朝のお稽古
私の願いもむなしく、清々しくも晴れてしまった朝。気が重い雰囲気を感じながら、私は動きやすい服装へと着替えました。窓を開け、私の部屋から見える鍛錬場所を見ますと、すでにランニングをし始めている人影が。言わずともそれはベルンです。私への何らかの意趣返しでもするつもりでしょうか、やけに張り切っているご様子。私は背筋が寒くなる思いがしながらもそれを眺めていますと、ベルンと目が合いました。
「遅い。起きたのならさっさと下りてこい。お前も体をならせ。」
………一言目がそれですか?本当に脳みそまでも筋肉となってしまったのでしょうか。私が呆れながら鍛錬場所へと向かいますと、アヒム様が物珍しそうな顔で私とベルンを交互に見ていらっしゃいました。
「何やら面白そうなことをするみたいじゃの?」
「…ええ…。かなり不本意なのですが…」
私が苦々しく言いましたところ、ベルンが呆れたように言いました。
「文句を言うな。なんでもするといっただろう。」
「言いましたが、まさかこれとは思いもしないではありませんか。何度も言いますが、あなたとの差は歴然なのですよ? 私が一方的にやられてお終いです。あなたに人をなぶる趣味があるのであれば別ですが。」
すると、アヒム様が頷きながら、ベルンにあるものを手渡しました。
「このベストを着て手合わせをするがよい。これは10㎏あるから、いいハンデとなるじゃろう。」
…たかが10㎏増えたくらいでは、ハンデとはなりませんよ。いつもあの重たい甲冑を身に着けて戦場を駆け回っておられるのですから…。
「それにプラス、肩をあげにくくするこれもつけようか。…ふむ、いやしかしなあ。」
なにやらうきうきとしたご様子のアヒム様。嫌な予感しかしません。
「頑張れリオ!」
そしていつの間にかエド様もいらっしゃり、お二人に見守られながら私たちは剣を構えました。
何十年かぶりに持った剣は意外と重く、私は筋力の低下をしみじみと感じました。…メイドの仕事にかまけすぎましたね。これではもしもの時なにもできないません。昨日、アヒム様に大見えを切ってしまったのに…。
「おい、剣先がぶれているぞ。やる気あるのか?」
ベルンは気に入らなそうな顔をし、剣先を軽く払いました。…やる気なんてあるわけないでしょう。よく考えれば、これは他の方々も使用する一般的な剣ですので、重いのなんて当たり前。それに気づかなかった時点で私の負け決定ではありませんか。
「やる気がないのは別に構わんが、これに勝った方は負けた方の言うことを聞くのだぞ? 俺としても少々手ごたえがあった方が…」
「はあ!?」
呆れた顔で意味不明なことを言うベルン。なんですかそれ!?
「……何かを賭けないとつまらないではないか。…それともなんだ? もしかして自信がないのか?」
馬鹿にしたような顔して挑発してくるベルンに、私はカチンときました。私は仕方なくあなたに付き合ってあげているというのに、感謝もせずにそれですか?大体、まだ他のメイドたちは夢の中であるというのに私は仕事外でもこうして朝早く起きて…!!
