脱出への糸口
「こちらで少々お待ちくださいませ、我らが主様の雨狐様」
状況が掴めずにいた私は、メイドさんに連れられるままにとある部屋へと入りました。そこはかつて待合室と呼ばれていた部屋でした。綺麗な装飾品、絵画、そして高価そうな鎧などが置いてある部屋で、掃除をするとき私はこれらを壊さないように細心の注意を払っていたものです。しかし、今ではそれらの装飾品は見事になくなっており、残っているのは宝石などの高価なものを除かれた哀れな品々ばかり。正直言ってその光景はあまり心地よくはありません。
「…礼節も何もあったものではありませんね」
部屋中を見渡しても、唯一原型を留めているのは壁に飾ってある女性の絵ぐらいです。どうやらそれは壁に固定されているようで、周りの壁の傷から、ナノエの方々がどれだけ奮闘しても取り外しは困難だったのだということがわかります。
「…はぁ。いつまで待ってろと言うのでしょう。いくら王族でも人を振り回してよいという特権はありませんよ……ん?」
私が愚痴をこぼしていると、一瞬…絵の中の女の人の目が光ったような…気がしました。あくまでも気がしただけなのですが…。私はその絵をまじまじと見ます。絵の中の女性は相変わらず微笑んでいて………ん?その絵に少々疑問を覚えた私は、さらに顔を近づけました。女性の背景にある時計の針が奇妙に曲がっているのです。それは文字のように見えました。
「これがまで………わ…せ……でしょうか? まわせ? 一体何を回せというのでしょう?」
いわゆる作者の絵心…というものでしょうか?よく見ていた漫画ではよくあったものです。それを見つけるのが楽しかったりして、よく隅々まで見てたりしました。時には本自体をひっくり返さないと分からなかったりして……あ!
「もしかして絵を回せということ…」
私は少しワクワクしながら額縁を掴み、それを回そうとしました。しかし、額縁はてこでも動きません。
「ふんぬーっ!!!」
横にも縦にもどうやったって回る素振りさえ見せません。しかしどう考えてもこの絵を回せ以外考えられないですし……
「あー! こうなったらもうやけです!!」
壊れた時は壊れた時です。どうせここは当分待合室として使われないでしょうし、私がやっただなんて誰も思いませんよ。それに…先ほどのうっぷんを解消できていないのです。どこかで発散させないと人間やっていけません!
「ふっふっふっ…意地でも回してみせます」
我ながら気持ち悪い笑い声を出し、そして思いっきり回そう額縁に手を伸ばした時です。
「……ひっ!?」
ぎょろり…とまさにそんな感じで女性の目が回ったように見えました。私はその女性と目が合い…絵の中の人と目が合うだなんておかしいことだと思いますが、まさにその言葉通りだったのです。そして、それに気を取られた私は自分の足を踏みつけてしまい、顔から思いっきり絵に突っ込んでいったのです。
「いったぁ…何なのよもう」
ゴスッと鈍い音がし、私は絵にぶつかりに行ったという、なんとも無様なことをしてしまいました。この城に幽霊の類いが出るだなんて聞いていませんよ……イタタ…。幸い鼻血は出ていないようですが、これはとんだ赤っ恥をかきました。私はキッと絵があった方を睨みました。
「……………………あれ?」
しかし、そこあるはずの絵はないどころか壁すらも消えていたのです。つまり絵がかかっていた場所はすっぽりと人一人入れるくらいの穴が開いていました。
「………もしかして、隠し部屋?」
どうやら偶然にも引き当ててしまったようです。なるほど。絵の作者はこれを伝えたかったわけですか。しかし、この先何があるのでしょう…。中に入ってしまえば楽なのですが、私が逃げたとなってしまったら大騒ぎになるのは分かっていることです。しかし、好奇心には勝てませんし…
「我らが主様の雨狐様。申し訳ありません。我らが主様は用ができたとまだかかりそうなのです。三十分くらいで戻るとおっしゃっているのですが……」
