私たちの兄弟子
「…リオ、降ろすぞ」
ジーニアス様は私の返事を待たず、私の体はゆっくり地面に降ろされました。ピリピリとした空気が肌を刺し、緊張感が増します。
「貴方様のご消息が分からず、我らが主様も気が気でありませんでした。お怪我なくお戻りいただいて何よりでございます」
それを見ながら恭しく私に礼をするタオゼント。私は彼にキッと目を向けました。何故こうも、私の行く手を邪魔するのでしょう!
「私は、あなた方に迎えに来て欲しいと言った覚えはありません!!」
「…そうでしょうか?」
私の言葉に疑問で返すタオゼント。私と彼は初対面です。私がいつあなたに助けを求めたと言うのでしょう。タオゼントは涼しい顔を崩しもせず、私から目を逸らし、ジーニアス様を見ました。
「…リオ殿をお渡しいただこうか。ハウヴァーの手負いの騎士よ」
タオゼントの言葉に、ジーニアス様はにやりとした表情を浮かべますが…そのお顔には焦りが見られます。手負い…タオゼントがジーニアス様をそう言い表すのに何も間違いはありません。彼はフィルマン様の秘薬で動けるようになられたとはいえ、先ほどまでご自分で歩くことすらお出来にならなかったのです。この場に敵はタオゼントしかいないと誰が断言できるでしょう…。まだ姿を現さないだけで、私たちの周りには多くの兵が取り囲んでいる可能性だって…
「ジーニアスさ……」
私がジーニアス様に声をかけようとした時です。そのお姿が一瞬消えたかと思うと、そして次の瞬間、鉄と鉄が交じり合う大きな音が辺りに響き渡りました。私がハッと見れば、そこにはジーニアス様の攻撃にタオゼントが剣で応戦しているところでした。
「……くそっ…」
タオゼントが力強く押し返し、私の前に滑り込まれるジーニアス様。私は彼に駆け寄ろうとしましたが、ジーニアス様は手でそれを制されました。
「あまり無茶はされるべきではない。ハウヴァーの手負いの騎士よ。もうすでにその体は………そうか」
「あ? なんだって?」
ジーニアス様が体勢を整えられ、途中で言葉を切ったタオゼントにそう聞き返されました。状況がつかめない私がタオゼントに目を移し、ハッとします。タオゼントの剣が溶け始めているのに気づいたからです。
「…貴殿は炎使いだったな」
タオゼントは惜しみもせずに、剣を放り投げました。ジーニアス様は槍を数回振り、丸腰のタオゼントに狙いを定めました。
「今頃思い出したか。手負いの騎士に一泡吹かせられた気分はどうだ? ナノエの軍師長も大した事ねぇな。それとも…いきなり弱くなったのは何か理由があるのか?」
弱くなった?私はジーニアス様の言葉に無言のタオゼントを見ました。彼は相変わらず無表情で、気持ちは相変わらず読み取ることはできませんが…。
「お前、やけに魔族どもに慕われてるみたいじゃねぇか。手を組んだばかりとはとてもじゃねぇが思えないほど奴らと統率がとれすぎだ。最初は信じられなかったが……先ほどの手合わせで確信した。タオゼント・ヴルム。お前は………」
ジーニアス様がタオゼントの核心をつく…その言葉を言われる瞬間でした。タオゼントの姿が消えたのです。
「ジーニアス様っ!!!」
その次に起きた出来事に悲鳴とも言える叫びが私の口から飛び出ました。私の目に映ったのは宙に飛んだ人の腕。私は無我夢中で駆け寄りました。同時にジーニアス様の口から赤いものが吹き出し、両膝が地面に付きました。
「…少々話しすぎだ、手負いの騎士よ。…だが、流石ハウヴァー最強の部隊を指揮するだけある。我が主様が貴殿に目をつけられたのも理解できる」
賞賛とも呼べるその言葉を淡々と言いながら、タオゼントは落ちた槍を拾い、ジーニアス様に振り下ろしました。