「それならそうと早く言え。悪かったな。では、仕方がない。他のことで…」
「誰が自信ないと言いましたか! 一介のメイドごときにあの有名な黒騎士殿が無様に負けたとなれば、惨めだなと思っただけです! そんなに恥をさらしたいのであればいいでしょう! 相手して差し上げます!!」
そう言い切ったところで私はハッとしました。…やってしまった。ベルンはしてやったりとニヤリと笑い、再び剣を握りなおしました。
「そうか。では始めよう。」
…あー!私の馬鹿!!これでは相手の思うつぼではないですか!馬鹿!なんでこうも感情に任せて考えなしに言ってしまうのでしょう。私はキッとにらみました。しかし相手は素知らぬ顔。………これは意地でも負けるわけにはいかなくなりました。
「………た…短剣の使用を認めていただきたいのですが。」
「ああ。何なら、飛び道具も許可するが…」
「結構です!!」
余裕たっぷりの表情で私の要求を呑むベルン。これは一泡吹かせないと私の気がおさまりません。私は剣を持ち直して、覚悟を決め相手を見ました。そして、
「両者とも、準備はできたようじゃな。では…はじめ!!」
アヒム様の開始の合図でベルンが私に向かって剣を振りました。私はそれを何とかかわし、後ろに下がります。その次の攻撃も私は必死でよけ続けます。私とベルンの体格差でつばぜり合いなど死に値します。しかし、攻撃をよけ続けるだけでは私に勝ち目などありませんし…。それはベルンも同じ考えだったようです。
「どうした! 逃げてばかりでは俺に勝てんぞ!」
…完全に調子にのっていますね。…しかし確かに調子には乗っていますが、私への攻撃に全く手を抜いている様子はなく、隙も与える暇もないくらい攻撃を繰り返してきます。さらに私が逃げの一手をしていると分かると、私自身を逃がさないように体で行く手を阻もうとしてきますので、逃げ続けられるのも時間の問題。私は気安く挑発に乗ってしまったことにかなり後悔いしつつ、考えを巡らせました。ベルンは騎士団の中でも戦闘の才能がトップレベルと言われていて、次の守護者だと言われています。幼いころは真正面から打ち負かしたりなどしていましたが、今では力量差や経験からみても不可能に近い。…どうしたら…このむかつく顔をぺしゃんこにできるのでしょうか!!昨日のうちに落とし穴でも作っておけばよかったです。
「もうギブアップか? 俺はそれでもかまわんが?」
攻撃の手を止め、微笑むベルン。きっとにらみつけると、私はその後ろで昨日エマ様と登ったあの木が見えました。私の中でふと、ある考えが浮かびました
「勝つのが分かっていますのに負けを認めるなどするわけがないではありませんか!」
私は剣を構えながらベルンに向かって走り出しました。思った通りベルンは私がやけになって突っ込んできたと思ったようです。受ける体勢をとりました。しかし私は剣を投げ捨てて、ベルンの横を通り過ぎました。そしてあの大きな木のそばまで来ると枝に足をかけ登り始めました。
「なっ!?!」
私がわき目もふらず登り始めたのを見て、ぎょっとするベルン。私は昨日と同じ景色を見て、太陽がどこにあるか確認しました。そしてベルンが木の近くに来たのを確認すると、枝や実を投げつけました。
「リオ! 汚いぞ! 降りてきて正々堂々と戦え!!」
どの口が言いますか!!こんな理不尽な勝負を持ちかけ来たくせに!私は持っていた木の実を思いっきり投げつけました。しかし、腹正しいことに涼しい顔をして私が落としていくものを次々と切っていきます。そして最後に木の枝を投げ、私は短剣を口にくわえててっぺんまでのぼりました。
「このまま降りてこないつもりなら、俺にも考えが…」
「ベルン!!」
私は大声でベルンの名前を叫ぶと、そこから飛び降りました。
「なっ!? …うっ」
太陽が背にある私の姿は、ベルンからは見えず、さらに目くらましになるはずです。そのくらんだ目であれば、一瞬の隙をつくことができるはず。ベルンの近くへ飛び降りた私はそのがら空きの懐へと短剣を持って突っ込んでいきました。
「これで私の勝……」
「ゲコッ」
しかしそこで私は、思いかけずあるものを発見したのです。ベルンの足元もとい私の足のすぐそばに、あの時の大蛙が口をもぐもぐさせながら座っているではないですか。
「ぎゃあっ!!! 蛙!?……わっ!?」
私は慌てて、後ろへと下がりました。そして潰れた実の汁ですべってしまい、後ろへすってんころりんと転んでしまいました。蛙を見て動揺している私は受け身などとれるわけもなくそのまま頭から突っ込んでいきます。ぶつかるっ!!