そのとき、メイドさんの声が聞こえました。私はにんまりと笑い、
「構いません。少々疲れてしまったので、休んでおります。何かあったらノックをして起こしてください」
と答え、私は恐る恐る中を覗きゆっくりと入りました。さあ、どんな部屋が待っているのでしょうか。
一歩足を踏み入れると、そこはすぐ別の部屋の中でした。薄暗くじめじめと湿っている部屋に、びっしりと奥まで並べられている揺らめく白い布や、薄汚れた人の形をした物。さらに、私の足元には赤く何かが入ったかごが……。そう、まるでここは…魔女の住む恐ろしい実験部屋のようでして……
「って、ここ衣類保管室じゃないですか」
そこは間違いなくシーツやこの城にいる全ての方々の衣類を保管する部屋でした。私が毎日出入りしていた部屋です。あの隠し通路…もとい隠しドアはここにつながっていたというわけですか。少々がっかりした後、私はハッと我に返りました。
「衣類保管室…つまりはここは衣服が全て揃う部屋じゃないですか!?」
これは好都合…というよりナイスタイミング!私は懐から剣を取り出そうとしました。しかし、私しかいないはずのこの部屋で嫌な目線を感じ、その手は止まりました。
「………」
私は慎重に辺りを見渡しました。物音はせず、ただシーツがユラユラと横に動いているだけ。私の周りにはどこからから持ってきたのか高価そうな鎧と若いカップルの銅像しかありませんし…。敵は一体どこに……。……しかし、あの銅像やけに目につきますね。やけに色とりどりですし…少女の銅像はともかく、頭にバンダナを巻いた少年の方はやけに自分を強調しています。正直それは目の端に映り込んでいても、大変痛々しく……ん?
「それかぁぁ!!!」
私は思いっきり、足元にあったかごを蹴り飛ばしました。少年の銅像…いえ銅像のふりをしていた敵はそれを身軽に体をひねらせ、シーツがあるところへと逃走します。…逃がすものですか!私は剣を取りだし、思いっきり伸ばしました。
「だやぁぁぁぁ!!!」
そしてシーツが不自然な動きをした一瞬を逃さず、その動きをしたシーツ及びその周辺のシーツを一掃しました。そして慌てたようにおびき出した敵を峰打ちで……
「ままま待ってくださいリオ殿! 俺です! あなた様の愛しの騎士、ギルでございま…」
「問答無用!!」
何をほざいているのでしょうこの敵は!大体ギルがこんなところにいるわけがありません。ギルならばとうの昔に逃げてしまっています。それは最初の頃に確認したことです。必死で城を守っていたあの場にギルの姿はありませんでした。…いけません。きっとこれも戦術。その証拠に周りはシーツが宙を舞い、敵の姿はかろうじて見えている程度。きっと今敵は必死で逃げる算段をたてている最中でしょう。私の事を知らせる前に気絶させなければ。狙うは腹です!
「リ、リオ殿! ギルですよ! ちょっ! 助けに参ったのです! うおっ!? け、剣を収めてくださいいいいい!!!!」
情けない声を出す敵に私はあきれ返りました。もうその策は通用しないとまだ分からないのですか!
「どこでギルの存在を知ったかは知りませんが、その作戦は失敗だとお分かりにならないのですか? ギルならばとうの昔に逃げて、今頃はバカンス気分で女性とお酒でも嗜んでいるところでしょう」
「おおっ! それは名案だ。美女と飲む酒ほどうまいものはない。さらに月夜が綺麗に眺めることのできる……うおっ!!!」
「だからいい加減諦めてお縄についてください!!」
やけにきどったその口調に若干イラつきを覚えながら、私は敵に攻撃を仕掛け続けます。しかし、敵は腹立たしいことに見事なまでの身体能力で私の攻撃を避け続けます。…仕方ありませんね。こうなったら魔力を使って……。これだけは使いたくありませんでしたが、あの頭に巻いている鬱陶しい赤色を落ち着かせるためなら………ん?赤色の…バンダナ??
