部屋でした。階段を下りると母親や祖母が台所に立っており、父親は新聞を読んでいます。幼い妹は隣の部屋でまだ眠ったままです。テーブル1つに椅子が4つ。そこには私の居場所はなく、家族は笑顔で幸せそうでした。私はほっとすると共に、凄く悲しい気持ちになったので、今の自分の居場所に戻ろうと目と耳を塞ぎました。
そして場面は変わり、気がつけば私は戦場のど真ん中にいました。周りのどこを見ても、不完全な形をした建物や人の姿ばかりで、地面は穴やひびだらけ。そしてふと足元を見ると、そこに私の影はなく代わりにあったのは黒いナニカ。それが何かは分かりませんでしたが、確かなのはそれが私をそちら側へと引きずり込もうとしていること。私の体は段々沈んでいきました。私はなんとか抵抗しましたがそれも虚しく、足、お腹、胸、首とどんどん沈んでいきました。
「……た……たすけ……」
無駄だとわかっていましたが、私は助けを呼びました。しかしそれを嘲笑うかのように体は沈んでいきます。最後に顔が地面に沈もうとする時、
「ニゲラレルモノカ」
と不気味な声が私の耳元で囁くのが聞こえました。
☆
気持ち悪い汗を肌で感じながら私は目を開けました。するとふと私のベタベタする邪魔な髪を誰かが払ってくれているのが分かります。ゴツゴツした厚い手、たくましい腕、面白いほどつり上がっている目、青みがかかった銀色の髪。それらの持ち主は私が目を開けたことに嬉しそうにしていました。
「起きたか。うなされていたが大丈夫か? 大方蛙にでも襲われる夢でも見たのだろうがな。」
隣の椅子に座って微笑んでいたのはベルンでした。私はチラッと彼を見て答えます。
「……大丈夫です。それよりもベルンフリート様にはやるべき事がたくさんあるでしょう。このような所にいらっしゃっては他の者に示しがつきません。早く戻られてはいかがですか?」
魔物の残党は既に一掃されているとはいえ、今回の騒動で色々対策などをたてなければならないのは事実。そのためベルンたち騎士団長はこれからますます忙しくなることは目に見えております。1人の使用人如きにいちいち構っていては身も持たないでしょう。するとベルンはため息をつき、私の頭を軽く小突きました。
「お前な、目の前で倒れられた方の気持ちにもなってみろ。そのような態度をとる前に一言言うことがあるんじゃないのか? 殿下も姫君もお前のことを御心配なされていたんだぞ。」
その言葉に私は、危うく死んでしまうところをベルンに助けてもらったことを思い出しました。挙句にその場で倒れてしまうという失態を犯し、さらにここまで運んでもらったのです。夢見が悪かったこともあり、つい当たってしまったことを後悔しました。
「…………すみません。ご迷惑をおかけしました。あと………助けていただいてありがとうございます」
私が謝罪すると、
「ああ。お前が怪我でもしたのではないかと気が気でなかった。無事でなによりだ。」
ベルンは私の頭を撫で、そして再び微笑みました。私はベルンのその様子に戸惑い、誤魔化すように起き上がりました。このむず痒くなるようなベルンのこの態度は何なのでしょう。調子が狂います。
「腹は空いていないか?」
「はい。だいじょ……」
ベルンのその問いかけに私が答えようとした瞬間に、お腹のなる音が聞こえました。私は顔が真っ赤になるのを感じ、慌ててお腹を抑えました。しかし時は既に遅し、ベルンは吹き出しお腹をかかえて笑いました。
「体は正直だな。ほら。」
ベルンは私の膝の上にお粥などがのったおぼんを置きました。
「そうだろうと思って持ってきたのだ。食べろ。」
「………あ……ありがとうございます」
まるでいつものベルンではないかのように気が利いています。私はお粥を口に入れると、自分がお腹が減っていたことを知りました。次々と口の中に入れていきます。
「慌てると胃が驚くぞ。お前は昨日倒れてから何も口にしていないからな。」
ベルンの言葉にはっとして、ベルンの前でがっついて食べていたことに気づきました。私は恥ずかしくなり、それからはゆっくりと食べ始めます。
「おい、ついてるぞ」
ベルンの手が私の頬を不意に触り、私は自分の顔が熱くなるのが分かりました。この不意打ちは卑怯です。私が思わず目を瞑ると、ベルンの手は何故か止まりそのまま動きません。不思議に思ってゆっくり目を開けると、
「な、なんですか!?」
ベルンの顔が間近にあり、私は思わず手で顔を押しやろうとしました。しかしその手をベルンが掴み、さらに顔を近づけてきます。段々と距離が狭まり、そして………
「邪魔するぞ」
「!?!?」
突然医務室のドアが開き、響く声がしたかと思うとどなたかが入ってこられました。私は慌てて布団を被りました。な、ななな!?頭の中は混乱中でした。あんなに近くでベルンを見たのは初めてでしたし、私の手を掴むベルンの手を振り払えなかったことに驚く自分がいました。やはり小さい頃からずっと見てきた人の成長というものに疎く、ベルンの力には当たり前ですがもう敵わないのだと実感しました。触れられたところが熱く、私は手を無意識に握りしめておりました。
