慌ただしい王宮での出来事
遠征から王様がご帰還なされたその夜。王宮は大騒ぎでした。大広間で宴会が開かれたのです。それにより、私たちメイドにとって大忙しな夜となりました。
「おい! こっち酒ないぞ!!」
「こっちは料理だ!」
べろんべろんに酔っぱらった兵士たちが赤い顔で私たちに叫びます。いつもは姫様のおそばで待機しているはずの私もあまりの忙しさに呼び出されてしまいました。
「リオ。これを陛下のところにね。」
料理長のジュリーが私に料理を手渡します。私は内心王様の前で粗相をしないか不安でしたが、表に出ないように顔を引き締めました。王様の後ろには三人のメイドがお酒の瓶を持って控えており、すでに一本目はなくなりつつあります。しかし、アレクサンドロス王はいつもと変わらぬ顔で王妃様であるマリア様に今回の戦の成果について熱弁されています。私は王様に何事もなく料理を出し、厨房へと戻ろうとしました。
「待ってリオ。」
しかし、それは可愛らしい声によって止められてしまいました。その方は私の服の裾を軽く引っ張り、綺麗な空を想像をさせる青色の瞳を私に向けました。
「どうされました? エドワール様。」
その方はハウヴァー王国の次期後継者で、エマ様の双子の弟君、エドワール・カナン様。活発な姫様とは違い、温厚で争い事を好まないエド様は陰で色々と言われていますが、私はアレクサンドロス王とはまた違う王様となり、よりよく国を治めていくだろうと確信を持っております。……親バカならぬメイドバカと言われてしまえばそれまでですが……。
「……これいつになったら終わる?」
言いずらそうに私に問いかけるエド様。確かに初陣がまだなエド様にとってこの宴会はつまらないものでしょう。そしてそれが姫であるエマ様なら余計に。私はエマ様をちらりと見ました。やはり私を見て不満そうに頬を膨らませておりました。
「なんでリオ、私たちを放っておいて料理なんか運んでいるの! つまらないわ。」
おそらくエド様はこれをずっと聞かされていたのでしょう。助けを求めるように私の服の裾を掴む力が強くなります。
「申し訳ございません。なにぶん人手不足なものでして…。あともう少し経ちましたら、陛下に許可をいただきに参りますから。もう少し辛抱を。」
「……もう少しっていつ?」
「あの時計の長い針が12になりましたら。」
「……あと三十分も?」
「……ご辛抱ください。」
さすがに双子攻撃はきついと苦笑いしながら、私はなんとか二人に言い聞かせてその場を離れました。
「いやーしかし、さすがベルンフリート殿! 貴殿の戦い方はいつ見ても見事だ! 若い時のアヒム殿を思い出す!」
ふとベルンが座っているテーブルが特に賑わいを見せていることに気づきました。ベルンはお酒を飲みながら、多くの武人に囲まれていました。
「謙遜なさるな。貴殿の活躍がなければこうも早く決着はつかなかった。我が国は優秀な人材がそろっておるなぁ!! わはははっ!!!」
ベルンの席の近くを通りかかったとき、お酒を勧められそれを断っているベルンと一瞬だけ目が合ったように感じました。一瞬だけというのは私がそれどころではなかったからです。私は何かに急に躓き、危うく転びそうになりました。
「おーおーおー!! なぜここに汚らしい孤児がおるのだ? せっかくの酒がまずくなるわい。」
それは私がアヒム様に拾われたあの日に、防衛として転ばせてしまったあの方、イッシュバリュート・デヒム様でした。しまったと私は浅はかな自分を呪いました。この方はあの事をいまだに根にもっており、騎士団長へと昇格した今でも隙あれば私を貶めてくるのです。
「……申し訳ありませんでした。」
私は謝り、さっさとその場から離れようとしました。しかし、イッシュバリュート様は先に回り込み、私の行く手を阻みました。
「待てよ。せっかくだ。今回の戦果ぐらい聞いたらどうなんだ? お前はメイドのくせにそんな気遣いもできやしないのか?」
それはこの慌ただしい状況を見てから言ってください。しかし、明らかに酔っぱらっているこの方に何を言っても無駄でしょう。
