8話 ○ートとはじめてのゴ○リン。
「おでかけ、おでかけ、うれしいな。ままととわくんとおでかけー。」
俺とエルクさんと手を繋いでティウちゃんが楽しそうに歩く。
俺は村から出るのは初めてで、初めて見る森の大きさにビビっていた、いや、なんかすげーよ。
もう森というか山っていうか、木の海って感じだ。
「どれくらい大きいんですか?この森。」
「どれくらいですかね。確か道のまま歩いて丸一日くらいだったかな。」
人は1日でどれくらい歩けるんだろ。
下手したら一つの県くらい大きいんじゃ・・・。
「道を大きく外れたら迷ってしまうから、気をつけてくださいね。」
「は、はい。」
森には車が二台並んで通れる位の道が作られてる。
誰が好き好んで道を外れるものか。
「道にもモンスターって出るんですか?」
「出ますよ。多いのはゴブリンに下位のウルフ、あと山賊もたまにいますね。」
いや、平然と言うけどウルフって狼で、山賊って山賊ですよね?
俺はティウちゃんと繋いでいない方の手、左手で腰に差した剣に触れる。
エルクさんに貰った剣だ。
今までは練習で木刀を使った事あるだけなのに、いきなり大丈夫なの?
「とわくん、てーぬれてるよ?」
「えっ?ごめん!?」
手汗!?
慌てて手を離して服で拭く。
は、恥ずかしい。もう帰りたい。
「とわくん、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。」
エルクさん笑ってるけどさ。緊張しない訳ないじゃん。
「一時間くらい歩いた所に果物の生えてる場所があるんで今日はそこまでにしましょ。」
「は、はい!」
「りんごー、いっぱいあるかなー?」
「いっぱいあるかな?」
なんでこの2人こんなに呑気なの?
俺は大きく呼吸を繰り返しながら、森に入る。
実際には森の中の道なんだけど、やっぱりドキドキ。
「とわくん、くもー!」
「ひぎゃー!・・・うわー!!」
突然横を指差すティウちゃんに驚き、更に蜘蛛の大きさにビビる俺。
「とわくん、おおきなこえ!びっくりした!あははは!」
俺の声に驚いたティウちゃんは楽しそうだ。
「とわくん、あの蜘蛛は噛んで来ますし毒もあるから気をつけて。」
「こわっ!!」
ビクッ!!
・・・今度は鳥の飛ぶ音にビビりました。
「あははは!とわくん、びくって!あははは!」
ティウちゃんつぼってるし・・・。
「ティウ、しー。」
エルクさんが口元で指を立てティウちゃんに静かにと促す。
・・・足音?
しかも、一つじゃなくて複数。
「ゴブリンみたいですね。」
遂に来たか、俺は剣の柄を握る。
怖い。
ゆっくり大きく呼吸する。
いや、なんか意外と大丈夫な気がする。
うん、大丈夫・・・な気がする。
「ティウ、私から離れずゴブリンには近づけないでね。」
エルクさんがティウちゃんから手を離して腰の剣、細くて綺麗なレイピアを抜く。
俺もそれに習って剣を抜いた。
ずっしりとくるそれを両手で握る。
ああ、手汗が・・・。
「ギギィー!!」
濁った甲高い声を出しながらそいつらが森の中から姿を出す。
俺の腰くらいのが三体。
これがゴブリン・・・ボロキレを来た、ガリガリ骨と皮の筋張った四肢、鼻の大きな小さなおっさん。
「ええーっ!!ゴブリンっていうか、小さいおっさんじゃん!!?」
思わず叫ぶ。
「とわくん!?どうしたの?戦える!?」
「戦う!?小さいおっさんと!?」
この小さいおっさんをこの剣で切れと!?
「ギギィァーズ!!」
小さいおっさんがこちらに向けて動きだす。
素早い!!
「小さいおっさんじゃないです!!ゴブリンです!」
言いながら剣を振るうエルクさんが簡単に一人のおっさんを無惨にも切り裂いた。
「おっさん!!」
「おっさんじゃないです!!ゴブリンです!」
ティウちゃんに走り寄ったゴブリンを蹴り飛ばし、牽制の為に大きく剣を振るうエルクさん。
「小さいおっさんだよ!!たまに駅にいたもん!!こういう人達!!」
「いません!!モンスターです!襲って来てるでしょ!!」
いや、いたよ!!
確かにこんな感じのが駅にたまにいたもん!
小さいおっさんに襲いかかろうとするエルクさんに思わず体当たりして動きを止めようとする。
「とわくん!?なにを!!」
「リストラされたんだよ!仕事がなくて荒んでるんだよ!!」
「違います!!しっかりしてください!!」
「エルクさんもしっかり見て!ほら、眼鏡かけてる奴いる!!おっさんだよ!あっちのはヒゲ生えてるし!おっさんだよ!」
「ゴブリンだって目の悪いのはいます!!バカ!少しずつ増えて来てるじゃないですか!!」
エルクさんが左手で俺を突き放そうとしてくるけど、俺は全力でエルクさんにしがみつく。
「俺が小さいおっさん達を守るんだ!!」
「何言ってるの!?」
「かわいそうな小さいおっさん達を剣で切るなんてダメだ!!仕事が無いって事は辛いんだよ!!」
「だーっ!!もう!ティウ逃げるよ!!とわくんもそれでいいでしょ!?」
レイピアを鞘に戻したエルクさんが右手で俺の襟首を掴み、左手でティウちゃんの手を掴み走り出す。
うわっ、引きずられてる!!
小さいおっさん達が追ってくるけど、俺を引きずるエルクさんの方が早い。
少しずつ距離が開いていく。
醜い顔を更に醜くして走る小さいおっさん達、俺ももしかしたらこんな風になるのかもしれない、働いても長続きせず、頑張ってもリストラされて、どんどん痩せて小さくなって。
「おっさん達!!頑張れよ!頑張れよ!!俺も頑張るから!!」
応援せずにはいられなかった。
森を抜けた所で強烈な拳骨をいただきました。
「何考えてるんですか!ゴブリンに感情移入して戦闘の邪魔をするなんて聞いた事ないですよ!!」
全力疾走の為に呼吸の荒いエルクさんに怒られる。
「だって、小さいおっさんだったから。」
「だってじゃないです!!」
もう一回拳骨が落ちてきた。
「とわくん、おこられてる。いいこいいこ。」
ティウちゃんが俺の頭を撫でてくれるけど、余計痛い。
「そもそもあれは人間じゃないんです!!モンスターなんです!!人を襲うんですよ!!」
「・・・でも、」
「でもじゃなーーーい!!」
エルクさんの声が響きわたった。
これが俺とゴブリン、小さいおっさん達との出会い。
まー、この先仲良くなる事もないだろうけど、戦ったりする事もない気がする・・・。
モンスターだって割り切れたとしても、きっと剣を振るったり出来ない。
はー。
ゲームとは違う。