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おかしい…。俺がそれに気づいたのは、戦闘が始まってしばらくした時だった。ジーニアス卿の知り合いの男と共闘し、伸びてくる腕やら足を斬りおとし、距離が中々詰められない相手をどうするかと考えていた時だった。
「…透けてるな」
男の呟きに俺は同意した。徐々にではあるが、魔物の体が透けていっているのが分かったからだ。何かしらの攻撃か?しかし、俺の考えは男の言葉によって否定された。
「……ありゃ、偽物だな」
「偽物?」
「一回、あれと似た虫を見たことがある。そいつは分裂の能力で天敵を欺いていた。一定以上の攻撃を受けると、本体以外はああやって透けて、本体に戻っていく」
そうやって、天敵の情報を得るのだと男は言った。こうやって伸びてくる腕を斬りおとしていけば、奴も消えるというわけか。俺は男を見た。男はそんな俺を見て察したように笑い、そして一気に襲い掛かってきた四本を斬りおとした。
「行け。ここは俺が請け負ってやる。その代わり、酒おごれよな」
「…すまん!」
走り出した俺をセンダーリアがやって来る。そんな俺たちの動きを魔物が立ち防ごうとするが、その前に男が斬りかかった。
「お前の相手は俺だ」
俺は男に感謝し、そしてセンダーリアを走らせた。あの魔物の分身はただの時間稼ぎだ。あいつの狙いは、最初から一人だった。遠くで聞き覚えのある声の叫び声が聞こえ、持っていた剣に力がこもる。
「急ぐぞ、センダーリア!」
俺の声にスピードを上げるセンダーリア。……なんとか間に合ってくれよ…。ジーニアス卿が倒したと思われるナノエの兵を乗り越え、俺は手綱を握り締めた。
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「……困りましたね」
間一髪。タオゼントが振り上げた槍先は私の顔すれすれで止まり、私は瞑りそうになる目を必死で開け、彼を睨み付けました。
「……困ったのなら、このまま引いてください。その方がこちらも助かります」
後ろから、ジーニアス様の荒い呼吸が聞こえます。私はそちらに気を取られそうになりましたが、その前にタオゼントが口を開きました。
「そこをお退きください」
タオゼントの冷たい視線が私に向き、その目に私の体が震えるのが分かります。どうすればこの場を切り抜けられるかずっと考えていました。しかし、ジーニアス様と戦う姿を見たとき、私は察してしまったのです。どうやっても、私ではタオゼントには勝てない、と。ジーニアス様と剣を交えながらも、剣が溶けてしまったときでも、彼はずっと私の様子を窺っていました。私がその場から逃げ出すような素振りを見せれば、容赦なく攻撃の矛先が私に向けられていたでしょう。だからこそ、ジーニアス様は彼の注意を逸らすようなことを言って……
「…俺に…構うな…」
何度も聴こえるその言葉を耳に、私は息を吐きました。そして、タオゼントの目をしっかりと見ました。
「お断りいたします。殺すなら私を」
タオゼントは私を迎えに来たと言いました。どういう目的かは分かりませんが、容赦なく殺されることはないはずです。……このまま彼の邪魔をしていたら、殺されるかもしれませんが。でも…私はぐっと体に力を入れました。ふぅっとタオゼントが大きく息を吐き、そしてゆっくりと槍を引きました。私は目の前にあった威圧が無くなり、息が少しずつ安定したものになっていくのが分かりました。
「……ハウヴァーの姫君もあなたはそうやって必死に守られておりました。それほどまで…あなたの中で、ハウヴァー国は大きいものなので?」
「…愚問ですね。私はハウヴァー国のメイドですよ。主君や国のために動くのは当たり前ではないですか」
「…困りましたな」