「お? 本当に邪魔したかな?」
しかし入ってこられたその方の声を聞き、私はガバッと起き上がり、その方の名前を呼びました。
「ジーニアス様! 」
ジーニアス・チェーン様。アレクサンドロス陛下側近十一人衆のお一人であり、またベルンの兄弟子にあたられます。歳は大分離れておりますが、私も幼い頃ベルンと共にこの方から剣のご指導を受けており、良き兄弟子として慕っております。ベルンに勝つ度に、ジーニアス様から頭をわっしゃわっしゃとされたことはいい思い出です。
「おう。俺達が留守中、大変だったな。よく殿下や姫をお守りした。俺も兄弟子として鼻が高いぞ。」
ジーニアス様は国境の警備として北の民族の動きを監視するお役目を担われてから、中々お会いする機会が減ってしまい、こうしてお話したのは随分久しぶりです。私はベッドから降り、ジーニアス様の元に駆け寄ろうとしました。しかし歩きだそうとした瞬間、足に強い痛みを感じ、体が倒れるのが分かりました。
「おっと。おいおい、病み上がりなんだから無理するな。」
私はジーニアス様に抱えられ、ベッドへと戻されました。………情けない自分が嫌になります。
「大体な、お前が殆ど魔物を倒したって話しじゃねぇか。俺らにも少しくらい残してくれてもよかったんだせ?」
それは初耳です。あの時は本当に必死でしたから。
「陛下がお前に礼をおっしゃられたいそうだ。よかったな。」
ジーニアス様は幼い頃して下さったように私の頭をわっしゃわっしゃにされ、そしてベルンの方を向きました。
「お前はこのまま会議までリオに付いていてやれ。俺から言っといてやる。会議までその腑抜けた顔どうにかしとけよ。んじゃ、それじゃあ伝えることは言ったし邪魔者は退散するか。お大事になリオ。」
「はい。わざわざありがとうございました。」
ジーニアス様は既に完食済みの食器が乗ったおぼんを手に持ち、私に笑いかけました。
「お、そうそう。お前ら楽しむのはいいが、ベッドは汚すなよ。」
………ベッド?子供ではありませんし、汚す予定もありませんが…?………私が汚れているということでしょうか?
「何を言う!! ジーニアス殿!!」
ベルンがジーニアス様の言葉に反応しましたが、何やら動揺した様子。あの言葉のどこにそんな要素があったのでしょう?
「大丈夫です。子供ではないのですから。汚す予定もありせんし。」
今度はジーニアス様が、私の言葉に反応されました。ジーニアス様は私とベルンを交互に見て、大笑いをします。
「ククククク! そうか、その予定はないか。それは失礼した。あの有名な騎手であるベルンフリートも案外奥手だな。」
「なっ!」
話の流れはよく分かりませんが、いつも通りベルンをからかって楽しんでいらっしゃるジーニアス様でした。
☆
それから回復した私は王室へと向かい、王宮に魔物が入り込んだ怒りからか普段よりさらに威圧的で恐ろしいアレクサンドロス王と謁見いたしました。
「私のような者にそのような称号はもったいなく思いますが、ありがたく頂戴いたします。今後その称号に恥じぬよう、行動を慎んでいきます。陛下のお心に感謝申し上げます。」
私に形式的な礼を言われたアレクサンドロス王は、私の前に1本の剣を出されました。それはどこかの国がハウヴァー王国に贈与した品物。私は自分の顔が引き攣るのがわかりました。魔物を倒したと言っても、私の役目は姫様方をお守りすること。言わば当たり前のことをしたのです。褒美としてわざわざいちメイドに他国の贈与品を渡すのはいかがなものかと。
「それはマリアが選んだ品。ありがたくもらうがよい。」
アレクサンドロス王のその言葉にますます首をかしげました。マリア様が何故これを私などに……。しかし、そう頭を悩ませてもいられません。中々受け取ろうとしない私を王がイライラとした様子で見ていたのです。このままでは切り捨てられかねません。私は慌ててお辞儀をしました。
「ありがたき幸せでございます。大事にいたします。」
「うむ。これからも精進するがよい。期待しておるぞ」
「はい」
私は冷汗ダラダラで部屋を後にしました。そしてふとアヒム様にこの事を報告しなければということに気付き、お部屋へと向かいました。しかしこの剣、どう致しましょう?私は女の身でありますし、あんな事態でもない限りそうそう出番はないでしょう。これは朝の稽古の時にでも使うとして、普段は物干し竿とかにでも……。
正直剣よりも美味しい食べ物とかの方が嬉しかったなと思いながらも私はアヒム様の部屋の扉をノックしようとしました。
「………するとつまり………お見合いをさせる…ということですか?」
中からベルンの声が聞こえ、私の手は止まりました。……お見合い?