「それは大変失礼いたしました。」
「ふんっ。しかし、お前の貧相な顔を見たらその気も失せるわ。なあ?」
下品な笑いをして周りの人々に同意を求められますが、それに反応されたのはほんの数人。後の方々は私を見て、早く逃げろと合図をしてくださいます。それを見て私は幾分か気持ちが楽になりました。そして私はその場から離れようと、その方の横を通り過ぎました。
「お前のような人間のなりそこないが、この宮殿の敷居をまたぐことが許されていることに驚きを隠せないな。神聖な宮殿を汚さぬように、穢れの者はそれらしく隅の方にでもおるがよい。」
後ろから浴びせられた言葉に私の足は止まってしまいました。穢れの者というのは、魔族に対して差別する時の呼び方です。そう言えばこの方は私を魔族だと疑っておられたのを思い出しました。そしてふと頭の中にばらばらになったあの化け物たちの姿が浮かび、私は唇を噛みました。人間のなりそこない。化け物。それらの言葉が何度も頭の中で重複していきます。
「イッシュバリュート!」
その時、すぐ近くから聞こえた怒鳴り声で、はっと私は冷静になりました。その怒鳴り声の主がベルンだったからです。ベルンは怒りの表情を隠そうともせず、こちらへと歩いてきます。
「今の言葉…グオッ!?」
私は慌ててベルンの足を思いっきりと踏みつけました。今朝の時より、えらく大げさな反応でしたが私は気にせず、その言葉を続けました。
「今のお言葉、その通りでございます。私のような下賤な者にそのようなご親切な助言をしていただき、感謝の言葉もありません。」
深々とお辞儀をし、微笑みました。そして、私のことを涙目でにらみつけているベルンを放って、今度こそその場から立ち去りました。
「まーた、なんか嫌がらせされたのかい?」
その現場を目撃していたジュリーが心配そうに私に声をかけてくれます。私は微笑みながら心配ないと言いました。そう、いつものことです。気になどしてはここでは生きてはいけません。
「ふーん。でも、なーんか嫌がらせされたにしては嬉しそうな顔してるね?」
私は図星つかれドキリとしましたが、そんな風には見えないような顔を作ります。
「私、いじめられて喜ぶような趣味はありませんよ? 気のせいでは?」
「まっ、そうだよね。私にもないわ。はい! これテーブルの真ん中によろしく」
大盛りの料理を手渡したジュリーは奥へと戻り、違う料理を作り始めました。私はそれを持ち、たまに足元を警戒しながらそれを運びました。
そして三十分が経とうとし、そろそろ約束の時間になりました。騒いでいた兵たちも泥酔して次々と脱落していきます。
「うん。行ってやんな。」
私はジュリーに約束のことを伝えると、快くオッケーしてくれました。私は王様の元へと向かいました。王妃様はすでに退出なさっており、王様は一人で飲んでおられました。
「……申し訳ございません陛下。少々よろしいですか?」
私は王妃がいなくなり、威圧感が半端ではない王様に話しかけました。王様がなんだとばかりにこちらへ目を向けられました。
「そろそろエドワール様とエマリア様が就寝されるお時間です。お二方の退出の許可をいただきたいのです。」
すると興味がなさそうに頷き、再びお酒を飲まれるアレクサンドロス王。私はホッとして一礼をすると、もう眠たそうにしているお二方を連れて、大広間を出ました。
お二人のお部屋へと向かう途中、特にエマ様が不機嫌そうに私に文句を言いました。私はそれを聞き流し、お二人をそれぞれ部屋へお連れしました。
「寝る前に何かして! リオ」
「まだ、寝たくない。」
しかし二人共、まだまだ元気が有り余っているようで中々部屋に入ろうとしません。
「今日はもう遅いですし、気づいていらっしゃらないだけで疲れていらっしゃると思いますよ? 今日はもうおやすみになって、明日たくさん楽しいことをすればよろしいのでは?」
私はお二人の頭を撫でて言い聞かせました。すると互いに顔を見合わせて、こくんと頷かれ、
「おやすみ! また明日ね、リオ」
と笑って部屋へと入っていかれました。