「……ふう。やっとお分かりいただけたようで」
シーツから出て来て初めて分かった見知った顔。それが、ほっとしたように私に微笑みかけました。
「……………………………本当にギルなのですか??」
私がまだ疑惑の目を向けると、ギルはふっと髪をかき上げました。
「自分でいうのもなんですが…こんな端麗すぎる顔立ちを持つ者は世界に二人としておりません。さらに、腕もたつときた。ああっ! 完璧すぎるというのも罪なことですな。世の女性が放っておかないわけだ」
……痛い。私は目の前で恰好つけるギルにそう感想づけました。確かにあっと驚くような顔立ちはしていますが、それを自分で言ってしまったらお終いでしょう。ギルはジトッとした目で見つめる私などおかまいなしに歯の浮くセリフを次々と口にしていきます。…………聞きたいことは多くあるのですが、終わる気配はありませんね。私は彼に構わず、近くの棚を開けました。適当に開けてみたのですが、そこには兵士の予備の着替えが一式ありました。それらは綺麗にサイズ別に並べてあり、私は剣を懐から取り出しました。
「えっと、そうですね…。物をまとめられる布みたいなものが欲しいのですが…」
ぽんっ。出てきたのは普通の風呂敷の倍以上はある大きな布でした。そうですこれです。私は出てきてくれたことにほっとして、それを広げました。
「下着はあって困るものではないから、問題はサイズか」
ここで下っ端メイドの本領発揮です。毎日毎日嫌というほど目にしてきた下着類。最初の頃は恥ずかしいという感情があったのですが、今となってはどうってことありません。
「えっと…これとこれと…」
私は手当たり次第に棚を開け、風呂敷の上へと乗せていきました。…よし。こんなものかな。これで足りなかったら、葉っぱなどの自然にあるもので我慢してもらうしかありませんね。
「次は自分たちのものを……。……なにこれ」
私は女性用の棚を開けて、思わず立ち尽くしてしまいました。そして自分の目を疑いました。なにせそこのあった物は…派手というにはまだ言葉が足りないような衣服類があったからです。色は赤や紫というどきついものであり、それらには一体いくつの人が着るのかというくらいふりふりのレースがついていました。私は目が痛くなり、なぜこのようなものがこんなところにあるのかと気にはなりましたが、扉を静かに閉めました。
「……どうやら開けてはいけない棚を開けてしまったようですね…」
「確かに少々気合が入りすぎているような衣服ばかりでしたな。しかし、着方によっては相手の心を奪う武器にもなりかねる。ふむふむ、女性という生き物は全く持って罪深いものですな」
「こんなもの着ようと思う方がいることが私には驚きです。……もう話は終わったのですか?」
「いえいえ、私の奮闘劇はこれからが盛り上がるところでして…」
「では、終わってから声をかけてください。あと、ついでにこれをあれに詰め込んでくださいな」
このような状況であるのに緊張感の欠片もないギルに半ばうんざりとし、私は押し付けるようにギルに男性物の服を手渡しました。
「…男の下着を触る趣味はないのですが……仕方ありませんな」
てっきりマイペースに再び自分の話に戻るかと思いきや、意外にもギルは素直に私の言葉に従ってくれました。
「リオ殿のお耳が俺の話を聞く余裕がないくらい、切羽詰まっている状況なのは分かりましたからな。手伝えることがあればなんなりと申しつけ下さい」
私はつい手を止め、ギルを見ました。…どうやら私はギルという人間を見誤っていたようです。ただのだらしない空気が読めないタラシだと思っていましたが、物事の分別はあるようです。
「…助かります。では、それを積んだら布の端と端を結んでください。やり方は分かりますか?」
「おおっ! 風呂敷ですか。これは懐かしいものを持っていらっしゃいますな。ただ衣類をこの布でまとめれば良いのでしょう? このギルにお任せあり」
