出会い
「待って!」と、きずけば私はそう走りながら叫んでいた。息が苦しい…でも何故かとても愛おしかった…追っている人が誰か分からなかった。
ただ愛おしかった…。離れたくなかった、一緒にいて欲しかった…周りを見渡すと何もない暗黒の世界が広がっていた。
私はさっきまで思っていたあの愛おしい気持ちをいつの間にか忘れていた。太陽が、日が今にも落ちてきそうだった。あたりはさっきよりも暗かった…。
私は嫌われてしまったのだ、ただ隣にいたかっただけなのに…。
そしてその人は私の記憶から消え去った。
「うーん」。
〝ハッ〟として私は起きあがった。
「美琴、あなたうなされてたわよ」と、姉に言われた。
私は首を横に振って「何でもないよ」と、笑顔で返した。他の人を信頼してはダメ…と、私の中では言葉を返していた。
「そう?それならいいけど。あなた今日入学式じゃないの?」と、姉は言った。
そうだった、過去の夢を見たせいで今日が入学式だったことをすっかり忘れていた。
私はあの日以来、決して涙を見せなかった。自分以外はたよりにならない、と。そしてもう人を愛さないと。
「じゃあ、行ってくるね。」私は言った。
「行ってらっしゃーい。」と、姉は優しく見送ってくれた。
クラスが書いてある紙が貼り出された。
〝ワッ〟と、周りにいる人たちが紙の周りに集まっている。私は身長が低く高いところに貼り出された紙は見えなかった、それに視力的にも見えない…。
すると、隣から声をかけられた。
「君も見えないの?一緒だね。」と、彼は言った。
私よりも身長が低い…。私が150センチだからそうとう低いなぁ。そう思っていると彼は「自分よりも低いと思った?思ったね!」。
「えっ!?う、うん!」おもわず本音を言ってしまった。
「ふーん、やっぱりね…でも俺すぐにぬかすからね」彼は微笑んで言った。
よく見ると彼は綺麗な髪、綺麗な瞳、綺麗な顔立ち、そして制服を見事なくらいに着こなしていた。
「あっ!そろそろクラスが書いてある紙見えそうだよ!」彼は少し楽しそうだった。
「じゃあ、またね!」と、言い残して彼は走り去って行った。
ん?何で彼は今〝またね〟と言ったのだろうか?まあ、いいか。と思うことにした。
なんか面白い人だったなぁーと、思う。一緒のクラスだといいな。
前までならありえないくらい、私は彼に興味津々だった。
「はい、私が皆の担任の水野灯です。皆よろしくねー」。
「よろしくお願いしまーす」。
えーとまずは知ってる人いるかなぁ?少しキョロキョロして周りを探してみた。女子はいない。男子は…いた!さっきの人だ!そういえば名前聞いてなかったな。聞いてみようかな?そう迷っていると彼から話しかけにきてくれた。
「改めてよろしくね、柏木美琴ちゃん」。
「えっ!どうして私の名前知ってるの!?」と、尋ねた。
「どうしてって…ずっと君に興味があったからだよ」と、彼は少し照れていた。
「ところで、貴方の名前は?私は貴方のことを知らないのだけど…初対面じゃないかしら?」。
「うん、確かに正確には初対面だね、俺の名前は山口辰哉だよ、これからもよろしくね!」彼はとても嬉しげだった。
「う、うんよろしくね!」。
ふと、先程の疑問がよぎった。どうして彼は〝またね〟と言ったのだろうか?よし!聞いてみよう!
「ねぇ。」。
「なに?質問?」。
「うん、何でさっきは〝またね〟って言ったの?」。
「それは…」続きの言葉を待った、だが答えは出なかった。
「どうしたの?」。
「い、いや、えっと…」。彼の答えを待っていると、
「おーい、たつーまだかー?」と、聞き覚えのない声が聞こえた。
「お、おうじゃあまたね!」彼は私との会話を遮るように言った。
それにしても、どうして答えてくれなかったのだろう?