「おやすみなさいませ。良い夢を。」
いつもでしたらきちんと布団をかけているか確かめるところなのですが、私にはまだ仕事が残っています。私は部屋の前でお辞儀をすると、大広間へと戻りました。
「リオ」
しかし、大広間から出て来られたベルンによって私は仕事に戻ることはなくなりました。ベルンは私の方に大股で歩いてきて、一言
「医務室に連れて行け」
と言い放ちます。私がきょとんとしていると、
「お前が二度踏みつけたところが、痛すぎて宴会に集中できないんだ」
ベルンが私を睨みながら、足を指差します。私は先ほど踏みつけた時、大げさに反応していたことを思い出しました。あの時は急を要したので、力加減もろくにせず踏みつけてしまいました。私は少々後ろめたいような気分になり、ブツブツと言っているベルンに肩を貸しました。
「何故お前はすぐ人の足を踏みつける? もしも戦に支障が出たらなどとは考えないのか? まったく……すぐに手が出るのはお前の悪い癖だぞ。それでは中々嫁の貰い手もないだろう。これでも心配しておるのだ。」
いつもより近い距離でベルンの声が聞こえ、少し後悔していましたが……。それはもはや注意などというレベルではなく、悪口です。貴方に嫁の貰い手どうこう言われたくはありません!そういうご自分も婚約者すらいないくせに、人のことよりまず自分でしょう!怒りがふつふつと湧き上がってきます。緊張していた私が馬鹿でした。
「それはそれは。その程度の怪我で、支障が出るかもしれないなど天下の黒騎士殿からそのような言葉が聞けるとは思ってもみませんでした。ご自分の未熟さを人のせいにするとは、なんとも器の小さい方でしょう。」
「なにっ! お前な、ここは素直に謝るところだろう!! 謝らんでいい相手には謝って、謝るべき相手には謝罪しないというのか? お前はあまのじゃくか!!」
先ほどの一件をまだ消化しきれていないようで、私に怒鳴るベルン。私はそっぽを向き、言い返しました。
「あなたが考えなしでありますので、あのような態度をとったのです。むしろ感謝してほしいくらいです。」
あなたが私のことを気遣う発言をなさるたびに、周りのあなたの評価が落ちるのです。あなたは私を歳が近い妹のように感じているのかもしれませんが、私はあくまでもメイドという身分。それをそろそろ理解していただきたいものです。
「俺のどこが考えなしだというのだ!!」
私の言葉に心底心外そうな顔をするベルンに思わずため息が出ました。私の苦労などお構いなしなベルンに頭が痛くなります。……そういうところですよ。
「……ほら、つきましたよ。そこに座ってください。」
そもそもここに私と一緒に来るということ自体がおかしいのです。普通でしたら、部屋に医師を呼び治療してもらうもの。大体、この治療室は使用人専用でありますのに。
「座れと言われても、俺は今普通に歩行することでさえ怪しいところなのだが。」
当てつけのように私に言うベルン。あなたさっき普通に歩いていたでしょう!?渋々、椅子まで連れていき座らせると、私をじっと見るベルン。お前が責任を取って全部やれと言いたいのでしょう。私はため息をつき、
「……子供ですか」
とぼそっと悪態をつきました。
「何か言ったか?」
「いいえ何も。」
私はベルンの足元に座り、穿いているブーツを脱がし始めました。……これは慣れていない人がすると脱がしにくいものですね。私が悪戦苦闘していると、その間やけにベルンの視線が気になりました。
「…あの…そんなに見られるとやり辛いのですが…」
「お前が俺にこれ以上危害を加えないか見張っているのだ。それと脱がせるのに時間がかかりすぎだ。不器用人。」
不慣れなだけです!文句があるなら、あなたがご自分でやられてはどうですか!!という言葉を寸前のところで飲み込み、私は無視する方向に決めました。そしてやっと脱がせることに成功すると、むき出しとなったベルンの足が、確かに赤く腫れあがっているのが分かりました。私へのあてつけではなかったようです。私は痛々しく腫れあがった足を見て、反省しました。確かにやりすぎました。私はその部分に薬草を塗り、上から布を巻きます。そしてぼそっと聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟きました。
「…も……申し訳ありません…でした……」
しかし、相手から何の反応がありません。私は焦りました。周りは物音ひとつしていませんし、ベルンの耳に届いたはず。顔を見るのは少し怖いし……
「あの! その……すみませんでした!!」
今度は声を大きくして言いました。しかしいくら待っても返事はありません。……まさか怒って、私と口もききたくない…とか?…どうしよう。だってまさか!………こんなになるなんて思わなかったし…。
「ベ、ベルン…あのっ! ……ん?」
私はばっとベルンの方を見ました。ぶすっとして眉間にしわを寄せた彼がそこにいると思いきや、全く違いました。ベルンは苦しそうに体を震わせ、笑いをこらえるような仕草をしていたのです。
「お前が……あまりにも必死で…くくく。」
ついには堪えきれず、吹き出すベルン。………こいつ…!私は立ち上がり、大笑いし始めたベルンを睨み言いました。
「……お元気そうでなによりです。それでは私は仕事がありますので失礼します。」
そして医務室から出ようとドアへ歩き出すと、ベルンが慌てて私の手をつかみました。
「待て! 悪かった! そんなに怒るな。それにまだ途中だろ?」
ベルンがむき出しの足を指さしました。私は渋々再び座り込み、ベルンのブーツを手に取りました。顔をちらりと見ますと、ベルンはほっとしたような顔をしていました。………怒ってはいないようです。私はふと、足に治りかけの傷があるのに気づきました。それは何かで切ったような傷跡でした。
「あぁ、それか。前の戦…だったか、興奮した馬を落ち着かせる時に少しな。結構派手に出血して周りに迷惑をかけてしまった。周りは敵だらけの中、なんとか止血して戦ったものだ。今朝、お前が朝蹴ったところがまさにここでな、久しぶりに思い出した……リオ? どうした?」
私は朝、思いっきり力の限り蹴りあげたときのことを思い出し、真っ青になりました。慌てて、傷の具合を調べます。少々血が滲んでいたような気がしたので、消毒をしてそこにも布をあてました。
「……本当に……申し訳ありませんでした。」
私は再び謝罪の言葉を口にしました。するとベルンは何故か困ったように笑いました。
「あー、さっきの本気にしたのか? その……足は全然痛くないのだ。気にするな。」
その言葉が嘘だということはこの腫れ具合で分かります。私はブーツの紐を結びながら、先ほどのベルンの言葉が頭の中でよみがえってしまい、唇を噛みました。
「…………これで、次の戦でベルンフリート様が傷を負ってしまったならば………私のせいですね。」
「それはお前がちゃんと言い返しただろう。このくらいの傷を理由に、敵から一撃をもらうなど武人の名折れだ。俺はそんなに弱くはない。案ずるな。」
ベルンが慌てた声で、私を気遣う言葉をかけ、私の顔をのぞきこもうとしました。しかし、私はそれを避け、下を向きます。今の私の顔はかなり不格好なものとなっているので、それを見られたくありませんでした。
「………冗談が過ぎたな。悪かった。許せリオ」
何故ベルンが謝るのでしょう。私は首を横に振り、膝の上にある拳を強く握りました。
「……この国のために戦へと赴く大切なそのお体に、メイドの身分でありながら傷をつけてしまったこと、深くお詫び申し上げます。つきましては、その償いとして私に出来ますことなら何なりとお申し付け下さいませ。」
一瞬の沈黙があり、ベルンは口を開きました。
「必要ない……と言いたいところだが…。本当に何でも言っていいのか?」
「はい。私に出来ることなど些細なことですが……」
「……では、二つほど聞いてもらおう。一つ目、明日の朝、手合わせを願いたい。」
「ええ。もちろ………は?」
頷きかけていた私は耳を疑いました。…手合わせ?手合わせとはあの手合わせですか?剣と剣を交えるあれを?既に達人の領域にいる貴方と一介のメイドである私が?