その言葉通り、ギルの手際は大変良く次々と衣類をまとめていきます。さすが、各地を旅する詩人なだけあってこういうことは慣れているようです。詰め込み作業がひと段落するころには、風呂敷たちは見覚えのある形になっていました。この世界に風呂敷があるのかどうか知りませんでしたが、ギルのその様子を見るとどうやらありそうです。
「ふうっ! これで終わりですかな? では、俺の話を聞いていただいても?」
「…えっ、ええ。できれば…手短にお願いします」
ギルの手助けのおかげで思った以上に早く終わり、それは感謝していますが……今からあの長々とした自慢話に付き合うのは…正直げんなりしますね。
「手短に…ですか。それは俺たち詩人にとって難題なものですな。まずは、俺が何故ここにいるのかの話を致しましょうか。最初の襲撃時にフィルマン殿とばったりと出くわし、そのまま同行する羽目になることからこの話は始まるのですよ。…はぁ。予定では魅力的な淑女たちと同乗するという、最高の出陣でしたのに」
大げさにため息をつくギル。どうやら真面目な話のようです。私は姿勢を正し、彼の話に耳を傾けました。彼は私の知らない戦争であったことを知っているのですから。
「まぁ、淑女たちがいない分より近くで戦を見ることができたことは、よかったと言えるのですがね。これで詩人の仕事を全うできるというもの。フィルマン殿に感謝せねばなりませんな」
そう言えば、ギルはフィルマン様と共に戦に赴かれる予定だったことを思い出しました。詩人である彼は自分の目で戦争を見て、そしてそれを自分の言葉で後世に伝える詩にしなければならないのです。
「それで戦況はどのようだったのですか??」
「戦争自体はハウヴァー王国側の勝利でございました。やはりとびぬけた強さを持つ十の武人たちの活躍が勝利へ導いたのですな。噂には聞いていましたが、さすがの俺も彼らの強さには舌を巻かずにはいられませんでした。特に魔族側を率いていた二人を見事に倒したジーニアス卿、ベルンフリート卿の戦い方は見事なものでした。それこそ歴史に名を刻むのにふさわしい活躍でありましたな。あぁ、アレクサンドロス王。彼も上に立つものながらのあの力量。おそらくあの場にいた誰よりも敵を倒していたでしょう。その姿はまさに荒れ狂う竜巻のよう。敵方に恐怖を与えるのには十分だったかと思われます」
「当たり前の結果…といえばそうなのでしょうね。だからこそ、ナノエはこのような汚い手を使ったのですから。しかし、戦の場でよくそこまで詳しく分かりますね?」
「詩人には役目を果たすために特別な能力があるのですよ」
もったいつけたような素振りを見せるギル。
「…なるほど。それではエドワール様は? まさかお怪我などしておりませんよね?」
それが私にとって一番気に掛かることであります。ベルンが付いておりますから、もしやということはないとは思うのですが…
「エドワール殿下は確か味方から引き離され、敵と一対一で……」
「はあ!?!?」
今なんと!?思わず私は、ギルの肩を掴みました。エド様が敵と一対一で戦った!?まさか…そんな…。私は顔から血の気が引いていくのが分かりました。頭に浮かぶのは包帯だらけのエド様。私は彼の肩を揺さぶりました。
「エド様は無事なのですよね!? まさか怪我などしてはおりませんよね!? ギル!! あなたそれをただ見ていたというのですか!」
「お、落ち着きをリオ殿! すぐにベルンフリート卿が来られて怪我もされておりませ……」
それを聞き、私はほっと胸を撫で下ろしました。しかし…
「一体周りの兵は何をしていたのでしょう! もしものことがあっては遅いのですよ! だから初陣を先延ばしにする必要性を訴えていたというのに! 魔族との戦なんて熟練の兵でも相手に手間取るというのにエド様なら尚更ではないですか!!!!」