そして、タオゼントは本当に困ったような…そんな顔をしました。それは、今まで淡々としていた彼の表情が初めて崩れた…ときで…。その表情は今まで見たどんな表情も彼らしくなく…私は驚きの目を彼に向けるばかりでした。
「あなたは昔と変わらないままだ」
ひやっとした風が私の首をかすめたような気がしました。私は目を見開き、彼を見ました。昔?…私はあなたとは初対面で…そもそも昔っていつのことでしょう?だって、私は気づいたらこの世界にいて……それよりあとはずっとハウヴァーにいたんですよ…一体いつ会ったって…。しかし、私の思考は無理やり中断させられました。タオゼントの腕が変形したのです。それは、大きく鋭い爪があり…私はさらに悲鳴を上げました。タオゼントの姿がどんどん見覚えのある姿に変わっていったからです。彼はそんな変貌を遂げている自分をまるで意に介さず、淡々とした口調で言いました。
「屈強な相手に立ち向かう無謀なところも、ご自分を省みず他人を庇う甘いところも、器用そうで不器用なところも…」
ガチガチと奥歯が鳴るのが分かりました。もう悲鳴も出ません。こんな…こんなことって…あるんですか…。目の前にいるのは、赤茶色の髪をした無表情のナノエの兵士ではありませんでした。蟻のような顔、頭に生えた触角、それに動く六本の足……何度も私を追ってきた虫の魔物でした。体中の力が抜けるのが分かり、私はその場に座り込みました。その人間離れした口で流暢に話すその姿は、とても異様で……ピクピクッとまるで標的を探すように動く六本の足が急に止まり、それらが長くなるのを私は震えながら見ていることしかできませんでした。
「…本当はこの姿をみせる予定はなかったのですが…。意識を飛ばしたほうが楽ですよ。リオ殿」
タオゼントの声なのに…目の前にいるのは虫の魔物。私は恐怖から吐きそうになり、手で口を覆いました。息が次第に速くなり、息苦しさも感じますが、私は虫の魔物…タオゼントから目を離せないでいました。しかし、それでもなんとか震える手で剣を取り出し、それを彼に向けました。
「…本当にお変わりないようですね」
そんな私にタオゼントは伸ばした六本の足をゆっくりとこちらへ向けます。私はなんとか悲鳴を押し込みましたが、脂汗が噴き出すのが分かります。視界が涙で歪みそうになったとき、私は強い力で後ろに引っ張られました。
「…リオ…落ち着け」
そんな私が正気を保っていられたのは、ジーニアス様のおかげでした。ジーニアス様はポンッと私の背を叩き、そしてぼそっと私に指示を出されました。私がハッとして頷くと、ジーニアス様の腰に下げてある袋から手のひらサイズの球体を取り出しました。後ろを振り返ると、六本の足がすぐそこまで迫ってきており、私はひゅっと音が出ました。
「ひっ!!! 来ないでください!!」
思いっきり、私はその球体をそれらに投げつけました。その途端、眩しい閃光が辺りを包み、目を瞑っていなければしばらく見えなくなっていたことでしょう。瞼の裏の暗闇の中で、タオゼントの静かな…少々哀しげな声が聞こえた気がしました。
「虫が死ぬほどお嫌いなとことも…変わっていませんね」
…そう言えば…。私は彼と初めて会ったときのことが頭を過ぎりました。彼は初対面の私に虫を出して、反応をみていました。あれは…まさか私のことを試して……。私はハッとして目を開けました。
「よく耐えたなリオ」
そこにいたのはベルンで、タオゼントの姿は跡形もなく消えていました。ベルンが彼を倒したのか…そう思いましたが、それならば彼の亡骸があるはずですし、それになんと言ってもベルンの剣がまっさらなままです。ベルンが私の視線に気づき口を開きました。
「あいつは分身のほうだ。俺たちの方も分身だった。…戦いの最中から、姿が消えかかっていた」
「フィルマン卿の策だ」
