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襲撃者

大破した天井。床に散らばるその残骸。そしてそこに佇むのは、あの時の魔物…。魔物は異様な雰囲気を纏わせており、その濁った二つの目が私に止まり、私に悪寒が走ります。


「……っ!? 伏せろ!!」


体が強張り、嫌悪感が体を支配していた私は、その声でハッとしました。魔物が鋭い爪のような物を長く伸ばし、振り回し始めたのです。私はただならぬ恐怖を感じ、思わず目を瞑りました。



「おいおい、敵前で目を瞑るな。何度も教えたろ」


近距離で風が通り抜けました。私がその声で慌てて目を開けたときには、小屋はもう原型を留めていませんでした。あの魔物がやったのでしょうか…。私はエマ様とエド様を見ました。お二人の姿は…ありませんでした。忽然とその姿は消えてしまったのです。


「え…」


いない!?先ほどまでいらっしゃったはずのお二人の姿はなく、またフィルマン様もカルファの姿もありません。まさか…魔物の攻撃によりどこかに吹き飛ばされて…いえ、もしかしたら、一度森で襲撃を受けたときのようにどこかに……。エマ様とエド様がナノエに捕らえられている光景が頭をよぎり、私は体中から血の気が抜けるのが分かりました。


「姫様と殿下をどこにやった! 穢れた種族が!!」


ジーニアス様と同じく大怪我を負っていた方が、剣を持って立ち上がられました。その体には傷が一つも無く、恐らくジーニアス様と同じくフィルマン様の秘薬を飲まれたのでしょう。彼は、果敢にも魔物に飛び掛られました。しかし、魔物の長い爪によって遠くへ弾き飛ばされてしまいます。大きな衝撃音が聞こえて、それから彼が動く気配はありません。…飛ばされた先で小さくうめき声が聞こえたので、気を失っているだけだとは思います。介抱してあげたいのは山々です…しかし…


「………」


魔物は注意深く私たちの様子を窺っており、動き出せる雰囲気ではありません。……エマ様方の元に早く行くためにも…この魔物をなんとかしなくては……。そのとき、魔物が動きました。魔物は私に向かって、その長い爪を伸ばしたのです。


「ひっ!!」


来るなら来いっ!と身構えていた私でしたが、やはりその魔物と目が合うだけで、体がすくみあがってしまうようです。しっかりしろ私!!情けない私の横をすばやく誰が通り抜けました。ベルンです。


「お前の相手は俺だ!!」


こちらに伸びてきた長い爪を斬りおとし、ベルンと魔物は交戦を始めます。鈍い音が辺りに響きます。鋭く尖った自身の体で応戦する魔物と比較すると、生身の人間であるベルンの武器は剣一本。客観的に見ても、圧倒的にベルンが不利です。


「リオ、少し揺れるぞ。…舌噛むなよ」


「え…」


そう言えば、私はジーニアス様に抱えられていたんでした。魔物に頭がいっぱいで忘れて…って、そうではなく、私今まで大怪我を負われたジーニアス様に抱えられて……。私は申し訳なさがいっぱいになりながら、口を開きました。


「ジーニアス様…すみませ……んっ!?」


しかし、私の体はいきなり持ち上がり、突然スピードを上げて、戦闘中のベルンを置いて、遠ざかっていきます。簡潔に言いますと、いきなりジーニアス様が全速力で走られたのです。私を抱えたまま。


「ジーニアス様!? なにを…! ベルンがまだ戦って……それに…」


それにエマ様やエド様も…。私がそう言おうとすると、ジーニアス様が私の背中をポンっと軽く叩かれました。そして、後ろを振り返った時、たくさんの木々が見えて来るのが分かりました。


「殿下と姫君はフィルマンと一緒にいる。心配ない」


「え!?」


ジーニアス様のお話はこうでした。怪我をされているジーニアス様を介抱している間、ギルがフィルマン様の魔法を込めた魔力石(マジック・ストーン)を投げまわって、ナノエの兵たちを惑わせていたそうです。そして、少しの時間を稼ぎ、ジーニアス様の回復の時間に当てられたのだと。


「まぁ、裏切り者がいた中、いい時間稼ぎにはなったんじゃねぇか?」


「裏切り者がいたんですか!?」


「あの最初に魔物にやられて吹っ飛んだ奴だ。あいつを運んでいた時、その傷の具合からベルンフリートがおかしいと思ったらしい。何しろ、あいつの傷は表面だけ傷つけられたものばかりで、回復魔法ですぐ治るような傷ばっかりだったんだと。くそっ、あいつを庇った俺が馬鹿みてぇじゃねぇか」


…あの方は確か…ジーニアス様の少し後に王の側近になられた方。イッシュバリュート様の他にも裏切り者がいただなんて……。戦力の中枢に裏切り者が二人も……考えたくはありませんが、もしかして、国のもっと深くにも裏切り者は……


「リオ、また揺れるぞ。今度はちゃんと口閉じとけよ」


「え?」


さらにスピードが上がり、ジーニアス様が剣を抜かれるのが分かりました。兵が二人斬り捨てられます。


「ちっ…やっぱ、槍は使い勝手が悪いな」


いつの間に武器を…と思っていましたが、どうやら誰かからいただいたもののようです。伸縮自在の槍で、ジーニアス様は再びそれを小さくされました。私はもう遠くなっている小屋の残骸を見つめました。…あそこで戦っているベルンは……。私の心内の不安をジーニアス様は察されたようです。私の背中を再び軽く叩かれました。


「ベルンフリートなら心配すんな。あの魔物とは二度目だと言っていたからな。何かしらの策は練っているだろう。それに、あいつもいるしな」


あいつ……それは、ジーニアス様のお知り合いの男性のことでしょうか。確かに彼は腕はたつようですが……そもそも彼は何者なのでしょう??そう言えば、お名前もまだお聞きしていませんでした。


「ジーニアス様。あの…あの方は一体……」


「リオ殿」


ゾワッとしたものが私の体を突き抜けるのが分かりました。その声の主は


「お迎えに上がりました」



タオゼントでした。


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