「…お前な」
しかし私の頭は何かによって支えられ、衝撃はありません。私は恐る恐る目を開けると、目の前には呆れた顔のベルンがいました。ベルンは片手で私の頭を受け止めてくれたようです。私は顔が真っ赤になるのが分かりました。慌ててベルンを押して、私は起き上がろうとしました。しかし、その前にベルンは剣を振り上げました。思わず目を瞑りますと、剣は私の頭の上の方へと刺さりました。私がはっとして目を開けましたところ、ニヤリと笑うベルン。そしてベルンは私の耳に顔を近づけます。私はさらに顔が熱くなるのを感じました。耳の近くでベルンの息遣いが生々しく聞こえたからです。
「これで俺の勝ちだ。リ……がっ!?」
気付いたら私は、ベルンの横腹に膝蹴りをくらわせていました。その衝撃でベルンは横へと倒れます。私は急いで立ち上がり、アヒム様方の元へ向かいました。
「お疲れさまリオ!! 二人共すごかったね!!」
エド様が私に抱き付かれて言いました。私はどっと疲れたような気分になりエド様に微笑むと、まだ違和感がある耳を触りました。
「この勝負、引き分けじゃな。はぁ、情けないの。」
アヒム様の言葉にホッとしました。手合わせでしたら、剣を失っている時点で私の負けだったからです。
「リオは鍛錬不足と、注意が散漫であったことが課題じゃな。しかし、発想力と相手の注意をひくのには長けておった。及第点としよう。しかし、あやつは…」
笑っていた目がぎろりとベルンへと向き、途端に鬼のような顔つきになりました。
「最初の攻撃はよかったが、リオが木に登り始めてから集中できておらんかったぞ! そのようなことで動揺していては、いつか敵に隙をつかれると分からんのか!! お前にはさらに鍛錬が必要なようじゃな!!」
「…も、申し訳ございません。」
アヒム様の言葉に私は首を傾げました。動揺?木に登ったぐらいで?がみがみと今後の課題を言うアヒム様のお叱りを受けるベルンを見ながら、私が考えておりますと
「リオ、この後アヒムに稽古つけてもらうんだ。リオも一緒にしよ!!」
エド様がにこっと私に抱き付いたまま笑われます。私は微笑みながら頷き、この方を守れるくらい強くなろうと思いました。エド様が嬉しそうに笑って、自分の剣を取りに行かれます。
「申し訳ありませんエドワール様。鍛錬の前に少々お借りいたします。」
しかし、いつの間にか私の隣いたベルンが私をいきなり抱きかかえて、歩き出しました。
「まっ!? お、おおお降ろしてください!!!」
いきなりの事でついていけない私の頭の中には、最近作り始めたお菓子の数々が浮かんできます。……最近、味見のし過ぎでお腹の肉が気になってきたのです。私は慌てて暴れましたが、ベルンの力が強くて不可能でした。
「断る」
まだ朝が早く、人の通りがないと言っても誰がここを通りかかるかもわかりません。私はベルンの顔を思いっきり押しのけようとしました。
「おとなしく…しろ! さっきの蛙を押し付けられたいか!!」
ベルンのその脅し文句に衝撃を受けた私は、渋々その手をひきました。そして祈りました。ここを誰もこの状況を目撃しませんように!!そして体重よ、今だけでいいので軽くなりますように!!!私の必死の願いが通じたのか誰も通りかかることなく、とある部屋の前にたどり着きました。その部屋をみて私は不思議に思いました。そこは昨日も来た医務室だったからです。ベルンは無言で部屋に入り、私を椅子へと降ろしました。
「あの? 私どこも怪我していませんよ?」
むしろかすり傷だらけのベルンのほうが…
「嘘をつくな。あんな高いところから飛び降りて無事なわけあるか! お前な、負けず嫌いにもほどがあるぞ!」
その言葉で私は少々きまずくなりました。普通の人はあんなところから飛び降りたら怪我をするものだと気づいたからです。実は、飛び降りるとき少々足に魔力を込めていたので私は痛くもなんともないのです。しかし、彼らに魔法を使えるということは隠している手前、そんなこと言えません。
「…えっと、ちゃんと受け身をとったので大丈夫です。」
ベルンが私が着地したところは見ていないと踏んで、私はそう言いました。ベルンは私に疑いの目で見て、私の靴を脱がしました。足を隅々まで見たベルンは一応、痛みに聞く薬草を塗って、布を巻きました。