憤慨する私に、慌てたギルがさらに油を注ぎました。
「まっ、まあまあ。そう責めないであげてください。相手が魔族を率いていた親玉の一人であればそうなるのも仕方がないこと…」
「はあ!?!?!?」
びくっと体を震わせるギルに私は構わず詰め寄りました。
「それを知りながら、あなたは黙ってそれを傍観していたというのですか!! エド様は確かに王子でありますが、その前に一人の年端もいかない子供なのですよ!? 助けに行くのが普通でしょう!!」
「い、いえ。俺はその場にいたわけではなく、離れたところにおりましてな……」
言い訳がましい言葉を並べるギル。私はそんな彼にさらに口を開こうとしましたが、ぐっと噛みしめました。彼を責めるのはお門違いというものでした。彼は自分の本業を全うしたまでなのですから。…それよりも、あいつです。出ていく前にエド様は任せろと私に言ったあいつですよ。あいつは一体なにをしていたというのでしょう?私にあれほど言い切っておきながら、自分は手柄のほうを優先したと?あの馬鹿は…
「リ…リオ殿? 何やら黒いオーラのようなものが見えるのですが……」
次会う機会があったならば、問答無用で問い詰めましょう。そこのところを詳しく聞かねばなりませんが、今はギルの話を聞きましょう。どうやって王宮に入ったのかを聞けば、そこから私も逃げ出せるかもしれませんから。
「…それでギルはどうしてここにいるのですか? わざわざこんな敵地に来るだなんて、命知らずですよ」
怒りを抑えた私を見て、どうやらホッとした様子のギルはいつもの調子を取り戻したようです。気取った笑みを浮かべ、私の手を取りました。
「命知らずも承知の上。もちろんリオ殿を助けに来たのですよ」
「助けに?」
フィルマン様に頼まれた…ということでしょうか。確かにそれならばここにいる理由も分かりますが…しかしどうやって…。
「ええ。さしずめ俺は、あなたを助けに来た騎士というところでしょうか。あぁ、勇敢な騎士が愛しの女性をお救いするために敵の城に忍び込む……良き物語となりそうですな」
私は彼の言葉に、思わず笑いを漏らしました。私の目線の先には、仕掛け扉が見えます。おそらく同じ絵がこの部屋の壁にもかかっていたことでしょう。つまり、あのときの目の正体はギルということになります。
「なにが騎士ですか。盗み見する騎士なんて、物語の主人公どころか主要キャラにもなりませんよ。せいぜいモブキャラですね」
すると、ギルは気まずそうに顔を掻きました、
「やはりお気づきになられていましたか」
「ええ。さすがに二度されては気づきますよ。最初に見た時に、周りに人がいないことくらい気づいていたでしょう? その時にきちんと言ってくれれば、私も驚いて顔面を強打することはなかったというのに」
私が不服そうに言うと、ギルは心底不思議そうな顔をしました。
「最初…ですか? 私があの絵のからくりに気づいたのは、リオ殿が顔をぶつける直前なのですが…」
「…え?」
ぞわっとした何かが私を貫きました。この部屋にはギルしかいなかった。つ、つまり……う、嘘ですよね?悪ふざけは止めてくださいよ…。そう口を開こうとする私をシッと口に指を当て、ギルは制しました。
「………外が騒がしくなりました。表にいる彼女たちも動き始めることでしょう。リオ殿。俺が詩を披露したあの中庭分かりますかな? そこで待っております。ではまた後程」
ギルは早口でそういうと、私を待合室へと押しました。危機一髪。同時に部屋の扉は開かれ、メイドさんたちが入って来たのです。
「我が主様の雨狐様。申し訳ありません。部屋をお出になってくださいませ」
メイドさんが慌てた様子で私を部屋の外へと押し出そうとしました。バクバクとなる胸を抑えながらちらりと窓の外をみると、何本ものの白い煙が上がっていました。