「ああ。もう婚約者の一人いてもおかしくない歳。よき機会じゃろう。」
聞き違いなどではないようです。私の鼓動がドクンッと跳ね上がるのがわかりました。確かにベルンくらいの歳になりますと、もうそろそろ将来を約束する女性がいてもおかしくありません。むしろその歳でいないというが遅すぎるくらいで……。
「し、しかし………」
「なんじゃ?」
いつもアヒム様に従順なベルンが、珍しく反論しています。………そう言えば、何故ベルンに今まで婚約者が出来なかったのでしょう。確かに面白いくらいつり目で、性格もあれですし、女性の扱いなど全くと言っていいほど心得ていないベルンですが、若いながらも十一人衆に抜擢される程中々の出世頭。お姉様方からも人気が高いベルンですし………求婚の数は多いはず。もしかしたら今まで断っていたのかもしれません。その理由として挙げられるとしたら………結婚したい相手が既にいることですか。ベルンとは長年の付き合いですが、そのようなこと聞いたことありませんね。……あ、待ってください。この王宮にいるとは限らないではないですか。何度も遠征で他の国に滞在しておりますし、その時に何かがあってもおかしくはありません。………頭にベルンが綺麗な女性と微笑んでいる姿が浮かびましたが……中々堪えますね。実際にそれを目にした時、果たして私は笑って祝福出来るでしょうか。
「………いえ。それで相手は?」
「お前の従兄弟、ユーカスじゃよ。あやつは次男じゃし、あの子と面識もあるしな。ユーカスの方も満更ではなさそうじゃったな。」
………は?私はその言葉に耳を疑いました。ユーカス様は誰がどう見ても男。まさか………ベルンは男色家!?とまあ、それならそのお相手はどなたなのか考えるのも面白そうですが、この場合お見合いはベルンではないようです。……今更ですが、私は一体何をしているのでしょう。盗み聞きなど…なんだか情けないような……。私はふと我に返り、何も聞かなかったことにしその場を離れようとしました。
「しかし何故また急に………」
「うむ、今回の件でな。ちと思うことがあっての。今回リオの活躍が吉と出るか凶と出るかわしには分からんのだ。」
私の名前が急に出てきて、私はドキッとしました。もしかしたら私は余計なことをしてしまったのかもしれない。私の足はピタッと止まりました。アヒム様のそのお言葉に、珍しくベルンが荒げる声を出します。
「何を言われるのですか!? リオは殿下や姫君を守ろうと……」
「わかっておる。わしはあの子を誇りに思っておるし、何があってもそれは変わらん。じゃが今回の魔物の件と言い、近国の不審な動きと言い、わしは嫌な予感しかしないのじゃ。そのためにも……わしはリオをユーカスの元へやろうと思う。ここはあの子にとってある意味、危険な場所じゃからな。」
………危険な場所?私はアヒム様の言いたいことがよく分かりませんでした。私にはここ以外居場所はないですし、今回のことに関して危険だとおっしゃられているのでしたら、アレクサンドロス王によりこのようなことはもうありえないでしょう。それに私にとってという言葉も気になります。
「これは決定事項のことじゃ。よいな?」
………ここまで考えて、私が出した結論はアヒム様はとうとう私を疎ましく思われたのだということでした。今回の件で私が出しゃばってしまったことをアヒム様は良く思われなかったようです。私は今までになく後悔の念を感じました。………やはり私はあの時、連絡だけをしておけば良かったのです。そして最初から腕の立つ方々に任せておけば、姫様方も危険な目に合わせることもなかったかもしれません。
「何故です!? 私には理解できかねます! 私には、叔父上がリオを追い出す建前のようにしか………」
「そのお見合い、お受けいたします。」
私は既にノックし終え、扉を開け姿を現しました。お二人共話に夢中で気づいておられなかったようです。こちらを見て驚いた表情を浮かべておりました。
「お話し中、口を挟んでしまい申し訳ありません。しかし、私のことを話されていたようですので。」