「これでよいだろう。いいか! もうこんな無茶はするなよ。」
私の方をきっと見て、ベルンは言いました。慣れた手つきで私の足に布を巻く姿をボーっと見つめていた私ははっとしました。しかし、その言い方はかなり気に食わないものです。そうさせたのは他でもなくベルン本人なのですから。
「……あなた様にこのようなことをさせてしまい、申し訳ありませんでした。ありがとうございます。…しかしながらお言葉ですが、このようになった経緯はどういうものかお分かりになっていらっしゃるのでしょうか? 勝った方がどうこうだなんて今日初めて聞きましたが?」
「そ、そうだったか? 俺は言ったような…」
白々しく言い逃げするベルン。私は言葉をたたみかけました
「どうせ私が断りそうだから、あえて言わなかったとそのようなところでしょうか。大体、私とあなたとでは勝負は見えているでしょう! あきれました!!」
「い、いや…。俺はただ…」
「ただ? 私程度に勝っても、恥になりはすれ自慢にはならないでしょう? 私に勝って、何を私にさせるおつもりだったのですか? さあ!! おっしゃってくださいな。」
すると、途端に動揺する様子を見せるベルン。顔を真っ赤にして、口を開けては閉じてを繰り返します。その様子を見て、私は椅子ごと後ろへ下がりました。
「……い、言えないことを…?」
そうなれば、私以外にもこのようなことを持ちかけて、あんなことやそんなことを要求して………
「馬鹿! 違う!! お前が今思い浮かべるようなことでは決してない!! 断じて違う!! 考えてもみろ!! 結婚もしていない男女がそのようなことをするのは禁じられているだろう!!」
その言葉に私はそれもそうかと、それ以上下がるのを止めました。しかし疑いの目はまだベルンに向けたままです。
「では言えますよね?」
「……勘弁してくれ。無理強いしたことは謝る。だから…」
困ったように顔を手で隠しすベルン。そのような言葉で許すわけないでしょう!こうなれば意地でも聞き出します!!
「ほー。そのような形だけの謝罪で許されると思っておられるのですか? こちらはかなり死ぬ気でやったというのに、それではつり合いませんよ? さあ!! 白状なさってくださいな!!! 一体どんなことを私にさせるつもりだったのですか!!」
ベルンに大股で近づき、顔を近づけます。しかし、中々口を開こうとはしないベルン。その顔を見ると、ゆでだこのように真っ赤でありました。いつもは涼しい顔をして、メイドのお姉様方からクールでかっこいいと言われているベルンがです。私は思わず笑ってしまいそうになりました。いいでしょう。昔から驚くほど実直なベルンが、そのようなことをするとは最初から思っていませんでしたし。まだ、腑に落ちないところはありますが、ベルンのそのような顔が見れたので、私はもう満足です。エド様との約束もあることですし、私はそろそろ戻ろうかとくるりと後ろを向きました。
「……もういいです。よく考えましたら、何をされても文句を言える身ではありませんし、それに……」
引き分けだったのですから、やらなくていいことをわざわざ聞かなくてもいいかと。そう言いかけて私は止まりました。ベルンが私の手をつかんだのです。ベルンを見ると、慌てたような顔を私に向けました。
「……ほ、本当に…違うのだ。俺は…ただ…」
その顔を見て、私はついに吹き出してしまいました。幼いころにもこのような顔をされたことがありました。ベルンがきょとんとしているのを見て、ますます笑いが止まらなくなりました。それを見てだんだんベルンがいつもの調子を取り戻していきました。
「…慌てた俺が馬鹿だった。」
「あなたの脳みそが筋肉だらけなのは今に始まったことでは…ごほっごほごほ!!」
私はついいつも思っていることを言いかけてしまい、慌ててごまかしました。しかし、それはしっかりとベルンの耳に届いていたようです。
「お前のよりはましなつもりだ!! 空気が読めないお前のよりだ!!」
その言葉は心外です。空気が読めないのはいつもあなたの方ではありませんか!!
