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敵地となったハウヴァーへの不安



 昼食を取りますと、私たちは最低限の荷物を手に外へ出ました。私たちの格好は膝を隠すほどあるフード付きの上着で、フードを被れば私たちだと容易には分からないでしょう。傍から見れば怪しさ半端ないでしょうけど。馬での移動は目立つので歩きになると最初に念を押されました。…まあ、私には必要のないことですが。カルファとギルは偵察として先に朝から王都へと向かって居り、つい先ほどその連絡が来たようなので、とうとう私たちがナノエの兵が多く根城にしている王都へと足を踏み入れるのです。フィルマン様の移動魔法が唱えられるまで、あと数分。場は緊張と不安で包まれている…そう思われましたが…。


「『私リオは、ひとりでここから発つことをお許しください。私は女神を探す旅に出て……』」


「おやめくださいエマ様!! 私の置き手紙をお返しくださいぃぃぃーー!!!」


「嫌よ! こんな面白いものを放って置くなんて勿体ないじゃない!」


手を伸ばす私を身軽に避けられ、けらけらと笑うエマ様。置き手紙の事でいじられるのはもうこれで何度目でしょうか。私の部屋からいつの間にか無くなっていた置き手紙が、何故かエマ様の手に渡ってしまったことが運の尽き。今朝から私はこのネタで何度も何度もエマ様からいじられるのです。エマ様が手紙の続きを読まれ、それを羞恥心でいっぱいになった私が奪おうとする、その繰り返しでした。私は肩で息をして、額から出た汗を拭いました。


「エマ様……これから赴く場所がどこかお分かりで………」


エマ様のあまりの緊張感のなさと、私の羞恥心が限界に達しそうになり、私はそうエマ様に言いかけました。………違うか…。私は言いかけた言葉を止めました。


「え? リオ何か言った?」


幸いエマ様は私の言葉を聞いておられなかったようで、満面の笑みで振り返られました。私は息が苦しくなり、地面を見て、両手を膝に置き中屈みになりました。


「次の行き先がハウヴァー……?」


今朝、私はそうベルンから告げられました。途端に、脳裏に浮かんだのは悲惨な城の情景でした。鉄と何かが焼ける匂いに、目を覆いたくなるような赤色…今でもはっきりと脳裏に刻まれているその情景を…再びこの目にするのですか…?


「……ああ。女神を探すには長旅となるだろう。その前に少しでもハウヴァーの情報を頭に入れておく必要がある…それが俺とフィルマンの考えだ。すでに殿下と姫君の了承は得ておる。……本来ならば、これは俺たちで行う予定だったのだが、お二人が嫌がられてな。幼いお二人には酷な光景だとは思うのだが、フィルマンがお二人を入れて計画を立て始めたのだ。あいつも殿下の教育係を担っておったし、俺も殿下はお連れしようと思っていたのだが、さすがに姫様は想定していなかった。…お前が無理そうならば姫様も我を貫こうとなさらないと思うが………どうする?」


「……さすがにこの人数で動くわけにはいかないでしょうから、ばらけて情報を集めるのでしょう? でしたら、私も行かないわけにはいきません」


私は震える手を隠し、精一杯微笑みながら言いました。エマ様が望んでおられるのです。私が怖がっていてどうするというのでしょう。ベルンはそんな私に何か言いたそうに口を開きましたが、


「……そうか」


とだけ言い、先に中へ入っていきました。私は呼吸が次第に早くなっていくのが分かり、慌てて大きく息を吸いこみました。…大丈夫です。ナノエもさすがに敵地となったところにまさか戻っているとは思わないはず。見つからないようにすればきっとなにごともなく終わるはずです。戦闘なんかにはならない。大丈夫です…大丈夫…


「…大丈夫…大丈夫…」


私は何度もそう自分に言い聞かせて、大広間に足を踏み入れました。大広間には先に行ったと思っていたベルンが立っており、私は驚きました。ベルンは私に背を向けながら、


「心配するな。命に代えても俺が守る。殿下も、姫様も、お前のこともな」


というと、しっかりとした足取りで大広間を出ていかれました。私の心配はむしろあなたに向いているというのに。私は前を歩くベルンの大きい背中を見ました。戦闘になれば、まず最初に敵の攻撃を受けるのはあなたではないですか…。センダ―リアもおらず、背後にいる私たちを守りながらまともに戦えるのですか…。そんな私の心内のことなど知る由もなく、ベルンは足音を鳴らしながら私の前をただ歩くのです。


「リオ? もう疲れちゃったの? いつもならもっと頑張るのに」


今朝の回想にふけっていた私は、ハッと顔を上げました。いつの間にかエマ様の満面に微笑んでいるお顔が目の前にありました。……この笑顔も不安をかき消そうとするものから来ているのだと思うと、切ないものがこみ上げてきます。


「あっ! リオずるいわ!!」


私はエマ様の手から私の書いた置き手紙を頂戴いたしました。そしてそれをびりびりに引き裂いて、ごみ袋の中へと入れました。


「あー!! まだ全部読んでないのに!!」


エマ様が名残惜しそうに、小さい紙屑になったそれらを見つめられます。そんなエマ様に、


「はいはい! お遊びはお終いですよエマ様。そろそろ、出発されるお時間です!」


と声をかけフィルマン様を見ました。フィルマン様のご準備はもうとっくに終わられていたようで、あとは私たちの心の準備だけだったようです。私はエマ様に手を伸ばしました。彼女はきょとんとした顔をし、そして満足そうに微笑み、手を取られました。


「では、参りましょうかエマリア様」


「ええ! 頼りにしてるわよリオ!」


そして、私たちがフィルマン様を言う通りに立つやいなや、まばゆい光が私たちを包み込みました。そして次に目を開いたとき、そこには見慣れた懐かしい景色が広がっていたのでした。


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