「何年ぶりかしようではないか。大体、お前が途中で投げ出すから勝負もついておらんかったしな。」
「投げ出したわけではなく、アヒム様がメイドの仕事をと……ではなく! もう既にベルンフリート様と私とでは圧倒的な差が………」
私は必死で考えを改めて貰おうとしました。何でもすると言った手前でしたが、背に腹は変えられません。痛い目を見るのは目に見えています。それに貴方は安静にしていなければならないでしょう?しかし、私の言葉はベルンによって遮られ、二つ目の話となりました。それを聞き、私は気安く何でもすると言った事を心から後悔しました。
「それだ。前から言おうと思っていたが、そのベルンフリート様とはなんだ? 昔のようにベルンと呼べばよかろう。ほれ、先程のようにもう一度呼べ。」
「なっ!?」
先ほどとは…………!あれか!!私は慌てて言い返しました。
「違います! あれはベルンフリート様と言いかけて途中で止まってしまっただけで……」
「そうか。では今から呼んでみろ。ほら。」
にっこりと微笑むベルン。私は何かこの状況から抜け出す方法を考えました。しかし、逃げ出そうにもベルンが私の腕を掴んでいますし…。あー!もう!その顔、腹立つ!!打開策を思いつくことが出来なかった私は、渋々口を開きました。
「………………ベルン」
「声が小さいし、名前を呼んでおるくせに顔を逸らすのは感心しないな。やり直し。」
これでも精一杯やったのですが!ダメ出しをされ、さらにはもう一度など……貴方は何様ですか!!
「何でもすると言ったのはお前だぞ?」
先程から、心からそれを後悔している最中です!
「………こっちの気も知らないで…」
私は悔し紛れにベルンに聞こえないように呟きました。…………ベルンのことを様を付けて呼ぶようになったのは、私がメイドの仕事を覚えてすぐのことです。私と仲良くしているのをよく思わない方々が、ベルンのことを悪く言っているのを聞いてしまい、それを機に私は彼と距離をおこうと決めたのです。最初に様を付けて呼んだとき、ベルンがとても傷ついた顔をしていたのを覚えています。それから何年か時は経ちましたが、今でも時々悲しそうな顔をされるのを、私は今まで見て見ぬ振りをしてきたのです。………私の覚悟をこうも簡単に壊さないでいただきたいですね。全くこの人のこういう所が昔から嫌いだったんです。
「なんだ? なにか文句があるなら言ってみろ。」
「何でもあ、り、ま、せ、ん!!」
私は意を決して、深く深呼吸をして、ベルンの目をちらりと見て言いました。
「………………ベルン」
「ああ。」
私がせっかく見ないようにしていたのに、ベルンは私の顔を両手で掴み、自分の方を無理やり向かせました。
「先程よりましになったがまずまずだな。だがまあ、よしとしてやろう。リオ」
ぱあっと幼い頃のように無邪気な顔で笑われるベルンに、私はため息しかでません。いい加減、私の覚悟を踏みにじらないで下さい。…………真っすぐな彼のことです。他意はないことなど分かっておりますが、そんな顔されてしまうと……勘違いしてしまうではないですか。
「………名前を呼ばれて喜ぶだなんて、今どきの子供でもありませんよ。幼少期にでも戻られたのですか?黒騎士様ともてはやされ、調子にでも乗られているのでしょうが……。その傲りはいつまで続くのか、怖いものですね。」
私はいつものように悪態をつき、何事も無かったのようにこの気持ちに蓋を致しました。