「空気が読めない!? 自分でいうのもなんですが、私は空気を読むのに長けております! 空気が読めてないのはあなた様の方かと思われますが!!」
「長けているなど勘違いも甚だしいわ!! お前が空気を読めている場面など俺は見たことも聞いたこともないぞ!!」
「それはあなた様が空気を読むのが不得手だからだと思われますが!? そこまでおっしゃるならば読んでいただきましょう! 先ほどからお聞きしている件についてお答えいただけますよね?? さあ!! 分かりやすい空気の読み方ですよ!」
あったまにきました!!!私が読んでいるように見えないのはあなた様が、まさに空気が読めないからです。私の苦労を知らないでいつもいつもいつも!!いい加減、それに気づいてください!!さあ!!どうぞおっしゃってくださいまし!!
「…………こっ…」
しばらく私を睨んでいたベルンが、懐から何かを取り出し私に近づいてきました。私がその口から何を聴けるのだろうと、期待しつつそれを待ちました。
「………え? な、何でそんなに近いのですか!?!?」
ベルンはそのまま近づき、私に腕を回されました。傍から見ると、ベルンと抱擁をしているように見えるでしょう。
「………じっとして、しばらく黙っておれ。」
ベルンが私の首から髪を払い除けながら言いました。そう言われましても……ベルンの手が私の首に触る感触がして、落ち着きません!!私は必死で別のことを考えようとしましたが、ベルンの手の体温や匂いが五感を通じて感じてきて集中できません。
「………もういいぞ」
しばらくしてベルンが離れ、ホッとした私の首には綺麗な装飾がほどこされているペンダントがかかっていました。それは何やら小さく文字が円の形で彫ってあり、その真ん中には黒色の砂にところどころにキラキラした砂の粒がガラス張りにちりばめてあり、まるで夜空に光る星のようです。
「…べ…別に深い意味はない! 先の戦の帰りに見つけた、ただの安物だ! それでもつけて少しは女らしくするがよい。そうすれば嫁の貰い手も見つかるぞ!!」
いつもであればカチンとくるその言葉に私は言い返すこともなく、震える声で聞きました。
「……これを……私に?」
「あ……ああ。」
私は再びそのペンダントを眺めました。初陣が済んだベルンはよく私に、お土産のようなものを持ってきてくれました。私が距離を置くとともにそれは少なくなりましたが、それは今でも部屋の入れ物にいれてとってあります。絶対に言いませんけど。ベルンに他意などないのは知っていますし、うぬぼれるつもりもありません。しかし、つい顔が緩んでしまうのは仕方ないことだと思います。誰だって人から物を貰えると嬉しいものでしょう?…………しかし、解せないことが一点。
「……ありがとうございます。」
「……いや、その…中に入っている黒い砂を見て……お前の黒い髪を思い出し、気が付けば買っていた。そ、その…だから…」
「ええ。とてもきれいです。ありがとうございます。……しかしながら、言わせていただきたいのですが、先ほどおっしゃった、私が女らしくないとはいったいどういう意味でしょう!! 返答次第によってこれはお返ししなければなりません!!」
髪を伸ばし、それらしくしようとしている私にとってその言葉はやはり聞き逃せません。その言葉に一瞬唖然となさったベルン様。
「そっ、そんなことは今どうだっていいだろう!! やはり…お前は空気が読めん!!」
「それこそ今どうだっていい話ではありませんか!? さあ! 私のどこが女らしくないと!? あなた様から男だと言われて以来、それを気にして髪だって伸ばしているのですよ!!!」
あの屈辱は今でも鮮明に思い出せます。そしてそのとき思いっきりベルンの顔をぐーで殴ったことも。
「見かけをきちんとしても中身がな。先ほどだって、その服で思いっきり木に登っていたではないか!! 俺は気が気がなかったぞ!! 見せられる方の気持ちになれ!!」
「この服は下にちゃんと長ズボンがついているのですよ!! 大体ワンピース仕様の服なんて着てくるわけないではありませんか!!」
「誰だってそんな服見たらそう思うだろう!! 考えなしで行動するな!!」
はあん!?貴方にそんな事言われる筋合いなどありません!
私たちの言い合いは、それからしばらく続きました。