立ち上がられようとするジーニアス様を、私は慌てて支えました。そんな私にジーニアス様は笑みを浮かべられ、そしてひょいっと再び抱きかかえられました。一本の腕で。
「ジ、ジーニアス様!? そのお体で無理は……」
「すぐにここを去れ。時期に奴らが来る」
私の言葉を遮り、ジーニアス様はそう言われます。それは、自分は残るという言葉でもあり…私は首を振りました。ベルンがセンダーリアを呼ぶ口笛が遠くに聞こえます。
「一緒に…行きましょうジーニアス様!」
「俺は行かん。お前たちを逃がさなきゃいけないからな」
きっぱりとおっしゃられるジーニアス様。私は彼の服を握り締めました。
「すまんなリオ。怖い思いをさせた」
私は首を横に振りました。話を逸らさないでください。追っ手なんて、散々巻いてきました。今回も追っ手を振り切ればいい話でしょう。それに…別に私は怖がってなんていません。ジーニアス様はククッと笑われます。
「覚えているか? 戦争の前に話したこと…ぷりんの話だ」
…覚えておりますとも。戦争終わりにプリンをたくさん食べるというお話でしたよね?その約束のためにも…ジーニアス様お願いです。私たちと一緒に……
「初めてお前が作ったプリン…。お前は不服そうだったが、あれ、本当に甘かったんだぜ? 甘くて、美味しかった。俺のために考えて作ってくれたんだろ? …あいつが作ったやつもあんな味だった」
私は唇を噛み締めました。血の味がしましたが、私は唇を噛み続け、俯きました。ジーニアス様を説得する声はもうまともに出ませんでした。
「お前はメイドだ。メイドにはメイドの役割がある。それを見失うな。…師匠殿に任されたんだろ? あの小さなお二人の主君を」
…ずるいです。アヒム様の名前を出すだなんて……。リオ、と名前を呼ばれ、私は顔を上げました。ジーニアス様の深い水色の瞳が近くにあり、その目はいつもと同じ私をしっかりと映しています。私を見て、ジーニアス様は笑みを浮かべました。
「本当にお前は不器用だよな。…もう少し、そういう感情を出してあげられたら…よかったのにな」
すまんなと言い、一歩…また一歩と足を進めて行かれるジーニアス様。センダーリアがこちらに来る音が聞こえてきます。私は閉ざしていた口を開きました。私の顔はもうしわくちゃでした。
「謝るのはこちらの方です! 結局、私はまた何もできずに……アヒム様にもあなた様にも何も返せずに……私だけいただいてばかりで……」
「馬鹿いうな。俺もお師匠殿もお前に多くのものを貰った。お前に教えることのできた日々は俺は充実していたし、お前の作るお菓子はとても美味かった。俺にとってお前は、歳の離れた妹のようだった。楽しかったぜ」
「わた…しも…です」
妹……。私は我慢ができなくなり、ジーニアス様の首に腕を回しました。ジーニアス様は嬉しそうに笑われ、
「おっと、嫉妬すんなよジーニアス卿」
とベルンを茶化す声が聞こえます。その軽口で…私の中の何かが弾けて……
「……やっと泣いたな」
今まで押し殺していたものが堰が切れたように溢れ出しました。まるで子供のように嗚咽を上げ、目から大粒の涙が出ます。
「泣きたいときは泣け。我慢するな。一人で泣くなんてもってのほかだ。リオ、お前は一人じゃない。そばにいる奴らがいる。俺やお師匠殿もお前の中にいる。それを忘れるな」
泣いて返事のできない私に、優しくあやすジーニアス様。そして、歩みが止まりました。
「リオ、最後の願いだ。聴いてくれるか?」
その言葉に私は胸が締め付けられる思いがしましたが、ぐっと堪え私は頷きました。
「良く眠れるようにまじないをかけてくれ」
よく眠れるおまじない…。それは最初、エド様やエマ様が怖い夢を見たとき、私がよくしていたものです。ぽろっと堪えきれず涙が零れます。私は頷くと、彼の額にそっと唇をつけました。