私が再び口を開くと、アヒム様がこちらに目を向けながら言いました。
「………すまんな。お主もそろそろ婚約者の一人でもと思い、勝手ながら話を進めさせて貰った。」
「いえ。私なんかにはもったいないお話です。」
私は深々とお辞儀をし、アヒム様に笑いかけました。しかし、アヒム様は私たちから背を向けられ、窓の外を見られました。私はベルンの視線をひしひしと感じていましたが、わざとあさっての方向を見ました。
「…………ベルンフリート、リオ。」
不意にアヒム様が私達の名前を呼ばれ、それまで私と目線を合わせようとしていたベルンがアヒム様を見ました。
「………はい叔父上。」
「………エドワール殿下とエマリア姫様をよろしく頼む。あのお二人は二つで一つの存在じゃ。陛下や王妃の関心を受けずに育ったあの方々は、互いに互いを支えあっておられる。今はそれで良いかもしれんが、成長なさるにつれ、特に殿下の方は逆に弱点となってしまうじゃろう。その時に、支えになって欲しいのじゃ。」
私はその時、アヒム様からなんとも言えない違和感を感じました。発言が明らかに矛盾しているのです。私に王宮から出るように言いながらも、姫様を支えてくれとおっしゃられています。……そう言えば最近、あまり体調が芳しくないようです。この国の未来について、何か思うところがあるのでしょうか。
「………承知しました叔父上。この身に代えましても殿下も姫君もお守りします。」
そしてやはりベルンは、それを戦闘面の方だと捉えたようです。とすれば、私が支えなければならないのは………
「かしこまりました。殿下が立派な王となり、姫君がいずこかの国の王妃となられますまで、私はお二方のおそばにおりましょう。」
私達の返答にアヒム様はほっとなされたようです。私たちに笑顔を見せられました。
「それを聞いて安心したわい。お前達がおれば、この国の未来も安泰じゃろう。リオ、見合いの件は後日また詳しく伝えよう。」
私はアヒム様のそのお言葉に心の中でほっとしました。とりあえずすぐにでもここから追い出されるということはなさそうです。
「はい。よろしくお願い致します。」
「うむ。それとリオ、体の方は不自由ないか?」
「はい。問題ありません。ご心配をおかけいたしました。」
「今回の活躍、見事であった。誇りに思う。王から剣をいただいたようじゃが、それはわしが預かっておこう。」
「はい。」
これ以上話はないようで、私は部屋から出ました。………アヒム様、何か心配事でもあるのでしょうか。あのようなことを言われるなんて珍しい。
「おい、待て!」
不意にベルンから腕をつかまれ、私は後ろを振り返りました。ベルンの眉は上がっていました。
「………本当にするのか?」
少し考えまして、それがお見合いの事だということが分かりました。アヒム様の異変のことばかり考えていて、そのことはすっかり頭にありませんでしたね。
「はい。アヒム様直々のご紹介ですし……」
「お前はそれでいいのか!?」
「…………私はあくまでもメイドですから。ユーカス様とのお見合いだなんて普通であればできないところを………………」
「俺はお前の気持ちを聞いているんだ!」
珍しく声を荒らげるベルン。いつもであればここまで感情が高ぶることはないのに。私はそのベルンの様子に驚きながらも、口を開きました。その言葉は私の思いとは逆のことでしたが。
「…………またとない機会だと思っております。これであなた様から結婚のことをご心配されずに済むと思うと、アヒム様に感謝しております。これを機に婚約者をあなた様もご紹介なさってはどうでしょう? では私はまだ仕事がありますので。」
早口で言い終えると、私はベルンの顔を一度も見ずにその場から立ち去りました。顔を見られるのが怖かったからです。きっと今の私の顔は情けないほど顔を作れていないと思いますから。
ここまで読んでくださった方々に感謝いたします。
中々自分の中で、前置きのような物が長すぎて本編に入れず、ため息ばかり出ます。あと二、三話ぐらいで入れそう……なので、お付き合いいただけたらと思います。