「…ジーニアス様も怖い夢を見られるのですね」
「馬鹿言え。いい夢を見るためだ」
精一杯の強がりを口にし、無理やり笑みを作ると、フッと笑われるジーニアス様。彼はすでにセンダーリアに乗っているベルンに私を渡します。
「…ジーニアス…」
「お前に言うことは何もねぇよ」
何か言いたげなベルンにそう言われると、ジーニアス様は剣をベルンから受け取りました。剣を器用に回し、彼はまっすぐ前を見ました。彼の視線の先にはナノエの馬が見え隠れしています。
「お前には俺の全てを叩き込んだからな。…後は頼む」
力強く頷くベルンに満足そうに微笑み、拳を出すジーニアス様。ベルンはジーニアス様の拳に自分の拳を合わせました。
「…貴殿の奥方とお腹の子に何か伝えておくことはないか?」
「…強く健やかに育ち、母を支えてやれ。父はここで朽ちるが、お前はお前の道を進めと。母親には……ただひとこと苦労をかける、すまんなと伝えてくれ」
言葉を残すジーニアス様の表情に初めて、悲痛の感情を感じ取りました。私は彼に手を伸ばしました。あと数センチで彼に届く…そう思ったとき、ジーニアス様は走り出しました。
「ジーニアス様!!」
彼と同時にセンダーリアも走り出し、どんどん距離は開いていくばかり。私は段々ジーニアス様の姿が見えなくなり、代わりに数十騎もののナノエの兵士が姿を現していきます。
「見るな!!」
ベルンが怒鳴り、自分の体で視界を覆い隠そうとします。ベルンの顔を見ると、口を真一文字に結んでおり、その目はしっかり前を向いています。ベルンは静かな声で言いました。
「振り向くな。ジーニアス卿は、前を見るために残られたのだ。お前が後ろを見てどうする…。俺たちは前へ行く…それが奴の願いだ」
胸が締め付けられるように痛みを感じ、私は顔を上げました。視界は涙で歪んでますし、吹き抜ける風であまり目は開けることはできません。ですが……
「…海…が見えますね…」
赤い夕日に反射し、きらきらと光る海が目に入り、私はとても綺麗だと思いました。この世界の海もこんなにも綺麗なのです。目の前に広がる海は、すぐに木々に消えていきます。そのときでした。大きな爆発音があたりに響いたのは…。それは思っていたよりも遠く聞こえましたが、硝煙の香りはここまで漂ってくるようでした。
「ああ…そうだな。機会があれば、船に乗ってみるといい」
ふと、幼い頃耳にしたハウヴァーの御伽噺を思い出しました。海に住む夫婦のお話です。そこに出てきた海の魔物が恐ろしくて、ジーニアス様に泣きついて、その夜三人で寝たんでしたっけ…。怖がる私たちの頭を乱暴に撫で、ご自分の失敗談を話すジーニアス様に、いつしか怖さはなくなり、眠りについた夜のことは今でも思い出されます。
「……海の魔物に出くわさないようにお祈りしなければなりませんね」
ベルンは覚えているでしょうか。アヒム様との訓練後、へとへとの私たちにこっそり甘いものを食べさせてくれたこと。失敗して怒られても、それを笑い飛ばせるような強さを教えてくれたこと。親のいない私たちに、時には叱ってくれたこと。
「……俺たちの兄弟子は最後まで、この国のために…俺たちのために戦った。立派な……最後だった…」
私の心を読んだように、そう呟くベルン。私はポロポロともう自分では止められない涙を流し、嗚咽をあげながら頷きました。
「はい…ジーニアス様は最後まで、私たちを……心配して……」
「ああ。…いい兄弟子を持ったな」
「…ええ。私たちは…良いお兄様を……」
そこからはもう言葉になりませんでした。子供のように泣きじゃくる私と、黙々とセンダーリアを走らせるベルン。ただ辺りはとても静かで…聞こえるのは自分のなく声だけ。あぁ…。私は熱を持った瞼を閉じました。夢の中に出てきた私の中の桜が…枯れてしまったように思えました。